――消え行く少年Sid――
月明かりに青く照らされた美しい金髪が目の前でゆれている。
大きな偉業を成し遂げた少女だ。
この小さな身体のどこにそんな力が詰まっていたんだろう・・・・・・。
「そう・・・・・・」
「そんなに言うなら・・・・・・ずっと私の側にいなさい」
俺の心はやけに澄んでいる気がする。
側にいろと簡単に言い放つ小さな彼女の背を見つめながら・・・・・・・。
思えば彼女に拾われてあっという間だった気がする。
『ずっと私の側にいなさい』
今、彼女が口にした言葉。
側にいると約束したはずだった。
でも、その約束を守ることはもう出来ないことはわかっている。
「そうしたいけど・・・・・・もう無理・・・・・・かな?」
自分でも驚くほど冷静に言葉が出てきた。
側にいたい心の奥底ではそう思っている。
だけど、時はそれを許してくれない。
「・・・・・・どうして?」
どうして?・・・・・本当はもうわかっているんだろう?。
俺ですらわかるんだから。
わかりたくなかったけどわかってしまうんだから。
「もう・・・・・・俺の役目はこれでお終いだろうから」
そう、俺の役目はもう終わったんだ。
この世界に俺が来ることになった理由はわからない。
けど、終わりが来たことだけははっきりとわかるんだ。
「・・・・・・終しまいにしなければ良いじゃない」
俺だってお終いになんかしたくないんだけどな・・・・・。
お終いにしたくないけどお終いにしなくちゃならない。
「それは無理だよ。華琳の夢が叶ったことで、華琳の物語は終端を迎えたんだ・・・・・・」
「その物語を見ていた俺も、終端を迎えなくちゃいけない・・・・・・」
そう、俺にはどうしようもないことなんだ・・・・・。
この魏の物語・・・・・いや、彼女の側で見てきた物語は彼女の思い描く結末に至った。
俺は彼女の物語には登場しないはずだった人間。
最初からこの物語に出番はなかったはずの人間。
本を読むことと一緒だと思う。
唯の読者であったはずの俺が、彼女のすぐ側で物語を紡ぐ事ができたのはとても幸運なことだ。
でも、読み終わった人間はその本を閉じなければいけない。
「・・・・・・ダメよ、そんなの認めないわ」
俺だって認めたくない、でも、もう、俺の体は消えかけている。
この世界・・・・・いや、この小さくて儚く、けれど強く偉大な少女の側から離れたくはない。
これから始まるであろう彼女の新たな物語を、彼女のすぐ側で見続けたい。
でも、この物語は俺がここに残ることを許してくれないみたいなんだ。
「認めたくないよ、俺も・・・・・・」
そう、認めたくはないんだ・・・・・。
どんなに考えても認める要素なんてありはしない。
だけど、俺の意思じゃどうにもならないみたいだ。
「どうしても・・・・・・逝くの?」
・・・・・もう・・・・・・終わりなんだ。
「あぁ・・・・・・もう終わりみたいだからね・・・・・・」
終わりなんだ。
「そう・・・・・・」
俺はまだ消えたくない。
彼女と話していたい。
彼女の笑顔が見たい。
彼女を抱きしめたい。
彼女を・・・・
「・・・・・・恨んでやるから」
「ははっ、それは怖いな・・・・・・。けど、少し嬉しいって思える・・・・・・」
彼女は本気で言ってそうだな・・・・。
そう思うと少し可笑しかった。
でも素直に嬉しいと思う自分がいる。
彼女は恨むほどに俺を欲してくれているのだろうから。
「・・・・・・逝かないで」
逝きたくないよ。
ずっとこの世界にいたい。
あっちに残してきたものはいっぱいあるけど、この世界で得がたい物を手に入れた。
だけど・・・・・。
「ごめんよ・・・・・・華琳」
目の前の彼女はは今どんな顔をしているのだろう・・・。
「・・・・・・一刀」
どんな顔で俺の名前を呼んでいるのだろう。
「さよなら・・・・・・誇り高き王・・・・・・」
あぁ、そろそろ俺は終わりかな・・・・・・。
ごめんよ。
まだ話してたいんだけどな・・・・・。
「・・・・・・・一刀」
あぁ・・・・、彼女の声で名前を呼ばれると、どうしてこんなに心地いい気持ちになるんだろう。
「さよなら・・・・・・寂しがり屋の女の子」
・・・・・そうだ、・・・・まだ彼女に言っていないことがあった・・・・・・。
「・・・・・・一刀・・・・・・!」
これだけは絶対言っておかなければいけない。
これだけは・・・・・・。
「さよなら・・・・・・愛していたよ、華琳―――――」
・・・・・さようなら、そしてごめん―――――。
――――――――――。
ここはどこだ・・・・・。
目蓋が・・・・・身体が・・・・・重い。
「そうか、俺はもう・・・・・・。」
はっきりしない意識で首だけを横に倒して辺りを伺う。
重い目蓋を無理やり開けるが視界に入ってきたのは・・・・・・。
「・・・・・・・何もない。」
ただ漆黒の闇が広がる空間に自身の身体が横たわっている。
どこを見ても真っ黒。
立っているのか横になっているのかもわからなくなりそうなほどに。
「そうか・・・・・・終わったんだな・・・・・・すべて。」
今ここにあるのは「無」。
永遠に広がっている闇。
自分の鼓動すらはっきりと聞こえるほどの静寂。
俺以外がここに存在しないことは見て取れた。
「俺の世界との繋がりのないとはいえ歴史を変えちまったんだもんな・・・・・」
だがそのことについては後悔はしていない。
後悔があるとすれば・・・・・・・。
「・・・・・・っ華琳!!」
・・・・・・そう。
「・・・・華琳っ・・ぅ・・・・ぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
とめどなく涙があふれてくる。
もう触れることができない。
声を聞くこともできない。
この腕で彼女を抱きしめることもできない。
誰が、あの世界に俺を送り込んだ?
