第二十四話 ~~始まりの外史~~
(――――――――そう。 俺は、お前だよ・・・・・・・・北郷一刀。)
声以外は何もない黒の世界の中。
今の今まで正体の片鱗すら分からなかった声の主はそう言った。
普通に生きていたならまず言われることのない言葉だけれど、『俺はお前だ。』と・・・・確かにそう言ったのだ。
「やっぱりそうか。」
しかし、それは自分からそう訊いたことだ。
その答えを聞いても、一刀が特に驚くことは無かった。
「・・・・・・で、お前は一体何なんだ?」
(――――――――ふむ・・・・・。 随分とアバウトな質問だな。)
踏突な一刀の質問に、相手のカズトは顎を撫でるような反応。
確かに、自分でもかなり漠然とした質問だとは思う。
「仕方無いだろ。 こっちはこれでも結構混乱してるんだよ。」
正直、こうして正体を言い当てては見たものの、どうしてこんな状況になっているのかはさっぱりだ。
夢の中で別の自分と話をしているなんて、普通に考えたら頭のおかしいヤツだと自分でも思う。
(――――――――そうだなぁ・・・・・その質問に簡単に答えるなら、俺はこことは違う外史のお前だ。)
「外史・・・・・?」
答えを求めたはずなのに、余計にワケが分からなくなった。
『外史』というその言葉は、確かに初めて会った時も聞いた記憶がある。
しかしそれが一体何なのか、説明もなしでは到底理解できるはずも無かった。
(―――――――――外史っていうのは、正史・・・・つまり、元の世界から生まれた、それに似た別の世界だ。 簡単に言えばパラレルワールドってやつか? お前が居るこの世界も、星の数ほどある外史の中の一つって訳だ。 ここまではいいか?)
「・・・・・ああ。」
別世界だのパラレルワールドだの、あまり読んだことは無いがまるでSF小説だ。
もちろん全部理解できた訳ではないが、とりあえず頷いておく。
(―――――――――外史は、人の想念によって生まれる。 正史から生まれた外史は、そこから更に別の外史を生み、そうして木の枝のように広がっていく。 枝の先端に行くほど正史とは異なった世界になり、分岐が近い外史ほど似た世界になる。 まぁ、外史の説明としてはこんなもんか。)
「つまり、俺が居る世界もその外史ってヤツで、こことはまた別の外史にいる俺がお前ってことか?」
自分で言っていても訳が分からなくなりそうだが、とりあえずはそう言うことらしいというレベルまでは理解できた。
(―――――――――その通り。 さすが俺だ、理解が早い。)
「自分で自分を褒めるな。」
(―――――――――はは、そりゃそうか。 で、他に質問は?)
「俺がこの世界にはじめて来て黄巾党に襲われた時。 それから、今日の華雄との戦いで力を貸してくれたのもお前だよな?」
そう訊いては見たものの、これは自分の中で確信があった。
黄巾党に襲われた時も、今日の華雄との戦いも、自分の身に不思議な事が起こる前には、必ずこのカズトの声が聞こえたからだ。
あの時は戦うのに夢中で何が起きたのか考えている暇も無かったが、今この状況と会わせて考えてみれば納得がいく。
(―――――――――ああ、そうだ。)
予想通りの答えが返ってきた。
(―――――――――お前には、俺の戦いの記憶を貸してやったのさ。)
「記憶?」
(―――――――――ああ。 俺が自分の外史で戦った時の動きの記憶・・・・・・つまり戦い方をお前の頭に直接流し込んでやったんだよ。 今日の戦いで華雄の動きを先読みできたのも、俺が華雄と戦った事があるからだ。)
カズトは、少し自慢げにそう話す。
「そういうことか・・・・・・でもちょっと待てよ。」
どうして自分にあんな動きができたのか、その理由と理屈は分かった。
しかしそうすると、一つの疑問が生まれてくる。
「あの力がお前の記憶って言うなら、あれがお前の実力ってことか?」
自分で言うのも何だが、それが別世界の存在とはいえ自分があれほど強くなれるとは思えなかった。
華雄と戦った経験があるという有利の分を差し引いても、今日の勝利はあまりにも圧倒的すぎる。
あの強さはまるで、愛紗たちと同じ一騎当千の武将だった。
今の話を聞いても、その事実が信じられなかったのだ。
(――――――――――まぁ、俺は俺でいろいろあってな。 少なくとも、お前を片手で殺せるくらいの力はあるぞ。)
「おい・・・・・・」
自信満々に、外史のカズトはかなり不吉な事をサラリと言った。
今日の華雄との戦いを考えれば、恐らく本当に一刀を片手で殺すことはそう難しくないだろう。
しかしこれがどれだけ常識はずれな状況であろうと、自分に殺されるなんてのはシャレにならない。
(―――――――――――冗談だ。 それより、もうだいたいの状況は理解できたな?)
