春蘭と秋蘭はすぐに会稽へ出発した
今、俺の周りにいるのは呉の人たちだけだ
「そんなに緊張しなくてもいいわよ」
孫策さんが声をかけてくれた
「情けない話ですが、魏以外の国に来るのは初めてで緊張してしまって・・・」
「ふ~ん」
春蘭達がいなくなってから空気が重くなってる気がする
「北郷一刀、始めに言っておくけど、私達は必ずしもあなたを歓迎していないの」
「・・・でしょうね」
当然そうだよな
雪蓮さんの脇に立っていた長身の女性が前にでてきた
周瑜さんだ
「私の名は周瑜、あの戦いの後、顔を会わせているはずだが覚えているかな?」
「はい」
「聞きたいことがある。赤壁、黄蓋殿の苦肉の策を見破ったのは貴様だそうだな」
「はい」
「神通力で見破った。我らはそう聞いている。しかしな、そんなものを信じることはできん」
「はい」
「貴様に神通力があるなら、華琳殿の居場所を神通力で見通さないのはなぜだ?」
「俺にそんな力はないからです」
「ならばなぜ黄蓋殿と私の策を見破れた!!!」
俺にそんな力は無い、あるとしたら
「俺は、歴史を知っていたんです」
「歴史を知っていた・・・・だと?」
「そうです。赤壁の戦いで黄蓋さんが投降してくることも、火攻めをしてくることも、鎖を使って船の動きを封じることも、全て知っていたんです」
「まるで、赤壁を経験していたかのような言い方だが」
「経験はしていません。赤壁の戦いは有名で、どんな策を用いてどう戦ったのか知っていたんです」
この時、周瑜さんは俺の存在を理解したみたいだ
「では、我らが袁術から離反し独立することも、江東に呉を建国することも知っていたのか?」
「・・・・・はい、知っていました」
孫策さんも理解したようだ
「・・・・そんなの勝てるわけないじゃない」
そう、勝てるわけがない
俺の存在は反則以外何者でもないんだ
「貴様が・・・・貴様が・・・・」
次の瞬間、俺は周瑜さんの全力のビンタを受けていた
「貴様さえ、貴様さえいなければ!!」
「やめなさい冥琳!」
孫策さんの一喝で周瑜さんはもう一度振り上げた手を後ろに戻す
「ごめんなさい北郷、冥琳がこんなに感情的になるなんて思ってなかった」
「・・・・いいんです。周瑜さんが怒るのは当然ですから・・・」
「・・・・くっ」
次に出てきたのは、確か甘寧さんだ
「雪蓮様!」
「何、思春」
「は、北郷一刀は呉にとって災いとなりましょう。今すぐ切って捨てるべきです」
そう言うと、甘寧さんは刃物を取り出した
「彼を切って、その後どうするの?」
「は、野党に殺されたとして処分致します」
「・・・・だめよ思春。皆も聞きなさい、今より、北郷一刀へ危害を加えるものは厳罰に処す。よく肝に銘じておきなさい」
「しかし雪蓮様!」
「思春の気持ちもわかる。でもね、北郷は秋蘭達から預かっているの。裏切ることはできないわ」
それからの居心地は最悪だった
特に冥琳さんの敵意は怖いぐらいだった
一通りの城内の案内を受けた俺は、あてがわれた部屋で1人、窓辺で空を見上げる
「ふぅ・・・・俺も会稽に行った方が安全だったんじゃないかな」
ため息をつくと、周りが敵だらけと言うのがこんなにきついのかって実感した
「・・・・ん?」
ドアの前に誰か来たかな
「北郷ー?入ってもいい?」
「孫策さん?どうぞー」
「お邪魔するわね~」
そう言って遠慮せず入ってくる孫策さん
その手には晩酌セット
「一杯付き合ってよ」
「・・・・喜んで」
俺は部屋にあった椅子と机を並べると、孫策さんと向かい合うように席についた
「さっきはごめんなさい、冥琳のことも許してあげて」
「大丈夫です。怒って当然ですから。でも、これだけは言わせてください」
「何?」
「華琳は俺の知識を知ろうとしませんでした。むしろ、歴史のことは言うなと口止めされていたんです。だから」
「ふふ、華琳のことだもん、きっと正々堂々と戦いたい、なんて言っていたんでしょ?」
「・・・はい」
「安心しなさい。呉は華琳達のことを認めてる。そんな風に思う将はいないわ」
「安心しました」
「ねぇ、どうして私のところじゃなく、華琳のところに現われたの?」
「わかりません。気づいたらこの世界に来ていて。気づいたら華琳に拾われて」
「そっか」
それからしばらく、俺たちは酒宴を楽しんだ
「冥琳ね、あんなに怒ったのは、きっと祭のことがあったからだと思うわ」
「黄蓋さんのこと・・・ですよね」
「祭は私達の母親みたいな存在だったのよ」
「俺は、黄蓋さんとの面識が少なくて、ほとんど話しもできませんでした。でも、なんとなくわかります」
「傷を負った祭を助けることもできず、私達は目の前で失ってしまったわ」
黄蓋さんの最後、秋蘭の一撃を受け亡くなったそうだ
その瞬間を呉の人たちはみていたんだ
「冥琳は普段弱みをみせないのよ。深い傷を負っていても隠しちゃうの。それが爆発しちゃったのね。ほんと、ごめんね」
「いえ・・・・もし、魏の誰かがそうなった時、俺がそれを目の当たりにしていたら、周瑜さんと同じ行動をしていたと思います」
「そっか、・・・・春蘭達が羨ましいなぁ~~」
「羨ましい?」
「だって一刀ってば、本当に魏のこと愛してるんだもん。羨ましいわよ」
「呉の人たちも呉を愛してるじゃないですか」
「違うの、一刀は魏を愛してると同時に魏の将を愛してる、それが羨ましいの」
「孫策さんはこんなに美人で、孫策さんを愛する人は一杯いるはずです」
「あら、うれしいこと言ってくれるじゃない一刀~~」
「うお!」
俺は孫策さんに抱きつかれていた
「・・・・孫策さん?」
「・・・・私のことは雪蓮と呼びなさい、一刀」
「・・・うん・・・雪蓮」
「ふふ、合格」
夜はまだまだ長いことになりそうだ
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天の御遣いも敵から見れば