「あんた、懲りないわね。」
ふと、顔を上げると髪を一つくくりにした気の強そうな少女が近づいてくる。
「あ、ユズ、おはようー。」
「あんた、そろそろその寝坊癖直したら。先生がかわいそうでしょ。」
ユズはそう言いながら、ちらりと担任に視線を寄こす。
担任は教卓の下にぶちまけたプリントを慌てて拾っている。
「善処するよ。」
ふわあーと欠伸をして、ぐーと体を伸ばす。
あんたやる気ないでしょ、とかユズが言っていたが、まあ、大丈夫だよ、と噛み合わない返事をし
たら、ため息をひとつ残して次の授業のための準備をしに行ってしまった。
あー、私も準備せねば。
次の授業なんだったかな?
「相変わらず遅刻魔だな。自律神経いかれているんじゃないか。」
少し低い声が前から飛んできた。
こんな厭味を言うやつは一人しかいない。
「門倉 シュウゾウ…。」
この目の前にいる顔とスタイルが無駄に良い男…。
「なんだよ。わざわざフルネームで。」
フルネームがなんだよ!
フルネームを言ったら逮捕でもされんのか!
「なんでもないよ、容姿だけが取り柄の少年。」
「違うな、頭もだろ。」
…コノヤロウ!
いちいち腹立つことばっかり言って…!
だが、悔しいことにやつの言っていることは正しい。
こいつは学年で成績がトップ、しかも部活のサッカー部でキャンプテンを務め、さらに空手は東海
大会優勝の実績をもち、容姿端麗で言うとこなしの男なのだ。
「なんだ、もう終わりか?」
まるで映画の中の悪役のようにニヤリと笑う。
腹立つー!
女子よ、君たちは騙されている。
真面目に考えてこんな男のどこがいいのか…解せぬ!
「空手は勝てるもん!」
そう、空手だけはなんとか死守している。
「100勝100敗1引き分け。今、引き分けだろ。」
「最近の3試合は勝ってる。」
「手加減してんだよ。」
クククッと笑う。
それが妙に様になっていて、よけいに腹が立つ。
「もう、次の授業あるから行くね。」
鞄を持って立ち上がる。
「ああ、そうだな。今はこれぐらいでな。」
今は、だとっ!?
私だって負けてない!たぶん…。
背を向けてユズのほうへ行こうとした。
コツン
背中に何かあたった。
振り返ると床には飴玉が落ちていた。
「それで機嫌直せよ。」
じゃあな、と言って門倉は出て行った。
飴玉って…、ガキか私は!
そう思いながらも飴玉を拾い、ユズのほうへ向かった。
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本日はすれ違い注意報part2です。
ようやくお相手登場!
でも、全然切なくない。
しかも、甘い雰囲気がない…(泣)