「ああ。 だけど、もうひとつだけ聞かせてくれ。」
(―――――――――――何だ?)
今話しているこのカズトがどういう存在なのか。
どうして自分が、急に一騎当千の武将と同等の力を発揮できたのか。
今まで頭に引っ掛かっていた疑問は解決した。
しかしあと一つだけ、もっとも根本的な問題を訊いてはいない。
「外史がどうとか、記憶がどうとかいう話は分かった。 だけど、どうしてお前はここにいるんだ?」
パラレルワールド、外史、記憶の力・・・・・・どれも信じられないことばかりだが、既に常識外れのこの状況で何を否定する事も出来ないし、否定する気も無い。
だがそれらが現実だとしても、別世界の住人であるはずのこのカズトが自分の中にいる理由にはならないように思えた。
(―――――――――――・・・・・・・・・・・・・。)
「?」
すると一刀の質問で、さっきまで上がり調子の声で話していたカズトが急に黙ってしまった。
声以外は存在しないこの世界では、声がしないだけでそこから居なくなってしまったように感じる。
(―――――――――――できればその話はしたくなかったが・・・・・・ここまで話した以上、隠しておくわけにはいかないな・・・・・・。)
再び喋り始めたと思うと、その声はさっきまでとは違い、真剣みを帯びていた。
(――――――――――― 一刀。 お前は、全てを知る覚悟があるか?)
「・・・・・どういう意味だ?」
突然変わったカズトの様子に、対する一刀も雰囲気が変わる。
(―――――――――――お前の質問に応えるにあたって、今から俺の記憶そのものを映像としてお前に見せる。 だけどそれは、恐らくお前にとって大きな悲劇になるだろう。 それでも、真実を知る覚悟がお前にあるかと訊いてるんだ。)
「・・・・・・・・・・・・」
少しの間、また闇の世界は沈黙に包まれた。
その間、一刀は考えていた。
このカズトの言う悲劇が、一体何を意味するのか・・・・・正直、想像するだけで恐ろしくなる。
例えそれがどんな悲劇だろうと、知らずに済むのならばそれが一番楽なのだろうと思う。
何も知らずにこのまま目覚めてしまえば、きっと傷つくことも、悲しむ事も無い。
けれど、もう逃げないと決めたのだ。
華雄のような犠牲者を、もう出さないために。
そして愛紗を・・・・・・大切な仲間達を、二度と危険にさらさないで済むように。
(―――――――――――どうした? 怖いなら、やめてもいいぞ。)
「いや・・・・・教えてくれ。」
(―――――――――――・・・・・・いいんだな?)
