No.201526

そらのおとしもの 二次創作  ~ イカロス、愛の劇場 ~

tkさん

『そらのおとしもの』の二次創作になります。
今回はお約束の時期ネタ。
ただし作成時間が限られていた事もあってコピペ戦術を多用した間に合わせ的な内容になってしまいました。
自分で納得のできる話を書きたいなぁ。

2011-02-14 09:55:13 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:5459   閲覧ユーザー数:5322

 私の名前はニンフ。

 マスターからの命令を遂行する事を存在意義とする電子戦用エンジェロイドである。

 …その日々がもう随分前の事に感じる。

 今の私はそのマスターから解放されてある家の居候の一人なっている。

 そこの家主はそういう使命やら命令やらが嫌いみたいで、私としてはその優しさが嬉しい反面、少し寂しかったりする。

 

『スティファニー! 僕はもう我慢できない!』

『駄目よロレンス! 夫が帰ってくるわ!』

『かまうものか! もう我慢でいきないって言っただろ!』

 

「うーん…」

 桜井家の夕食が終わり、私は趣味である昼ドラを観賞していた。

 今日のドラマの展開はあまり面白くない。

 ありきたりというか、見飽きているというか。もう少し捻った展開を見てみたい。

 

 それにしてもダウナーの生み出した『DVD』という情報記憶媒体は便利だ。

 最初はその容量の少なさに驚いたけど、慣れれば問題なく使える。

 なによりコストパフォーマンスに優れるというのがいい。

 具体的に言うと空の記憶媒体なら私のお小遣いでも十分に買える所がいい。

 これのおかげで学校に行っている間の番組も見逃さなくて済む。

 

 そんないつもと変わらないハズの日常だったけど、今日はちょっと変わった事が起こっていた。

 今日は私の隣で一緒に昼ドラを見てる存在が二人いるのだ。

「………」

 一人は戦略用エンジェロイドタイプα、イカロス。私はアルファーと呼んでいる。

 シナプスでは『空の女王(ウラヌスクイーン)』と呼ばれて恐れられる存在だったんだけど…

 

『僕は君を愛しているんだ!』

『ああ、ロレンス!』

 

「…愛」

 何かを呟いてボーっとしている今のこの娘を見て、誰がそれを想像できるだろう。

 私はこの娘とかなり親しい自信があるけど、それでも時々何を考えているか分からない時がある。

「ニンフ先輩、このおやつもっと無いんですか?」

「無いわよ」

 もう一人は近接戦闘用エンジェロイドタイプΔ、アストレア。私はデルタと呼んでいる。

 私の後輩みたいなもので、バカ。ついでによく私のおやつを盗み食いする食欲の化身。

 以上、説明終わり。

 

「…ニンフ」

「何?」

「相談したい事があるの」

 私に向き直ったアルファーの表情は真剣だった。

「私に分かる事ならいいけど?」

 

 

「私、愛を知りたい」

 

 

 

 

   ~ イカロス、愛の劇場 ~

 

 

 

 

「…えーと」

 さすがに抽象的というか、哲学的というか。ちょっと返事に困る内容だった。

「イカロス先輩、まだ悩んでたんですね」

「………うん」

 居間の空気が少し重く感じる。アルファーの悩みはかなり深刻な状態らしい。

「デルタも知ってたの?」

「はい、まあ…」

 そういえば私もアルファーに一度聞かれた事があった。

 あの時は破廉恥なDVDとトモキに渡されたお小遣いのせいでうやむやになったんだっけ。

 

 それにしても愛、か。

 私自身、それに明確な答えなんて持っていない。

 私には好きな人がいる。

 桜井智樹。この家の家主でアルファーの正式なマスター。

 この気持ちがダウナーでいう愛なのかと聞かれると、分からない。

 こんなに誰かを好きになったのは初めてだから、まだこの気持ちの整理ができていない。

 

「ごめん、私も分かんなくなってきちゃった」

「…そう」

 嘘は、ついてない。

 でもアルファーが誰を好きなのかなんて分かってる。

 それが愛だと思うと教えられるハズなのに、私にはそれができない。

 どうして? 私は智樹をめぐってアルファーと争う事を嫌がっているの?