どうして彼女達に俺を出会わせた?
どうして彼女達から俺を引き離す?
どうして・・・・・どうして・・・・・・。
果てしない闇の中俺の泣き声だけが響いている・・・・・。
――小さな少女Side――
「そう・・・・・・」
「そんなに言うなら・・・・・・ずっと私の側にいなさい」
私は彼の顔を見ることができないでいる。
どうして見ないの?
何故見ることをためらうの?
何故?
「そうしたいけど・・・・・・もう無理・・・・・・かな?」
「・・・・・・どうして?」
どうして?
何故無理なの?
何とかすればいいじゃない。
「もう・・・・・・俺の役目はこれでお終いだろうから」
役目?そんなこと誰が決めたの?
いつからそんな役目をもっていたの?
そんな役目なんて律儀に引き受けなくていいじゃない・・・・・・。
「・・・・・・終しまいにしなければ良いじゃない」
そうよ、終わらせる必要なんてない。
まだまだ続くのだから。
これからなんだから。
これから始まるんだから。
「それは無理だよ。華琳の夢が叶ったことで、華琳の物語は終端を迎えたんだ・・・・・・」
「その物語を見ていた俺も、終端を迎えなくちゃいけない・・・・・・」
見ていたですって?
こんなにも私の心に入り込んでいるのに?
こんなにも私の心をかき乱しているのに?
認めないわ。
認める必要なんてあるはずもない。
「・・・・・・ダメよ、そんなの認めないわ」
「認めたくないよ、俺も・・・・・・」
こうして話してる間も徐々に彼の声が弱々しくなっていく。
もう止めることはできないの?
「どうしても・・・・・・逝くの?」
「あぁ・・・・・・もう終わりみたいだからね・・・・・・」
彼は優しい声でそう答える。
彼はどんな表情で私を見てるの?
彼の顔を見る勇気が今の私にはない。
彼は今・・・・・・。
「そう・・・・・・」
まだ彼と話していたい、触れ合いたい、その優しい笑顔を見れなくなるのは嫌だ。
「・・・・・・恨んでやるから」
どうしてもっと優しい言葉をかけてあげれないの!!
どうして素直になれないの!!
どうして彼の顔を見ようとしないの!!
どうして!!
・・・・・・あれ?
私はこんなに弱かったの?
「ははっ、それは怖いな・・・・・・。けど、少し嬉しいって思える・・・・・・」
彼はいつもの調子でそう答える。
どうして?
彼はこの世界に残りたくないの?
私の側にいたくないの?
私は側にいたい。
「・・・・・・逝かないで」
逝ってほしくない!!
側にいて!!
離れないで!!
「ごめんよ・・・・・・華琳」
「・・・・・・一刀」
・・・・・え?
何故謝るの?
「さよなら・・・・・・誇り高き王・・・・・・」
「・・・・・・・一刀」
私は覇王よ当たり前じゃない・・・・・・なのに、・・・・・・彼は何が言いたいの?
「さよなら・・・・・・寂しがり屋の女の子」
さよなら?
寂しがり屋の女の子?
「・・・・・・一刀・・・・・・!」
・・・・だから何を言ってるの?
「さよなら・・・・・・愛していたよ、華琳―――――」
いたよ?愛しているの間違えでしょう?
「・・・・・・・・・・・・一刀?」
何で喋らないの?
何か言ってよ。
ねぇ、何か言ってよ。
何か言ってよ!!
―――――――――――。
「一刀・・・・・・? 一刀・・・・・・!」
なんで?
どうして?
なんで何も言ってくれないの!!
「・・・・・・・・・・・・ばか。・・・・・・ばかぁ・・・・・・・・・っ!」
わかってる。
ばかなのは私。
わかってる。
「・・・・・・ホントに消えるなんて・・・・・・なんで、私の傍にいてくれないの・・・・・・っ!」
話している間・・・・・彼はどんな表情をしていたのかしら・・・・。
笑ってたのかしら?
泣いてたのかしら?
それとも、私に呆れていたのかしら?
「ずっといるって・・・・・・言ったじゃない・・・・・・・・・!」
あれ?