「ああ。 もう何も知らないままなのは嫌なんだ。 どんな事実だろうと、俺は受け止める。 だから・・・・・頼む。」
(――――――――――――・・・・・・わかった。)
顔は見えないが、カズトは頷くように小さく答えた。
(――――――――――――じゃあ見せてやろう。 この物語の突端・・・・・・始まりの外史を。)
「っ!?・・・・・・・・・・・」
その瞬間、暗闇から白い光が放たれた。
それは初めてこの世界に来た時、一刀を包みこんだあの光と同じ。
その光は瞬く間に広がり、そして一刀と意識を飲み込んだ
(―――――――――――先に謝っておくぞ一刀。 ・・・・・・・・・・・・・・・・すまない。)――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・さま・・・・・・・・しゅじ・・さま・・・・・・」
「ん・・・・・・・んぅ・・・・・・・・」
軽く身体を揺すられる振動と、綺麗な声が耳に響く。
この声は、どこかで聞き覚えが・・・・・・・・
「起きて下さいっ! ご主人様っ!」
「うわっ!?」
突然大ボリュームに変わった声に驚いて、机に沈んでいた顔を飛び上がるように上げる。
するとすぐ目の前には、整った眉毛を凛々しくつり上げている愛紗の顔があった。
「ああ、愛紗。 ごめん、寝ちゃってたか・・・・・・」
愛紗に謝って瞼をこすりながら、散らかっている机に目をやる。
どうやら、仕事をしているうちにいつの間にか眠ってしまったらしい。
その証拠に、机の上にある書きかけの書類はヨダレでグシャグシャになっていた。
「あちゃ~・・・・・・また書き直さないと・・・・・」
文字が滲んでしまった書類の端を指でつまんでプラプラと揺らす。
今までそれなりに時間を書いていた書類の墨がことごとくヨダレに溶けているのを見ると、自分の努力が流れ落ちているようで空しくなる。
「全く、しっかりして下さいね。 ・・・・・・・昨夜も遅くまで起きていらしたようですが、少し根をつめすぎてはいませんか?」
愛紗は『自業自得です!』とでも言いたげな表情で眉毛をつり上げたまま。
しかし、居眠りの事を咎めながらも、身体の事を気にかけてくれるのが愛紗らしい。
その不器用な優しさに、思わず頬が緩んでしまう。
「大丈夫だよ。 今日は暖かいから、ついウトウトしちゃっただけ。」
「そうですか? ですが、もし疲れているようでしたら、無理はせずに休んでくださいね。」
「ああ。 もう少しでひと段落するから、そしたら少し休ませてもらうよ。」
「ええ。 そうして下さい。」
一刀の答えに、安心したように笑顔で答えてくれた。
「それで愛紗、俺に何か用があったんじゃないの?」
いくらなんでも、一刀が居眠りしてるかを確認しにわざわざ部屋まで来るほど愛紗も暇じゃないだろう。
「ああ、そうでした。 実はご主人様に渡したいものがあったのです。」
「渡したいもの?」
愛紗は思い出したように言うと、両手に持っていたものを一刀の前に差しだした。
「こちらです。」
愛紗が差し出してきたのは、なにやら細長い黒色の包みだった。
結構な長さのその包みの先端は、余った布の部分を朱色のひもで縛ってあり、ところどころ布が擦り切れているのを見ると、少なくとも最近の物ではないらしい。
「なにこれ?」
「開けてみて下さい。」
「?・・・・・うん。」
正体不明の黒い包みに、多少の猜疑心はぬぐいきれない。
だが好奇心の方が勝り、満足げな顔の愛紗から言われるままに包みを受け取ると、見た目以上にズシリとした重みが伝わってきた。
予想外の重さに少し苦戦しながら、封をしている朱色のひもをほどいて包みを開ける。
「! これって・・・・・・」
黒い包みの中から出て来たのは、鞘に収められた一本の刀だった。
それもこの時代で良く見るような大ぶりのものではなく、細身の・・・・・・まるで日本刀の様な刀だ。
「日本刀・・・・・な訳ないよな。 これ、どうしたの?」
普通に考えれば日本刀がこの時代に日本刀が存在するわけは無いので、ただの良く似た方なのだろうが、こんなものがどこにあったのかが気になる。
「侍女が城の蔵を整理していた時に偶然見つけたらしく、珍しい刀だからと桃香様のところに持ってきたのですよ。」
「へぇ~。 でも、なんでそれを俺に?」
「ご主人様が護身用に使うのにどうかと思いまして。」
「俺がっ!?」
思わず声が上ずってしまった。
元の世界で剣道はやっていたが、自分が真剣を使うなんて考えた事もない。
「ええ。 もちろんご主人様の身は私たちがどんなことがあろうとお守りしますが、もしもの時に刀の一本も持っていた方が安心ですからね。」
「いや、無理だって! 俺に剣なんか扱えるわけ・・・・・・」
「大丈夫ですよ。 その刀なら軽いですし、訓練すればご主人様でも十分に扱えるはずです。」
「いや、軽いって・・・・・・・」
こうして話している間も、両手に伝わる刀の重みで既に少し腕がしびれ始めていた。
慣れ親しんだ竹刀と違ってこっちは完全に鉄製なわけで、当然その重さは竹刀なんかとは訳が違う。
両手でただ持っているだけでもこれなのだから、もし実際に振りまわそうものならどうなるかは想像に難しくないというものだ。
愛紗みたいに、巨大な青龍刀を片手で振りまわす一騎当千の武将と一凡人を同じ目線で見られては困る。
「とにかく、これからはその刀をいつも身につけていてくださいね。」
「う~ん・・・・・まぁ、持っておくだけなら・・・・・」
こんな重い物を常に身につけておくだけでもかなりの負担だが、チンピラへの威嚇ぐらいにはなるだろう。
何より、せっかくの愛紗の厚意を無駄にするのも気が引ける。
「ああ、それから、その刀は銘を『緋弦(ひげん)』というそうですよ。」
「ふ~ん。 緋弦ねぇ~・・・・・・」
名前も聞いたところで、もしかしたらこの先運命を共にするかもしれない刀にもう一度目を向ける。
「ま、よろしく頼むよ相棒。」
“ガチャッ!”
