No.202603

真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~第63話

第63話です。

バイバイ…悠

2011-02-20 05:26:49 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:5271   閲覧ユーザー数:4820

はじめに

 

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です。

 

原作重視、歴史改変反対な方、ご注意ください。

 

呼んでいる

 

誰かが

 

自分の名前を呼んでいる

 

ああ

 

でも

 

今すごく

 

眠たいんだ

 

 

一瞬

 

はたして自分は何処に居るのだろうかと瞼をはためかした

 

視界の向こうは闇、彼はそれが空であって自身が今空を見上げている、仰向けに倒れているということに気づくのに更に数秒、わずかな時間ではあるが頭の中で理解するのに時間を要した

 

そして次に浮かんだのは何故という疑問

 

(一体これは何だ、何故自分は倒れている)

 

意識を戻してから、否、待て

 

(自分は今意識を失っていたのか)

 

何故に

 

(何だ…何が起きた)

 

身体のあちこちがズキズキと痛む…そしてその時になりようやく彼は自身の右肩に刺さる「それ」の存在に気づいた

 

「…や?」

 

視界が、頭の中が鮮明になるにつれて現状が、異常が次々と彼の中へと流れ込む

 

(官渡…戦場だ、そうだ…今、戦の最中にいる)

 

敵は曹操

 

敵は城を得て籠城

 

(違う…させたんだ、「そう」仕向けたんだ)

 

悠々と城を陣取り此方を見据える曹操陣営、その「箱」に蓋がされてることに気づきもせず

 

孤立

 

それが狙いと気づいた時には既に遅く

 

頑なに引篭らせる換わりに「外」からの一切を封じる

 

そして「餌」を撒いた

 

「彼女」は

 

見事に「餌」の役目を演じてくれた

 

(笑っちゃいますね…素の演技だなんて)

 

だが誤算がここで一つ

 

食いついた獲物はそれだけで満足としなかった

 

釣り針を垂らしていた釣り人にまで食い掛かってきた

 

(読まれていた…いや、ちょっと違うか)

 

再び視線を右肩へ移す

 

矢だ、矢が刺さっている

 

「~さん!」

「~様!」

 

(ああそうか)

 

今しがたに理解した

 

「田豊さん!」

「悠様!」

 

射られたのだ…つまり

「餌が気に入りませんでしたか…曹操」

 

自虐的な笑みを浮かべ身体を起こす

 

矢を受けた衝撃で倒れ意識を失っていた、そして今

 

「誰が餌ですってええ!?」

 

猛然と彼の胸倉を掴み甲高い声で非難を浴びせる自身が主の姿が視界を占拠するものの彼が見つめるは遠く…それも否、既に目の前まで迫る曹操軍とそれを指揮する一人の宿将

 

蒼く透き通るような髪を靡かせ近づく姿はその瞳同様に冷たく重く…だがそれでいて綺麗だと彼は感じていた

 

「…勝負ありだ」

 

辺りの喧騒を沈めるかのように彼女の声が響き両軍の兵達は一様に彼等に視線を向ける

 

悠の傍で片膝をついていた高覧が立ち上がりかけるが彼女の前に手を伸ばしそれを制する

 

「我が命は既に明日をも知れぬ身…覇王がそれを何故に?」

 

よいせと立ち上がりポンと尻を叩いて土を掃う悠、敵将を前に目を細める

 

悠のその姿をキョトンと見つめる麗羽と高覧、彼の言う意味が分からずに茫然としている

 

一方に、秋蘭は目の前の男がはにかむ姿を見て視線移す…彼の右肩に刺さる自身が放った矢に

 

「何故に…そう思う?」

 

質問に質問を返す自分自身、不思議でならなかった

 

この状況で彼がここまで穏やかな表情で此方を見据えることに

 

「俺を殺すつもりなら…貴女に殺意があったならば…俺はもうとっくに屍と化していた…そうでしょう?」

 

肩を竦める男に「ふむ」と息を吐く

 

今しがたに死にかけ…そして今尚死にかけているこの男は、確かに曹魏に有能な存在足りえるのだろうと

 

「ともすれば桂花ですか…まったくあの子は」

 

腰に手を当てやれやれと首を振るその姿に秋蘭はやはりと内心頷いた

 

「やはり…貴様が桂花の師か」

「まさか…まあ、妹みたいなものと思ってはいましたがね」

 

彼女はその枠を超えない、超えられない…「彼」にとっても

 

「我が主はもとより…桂花にとっても貴様は必要な存在と認識している」

「買いかぶり過ぎでしょ?現に俺は貴女達を前に屈している」

 

両手を上げ降参を示す態度を取りながらに彼はそれを尚も突っぱねる

 

「少なくとも貴様等が軍が万全であったならばこうはならなかった…違うか?」

 

既に結果が出ている現状ですら九割方は悠の思い通りに事が進んでいた…秋蘭はそう読んでいた

 

「最善は尽くしました、結果こそともあれ…ね」

 

再び首を振る悠の目に映ったのは

 

「…何の真似ですか?」

 

片膝を付き頭を垂れる秋蘭の姿

 

