第七話 汜水関の戦い 乙編
一刀が蓮葉に玉璽を渡した翌日、汜水関への攻撃が再開された。
孫堅軍は最前線から離れ後曲に、代わりに袁術が先鋒を務め、その後ろに袁紹、その右翼に曹操、左翼に公孫賛、遊撃に馬超となった。
最初は数で押し込んでいた袁家だったがやはり地力が違いすぎた。
袁紹軍の二枚看板、顔良、文醜が最前線で奮戦したが、思った以上の戦火は出なかった。
戦いが始まって数日。中々落ちない汜水関に袁紹の苛々はピークに達していた。
「まだ、汜水関を落とせませんの?」
「はい。文醜将軍が奮戦していますが、相手の勢いに兵が押されていまして。」
「では、顔良さん。あなたももう一度最前線へお行きなさい。さっさと落としてしまいなさい。」
「・・・・御意です。」
このままでは被害が増える一方なのは分かりきっているが、主の命に逆らうわけにもいけない。
顔良は渋々ながら袁紹の命を実行にうつした。
「文ちゃん。戦況はどう?」
「おお、斗詩。ぜんぜん動かない。あたいらが前線を交代する時を狙って一撃離脱してまた関に篭っちまってどうしようもできないぜ。そんで姫はなんか言ってた?」
「早く汜水関を落としてしまいなさいって。」
「そうは言ってもなぁ。華雄が予想以上に強いし、兵の士気は高いし、攻勢に移ろうとしたら関に引っ込んじまうし、現状維持でいっぱいいっぱいなんだよなぁ。」
「だよね。兵達も士気は下がる一方だしね。」
文醜からの報告で一度汜水関から距離をとる事を顔良は決め、すぐさま軍を動かした。
しかし華雄は軍が方向転換する際の僅かな隙を見逃してはくれなかった。
こちらの予想を超える騎兵が後方に噛み付いたのだ。
関での防衛戦では主に弓兵、工兵を中心に戦う。
今回の連合に勝つためには汜水関、虎牢関を死守し、持久戦に持ち込む事。
この事を考えると関を出て、打って出るなど愚の骨頂といえる。
しかし華雄はそんな思惑を逆手にとって定石ではなく、騎兵を中心とした軍事構成にしていたのだ。
そして、華雄が狙っていたのは、士気が下がり後退する際の一瞬の隙を騎兵で呑み込むことだった。
この読みは見事に的中し、袁紹、袁術軍に大打撃を与えることになった。
この報告を聞いた袁紹は緊急に軍議を開いた。
「皆さん、これは由々しき事態ですわ。未だに汜水関を落とせていません。誰か汜水関を落すという方はいらっしゃいませんの?」
「私は嫌よ。孫堅軍の二の舞にはなりたくないもの。」
「無論、我が軍の兵数では厳しいから汜水関への一番乗りは譲るわ。」
「我が軍は主に騎兵だ。野戦ならともかく、関戦は無理だ。」
「私の所もだ。」
「わらわも嫌なのじゃ。」
孫堅軍のようになりたくは無いとどの軍も消極的であった。
そこに凛とした声が響く。
「私が華雄を討ち取って見せましょう。」
そこに居たのは艶のある黒髪の少女だった。
「今は軍議の最中ですの。貴女のような身分の方に用は無くってよ。部外者は出て行ってくださる?」
「我が名は関雲長。劉玄徳様の家臣です。私に出陣の許可を下されば、華雄を討ち取って見せましょう。」
「その様な事認めるわけにはいきませんわ。まったく足軽の身分でこの私に・・・。ああ、汚らわしい。」
会話を聞いていた一刀は華琳の方に視線を向けると、彼女の目がキラキラと輝いている。
まるで、新しい玩具を買ってもらった幼子のように。
「彼女欲しいのか?」
「ええ。とっても。」
「いいのか?春蘭たちがヤキモチをやくぞ?」
「あら貴方は妬いてくれないの?」
「どうだろうな?」
「・・・少しくらい妬いてくれたって良いじゃないの。」
「拗ねない、拗ねない。」
華琳の頭をポンポンと撫でてやると、一刀は関羽に助け舟をだす。
「袁紹殿。彼女を私の部隊に編入し出陣すれば問題はないでしょう。万が一彼女が独断で動いたならば、私が彼女を切ります。」
「ですが・・・・。」
「彼女も諸侯に向かい啖呵を切ったのです。その胆力には敬意を評するに値すると思うのですよ。」
