No.201002

真説・恋姫演義 ~北朝伝~ 幕間の八

狭乃 狼さん

拠点の八つ目~w

今回は伊籍こと、朔耶メインでございます。

・・・まあ、彼女が嫌いな方が結構いるみたいですが、

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2011-02-11 21:58:43 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:21634   閲覧ユーザー数:16562

 彼女は男が嫌いだった。

 

 何故、といわれても、それに答えるのは正直難しかった。ただ、物心ついたときには、男性と通りですれ違う、たったそれだけの事がものすごく苦痛になっていた。当然、会話なんてものが成立するはずもなく、それが故、一時期は家に閉じこもって一歩も外に出ないという、いわゆる引きこもりな状態が、およそ五年ほども続いた。

 

 そんな彼女が久しぶりに外に出たのは、本当に、些細な出来事がきっかけだった。

 

 外の空気でも吸おうと思い、何日かぶりに窓を開けたとき、誤って窓から落ちてしまったのである。……二階の窓から、である。ただ、怪我はしなかった。たまたまその下を通りがかった、一人の少女によって、彼女は地面に叩きつけられるのを免れた。

 

 ……人一人をとっさに受け止めたその少女。その怪力自体がとんでもない事だが、その少女は突然のことに驚きながらも、自分の腕の中で目を白黒させている彼女に、にっこりと微笑みかけながら、こう言ったのである。

 

 「……急に降って来たら、危ないよ?」

 

 と。

 

 彼女は一瞬で、自身の顔が真っ赤に染まるのを感じ取った。そして、はっきりと理解した。

 

 

 ああ、これが初恋なんだな、と。

 

 

 彼女はその少女に、後日改めて礼をしたいので、名を教えてほしいといった。もちろん、礼儀として自分が先に名乗った。そして、彼女の自己紹介に続き、少女も自身の名のを名乗った。

 

 

 「あの、その、わ、私は姓を伊、名を籍、字を機伯です!」

 

 「……わたしは、姓は徐、名は庶、字は元直、だよ」

 

 

 伊籍と徐庶。

 

 

 その出会いの顛末である。

 

 

 

 それからしばらくして、伊籍は引きこもりの生活に終止符を打った。もちろん、初恋の人である徐庶のそばに居たいがためである。……ただ、彼女の家族は少々複雑な気分ではあった。長年に渡って家から出ようとしなかった娘が、ようやく自らの意思で外に出ることを決めてくれた。それ自体はとても喜ばしいことではあった。だが。

 

 その理由が、同姓の、しかも年下の少女に、恋をしたからだというのである。

 

 そのことを批判して、無理やりにでも少女の下に行かせないようにすることも、しようと思えばできたと思う。だが、それでまた引きこもりに戻られても、それはそれで厄介でもある。

 

 結局、伊籍の家族は、見て見ぬ振りを決めた。

 

 それはともかくとして。

 

 その日から、彼女の徐庶への猛烈なアタックが開始された。

 

 まず、当然のように、伊籍のほうはすぐさま自分の真名を徐庶に預けた。徐庶としては、それを拒否する理由も、”その時点では”特に無いわけで、彼女の真名を快く受け取り、自分もそれに応えるため、彼女に真名を許した。

 

 ……だが、後日。

 

 徐庶はそれが、軽率な判断だったと、少々後悔した。

 

 初めのうちは、伊籍のその行動は、比較的おとなしいものだった。特にべたべたしてくるというわけでもなく、ただ、気がつけば徐庶のすぐそばに居て、その熱い視線を彼女に送ってくるぐらい。

 

 「じ~……………………ポッ///」

 

 「あう……」

 

 その瓶底のような眼鏡の下から、好き好き光線(ちと古いかw)を送ってくる伊籍を、徐庶はその顔を引きつらせながらも、無下にすることもできずに居た。……一応、自身を慕ってくれる人物を邪険にすることも出来ないわけで。

 

 ……まあ、それが元々の間違いだったのだと、彼女はあとになって後悔するわけだが。

 

 ともかく、それから約半年ほど、そんな日々が続いた。

 

 

 

 ある日のこと。

 

 伊籍が徐庶の住んでいる、水鏡塾の寮に遊びに来た。その頃は丁度、友人であり、可愛い後輩たちでもある、諸葛亮や龐統と一緒に、例の趣味のために日夜頑張っていた彼女は、それを理由にして伊籍に帰るように言ったのである。