 

「はいはーい! 提案があります!」

 居間の重苦しい雰囲気を変えたのはデルタだった。

「ニンフ先輩の見る昼ドラってよく出てくるじゃないですか、愛とか好きとか。それを参考にできないかなーって」

「…そうね。良い考えかもしれないわね」

 デルタの提案は渡りに船だった。

 アルファーへ恋愛を間接的に教えつつ、この暗い雰囲気を変えられればいい。

 答えを先延ばしにしているだけかもしれないけど、こんな空気は耐えられない。

「ニンフのお勧めは、どれ?」

「やる気満々ですね、イカロス先輩!」

 デルタとアルファーはDVDの山を漁りだしていた。特にアルファーの表情は真剣そのものだ。

「ああ、駄目よアルファー! トモキの物まで混ざっちゃう!」

 楽しみにしていた昼ドラを見たらいきなりトモキコレクションの破廉恥な映像だったなんて嫌過ぎる。

 二人を押しのけて自分のコレクションの中から一つを取り出した。

「それじゃ、始めるわよ」

 私はデッキにディスクを入れ、再生ボタンを押した。

 

 

 

『待ってくれレジェッタ!! これも君を愛してるからなんだ!』

『ああ、そうだったのねマックス! あなたのこの厳しさも愛なのね!』

『ああそうさ、これも愛なのさ!』

 

「うーん…」

 自分で言うのも何だけど、このドラマはあまり面白くなかったかもしれない。

 引きこもりがちだけど心優しい少女に二人の男性が惹かれて、彼女を社会復帰させながら奪い合う話なんだけど…

 ありきたりというか、見飽きているというか。もう少し捻った展開を見てみたいと思う。

 たしか番組で感想を募集していたから、今度ハガキを書いてみよう。

 というか厳しさって愛になるんだろうか?

 トモキはソハラのエッチな行為に対する制裁も愛情だと思っているんだろうか?

「………はっ! 自分が楽しんでどうするのよ!」

 しまった、アルファーに恋愛を教えるハズなのに自分だけ観賞を楽しんでいた。

「うーん、うーん」

「デルタ?」

 デルタはちゃぶ台につっ伏して唸っていた。

「アストレアは、オーバーヒートをしたみたい」

 私達エンジェロイドは眠らないけど、心身に過負荷がかかると意識を落として自己修復に努める機能がある。

 確かにうつ病やトラウマという小難しい内容もあったけど、これくらいで知恵熱を出してるこの娘って…

「まあいいか。そのうち目が覚めるでしょ」

「うーん、駄目ですよニンフ先輩。そんな虎や馬なんて食べられませんよう…」

 この娘、本当にオーバーヒートしているだけなんだろうか?

 私達の知る中でもこの娘は一番エンジェロイドらしくないと思う。

「ところでアルファー。少しは参考になった?」

「…うん。なんとなく、だけど」

「そう、あんまり焦って答えを出さないでね」

「ありがとう、ニンフ」

 アルファーは満足した様子で居間を出て行く。

 とりあえずこの問題は一時的な解決をしたと私は思っていた。

 

 

「愛は、厳しさ」

 

 

 ところがそうでもなかった。

 私はアルファーの最期の呟きを聞き逃していた。

「もう、朝か…」

 僕は疲労に霞んだ視界を少しこすりました。

「また徹夜になっちまったか。ま、仕方ないか」

 

 おはようございます、智樹です。

 最近の僕はある目的の為に連日徹夜を続けています。

「待ってろよ。決戦の日までに必ず仕上げてやるからな」

 僕の眼前に鎮座する物体。これは造りかけの新型パンツロボです。

 来たる決戦の日にはこのパンツロボと共に戦場を駆ける事になるでしょう。

「バレンタインなんぞ俺は、いや、俺達は認めない!」

 僕達はフラレテルビーイング。

 いちゃつくアベックどもに武力介入し、世の歪みを破壊する集団なのです。

 僕を始めとしたクラスの男子の半数がその一員です。

 色々と終わってるクラスな気もしますが、あえて気にしない事にしています。

 

「腹も減ったな。朝飯にするか」

 腹が減っては戦ができぬ。

 一人暮らしの頃は面倒がって作りませんでしたが、今は朝食のありがたみがよく分かります。

 階段を下りると、一階の台所から良い匂いがしてきました。

「おはよう、イカロス」

「おはようございます、マスター」

 台所にいたイカロスは僕の挨拶に応えるとすぐに向き直って朝食の準備を再開します。

 こいつが来てから家の家事全般は見違えるくらいに改善されました。

 その代償として家が損壊する事も増えましたが。…あれ? 家としてはむしろマイナスじゃね?