「ご主人様っ!」
「!・・・・朱里?」
愛紗との会話も一通り終わったところに、勢いよく扉を開けて朱里が飛び込んできた。
小さい肩を大きく揺らして、どうやら相当急いでここまで来たらしい。
「どうかしたの? そんなに慌てて・・・・」
「大変なんです。 実は・・・・・・・・」――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――『黄巾党。』
最近大陸中で急激に勢力を拡大している、黄色い布を付けた賊の集団だ。
彼らのほとんどは農民や貧しい民の寄せ集めで、戦いの経験など無いに等しい。
故に少数であれば取るに足らない勢力だが、それでも数があつまると危険な存在となる。
特に最近はその数は増加の一途をたどっているため、各国の諸侯も手を焼いているというのが現状だ。
朱里が慌てていた理由は、これだった。
一刀たちの街からほど近く・・・・・・桃香が治める村の一つが、今まさに黄巾党に襲われているという情報が入ったらしい。
いくら黄巾党が農民崩れの寄せ集めだとしても、戦う力を持たない人々が襲われればひとたまりも無い。
「すぐに助けに行こう!」
朱里の報告を受け、玉座の前に集められた仲間たちに一刀は言った。
「落ち付いて下さい、主。」
そう言ったのは星だった。
彼女はもともと公孫賛のもとで客将として黄巾党討伐に手を貸していたが、その友軍として一刀たちが参加した際に仲間となった。
それから今まで当主の桃香、軍師の朱里、軍を率いる将として愛紗、鈴々、星の三人を中心として、一刀たちも独自に黄巾党の討伐を行ってきたのだ。
「助けに行くと言っても、準備というものがあります。 まず策を練らねば・・・・・」
「・・・・・ああ、わかった。」
「ねえ朱里ちゃん、敵の数はどれくらいなの?」
「斥候からの報告によると、村を襲っている賊は約100人程度だということです。」
「な~んだ。 たった100人なら楽勝なのだっ!」
「油断をするな鈴々! 数は少なくとも、危険であることに変わりは無い!」
敵の数を訊いて楽観視する鈴々を、愛紗が厳しくいさめる。
そもそも、愛紗たちが居るとはいえ一刀たち自身それほど兵力があるわけではない。
たった百人とはいえ、とても気を抜ける状況ではなかった。
「今、私たちの兵力はおよそ800・・・・・もしもの時の事を考えて街に300を残しておくとして、残りの500で当たれば問題はないかと思います。」
敵の五倍・・・・・追い払うにせよ討伐するにせよ、十分な数だ。
「わかった。 それじゃあ星、すぐに準備をさせてくれ!」
「御意!」
「準備が整い次第、すぐに出発する!」
それから数分で出撃の準備を終え、一刀たちは500の兵を率いて襲われている村へと向かった―――――――――――――――――――――――――――――――
たどり着いた村は酷い惨状だった。
一刀たちの記憶では、この村は小さくても人々が活気にあふれた生活を送っていた。
決して裕福とは言えぬ暮らしの中でも人々は常に前向きで、通りにはいつも子供たちの笑い声が聞こえていた。
しかし、今はそんな面影などほとんど残してはいなかった。
いつも子供たちの声が聞こえていた通りから今代わりに響いているのは、賊たちの下劣な声だけだ。
「ひゃっほー!」
「全部ぶんどっちまえー!」
村中に広がった黄巾党たちは、道端に積んである荷を壊し、家屋の扉をけ破り、次々と食糧や金目の物を運び出していた。
この村の人々が貧しい暮らしの中でやっとの思いで蓄えた食糧を、まるでそうすることが当然のように奪っていく。
「へへっ。 これでしばらくは食いモンには困らねぇな。」
「貴様らぁーーーっ!!」
「っ!?」
“ザシュ!!”