そう言うと袁紹に近づき、そっと彼女だけに聞こえるようにささやく。
「此処で貴方の器の広さを見せるときです。」
それを聞き袁紹は名誉挽回の為にと許可を出す事にした。
「そ、そうですわね。たしかに独断専行はよろしくありません。ですが、部隊で動くというなら許可を差し上げますわ。この私袁本初は器がとおっても大きいですから。おっほほほほほ。」
「では、出陣の準備がありますので失礼いたします。」
一刀は呆れながらも袁紹に一礼すると関羽と一緒に自分の天幕に向かった。
天幕に着くと一刀は自分の身長より長い布袋を持ち出してきた。
袋の紐を解くと一本の偃月刀が姿を現す。
漆黒の刃に竜を模した装飾。後世に伝わるあの青龍偃月刀だった。
「関羽殿。これを貴女に。」
「このような素晴らしい偃月刀は初めてです。しかし私なんかが貰い受けても良いのですか?」
「ああ。これは私が作ったものなんだが、扱いきれる人が居なくてね。このまま埃を被らせるのはどうかなって思ってね。」
一刀は関羽に青龍偃月刀を差し出す。
関羽は少し悩んでいたようだが、ゆっくりとその柄を握る。
そのさい、微笑む一刀と目が合い顔が赤くなる。
―これから戦いに行くというのに、私は何を考えている。
関羽は頭をふり雑念を消す。
そんな関羽をよそに一刀は鎧を着けられた人形を持ってきた。
調練に使うような人と同じぐらいの高さの人形だ。
「試し切りをされては如何かな?いきなり実戦と言うのもなんですから。」
「そうですね。では。」
関羽は獲物を低く構え、一気に踏み込み斜め右上に振りぬいた。
青龍偃月刀は鎧を紙のように切り裂き人形を二つに両断した。
人形の上半身が地面に落ち、鉄の鈍い音が響く。
「お見事。」
関羽は驚いていた。
自分の放った一撃に。青龍偃月刀の切れ味に。
今使っている獲物も街一番の鍛冶職人に作らせた業物だった。
しかし、この青龍偃月刀はそれ以上の業物なのだ。
「私の目に狂いは無かったようですね。」
「やはり、私の様な者が。」
「関羽殿。貴女は自分を過小評価しすぎでは?私は貴女が欲しい。その才も、女性としても。そして我が主、曹孟徳も望んでいる。」
一刀は関羽の頬に手を沿え、強制的に自分に視線を持ってこさせる。
関羽は戦には慣れているようだが、男に対する免疫と言うものが無いらしく顔が一気に朱に染まる。
「わ、私には、と、桃香様が・・・・。」
「これは、選択肢のうちの一つと言う事で頭の隅にでも置いといてください。」
「わ、私はそろそろ出陣の準備があるのでこれで失礼します。」
関羽は足早に曹操軍の陣を出て行く。
一刀は苦笑しながらその様子を見ていた。
「ちょっと強引過ぎたかな?」
「強引なのはいつもの事でしょ?」
関羽が居た場所から死角になる場所から華琳が出てくる。
華琳は地面に転がっている人形から鉄の棒を引き抜いた。
「一刀も意地悪ね。人形の中に鉄の棒を入れるなんて。」
「俺の鴉はこの程度なら普通にできるよ。俺が集めた精鋭たちだからね。」
「まあ、いいわ。関羽が華雄を討ち取ったら貴方は鴉と共に汜水関を落としなさい。」
「御意。」
一刀は関羽と合流した後、近衛兵の上位組、通称―鴉―と共に本陣を出発した。
遅くなりました。
皆様からのメッセージありがとうございました。
華雄さんのフラグは叩き折ります。
まあ、文才も乏しいので此処で一旦切っちゃいます。
一騎打ちを楽しみにされてた方、申し訳ないです。
それとご報告があります。
お気に入り数が200に達しました。故にちょっとしたオマケを次のページに投稿します。
これはあるCMを見て思いついたものです。
もし、このネタは投稿されているのであれば直ぐに消したいと思います。
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どーもSekiToです。
関羽と華雄の一騎打ちです。
と言いたい所ですが、そこまで行きませんでした。
では本編をどうぞ。