「まあいいや。朝飯、朝飯~」

 気にしたら負けだという結論に達し、僕はさっそく朝食を―

 

「ありません」

 

「…はい?」

 僕の方へ振り向いたイカロスは絶対零度の眼差しでそう言いました。

 オ、オヤオヤ~?

 なんだか徹夜のせいで幻聴が聞こえたみたいです。やっぱり無理はよくありませんね。

「すまんイカロス、よく聞こえなかった。もう一度言ってくれ」

 だって現に朝食はここにあるわけだし。きっと聞き違いなのでしょう。

 

 

「マスターの分の朝食は、ありません」

 

 

 イカロスは絶対零度の眼差しのまま、そう言いました。

 そう、言ったのです。

「ああ、それでトモキが泣きながら出て行ったのね」

 トモキがわんわん泣きながら学校に走って行った時は何事かと思ったけど、アルファーがやらかしたのか。

 愛は厳しさ、か。そういえば昨日の昼ドラにそんなフレーズがあったっけ。

「…何が、悪かったんだろう」

 いや、色々と間違ってたと思うんだけど。

 でもそれを指摘するとアルファーがますます落ち込みそうだからやめた。

 今でさえ『どんより』と居間を侵食する負のオーラを出しているんだし。

「うんうん、ごはんが食べられないって厳しい事ですよね。とっても厳しいですイカロス先輩!」

 納得顔で頷くデルタ。

 そうか、この娘の境遇を参考にしたのか。それは参考元からして間違ってる。

「これは、何か違うと思う…」

「そりゃねぇ…」

 とにかくアルファー自身が間違いに気づいてもらえて何よりだ。

 このままトモキの食事が抜かれ続けるという事態はちょっと困る。

「トモキには帰ってから謝りましょ。まさかお昼のお弁当まで抜いてないんでしょ?」

「お昼まで抜いたら、マスターが飢え死にするから」

 その判断基準は一体どこにあるんだろう。あえて聞かないけど。

 

「はいはーい! 別のDVDを見てみましょう!」

 居間の重苦しい雰囲気を変えたのはデルタだった。

「今度は別の物を参考にしましょう! 厳しいだけが愛じゃないって師匠が言ってました!」

「…まあ、そうね」

 ミカコの愛がどんなものかは置いといて、アルファーには別の価値観を見せる必要があるかもしれない。

「次のお勧めは、どれ?」

「その意気ですイカロス先輩!」

 デルタとアルファーは再びDVDの山を漁りだしていた。

 今回のアルファーはいつになくやる気に溢れている気がする。私もできるだけそれに応えるべきだろう。

「うーん、そうねぇ」

 私は二人の中に入って自分のコレクションの中から一つを取り出した。

「それじゃ、始めるわよ」

 私はデッキにディスクを入れ、再生ボタンを押した。

 

 

 

『この悪女め!! 僕を裏切るのか!』

『違うわトムス! でも、私はこの人だけは裏切れないの!』

『無様だなトムス! ディリーはもう俺の物なのさ!』

 

「うーん…」

 自分で言うのも何だけど、このドラマはあまり面白くなかったかもしれない。

 三角関係の果てに女を奪い親友を貶める悪徳を描きつつ、そこに至る苦悩までを描いた作品なんだけど。

 ありきたりというか、見飽きているというか。もう少し捻った展開を見てみたいと思う。

 たしか番組で感想を募集していたから、今度ハガキを書いてみよう。

 ていうか略奪って愛になるんだろうか?

 という事はソハラがトモキからエッチな本を没収しているのも愛情なんだろうか?

「………はっ! 自分が楽しんでどうするのよ!」

 しまった、アルファーに恋愛を教えるハズなのに自分だけ観賞を楽しんでいた。

「うーん、うーん」

「デルタ?」

 デルタはちゃぶ台につっ伏して唸っていた。

「アストレアは、オーバーヒートをしたみたい」

「…またか」

 この娘はお子様向けの単純明快な番組しかまともに視聴できないんだろうか。

 そういえば最近は仮面なんたらとか、なんとか戦隊にハマってるから録画して欲しいとか言われてたっけ。

「まあいいか。そのうち目が覚めるでしょ」

「うーん、駄目ですよニンフ先輩。それ私の分のお菓子ですよぅ…」

 本当にオーバーヒートしているだけなんだろうか? 