「ぐあ゛っ!?」
家屋から食糧を運び出そうとしていた賊の一人を、愛紗の青龍刀が斬り伏せた。
背中から斬りつけられた男は、手にしていた食糧を抱えたまま地面に崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
村にたどり着いてすぐに、愛紗は指示も聞かぬまま一人で村に斬りこんでいた。
それをフォローするように星、鈴々の二人も兵を率いて突撃し、既に村あちこちでは黄巾党との交戦体勢に入っている。
「貴様ら、こんなことをしてタダで済むと思うなっ!」
手にした青龍刀の切っ先を正面に突き出し、愛紗は賊たちを睨みつけた。
彼女の怒りに震えるように、その美しい黒髪がユラユラと揺れる。
「ちっ・・・・軍隊か。」
「くそ、やっちまえ!」
目の前の相手の力量を知らない賊たちは、腰の剣を抜いて次々と愛紗に斬りかかった。
しかし、たかだか数人の賊に愛紗が遅れを取るはずもない。
「はぁっ!」
“ザシュ!”
「ぐぁ゛っ!?」
「ぎゃあっ!!」
愛紗が同時に振りかかる数本の剣を苦も無くかわす。
そしてその次の瞬間には、既に二人の賊が地に倒れていた。
「ひぃ・・・・・・」
一瞬のうちに斬り伏せられた二人の仲間を見て、他の賊たちの表情には恐怖の表情が浮かんでいた。
「お、おい・・・・こいつ、強いぞ!」
「しかたねぇ、ここは引き上げだ!」
一人の男がそう言うと同時に、賊たちは一斉に逃走を始めた。
手にしていた略奪品を捨て、我先にと逃げる者・・・・・・命の危機にあってもなお、手にした食糧を捨てずに逃げる者と様々だが、全員が愛紗の刃から逃れるために街の出口へと向かう。
「逃がすものかっ!」
遠ざかろうとする黄巾党たちの背中を大人しく見送はずも無く、愛紗は即座に後を追おうと走り出す。
「愛紗っ!」
「! ご主人様、皆も・・・・」
しかし突然後ろから掛けられた声に既に走り出した足を止め、少し躓いたような形になる。
声がした方を見ると、一刀をはじめ仲間たちが全員愛紗の方へと駆けてきていた。
「愛紗、無事か?」
「全く、指示も聞かぬまま飛び込むとは・・・・・少しは冷静になれ。」
心配そうな表情の一刀の隣では、星が眉をひそめて少しあきれ顔だった。
「はい、私は大丈夫です。 しかし・・・・・・・」
言いながら、愛紗は後ろを振り返る。
追いかけようとしていた黄巾党たちの姿は、既に見えなくなってしまった。
「逃がしたか・・・・・・・・」
黄巾党たちの逃げた先をにらみながら、愛紗は悔しそうに歯噛みする。
「ふぅ・・・・なんとか賊は追い払えたみたいだな。」
「うん。 村の人たちも皆逃げたみたいだし、不幸中の幸いだよ。」
幸いなことに、村に入ってから倒れている村人の姿は一人も見ていない。
この急襲による犠牲者が出ていないらしい事が、せめてもの救いだった。
「しかし、酷くやられてしまいましたな・・・・・・・」
辺りを見回しながら、星が悔しそうに言う。
一刀たちの周りにあるのは、壊れた家屋の破片や、黄巾党たちが落として行った食糧や略奪品。
無事だった・・・・・・とはとてもではないが言える状態ではない。
それでも、この村に住む人の命が一つも失われていないのならば、それで良しと思うべきなのだろう。
人さえいれば、村はまた作れるのだから。
「奴らを追いましょう、ご主人様っ!」
「えっ?」
全員が村の惨状に言葉を失っていた中、愛紗は眉をつり上げてそう言った。
「奴らを許しておくわけにはいきません! 今から追えばまだ間に合います!」
「ちょっと待って愛紗ちゃん。 もう敵は逃げたんだからわざわざ追わなくても・・・・」
「いいえ。 このまま奴らを放置しておけば、また必ずこの村を襲いに来ます。 今討っておかなければ、同じ事の繰り返しです!」
「愛紗・・・・・・」
仲間たちの中で、こういうことに一番敏感なのは愛紗だ。
