No.201533

華琳のバレンタインデー

ぴかさん

せっかくのバレンタインデー。
という事で、バレンタインデーを題材にした作品を書いてみました。

舞台は一応、現代の世界にみんな来てしまったという
以前に書いた学園の恋姫達に近いかな。

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2011-02-14 11:53:27 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:5293   閲覧ユーザー数:4222

 聖バレンタインデー。

年に一度だけ、女の子が好きな男の子にチョコレートを渡して愛を告白する日である。

これについては諸説あり、国によって事情は違うようだが、少なくともこの国ではそれが常識である。

そして、それは同時に恋する乙女達を悩ませることにもなる。

ここにも一人、慣れない作業に悩む乙女が居た。

 

 

 聖フランチェスカ女子寮。

学園にほど近い、一見すると高級マンションかと見間違うほどの建物である。

その一室で、今まさにチョコ作りに悩む乙女が居た。

 

「えーと、こうやって……。ってちょっと違うじゃない!!」

 

彼女の名は華琳。

あちらの世界では、覇王として一つの国を治めた女の子である。

 

「なかなか難しいわね……」

 

学校帰りに買ってきたお菓子の本を片手に、試行錯誤している。

完璧超人である華琳が、チョコ作り程度に手こずるにはわけがあった。

数日前のことである。

 

 

 その日もいつも通り授業をこなし、あとは帰るだけとなった放課後の事である。

北郷隊の三人娘の一人、真桜が沙和を迎えに来た。

 

「沙和そろそろ帰るで~。って何見てるんや?」

「あっ、真桜ちゃん!! これなのー」

 

そう言って沙和が見せたのは、女性向けのファッション雑誌である。

 

「なんや、沙和も好きやなぁ」

「違うのー。これをよく見るといいのー」

「ん、なになに……『バレンタインのチョコで彼のハートをキャッチ』なんやこれ?」

「バレンタインデーの特集なのー」

「バレンタインデーってなんや?」

「沙和も初めて知ったけど、この国にはバレンタインデーって言うのがあって、その日には好きな男の子にチョコを送って愛の告白をするのー」

「好きな男の子って、まさか……」

「もちろん隊長の事なのー」

 

二人の脳裏の浮かんだのは一人の男性。

この二人どころか、多くの女性のハートを掴んで止まない魏の種馬こと、北郷一刀の事である。

この世界にいる一刀は、自分達の知っているそれとは若干違うようだが、それでも以前と同じように接してくれていた。

その一刀相手に、合法的に愛の告白ができるのである。

いつもは多くのライバルに阻まれるわけだが、今回は理由がある。

そんな感じに、良い方向に考える二人であったが、真桜がその雑誌のある部分を見て言った。

 

「沙和~。ここに手作りチョコに愛を込めてとか書いてあるで。うちらチョコなんか作れへんやんか」

「あっ、本当なのー」

 

沙和は、真桜の指摘で気付いたようだ。

それほど、愛の告白という文章に気持ちが集中していたのだろう。

しかししばらく考えた後、何かをひらめいたかのような表情をして言った。

 

「そうなのー。流琉に頼むのがいいのー!!」

「おー、流琉か。料理名人の流琉ならチョコの作り方分かるかもしれへんな」

「そうしたら早速流琉に会いに行くのー!!」

 

そう言って、沙和は持っていた雑誌を素早く鞄に押し込むと走り出した。

 

「ちょっと、沙和!! 待ってーな!!」

 

その後を真桜が慌てて追いかけた。

 

 こうして、真桜と沙和のバレンタインデーはスタートした。

しかし、二人は気付いていなかった。

この場に、自分達と同じ気持ちでいる女の子がたくさんいた事を。

さらに、彼女達に全て筒抜けだった事も。

早速事実確認をしに行く者。

沙和と同じ雑誌を捜しに行く者。

なんだか分からないがチョコレートというフレーズに反応している者などなど……。

それぞれが行動を開始していた。

そして、その中に魏の覇王であった華琳もいた。

 

 

 こうして、チョコ作りを始めたわけだが、どうにも上手くいかない。

何でも完璧にこなす華琳だから、いくら不慣れな食材であってもしばらくすれば慣れるものである。

ところが、今回はその雰囲気が一切感じられない。

決して食べられないものが完成しているわけではないのだ。

端から見れば全く問題ないものであっても、華琳からしたら不合格である。

それは他でもない一刀への想いという部分であった。

 

(愛を込める……。一体どういう事なのかしら?)