 私のお菓子を日々略奪しているのはデルタの方なんだけど。

「ところでアルファー。今度は参考になった?」

「…なんとなく、だけど」

「そう、あんまり思いつめたら駄目よ」

「分かってる。ありがとう、ニンフ」

 アルファーは満足した様子で居間を出て行く。

 これでこの問題は一時的な解決をしたと私は思っていた。

 

 

「愛は、奪い取るもの」

 

 

 ところがそうでもなかった。

 私はアルファーの最期の呟きを再び聞き逃していた。

「朝か…」

 僕は疲労に霞んだ視界を少しこすりました。

「また徹夜になっちまったか…」

 

 おはようございます、智樹です。

 今日も僕は徹夜を続けています。大丈夫、ちゃんと学校で寝てますから。

「これなら決戦の日までに間に合うな」

 僕の眼前に鎮座する造りかけの新型パンツロボ。だいたい8割完成といった所でしょうか。

「待ってろよバレンタイン、俺が惨劇の日にしてやるぜ」

 僕達はフラレテルビーイング。

 いちゃつくアベックどもに武力介入し、世の歪みを破壊する私設武装組織。

 僕を始めとしたクラスの男子の半数がその一員です。

 昨日の学校では僕と同じ『間衣巣他(マイスター)』の久本や星崎も準備を進めていました。

 こちらも負けていられません。

 

「腹も減ったな。朝飯にするか」

 昨日はイカロスの勘違いで朝食抜きという悲しい事がありましたが、もう大丈夫でしょう。

 結局、何をどう勘違いしたのかは教えてくれませんでしたが、あいつに自主性が出てきたのは良い事です。

 階段を下りると、一階の居間から良い匂いがしてきました。もう朝食の準備は出来ているみたいです。

「おはようイカロス、ニンフ」

「おはようございます、マスター」

「おはよ」

 二人に挨拶をして僕もちゃぶ台に座ります。

「むぐむぐ、ちょっと、私は? むぐむぐ」

「お行儀の悪い奴に挨拶なんてしないぞ」

 先に食べ始めているアストレアにはきびしい態度で臨みます。

 こいつが来てから家の食費は見違えるくらいに悪化しました。もう完全に居候状態です、誰か何とかして下さい。

「じゃあ、いただきます」

『いただきます』

 今日は豆腐の味噌汁と鮭の塩焼き、佃煮と漬物です。僕はさっそく味噌汁から手をつけました。

 ああ、美味い。一日が始まったという感じがします。さて、次は鮭の塩焼きでご飯をいただくとしますかね。

 

「あり?」

 

 オ、オヤオヤ~?

 さっきまで僕の目の前にあった鮭の塩焼きが消えているんですけど?

 そしてイカロスさん? なんで貴女がその塩焼きを頬張っているんでしょうか?

「奪い取る、もの、です」

 あまりの事に言葉が出ない僕をあざ笑うかのごとく、目にも止まらない速さで僕の朝食を奪いに来るイカロスさん。

 その動きは元祖盗み食い犯のアストレアさえ唖然とさせるものでした。

「ちょっ!? アルファー!?」

 我に返ったニンフがイカロスを止めるまで、その圧倒的な暴虐は続きました。

 

 その暴虐によって僕の朝食は無くなりました。

 そう、無くなったのです。

「トモキ、大丈夫かしら?」

 結局、朝食をまともに取れなかったトモキはとぼとぼと学校に行った。

 愛は奪い取るもの、か。そういえば昨日の昼ドラにそんなフレーズがあったっけ。

「…何が、悪かったんだろう」

 いや、色々と間違ってたと思うんだけど。

 でもそれを指摘するとアルファーがますます落ち込みそうだからやめた。

 今でさえ『ずーん』と居間を侵食する負のオーラを出しているんだし。

「かっこ良かったですイカロス先輩! 今度、そのコツを教えてください!」

 そして盗み食いの極意をアルファーに見出したデルタ。

 そうか、またこの娘の境遇を参考にしたのか。だからそれは参考元からして間違ってるんだってば。

 アルファーなりにデルタを信頼している証拠かもしれないけど、今回ばかりはそれが裏目に出ている。

「これも、何か違うと思う…」

「そりゃねぇ…」

 とにかくアルファー自身が間違いに気づいてもらえて何よりだ。

 このままトモキの朝食が抜かれ続けるという事態はちょっと困る。

「トモキには帰ってから謝りましょ。まさかお昼のお弁当まで抜いてないんでしょ?」

「お昼まで抜いたら、マスターが飢え死にするから」

 だからその判断基準は一体どこにあるんだろう。やっぱり聞かないけど。

 