「繰り返しになるが我が主には貴様の力が必要だ…そして桂花と約束した、連れて帰ると」

「ずるいですよそれ」

 

数秒の間の後、わかりましたと溜息を洩らすように答える悠

 

「我が主の身の保障を願い出ます」

 

同じく秋蘭に向けて頭を垂れる悠に彼女もまた頷く

 

「約束しよう」

 

そう言って麗羽の前まで進み

 

「我が主君のところまで御同行願う」

 

敵方に在りながら片膝をつき礼をとる…が

 

「用があるなら其方から出向くのが礼儀ではなくて?」

 

この状況において、否、この状況を理解し得ないが為について出る彼女の台詞に思わず吹き出してしまう秋蘭、悠

 

「姫、申し訳御座いません…全てはこの…」

 

麗羽へと右手をあげたその時

 

 

ドンという衝撃と

 

彼の視線の先

 

自身の胸を貫くそれは

 

赤い雫を滴らせ

 

彼は背後にピタリと張り付くように重なる影に向かって呟く

 

 

「…糞餓鬼め」

 

 

辺りが一体が騒然となる

 

麗羽が

 

高覧が

 

彼の名を叫ぶ

 

膝から力が抜けて地に付く

 

ゼイゼイと荒い呼吸を吐きながら見上げる先

 

衣服はボロボロに顔も煤だらけに

 

英心は悠の身体からズルリと剣を抜くその首へピタリと寄せる

 

「無様に命乞いをして見せろよ」

 

そうすれば助かるかもよと笑みを浮かべる英心

 

「…貴様」

「手柄を取って示して見せろと言ったのは貴女だろう?」

 

その視線だけで射殺さんとばかりに睨みつける秋蘭を向き首を傾げておどける少年

 

「盗み取りが偉そうに…」

「黙れよ」

 

悠が英心に向けて毒づいた途端、少年はその剣を振るい悠の顔がたちどころに潜血に染まる

 

「僕が聞きたいのはそんなんじゃない」

 

彼の後ろで沙和が踏み出そうとするも秋蘭は視線を向けてそれを制した

 

(もはや助からん)

 

完全に気を抜かせていた

 

あろうことにも自身は最高の結果を得たと

 

 

一団を搔き分けて進むその存在すら気付かずに

 

(失態だ、完全なまでに)

 

すまないと悠に向けた目配せに悠は口の端を上げ、フルフルと首を振った

 

尚も叫び続ける麗羽の前を塞ぐようにして立つとふうっと息を吐き再び少年を睨みつける

 

「『袁本初』は我等が連れていく、手出しは無用」

「いいよ…取り分は公平に分けよう」

 

そう言って自身の足元で膝をつく悠へと向き直り

 

「僕を『敵に回した』こと、後悔するんだね」

 

すっと振りかぶる剣を前に、悠は尚も笑っていた

 

「後悔などない…あるのは未練」

 

今日まで生き、今日ここで死ぬことも

 

「お前の死に様を見届けれない…ただそれだけ」

 

自分の生き様すら

 

あの二人には見届けてもらえない

 

それがちょっと

 

心残りですかね

 

 

ゴトリと「それ」は落ち

 

血飛沫が舞った

 

 

 

「うあああああああっ!」

 

理性の糸が切れたように絶叫し自身を取り囲んでいた秋蘭の部下達へと高覧が飛び掛かる

 

見境無しに近くに立つ兵達の眉間に矢が刺さり、至近距離からの狙撃の威力そのままに首毎舞っていく

 

直後

 

ボスンと低い衝撃音と共にくの字に高覧の身体が折れ曲がる

 

彼女の鳩尾に一撃を放ったのは猪々子

 

胃液を吐き出しその目から光が薄れるのと同時に彼女を担ぎ上げ一団から抜けるように走り出していた

 

「将軍!」

「追うな!」

 

猪々子に続けとばかりに逃げ出す袁家の兵達を尻目に踵を返す秋蘭

 

「…城へ戻るぞ」

 

しかしと尚も食い下がる自身の部下の胸倉を掴み上げる

 

「私にこれ以上恥を掻かせるな」

 

普段冷静な彼女が初めて見せる怒りの形相に兵はただ頷くだけだった

 

「では同席させていただきましょう」

 

さもうれしそうに「それ」を抱える少年には目もくれず

 

「好きにしろ…立たれよ袁紹殿」

 

その場に呆けてペタンと座り込んでいた麗羽を抱き上げるように立たせる

 

「何で…どうして…こんな」

 

うわ言のように呟き続ける彼女をまともに見ることができず

 

秋蘭は歩きだした

 

 

 

あとがき

 

ここまでお読みいただきありがとうございます

 

ねこじゃらしです

 

将に徹しようとする秋蘭を書くのが難しかったです

 

あいかわらずの文才のなさに涙ちょちょぎれ、もっと上手く書きたいんですがね

 

さて

 

悠さんここで退場

 

書いててなんですが悲しかったです…もっと出番をあげたかった

 

いちおう今回のテーマとして悠から桂花へ、悠から比呂へってのがあるのですが

 

さてさて二人はどう受け止めてくれるのか

 

それでは次回の講釈で


 
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