 

その疑問ばかりが浮かんでは消えて、チョコはその都度完成するものの、華琳が納得いく物が完成しないのである。

それをどけて、またゼロから作り直しを既に一時間以上繰り返しているものだから、部屋中に甘い匂いが充満していた。

その匂いにつられて、華琳のその様子を見るギャラリーも自然と増えてくる。

しかし、そんな華琳に対して声をかける者はいなかった。

桂花もその一人である。

華琳様命の桂花であるから、この華琳の行動は非常に気になっていた。

 

(華琳様、なんでチョコなんかを……。まさか、あいつに……)

 

元魏の軍師である桂花は、その情報収集能力でこの世界の風習や風俗などをある程度把握していた。

その中で、バレンタインデーという一見すると意味不明な風習についても知っていた。

今の時期と華琳が行っている行動を照らし合わせれば、自ずとバレンタインデーというフレーズに行き当たるのだが、問題はそのチョコの行き先である。

自分がもらえる。

以前なら、そのような考えも直ぐに浮かぶのだが、この世界に来てからの華琳の行動の中心には必ず一刀の姿があった。

なので、おそらく今回の行動も一刀のためであろうというのが容易に想像できる。

そんな事を思いたくはないが、それは桂花も認めざるおえないのが現状だ。

その事を華琳に直接確認したいのだが、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

その為、確認できないまま歯がゆい思いを続ける桂花であった。

 

 

 世の中には常に例外が存在する。

そんな状況下にあっても、華琳の雰囲気に関係なく近づく者があった。

その者は全く関係ないとばかりに華琳に近づくと、横にのけてあったチョコを手に取り口に入れた。

 

「うん、十分美味しいじゃない」

「雪蓮!!」

 

突然の感想の言葉に驚く華琳。

雪蓮の接近に気付かないほど、チョコ作りに集中していた。

 

「これ、一刀に?」

 

既に完成していると思われるチョコを指差して、雪蓮が聞いてきた。

華琳は少し考えた後、言った。

 

「それはあげないわよ」

「そうなの? 十分美味しくて問題ないと思うけど……」

「見た目はね」

 

そう言った華琳の視線は、何か宙を泳いでいるように見えた。

雪蓮は、そんな華琳の様子を見て、一度頷くと言った。

 

「何か難しく考えてない?」

「そんなこと無いわよ。この私を誰だと思っているの?」

「そうよね」

 

そう言った雪蓮の顔は、何か含みのあるものだった。

 

「雪蓮、分かってないでしょ」

「分かっているわよ。邪魔しちゃ悪いからもう行くわ」

 

そう言って出ていこうとする雪蓮に、華琳が問いかけた。

 

「雪蓮は一刀に送るの?」

 

その言葉に、雪蓮は少し考えてから言った。

 

「送るわよ。誰かさんと違って、普段から一刀の事を想っているから簡単にこめられるわよ」

「何を言っているのかしら?」

「さて、なんの事かしらね」

 

白を切るような素振りを見せて、雪蓮は部屋から出て行った。

 

(普段から想っているから簡単にこめられるですって。私だって想っているわよ)

 

雪蓮に煽られたような格好になった華琳は、この後も意地になってチョコを作っていた。

 

 

 そして、バレンタインデー当日。

男子は朝からそわそわしていた。

聖フランチェスカは元々女子の学校だった。

それが、共学になったのは今年からなので、男子の数は圧倒的に少ない。

だからか、どの男子もチョコをもらえる気満々だった。

だが、気付いていなかった。

たとえ、女子に囲まれていてももらえない人はもらえないものだという事が……。

放課後になれば、そのそわそわ感が絶望に変わる人もいるだろう。

ただ、ここにも例外が居た。

必ずチョコをもらえる事が確定している人物である。

その者は、他の男子とは全く異なり特にそわそわする様子もなくいつもと同じだった。

 

「おはよう、かずぴー。余裕やなぁ」

「おー、及川、おはよう。余裕ってなんだ?」

「かー、もてる奴っちゅーんはこうもちゃうんか」

「だからなんなんだって……」

「まあ、そのうち分かるわ」

「――変な奴だなぁ」

 

一刀は首を傾げながら自分の席へと着いた。

よく見ると、周りの他の男子も何やらそわそわしているし、自分に大して敵意のようなものを向けてくるような感じがした。

 

(何かやっちゃったかなぁ)

 

特に身に覚えのない一刀は、今の教室の雰囲気に戦々恐々になってしまった。

 

 

 朝のホームルームや授業も特に問題なく進んだ。

そんな昼休みの事である。

 