「はいはーい! 次のDVDを見てみましょう!」

 居間の重苦しい雰囲気を変えたのはデルタだった。

「今度は別の物を参考にしましょう! 奪うだけが愛じゃないって師匠が言ってました!」

「…まあ、そうね」

 ミカコの愛の価値観がどんなものかは置いといて、アルファーには別の価値観を見せる必要がある。絶対ある。

「次のお勧めは、どれ?」

「その意気ですイカロス先輩!」

 デルタとアルファーは再びDVDの山を漁りだしていた。

 今回のアルファーはいつになくやる気に溢れている気がする。私もできるだけそれに応えるべきだろう。

 このままだと間違った愛情の理解をしそうだし。

「うーん、そうねぇ」

 私は二人の中に入って自分のコレクションの中から一つを取り出した。

「それじゃ、始めるわよ」

 私はデッキにディスクを入れ、再生ボタンを押した。

 

 

 

『ありがとうミシェイル。 貴女の愛、感じたわ』

『こちらこそ君の愛を感じた。…結婚しよう、アシュリー』

『ああ、ミシェイル!』

 

「うーん…」

 自分で言うのも何だけど、このドラマはあまり面白くなかったかもしれない。

 赤貧あえぎながらもたくましく生きる女性と、それに惹かれた男が家柄を捨てて僅かなお金で買った結婚指輪を贈る話なんだけど…

 ありきたりというか、見飽きているというか。もう少し捻った展開を見てみたいと思う。

 たしか番組で感想を募集していたから、今度ハガキを書いてみよう。

 やっぱりプレゼントは愛の証になるんだろうか?

 という事はトモキがあの時私にくれたリンゴアメも愛の証なんだろうか?

 

 …そうだったら、いいな。

 

「………はっ! 自分が楽しんでどうするのよ!」

 しまった、アルファーに恋愛を教えるハズなのに自分だけ観賞を楽しんでいた。

 しかも自分に都合のいい妄想までしてたし!

「うーん、うーん」

「デルタ?」

 デルタはちゃぶ台につっ伏して唸っていた。

「アストレアは、オーバーヒートをしたみたい」

「…あ、そう」

 今回は比較的分かりやすい内容を選んだつもりだった。

 分かっていたけど、この娘と趣味を共通しあう日は永遠に来ないかもしれない。

「まあいいか。そのうち目が覚めるでしょ」

「うーん、駄目ですよニンフ先輩。それ私があいつからもらった指輪ですよぅ…」

 …本当にオーバーヒートしているんだろうか?

 そしてだんだん私に対する言動が挑発的になってきたのは気のせいだろうか?

「アルファー、今度こそ参考になった?」

「…今度こそ、大丈夫」

「とりあえず、これ以上トモキに迷惑かけちゃ駄目よ」

「分かってる。ありがとう、ニンフ」

 アルファーは満足した様子で居間を出て行く。

 これでこの問題はようやく解決したと私は思っていた。

 

 

「愛は、与えるもの」

 

 

 ところがそうでもなかった。

 私はまたアルファーの最期の呟きを聞き逃していた。一応電子戦用の高性能レーダー持ちなのにな、私。

「朝か…」

 僕は疲労に霞んだ視界を少しこすりました。

「また徹夜になっちまったか…」

 

 おはようございます、智樹です。

 今日も僕は徹夜を続けています。大丈夫、ちゃんと学校で寝てますから。

「明日は決戦の日か…」

 僕の眼前に鎮座する新型パンツロボはようやく完成しました。後は明日の決戦を待つのみです。

「待ってろよバレンタイン! その歪みを破壊する!」

 僕達はフラレテルビーイング。

 モテ男どもに武力介入し、世の歪みを破壊する私設武装組織。ついでにモテ男の顔も破壊したいですね。

 僕を始めとしたクラスの男子の半数がその一員です。

 僕も『間衣巣他(マイスター)』の一人として恥ずかしくない行動をしないといけません。

 