消える瞬間どんな表情だった・・・・・・?。
私は彼の顔を見ていない・・・・・・。
違うわね。
私の前からいなくなる彼を見届ける勇気がなかっただけ。
「ばか・・・・・・ぁ・・・・・・!」
本当にばかだったのは私だ・・・・・。
彼の顔も表情も声も・・・・・もう、見るこも聞くこともできないのに。
どうして素直にならなかったの?
もう・・・・・・彼に・・・・・触れることもできないのに・・・・・。
私は・・・・・・まだ何も・・・・・伝えてないのにっ・・・・・・!!
まだ・・・・・・言いたいことは沢山あるのに!!
「一刀っ!・・・・・・かずとぉぉぉっ・・・・・・!あぁっ・・・・・ぅあぁぁぁぁぁぁっ!」
彼の名を呼び泣く事しかできなかった。
彼のいた方を見ることも出来なかった。
彼がいないことをこの目で確認するのが怖かった
・・・・・。
私はこんなに弱い人間だったのね・・・・・・。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
「華琳様!!」
どれほどの刻がたったのかしら・・・・・・。
そんな事を考えていると、私の名を呼び誰かが駆け寄ってくる。
「・・・・・・春蘭?・・・・秋蘭?」
彼女達に涙を見せるわけにはいかない。
彼女達の前で泣いていいはずがない。
彼女達の前でこんな無様な姿は見せられない。
・・・・私は・・・・・覇王なのだから。
「華琳様!!」
「華琳様!!」
駆けつけてきた二人は周囲を警戒しつつ私の方へと歩み寄ってくる。
涙で濡れた顔を見られないように彼女達に背を向ける。
駄目だ・・・・・涙を堪えようとしても彼の顔がちらつく・・・・・・。
「華琳様、どうなさったのですか?」
「北郷と川の方に向かったと聞いて・・・・・」
私に質問を投げかけた秋蘭は、彼の名を口にしてはっとした表情を見せた。
春蘭も気づいたようだ。
私の側に彼がいないのだ・・・・・・。
「・・・・・そういえば北郷はっ!」
秋蘭が辺りを探りに行く。
「・・・・・っ見あたらない」
いる筈がないのよ・・・・・・。
もういるはずがない・・・・・・。
「華琳様、北郷は・・・・・まさか・・・・?」
私の背中の向こうで彼は静かに消えて逝ったのだから。
私には部下達に・・・・・・いえ、彼を愛した彼女達にこの事を伝える責任がある。
私は、涙を堪え袖で拭い彼女たちの方へと向き直る。
「春蘭、秋蘭」
「すぐ城に戻り、我が国の将を集めなさい。私もすぐに戻るわ。」
「ただし、蜀呉の将に不信感を与えないように」
泣いた後の醜い顔を皆の前で晒すわけにはいかない。
私は時を空けて戻ることにした。
「しかし、華琳様、北郷は!?」
「っ姉者!」
秋蘭は勘がいい、薄々気づいているのかもしれないわね。
「華琳様、気をつけてお戻りください。」
「秋蘭っ!?」
春蘭は納得がいかないようだが秋蘭に連れられ城に戻っていった。
「・・・・・・・一刀。・・・・・・一刀、本当にもういないの?」
彼の名を呼び確認せずにはいられなかった。
辺りは静寂に包まれている。
聞こえるのは川のせせらぐ音。
木々の葉の音。
風の音。
彼から発せられる音は聞こえない。
「・・・・・そう、・・・・・・いないのね。」
溢れそうになる涙を堪え、私も城への帰路についた。
――AtherSide――
「・・・・・・・琳さまぁ・・・・・・華琳さまーぁ」
「姉者、もう少し落ち着いたらどうだ?」
私達は門兵から華琳様と北郷が川の方角へ向かったと聞き二人を探していた。
「秋蘭は華琳さまが心配じゃないのか!」
「心配に決まっている!・・・・が、北郷もついているではないか。」
「だ、だけど・・・・・・心配なものは心配なんだ!・・・・・っあ、いた!、華琳さ・・・・・・・ま・・・・・・・?」
私達の動きが凍りつく・・・・・・。
何かおかしい・・・・・
あの凛として尊大な覇王がたった一人川縁でうずくまっている。
覇王は妖しく降り注ぐ月の明かりに照らされ、何かにすがる様に叫んでいる。
もう戦いは終わった。
私達の王が苦しむ必要はもうないはずだ。
私達の王は何をそんなに嘆いているのか。
私達の王は何がそんなに悲しいのか。
私達の王、だがこれまでに見たことの王。
その様子は、何が悲しいのか泣き叫ぶ唯の少女そのものでしかなかった。
あとがきっぽいもの
2度目まして獅子丸です。
読みにくいですよね?orz
これでも結構がんばったんです。
1話と2話似ているようで似ていない・・・・・って読んでればわかるか。
一応、修正版をさらに修正して投稿しています。
がんばりますので、応援してくれる方がいましたら(いればいいなぁ)
生温い目で次回も読んでいただけると幸いです。
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第2話です。
生暖かい目でお読みくださいませ。