彼女が賊たちをこのままにしておけない気もちは、皆も良く分かっている。
「・・・どう思う? 朱里。」
さすがに判断に困り、一刀は朱里に問いかける。
「既に姿の見えなくなった敵を追うと言うのは少々危険な気はしますけど・・・・・確かに、愛紗さんの言うことにも一理あります。 禍の芽は、摘める時に摘んでおくべきかと・・・・・・」
「・・・・・・わかった。」
朱里の答えを聞いた後、少し考えてから一刀は静かに頷いた。
「ご主人様・・・良いの?」
「ああ。 あいつらをこのままにしておけないっていう愛紗の気持ちは良く分かるからね。」
「まぁ確かに、敵はたかだか百・・・・・・・追い打ちをかけて叩くのはたやすいでしょう。」
「ケチョンケチョンにしてやるのだっ!」
結局、皆愛紗と同じ気持ちなのだ。
桃香は少し不安そうな表情をしているものの、満場一致で逃げた賊たちを追うことになった―――――――――――――――――――――――――――――
~~皆であとがき~~
一刀 「やぁ。 皆さん久しぶり。 今回で二回目になる『皆であとがき』だけど、はりきって行ってみよう! ↑↑」
蒲公英 「うわ~ん! ご主人様~~っ!!」
一刀 「うわっ!? いきなりどうしたんだたんぽぽ!?」
蒲公英 「どうして今回は私の出番ないのー!?」
一刀 「え? そんなこと言われても・・・・・・・」
雪 「私も一回も出てないよ~!」
翠 「あたしもだぞ、ご主人様!」
雛里 「あの・・・・私も・・・・・・」
一刀 「雪!? 翠に雛里まで・・・・・・。 う~ん、俺に言われてもなぁ~・・・・・。 そうだ! 外史の俺に聞いてみれば分かるんじゃないかな?」
カズト 「呼んだか?」
一刀 「おお、丁度よかった。 蒲公英たちが今回出番が無くて不満なんだってさ。」
カズト 「ああ。 そりゃあだって、今回は黄巾党討伐の話だからな。 この頃は翠も蒲公英も雪もいなかっただろ?」
蒲公英 「うぅ゛・・・・確かに・・・・・・」
翠 「あたしたちが仲間になったのって、黄巾党を討伐した後だもんな~。」
雪 「私も~。」
カズト 「だろ? だからしょうがないんだよ。」
雛里 「私は居たのに・・・・・・・・グス。」
カズト 「あ・・・・・・・・・・(汗)」
雛里 「もしかして・・・・私は忘れられたんですか? (涙目)」
カズト 「いやいやいや、そんなんじゃないぞ!?」
雛里 「グス・・・・・・じゃあ、どうしてですか?」
カズト 「う゛・・・・・それは、その・・・・・・・・・・・・・・・・・都合・・・・・・・・かな?」
雛里 「うわ~~~~ん!!(猛ダッシュ)」
カズト 「雛里―――――っ!」
一刀 「バカ野郎! なに泣かしてんだよ!!」
カズト 「しょうがないだろ! 説明すると長いんだから!」
一刀 「いいから早く追いかけてこい!」
カズト 「分かってるって! お~い、雛里~~~~っ!!(猛ダッシュ)」
一刀 「はぁ~、やれやれ。 おっと、こんなことしてる内にもう時間か・・・・・・結局今回もあとがきらしいことはあんまりできなかったな (汗)」
雪 「ご主人様の段取りが悪いせいでしょ!」
一刀 「面目ない・・・・・。 まぁとにかく、今回から外史の俺の記憶の話だけど、それは次回で終わりみたいだな。」
翠 「別世界のご主人様に何があったのか、気になるな。」
一刀 「ああ。 でもそれはまた次回って事で。 それじゃあ皆さん、また次回の『皆であとがき』でお会いしましょう。」
蒲公英 「まったね~♪」
終
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約一カ月ぶりの投稿で二十四話目ですww
なんとか一カ月以内の投稿を目指していますが、少しきつくなってきました><。
誤字脱字等、多々あると思いますが読んでやってくださいノシ