「腹も減ったな。朝飯にするか」

 昨日はイカロスの勘違いで朝食抜きという悲しい事がありましたが、もう大丈夫でしょう。

 結局、何をどう勘違いしたのかは教えてくれませんでしたが、あいつに自主性が出てきたのは良い事です。

 …良い事なんです。そうでも思わないと僕が耐えられません。

 

 階段を下りる為に廊下に出ると、イカロスが待っていました。

「…おはよう、イカロス」

「おはようございます、マスター」

「…朝飯は?」

「用意してあります」

 つい身構えてしまいますが、どうやら今朝はいつも通りみたいです。

「こちらでいただきますか?」

「ああ、頼む」

 どうやら久しぶりに落ち着いた朝食にありつけそうです。

 

 …ん? こちら?

 

「では、失礼します」

 オ、オヤオヤ~?

 何で僕はイカロスさんに荒縄で縛られているんでしょうか?

 そしてイカロスさん? なぜ貴女は大量の食事をここに並べているのですか? ここ廊下ですよ?

「与える、もの、です」

「~~~~~~~~!!」

 無理やり僕の口をあけて料理を流し込み始めるイカロスさん。

 次々と食べ物が詰め込まれるので制止の声も出せません。

「またやった!? 待ちなさいアルファー!」

 騒ぎに駆けつけてくれたニンフがイカロスを止めるまで、その朝食という名の暴力は続きました。

 

 その暴力によって、僕は当分朝食が欲しくなくなりました。

 もう、勘弁してください。

「トモキ、大丈夫かしら?」

 結局、トモキはフラフラしながら学校に行った。

 愛は与えるもの、か。そういえば昨日の昼ドラにそんなフレーズがあったっけ。

「…何が、悪かったんだろう」

 いや、色々と間違ってたと思うんだけど。

 でもそれを指摘するとアルファーがますます落ち込みそうだからやめた。

 今でさえ『ずぶずぶ』と居間に沈み込みそうな負のオーラを出しているんだし。

「ぷすすっ! あいつフォアグラのガチョウみたいでしたねイカロス先輩!」

 

 *フォアグラ

  ガチョウや鴨などに必要以上にエサを与えることにより、脂肪肝を人工的に作り出したもの。

  世界三大珍味の一つ。

 

 デルタがフォアグラなんて単語を知っている事に驚いた。多分ミカコが面白がって教えたんだろう。

 というか、またこの娘の話を参考にしたのか。だからそれは参考元からして間違ってるんだって。

「これも、何か違う、と思う…」

「イ、イカロス先輩ギブ! ギブ…!」

 さすがに自分の失敗を笑われて怒ったのか、デルタにチョークスリーパーをしながら落ち込むアルファー。

 これでアルファーのデルタへの信頼も崩壊したかもしれない。わりとどうでもいいけど。

「そりゃねぇ…」

 とにかくアルファー自身が間違いに気づいてもらえて何よりだ。

 ついでにそのままデルタを夜空の星にしてくれるともっといいんだけど。

「トモキには帰ってから謝りましょ。…さすがにお昼は食べられそうにないけど、お弁当は?」

「一応、入れておいたけど」

 まあトモキが食べられなくてもスガタ辺りが処理してくれるだろう。

 

「ぜぇ、ぜぇ… つ、次のDVDを見てみましょう!」

 居間の重苦しい雰囲気を変えたのは復活したデルタだった。

「今度は別の物を参考にしましょう! 与えるだけが愛じゃないって師匠が言ってました!」

「…まあ、そうね」

 ミカコの愛の価値観はもうどうでもいいけど、アルファーには別の価値観を見せる必要がある。

 今度こそデルタ経由の余計なノイズ抜きで教えないと。

「次のお勧めは、どれ?」

「その意気ですイカロス先輩!」

 デルタとアルファーは再びDVDの山を漁りだしていた。

 今回のアルファーはいつになくやる気に溢れている気がする。私もできるだけそれに応えるべきだろう。

 というかこのままだと本当にトモキの身がもたないから、私がなんとかしないと。

「うーん、そうねぇ」

 私は二人の中に入って自分のコレクションの中から一つを取り出した。

「それじゃ、始めるわよ」

 私はデッキにディスクを入れ、再生ボタンを押した。

 

 

 

『さようならフリージア。君との甘く切ない日々は忘れない』

『ジョイス… 私も忘れないわ、あなたとの甘く悲しい日々を』

 

「うーん…」

 自分で言うのも何だけど、このドラマはあまり面白くなかったかもしれない。

 僅かな蜜月を過ごした男女が空港で離婚して別れるシーンなんだけど。

 ありきたりというか、見飽きているというか。もう少し捻った展開を見てみたいと思う。

 たしか番組で感想を募集していたから、今度ハガキを書いてみよう。

 愛って甘いものなんだろうか?

