No.201607

演技をして

tanakaさん

最終的な終着点は欠片も考えてないけど、たぶん今半分くらいじゃないかな? 分からないけど……

2011-02-14 21:13:10 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2774   閲覧ユーザー数:2657

 風邪を引いて寝込んでいる演技をする。

 それだけで吉井くんと二人っきりの時間を過ごす事が出来る。

 二人っきり……二人っきり……ふたり……

「~~~~~~~~~っ」

 き、緊張してきた……

 ちゃんと演技が出来るかしら? いや、ちゃんとするのよ!

 そして――

 

 少しでも吉井くんとの仲を進展させるのよ!

 

 ピンポーン。

「き、来た……」

 布団に潜り風邪を引いている演技を始める。

 風邪が嘘だってことがバレたら大変な事になる。何があっても絶対に演技し続けるわよ。

「お邪魔しまーす。木下さん、大丈夫?」

 吉井くんが秀吉と一緒にアタシの部屋に入ってくる。

「ごほっ……す、少しつらいかな……?」

 本当はかなり大丈夫なんだけど、最初が肝心よね。

 ここで失敗したら全てが終わってしまう。上手い事、吉井くんを騙さないといけないわね。

「そっか。風邪は引くと辛いよね」

「……うん」

 心配そうにアタシの顔を見る吉井くん。

 くぅー可愛いわね。

 心配されてるって事も嬉しいけど、吉井くんの心配そうな顔も可愛くてたまらないわ。

 もっと……もっと、吉井くんの可愛い顔が見たい――

「…………」

 ――って、秀吉のバカは何で、まだアタシの部屋に居るのよ。

 ハッキリ言って邪魔なんだけど。

『秀吉……』

 小声で秀吉を呼ぶ。

『なんじゃ姉上』

 トコトコと近づいてきた秀吉の腕を掴み、小さな声で耳打ちをする。

『秀吉。あんた邪魔だから、さっさと自分の部屋に戻りなさい』

『そ、そうじゃったな。しかし姉上、本当に大丈夫かの?』

『何がよ?』

「姉上の事じゃから、ついウッカリ演技を失敗して……い、痛い!? それ以上曲げたらワシの

関節が再起不能にぃぃぃぃ!」

 とりあえず、秀吉の関節を曲げておこう。

「ひ、秀吉!? どうしたの急に大きな悲鳴をあげて」

『分かってるわよね秀吉』

「な、何でもないのじゃ。ただ急に声を出したくなっただけじゃ」

「そ、そっか。それならいいのかな」

 吉井くんがバカでよかったわ。

「と、時に明久。ワシは少し急用を思い出したから、席を外させてもらうぞ」

「あ、うん……わかったよ」

 

 秀吉が出て行って流れる静寂……

 

 ど、どうしよう。せっかく二人っきりになれたのに、これじゃ何も進まないじゃない。

 どうにかして動かないといけないわよね。

 よし、動こう。動くわよ。

「よ、吉井くんっ」

 うわっ……緊張しすぎて声がうわずったじゃない。

 お、落ち着きなさいアタシ。

「何かな木下さん」

「え、えっとね……汗をかいたから身体を拭いて欲しいかな……って」

「……ふぇ?」

「はっ!?」

 ちょ――っ!? あ、アタシは何を言ってるのよ!? 緊張しすぎて変な事を口走ってしまったじゃない。

 こ、このままじゃ……吉井くんに肌を晒さないといけなくなる。

 なんとか誤魔化さないと。

「その……木下さん」

「や、違っ! い、今のは関係なくて……その、言葉を間違えたっていうか、緊張しすぎて意味の分からない

事を口走ってしまったというか、願望が口から出てしまったというか――って、いい、今のも無しで!」

 うわぁー、アタシは本当に何を言ってるのよ!

 これじゃ吉井くんに変な人って思われちゃうじゃない。

「いや、でも今確かに……」

「――いいから忘れなさい!」

「ふぎゃっ!?」

 演技をしている事も忘れて、全力で吉井くんの関節を曲げにいってしまった。

 その結果――

 

「ご、ごめんなさい吉井くん!」

 ボロボロの吉井くんに必死で謝るアタシ、という構図が生まれた。

 うぅ……何でこんな事になったのかしら? 本当なら二人っきりでイチャイチャと出来たはずなのに……

 どこで道を間違えてしまったのだろう。

「たたた……木下さん。僕は大丈夫だからそんなに謝らないで」

「で、でも――」

「それにあまり動くと、風邪が酷くなるよ」

「ぁ……」

 その設定、すっかり忘れてたわね。

「木下さん?」

「あ、ううん。ごめん。そうだよね」

 急いで布団に潜る。

「でも、思ったより元気そうでよかった」

「……え?」

「木下さんと関わりを持ったのはここ最近だけど、やっぱり友達が病気だと心配だからね」

「吉井くん……」

 そこまでアタシの事を心配してくれてたなんて……

「ありがと」

 そして、嘘を吐いてごめんなさい。

「え? 今、何か言った?」

「ううん。今日は、お見舞いに来てくれてありがとうね」

「う、うん?」

 本当はもっと、深く進展させるつもりだったけど、もういいかな?

 でも一つだけ、もう一つだけ我儘を言ってもいいよね?

「ねぇ吉井くん」

「ん?」

「今度からアタシの事、優子って呼んでくれないかな? アタシも吉井くんの事明久くんって呼ぶから」

「いいけど……」

「ありがと明久くん♪」

「う、うん……」

 

 今日の進展はここまで。それで充分よね。

 まだまだチャンスはあるんだから、焦らずゆっくりと行きましょ。

 ね、明久くん♪

 


 
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