 

 だが、

 

 「なら、私もお手伝いします!」

 

 と、半ば無理やり彼女たちの作業に参加してきたのである。でもって、徐庶たちのその趣味を、伊籍はそこではじめて知ったのであるが、……まあ、最初は、頭の中を真っ白にして不潔だの不健全だのと、徐庶たちに”正しい”恋愛というものを説き始めた。……女同士も十分、不健全だとは思うが。

 

 しかし、”話し合い”を延々続けること、約六時間。

 

 勝者は、徐庶たちだった。仕方ないといえば仕方が無い。舌戦をするにはその相手が悪すぎた。伊籍の相手は全員、曲がりなりにも軍師、参謀候補である。しかも、三人とも後世においては、超がつくほど有名な天才軍師ばかり。

 

 ……話が終わる頃には、彼女もまた、すっかり”お仲間に”加わってしまっていた。

 

 

 それはまあ、ともかくとして。

 

 ある程度作業が一段落した真夜中。

 

 疲れた眠ってしまった諸葛亮と龐統を残し、徐庶と伊籍は”二人きりで”、風呂へと向かった。

 

 「……疲労と眠気で、正常な思考が出来てなかった」

 

 ……徐庶のその後の言葉である。

 

 

 

 「ちょ!ま、待って!朔耶!ね?ちょっとおちつこ?私たち、”女同士”、なんだよ!?」

 

 「そこに愛があれば、関係ないわ。……輝里のすべすべのお肌……うふふ」

 

 ついー、と。

 

 徐庶の背中にその指を這わす。

 

 「ひゃいっ!?待って!本当に待って!!……そ、それ以上したら、嫌いになるよ!?」

 

 ざばば、と。

 

 あわてて伊籍から距離を置く徐庶。

 

 「……どうしても、いや?」

 

 「や」

 

 「はう……輝里のいじわる」

 

 くるり、と。

 

 その背を徐庶に向け、伊籍はしくしくと、これ見よがしに泣き出し始めた。

 

 「あ~……む~~~~~。ね、ねえ、朔耶?そんな、別に泣かなくたって」

 

 そんな伊籍の姿に、徐庶の良心が耐え切れなくなったのか、そ、と。彼女の肩に手を添えた、そのとき。

 

 「(きゅぴ-ん!)……輝里~!愛してる~!!」

 

 「う、うそ泣き!?ひきょーものー!!」

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

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 ・

 ・

 で。

 

 その後どうなったかというと。

 

 「……あ、あぶなかった……。もうちょっとで、女の子に貞操を奪われるところだった……」

 

 「きゅ~」

 

 頭に大きなこぶを作って、ぷかぷかと湯船に浮いている伊籍の傍で、思わず安堵の息を漏らす徐庶。……要するに、湯船で押し倒されそうになった彼女は、近くに浮いていた桶でもって、伊籍の頭を思いっきりぶんなぐったわけである。……伊籍が一応生きているのは、奇跡といってもいいかも知れないが。

 

 

 

 と。

 

 そんなほほえましい(?)エピソードはともかく。

 

 その日以来、伊籍の徐庶へのアピールは、完全に遠慮の無いものになった。徐庶と一緒に居るために、水鏡塾へと突然入塾してきた。もちろん、試験はきちんと受け、正面から堂々とである。

 

 そして、授業の時間以外は、所構わず徐庶に抱きついては愛してると連呼し、そのたびに徐庶の鉄拳を食らうという日々が続いた。

 

 周囲の者たちはある意味感心していた。よくもまあ、あれで生きているものだと。

 

 徐庶のその細腕からは想像もつかない怪力は、塾の者たちならば周知の事実である。その彼女の鉄拳制裁を、ほとんど毎日食らって居るにもかかわらず、伊籍はぴんぴんしているのである。本人曰く、

 

 「全ては”愛”の力よ!!」

 

 なーはっはっは!と。笑ってそういっていた。

 

 

 そんな日々が続いて三年がたった、ある春の日のこと。伊籍がしばらくぶりに実家に帰り、そして戻ってきたその日のこと。

 

 徐庶は、塾を卒業していた。

 

 「……」

 

 水鏡塾には、決まった卒業の日というものは無い。塾長である司馬徽が認めさえすれば、いつでも自由に卒業が出来るのである。

 