 

 …よくわからない。

 トモキの事を考えるとぽかぽかした気持ちになる事が多いけど、これが甘いって事なんだろうか?

 

「………はっ! 自分が楽しんでどうするのよ!」

 しまった、アルファーに恋愛を教えるハズなのに自分だけ観賞を楽しんでいた。むしろ自己分析になってる!?

「うーん、うーん」

「…」

 デルタはちゃぶ台につっ伏して唸っていた。

「アストレアは、オーバーヒートをしたみたい」

「ええ分かってる。もういいわ」

 うん、分かっていた。この娘がこういうリアクションを返す事はもう予測の範囲内だ。

「そのうち目が覚めるでしょ」

「ぷすすっ、駄目ですよニンフ先輩。ちっちゃいんですから無理しないでくださいよぅ…」

 …今、確信した。この娘は私を挑発していると。

「仕方ないわね。あとでパラダイス・ソングで起こしてあげなくちゃ♪」

 そのまま永眠してくれれば最高だけど、無駄に頑丈なこの娘だから無理だろう。悔しいけど仕方ない。

「アルファー、今度こそ参考になった?」

「…今度こそ大丈夫、多分」

 今まではここでアルファーに任せていたから失敗した。だからここからは私が調整役に回らないと。

「私も付き合うわ。おかしな事になりそうだったら指摘するから」

「…ありがとう、ニンフ」

 私とアルファーはデルタを残して居間を出て行く。

 今度こそ、この問題に一先ずの解決をしないと。

 

 

「愛は、甘いもの」

「うーん、甘いものねぇ…」

 

 

 発想はそれなりにまともだ。要するにお菓子でも贈ってみようという事だ。

 それをトモキが拒むとは思えないし、贈り物も一つの愛の形だと思う。

「ずるいですニンフ先輩! 私もお手伝い―」

「パラダイス・ソングッ!」

 居間から起きて来たデルタという余計な外乱を黙らせつつ、私達は作戦会議を始めた。

「朝か…」

 おはようございます、智樹です。

 今日はいよいよ決戦の日。バレンタインデーです。

「いくぞ、DXパンツロボ!」

 僕の眼前に鎮座する新型パンツロボも起動の時を待っている様に思えます。

「俺達はこの世界を守ってみせる! 待ってろよモテ男ども!」

 僕達はフラレテルビーイング。

 モテ男どもに武力介入し、バレンタインを武力制圧する正義の集団なんです。

 今頃、クラスの男子達も戦いを始めている事でしょう。僕も早く彼らの元へ馳せ参じなければなりません。

 

「だが、その前にイカロスを叱ってやらないとな」

 最近イカロスが突飛な事を続けていますので、そろそろちゃんと叱っておこうと思います。

 あいつに自主性が出てきたのは良い事ですが、やって良い事と悪い事はちゃんと教えないといけません。

 とりあえず朝ご飯はもう諦めました。人生諦めも肝心だと思います。

 

 用心しながら廊下に出ると、イカロスが待っていました。

「…おはよう」

「おはようございます、マスター」

 ここで臆してはいけません。一度ガツンと叱ってやらないといけないんです。

「イカロス、あのな―」

「マスター、受け取って、ください」

「なん…だと…?」

 おずおずとイカロスが僕の眼前に差し出したのはあの憎むべきイベントの産物、チョコレートなわけで。

 ねえマイゴッド。これは夢なんですか? 夢なんですよね?

 だって僕がこの日にまともなチョコを貰った事なんて無いんです。

 せいぜい幼馴染の殺人チョップ女に義理という名の麦チョコを貰った事があるだけなんですから。

 ああ、そうか。これも義理なんですね? やれやれ、もう少しで変な勘違いをする所でした。

「義理とはいえ嬉しいぞ。うん、ありがとな」

「? 義理という物では、ありません」

 ………義理じゃ、ない? じゃあこれは何だ? 何だって言うんだ!?