「おにいちゃーん!!」

「鈴々!!」

 

鈴々が手を振って一刀の席までかけてきた。

 

「鈴々、どうしたんだ?」

「これをあげるのだ!!」

 

そう言って鈴々が取り出したのは、綺麗に包まれたチョコだった。

 

「これって、チョコレートか……。あっ!!」

 

ここに来て、一刀はようやく今日がなんの日かを思い出した。

そして自分の向けられた敵意のようなものの正体が、何となく分かった気がした。

 

「バレンタインデーのチョコ?」

 

一刀の問いかけに、鈴々は頷く。

 

「鈴々からのプレゼントなのだ!!」

「違うだろ、鈴々!!」

「愛紗!!」

 

鈴々の発言を否定する愛紗と、その後ろから桃香が来た。

 

「二人ともどうしたんだ?」

「すみません……。このチョコレートは私達三人からのプレゼントです」

「受け取ってもらえるかな……」

「もちろん、もらうよ」

 

一刀は、桃香達のチョコを受け取った。

これがきっかけだったのだろうか、それから元蜀の武将達が一刀の元に来てはチョコを渡していく。

一刀の前にはたちまち、チョコの山が作られた。

 

 その後には、今度は元呉の武将達が一刀にチョコを渡していく。

そして、最後は元魏の武将達である。

 

「隊長ー、チョコを……って、いっぱいやなぁ」

「たくさんあるから受け取ってもらえないかもなのー」

 

手作りのチョコを手に、真桜と沙和が来た。

だが、一刀の机の上に置かれたチョコを目の前にして躊躇してしまう。

一刀は、そんな二人の手からチョコを奪い取った。

 

「真桜と沙和のチョコを受け取らないわけないだろう」

「よかった」

「ありがとうなのー」

 

そんな二人の後ろで、躊躇している女の子が一人。

凪である。

今一歩踏み出せないでいる凪に気付いた真桜が促した。

 

「ほら、隊長に渡すんちゃうの?」

「真桜、押すなって……あっ」

 

真桜に押され、一刀の目の前に立った凪。

モジモジとしながらも、意を決したようにチョコを目の前に差し出した。

 

「受け取ってもらえますか?」

「もちろん」

 

一刀は、凪からチョコを受け取った。

と、ここで凪の口からすこし怖いフレーズが出た。

 

「よかった、受け取ってもらえたよ。麻婆チョコ」

「麻婆って……」

「はい!! 甘いチョコを食べると辛いものが欲しくなる事に気付いたので思い切って合わせてみました。感想を聞かせて下さいね」

「あ……ああ」

 

曖昧に答えた一刀のおでこには汗がにじんでいた。

 

 

 次に来たのは風である。

 

「あれ、風一人なの?」

「はい~。稟ちゃんはチョコの食べ過ぎで相変わらずの状態なので保健室においてきました~」

「ははは……」

 

稟の状態が容易に想像できて一刀は思わず笑ってしまった。

それとは対称的に、風の表情はいつもより暗く見えた。

 

「風、どうしたんだ?」

「いえ~。稟ちゃんがほとんどのチョコを食べてしまったのでこれしかないのですよ~」

 

そう言って差し出したのは十円前後で購入できる、いわゆるチ○ルチョコである。

他のみんなが結構立派なものばかりなので、それに比べて……という事だろう。

だが一刀はそんなのは関係ないとばかりに、手を差し出した。

 

「量や値段の問題じゃないよ」

「そうですか~。それでは……」

 

そう言って手に持ったチョコを一刀に渡すのかと思ったが、おもむろにそのフィルムを剥がすと自分の口で挟んだ。

そして……

 

チュ

 

口移しで、チョコを一刀に渡したのである。

これには、さすがの一刀も呆然となってしまった。

 

「これくらいしなきゃ、風は皆さんに勝てませんからね~」

 

風は、手を口に当ててそう言いながら教室を後にした。

 

 それからも、元魏の武将達が次々と一刀の元を訪れた。

 

「みんなが渡して私だけ渡さないのはなんか許せないから渡すだけで、他意はないんだから」

 

と言いながらチョコを渡す桂花や

 

「これなら合法的に飲めるから最高や」

 

と、ウィスキーボンボンを大量に持ってくる霞。

仕事で直接渡せないと、宅配で届けられた張三姉妹からのチョコ。

 

「ボクは渡すより食べるのが好きなんだけどなぁ」

「季衣、このチョコはそういう事じゃなくてね……」

 