 その事実を知り、呆然とする伊籍に対し、司馬徽の口から、さらに彼女に追い討ちをかけるかのような言葉がつむがれた。

 

 「朔耶?言っておきますが、貴女の卒業は当分認められませんからね?……無断で出て行こうものなら……ワカッテイマスネ?」

 

 

 こうして、伊籍は愛しい徐庶と、永く離れることになってしまった。それからの日々は、彼女にとって、まるで地獄の拷問が永遠に続くかのような日々だった、と。本人が後にそう語っている。

 

 

 

 徐庶の卒業から、およそ三年後。

 

 伊籍は徐庶の、ある噂を聞いた。ここ荊州から遥か北の地。冀州は鄴にて、太守の交代が行われたことを。そして、その新しい太守の配下の中に、愛しい徐庶の名前を。居ても立っても居られなくなった彼女は、司馬徽に卒業したい旨を申し伝えた。

 

 「……ならば、一つだけ条件を出します。……これから一年間、襄陽にて文官見習いとして働くこと。それが済んだら、貴女の卒業を認めましょう」

 

 彼女の熱意に負けた司馬徽は、そう、卒業の条件として彼女に提示した。

 

 後一年。

 

 それだけ我慢すれば、徐庶と感動の再会が出来る。伊籍はそれを受諾し、襄陽にて荊州牧である劉表の下で働き始めた。だが、彼女は結局、まる三年もの間、その地を離れられなくなった。彼女の能力を惜しんだ劉表が、あれやこれやと理由をつけて、彼女の辞職を認めなかったからだ。

 

 伊籍も伊籍で、実家の母親が病に倒れたという事情もあり、無理に荊州の地を離れる事が出来なかった。

 

 ようやく劉表から解放されたのは、彼女が懇意にしていた、劉表の長女である劉琦の働きかけのおかげであった。……彼女とのそのつながりが、いずれ一刀にも影響をしてくることにもなるのだが、それについてはまた、その時になってからお話したいと思う。

 

 そして、永らく病に臥せっていた母親もようやく回復し、伊籍はやっとの思いで、自由の身となれた。で、そうなれば当然、彼女のとる行動はたった一つ。

 

 とるものもとらず、伊籍は徐庶のいる冀州へと旅立った。

 

 愛する少女との、久方ぶりの再会に、その胸を躍らせて。

 

 そして今度こそ、徐庶を自分のものにしてみせると、そう心に誓って。

 

 だが。

 

 

 

 「ですから、輝里は今日は、”私”と、ご飯を食べるんです!」

 

 「そーかい?そりゃ残念だ。……もう、今日の昼食済んじゃったし」

 

 「え゛?」

 

 「というわけだから、午後の仕事も頑張ってくださいね、朔耶さん?……さ、行くよ、輝里」

 

 「はい、一刀さん。……じゃ、朔耶、またね?」

 

 腕を組み、楽しそうに去っていく一刀と徐庶。

 

 「……輝里……なんで、あんな節操なしの種馬がいいのよ……」

 

 ぐぐぐ、と。

 

 そのこぶしを握り締め、一人取り残された伊籍がつぶやく。

 

 「……こうなったら一度、自分で確かめて、やる」

 

 

 

 で。

 

 ある日の深夜。

 

 

 

 (……どうやら、ぐっすりと眠っているようね)

 

 一刀の部屋に、伊籍はこっそりと忍び込んでいた。とりあえず、布団をそっとめくってみる。一刀に起きる気配はない。次に、その寝顔を見る。……その寝顔をみて、伊籍が思ったのは、

 

 (……子供みたい)

 

 であった。

 

 そして、何も知らずに眠る一刀を見ているうちに、

 

 (……私は何をやってるんだろう)

 

 と、冷静な自分が戻ってきた。

 

 「・・・帰ろ」

 

 と、その前に布団ぐらい戻してやろうと、布団を手にした時だった。

 

 「・・・ん・・・、だれ・・・?」

 

 「!!」

 

 一刀が、起きた。

 

 「・・・・・・・・・」

 

 「・・・・・・・・・」

 

 何が起きているのかわからない、という表情の一刀と、どう言い逃れしようと考えている伊籍。

 

 で、こうなった。

 

 「うわああああああ!!!!」

 

 「きゃああああああ!!!!」

 

 深夜に響く男女の声。それが聞こえないわけもなく、すぐに、全員が一刀の部屋に集まった。

 

 

 

 一刀は徐庶と李儒のふたりから、何で俺が怒られるんだ、という表情で説教され、伊籍は徐晃と姜維から、何を考えているんだと、同じくみっちりとお説教された。

 

 一刻(二時間)程正座のまま、それは続き、説教が終わって、全員が一刀の部屋から出て行った。

 

 残ったのは一刀と伊籍の二人だけ。

 

 しばし無言でいたが、ポツリと、一刀が呟いた。

 

 「……足が、しびれた」

 

 ぷっ!!