 いや、本当は分かっているだろう桜井智樹! でもそれを受け入れていいのか?

 相手は未確認生物だぞ! それで喜んでいいのか!?

「あの、お気に召しませんでしたか? でしたら―」

「いや待て貰う! ちゃんと貰うから!」

 断っちゃ駄目だよね、やっぱり。

 未確認生物だろうがなんだろうが女の子からのチョコレートを拒むバカな事はしちゃいけないと思います。

 

「…これは夢なのか?」

「…おはよ、トモキ」

 これは自分に都合のいい夢ではないかと疑問に思いながら廊下を降りると、今度はニンフが待ち構えていました。

「私もその、ついでに作ったし。これ、あげるわ」

 えーっと。ニンフまで照れくさそうにチョコを渡してくるんですけど。

「ああ、うん、義理って奴だよな?」

「べ、別に義理だけってわけじゃないわよ! ただその、アルファーだけズルイとか…ああもう! いるの!? いらないの!?」

「いやありがとう! ありがたくいただきます!」

 

 オ、オヤオヤ~?

 気がついたら朝から僕の手には二つのチョコがあるんですけど、これは一体どういう事なんでしょう?

 これはもしかしてアレですか? 遂に僕にも来たんですか?

 

 僕がその判断に迷いながら居間へ向かうと、台所からアストレアが這い出してきました。

「うお!? どうしたんだお前!?」

「ニンフせ―いのれん―だいに…あと―これだけ…おねが―…がくっ」

「おいアストレア! しっかりしろ! おい!」

 アストレアは僕に一つのチョコを渡して息を引き取りました。

 お前、こんなになってまでチョコを作ってたのか…? これはもう、義理なわけないじゃないか!

 これでもう疑う要素は無くなりました。

 

 

 僕はモテ期ですか? はい、モテ期です(自己肯定)

 

 

「ごめん皆。俺、もう戦えないよ…」

 僕はフラレテルビーイングの皆に心の中で謝りました。

 もう僕にモテ男共を憎む事はできないのです。

 

 

 だって、僕自身がモテ男ですから…

 

 

「じゃ、行ってきま~す! お前らもたまには学校に来いよ~!」

「はい、行ってらっしゃいませ」

「じゃあ一時間目までには行くわ」

「お~う」

 

 ルンルンとスキップしながら登校するトモキを私達は見送った。

「まさかあんなに喜ぶなんて… トモキってチョコ好きだったっけ?」

「さあ…」

 トモキは甘いものが好きな方じゃなかった気がするんだけど。

「ま、いっか。今日は学校に行きましょ」

「うん」

 そういえばここ数日は学校に行ってなかった。

 私とアルファーは学校生活をわりと気にいっているし、着替えたら登校しよう。

 そんな事を考えていると、復活したデルタが玄関に出てきた。

「うう、酷いですよニンフせんぱ~い。あんなにチョコを作って全部試食させるんですから…」

「試食係は任せろって言ったのはアンタじゃない。それで、ちゃんと処理したの?」

「最後の一個もあいつに処理してもらったんで、パーフェクトです!」

 あっという間にチョコの作り方をマスターしたアルファーに対して、私はけっこうギリギリまで苦労した。

 そういう意味で試食係のデルタには一応感謝している。

「それじゃ着替えましょうか」

「…うん」

 アルファーはトモキが歩いて行った先を見つめていた。まるで何かに想いを馳せる様に。

「ねえアルファー。愛って分かった?」

「マスターは、嬉しそうだった。…私、少しだけ、愛が分かった気がする」

「…そう」

 アルファーが愛を理解する日はそう遠くないかもしれない。その時、私のこの気持ちはどうなっているんだろう。

 少し不安だけど、それ以上に楽しみに感じる。私もまだまだ愛を知りたいと思った。

 

 

 居間に戻って着替えていると、テレビでお菓子の特集をしていた。

 ちょうど私達が作っていたチョコレートの話題だった。

「ニンフ先輩、バレンタインってなんですか?」

「さあ?」

「…チョコレートの、日?」

 

 

 その日、トモキは変な集団に襲われた。でもトモキ自身は何故か嬉しそうだった。


 
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