バレンタインデーの意味も分からず一刀にチョコを渡す季衣と、うまく説明できていない流琉。

 

「北郷食え!!」

「北郷、すまない。食べてやってくれないか?」

 

一刀にチョコを無理矢理食べさせようとする春蘭と姉をフォローする秋蘭。

相変わらずの面々が、来てくれたのだが、一番肝心の人物が来ていない。

そう、華琳である。

 

 

 華琳は、教室の入り口で一刀の様子を見るだけで中に入る様子がなかった。

そんな華琳に他の者は、声をかけることが出来なかった。

まさに触らぬ神に祟りなしを地でいくような感じであった。

 

 ところが、ここにも例外と言うべき人物がいた。

少し離れた場所で、愛紗や鈴々とおしゃべりに興じていた桃香である。

華琳の様子に気付くと、二人に一言言ってから華琳のそばへと近づいた。

 

「華琳さん、どうしたんですか?」

「と、桃香!!」

 

桃香に声をかけられ驚く華琳。

そんな華琳に、桃香も驚いた。

 

「声をかけただけでそんなに驚くなんて、華琳さんらしくないですね」

「私らしく……そうかもしれないわね」

 

以前の華琳なら強気に返していただろう。

だが、この世界に来てから、華琳の様子はかなり変わってしまった。

それは本人も戸惑うくらい。

 

「チョコ、渡さないんですか?」

 

物思いに耽る華琳を現実に戻そうと、桃香が聞いた。

 

「チョコ……。渡すわよ、でもね……」

 

そう言って、一刀の様子を見た。

一刀は、そのチョコの多さにちょっと驚きの表情を見せていた。

それを見て、華琳は自分がチョコを渡すことが一刀にとって負担になるのではと思ってしまっているのだった。

 

「関係ないですよ」

「桃香……」

「私もそう感じることがありますけど、あの人はそれを含めて全てを受け止めてくれます」

 

そう言う桃香の表情は、まさに恋する乙女といった感じであった。

桃香のそんな姿を見て、華琳は意を決した。

 

「分かったわ」

 

そう言って、華琳は一刀のいる教室へと入った。

 

 

 教室内は少しざわめいていた。

ほとんどがチョコ待ちをしている男子か、一刀の様子を眺めて面白がっている奴だった。

そんな教室に華琳は踏み込むと、そのまま一直線に一刀の元へと来た。

 

「一刀」

「おー、華琳じゃないか。華琳もチョコくれるのか?」

 

(このバカが……)

 

華琳はそう思いながらも、手に持ったチョコを一刀に手渡した。

 

「この私が直々に渡すのよ。ありがたく食べなさいよ」

「ありがとう」

 

満面の笑みで答える一刀。

少し嫌みっぽく話した華琳は、なんか自分が色々考えてしまっていた事がバカバカしく思えてきた。

 

「まあ、いいわ。来月は楽しみにしているわね」

「来月って……、あっ」

 

そう、バレンタインデーの翌月はホワイトデー。

今度は男性から女性に、バレンタインデーのお返しとばかりにプレゼントを贈る日である。

なぜか、もらったものよりも数倍のお返しをするのが当たり前のようになっている。

 

「このチョコを作るのに、これだけかかったのよ」

 

そう言って、華琳は一刀の耳元でかかった費用の話をした。

それを聞いて、一刀の表情が途端に曇りだした。

 

「せいぜい楽しみにしているわ」

 

そう言って、華琳はその場を離れた。

その表情は、魏の覇王華琳そのものだった。

 

 

あとがき

 

 バレンタインデーに合わせてという感じで書いてみました。

勢いで書いた部分があるので、あんまり整ってないようなそんな気がします。

 

 今回は華琳が中心なので、武将も魏のメンバーの内容を詳しく書いてみました。

本当は、呉も蜀もいくつか内容を考えていたんですが、あんまり時間が無くて今回は省略しました。

その辺を楽しみにしていた方、申し訳ありません<m(__)m>

 

 オチももうちょっと違う風なものを考えていたんですが、どうにもうまく書けなかったです。

やっぱりきちんと構成を考えないとダメですね。

 

 華琳は久々に書いたので、なんかキャラが変わっているような気がします。

たまには原作をやって、キャラの雰囲気を思い出さないと。

 

 風ストーリーを書いてはいますが、たまにはこうやって別の舞台の作品を書いていきたいと思います。

それなら、さっさと話を進めろと言われそう^^;

まあ、両方とも頑張っていきたいです。

 

 今回も、ご覧いただきありがとうございました。


 
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