 

 「あはははははははは!!!!!!!」

 

 伊籍は思わず大笑いしていた。

 

 やっぱり、自分が一人で馬鹿なだけだったのだと、そのとき悟った。

 

 徐庶たちが、こんな節操なしにほれ込む理由も、なんとなく、わかったような気もした。

 

 けれど。

 

 「……太守さま。……わたしは、あなたが嫌いです。だいっ嫌い。……輝里を独り占めする貴方が、この世の男の中で一番嫌いです」

 

 「…………そか」

 

 「けど」

 

 一息おいて。

 

 「これはあくまで、私の私的な感情です。……主君としてまで嫌われないよう、せいぜい頑張ってください」

 

 「……ん」

 

 にこり、と。伊籍にその微笑を向ける一刀。

 

 彼女は、自分の顔が熱くなるのを感じた。

 

 (気のせい!!気のせいに決まってる!!男に微笑まれて紅くなるなんて、そんなことは絶対にありえない!!うん!!)

 

 そう思いながらも、伊籍は何故か、一刀からその顔を背けたままでいた。

 

 

 

 「待ちなさーーーーーーーい!!この、万年発情期の節操なしぃーーーー!!」

 

 「だーから誤解だってば!!俺は何もしてないって!!」

 

 「嘘をつきなさあああい!!!昼間っから輝里に抱きついてーーーーー!!!」

 

 「あれは酔っ払った輝里の方から来たんだってええええ!!」

 

 「問答無用ーーーーーーーーー!!!!!」

 

 「ひえーーーーーー!!!」

 

 あの日以来、伊籍は自慢の長刀を常に携帯するようになった。それはもちろん、一刀をけん制し、あわよくば……というためである。

 

 (やっぱりわたしは男なんてだいっ嫌い!!こんな奴はとっとと叩き切って、輝里を独占しよう。うん。決定)

 

 「と言うわけで死んでくださああいっ!!!!!」

 

 「何がどういうわけだーーーーーー!!!!!」

 

 

 

 「……まあ、あれね。喧嘩するほど仲が良い、と」

 

 「ま、そういうことじゃな」

 

 

 

 「待てーーーーーーーー!!!!」

 

 「やだーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 おわり

 

 

 

 てな感じですが、どうだったでしょうか?

 

 輝「・・・・・・・」

 

 どうした、輝里?元気ないぞ?

 

 由「でるわけないやん。・・・あの後じゃ」

 

 瑠「そですね。・・・てか、今回の一番最後のほうの部分なんですが」

 

 ・・・ぎく。

 

 輝「・・・旧バージョンの方に、似たようなのがあったような気が」

 

 ・・・ぎくぎく。

 

 由「きりきり白状し?・・・漢女の刑、またやられたい?」

 

 ひっ!そ、それだけはご勘弁を!・・・えと、すみません。旧バージョンの、その、柳花の話の、最後の部分を使いまわしました。

 

 輝「はい、素直でよろしい。・・・じゃ、瑠里ちゃん、管理局に電話」

 

 瑠「はい」

 

 ちょ!?素直に話したじゃんか!!

 

 由「やらないとは一言もゆーてないで?」

 

 輝「そーゆーこと。あ、来た」

 

 ??「ぶるわあああああああっ!」

 

 ??「ふんぬうううううううっ!」

 

 いーーーーーーやーーーーーーーーーーっっっっ!!

 

 

 

 輝「さて。次回からは新章突入とあいなります」

 

 由「河北にて起きる戦乱の嵐!うちらの運命は果たして?」

 

 瑠「次回、真説・恋姫演義 ~北朝伝~ 第四章・序幕」

 

 輝「それでは皆様、今宵はこれにて」

 

 

 

 

 輝・由・瑠『再見~!!』

 

 

 


 
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