「どういうことだ!誰が孫策を暗殺せよと命じたのだ!」
「我らがそのようなことをするはずがありません」
「なら何故だ!何故孫策が毒を受ける!何故このようなことが起こる!」
戦場を前にしていた。
神聖なる戦いになるはずだった。
英雄孫策との戦い。
曹孟徳があれほど待っていた、英雄との戦い。覇業の成すべき一歩。
だけど、今その望みは絶たれた。
「くふっ…何なんだ、これは…このような戦い、誰が……っ!!」
「華琳さま!」
孫呉との戦い。
それは曹操孟徳に大いなる衝撃と絶望を与えた。
だけど、それが彼女の望んだことでないとしても、それが彼女自身が導いた結果だということに変わりはない。
そして、その罰を受けるのは彼女ではなく、彼女を止められなかった人たち。
……
「一刀様…一刀様」
「……ぅぅ……」
朝、結以お姉ちゃんの揺さぶりに目が覚めた。
「……<<パクパクっ>>」
おはようと言おうとしたけど、何も言葉として出てこなかった。
結以お姉ちゃんが作ってくれた薬の効果が切れたのだ。
「あそこに新しい薬を用意してます」
と、結以お姉ちゃんの話を聞いて側を見たら、テーブルに湯飲み一つがおいてあった。
最近の朝はいつもこうである。
朝結以お姉ちゃんが起してくれて、薬を飲んで話すようになったら皆に朝の挨拶をしに行く。
結以お姉ちゃんは途中で加わってボクの天幕で一緒に居ることになった。
布団は他のを置いてあるけど、起きた時にボクが居ないと凄く不安になるそうで、夜にも他のお姉ちゃんたちのところに行くことなくずっとここにいる。
桂花お姉ちゃんや秋蘭お姉ちゃんはちょっと不満そうだけど、その代わりだと言ったらなんだけど、朝御飯は皆と一緒に食べる。
「結以お姉ちゃん、ボク行ってくるね」
「はい」
結以お姉ちゃんは朝御飯は食べないみたい(ボクも以前はほぼ食べなかったけど、ここに来てずっと食べていたら何だか食べないとお腹が鳴る)
ボクが皆のところに行く間、結以お姉ちゃんはここに残っている。
戦時に食べるご飯は冗談でも美味しいとはとても言えない。
秋蘭お姉ちゃん曰く、必要な栄養にだけ気にしたものみたい。
食べることにうるさい華琳お姉ちゃんでもこういう時だけは我慢して食べる。
「今日は昨夜山から虎を捕まえましたので、それで料理して見ました!」
「「「…………」」」
……うん、流琉お姉ちゃんはすごい。
だけどこの状況で面食らわずに居られる人なんて…
「わーい、いただきまーす!」
「はぐっ……はむ!」
秋蘭お姉ちゃんと季衣お姉ちゃんぐらい。
「あの、流琉お姉ちゃん?」
「何、一刀君?」
「虎、どうやって捕まえたの?」
「え?……こうどーん!としてドガーンと……季衣ちゃんと一緒に」
だから季衣お姉ちゃんは普通に食べてるんだね。
「虎を捕らえるという話は聞いたけど、まさかここまで出来るとは思ってなかったわ…虎の肉を食べるなんて聞いたこともないわよ」
華琳お姉ちゃんも呆れたみたい。
「え…もしかして、お気に召さないですか?」
「えー?美味しいのに」
「ほおへす、はひんはまー!」
「ちょっ!汚いわよ、あんた!
「姉者、口にあるものをちゃんと食べてから話せといつも言っているだろ」
「美味しいとかそういう問題じゃなくてね……あぁ、もういいわ。せっかく作ってくれたものだから頂きましょう」
華琳お姉ちゃんはもう突っ込む気を失ったみたい。
春蘭お姉ちゃんはともかくとして(そもそも春蘭お姉ちゃんは多分これが何の肉なにかもちゃんと聞いてないだろうと思う)季衣お姉ちゃんもあんなに食べてるし、大丈夫かな。
手前にある虎の肉を入れた…シチュー?を食べてみた。
「……美味しい」
「だよね?流琉お姉ちゃん得意なんだよ、虎の料理」
得意とまで言えるんだ。そんなにたくさん捌いてみたんだ。
「ちょ、ちょっと季衣ちゃんってぱそんな言い方して……」
「ふむ、中々口に出来ないものだが、確かに新しい触感だな」
「そうね…他の肉では感じれない味もして、中々美味だわ」
「まぁ、虎の肉なんて今後食べる機会なんてないでしょうし。取り敢えずいただくわ」
続いて他のお姉ちゃんたちも食べてみて皆評価は高い。
流琉お姉ちゃんが皆に出すほどだから味なんて食べる前から決まっているものだけど。
今日の朝は、いつもより楽しい食事が出来た。
・・・
・・
・
食事が終わった後、今日はいつもとは違うことが起きた。
桂花お姉ちゃんたちの話によると、孫呉の領地を越えたようだ。
それで、華琳お姉ちゃんが皆を集めてこれから皆の役名や色んなことを命じると言っていた。
「春蘭と秋蘭は先鋒の騎馬部隊を連れて進軍先の拠点を制圧、廬江までの道を確保しなさい」
「「御意」」
「季衣と流琉は私と一緒に周りの拠点を落としながら進軍するわ。敵の城に回ろうとする斥候は絶対に絶つ。いいわね」
「「はい」」
「桂花は私と一緒に。稟は春蘭、風は秋蘭と一緒に行動して頂戴」
「はっ!」
「御意」
「華琳お姉ちゃん、ボクは?」
「一刀も私と一緒に動くわ。孟節ともちろん一緒にね。けど、これからしばらく休みはないから覚悟していなさい」
「うん」
「昼過ぎる頃には廬江まで着くでしょう。そこからが本当の戦いの始まりよ。皆私の覇業のために戦って頂戴。正々堂々と英雄孫策を打ち砕くわ」
「「「「御意!」」」」
ゾクッ!
その時、何かを感じた。
「!」
「?どうしたの、一刀?」
「…うん、何でも…ちょっと過食したみたい」
「大丈夫なの?」
「うん、だいじょ…」
スッ
「?一刀?」
スッ
「…あれ?」
いつの間にかボクは、自分の天幕に戻って来ていた。
どうして?
華琳お姉ちゃんから逃げてきた?
ボクが痛そうにしてるから普通に頭に手を載せようとしただけなのに?
「一刀様?」
その時までずっと待っていた結以お姉ちゃんがボクの声を聞いてボクの前まで来た。
「…おかしい……」
「どうしたのですか?」
「ボクスッとしようと思ったことないのに……ごめん、ボクちょっと行ってくる」
スッ
ボクはまた華琳お姉ちゃんと皆がある天幕へ向かった。
・・・
・・
・
スッ
「ごめん、ちょっと…調子がおかしかった」
「大丈夫なの?」
戻ってきた見たらまだ皆そこにいた。
消えてから何秒も過ぎてないから当たり前だけど、皆驚いたような顔をした。
ボクがこんなに急に消えることは、触ろうとした相手が危険だと思っている時だけだから。ボクが華琳お姉ちゃんのことをそう思っているわけがないから。
「大丈夫」
「……」
華琳お姉ちゃんがまたボクの頭に恐る恐る手を近づいて見る。
「……」
「…なんともない…わね。いや、ちょっと熱はあるけど、それじゃなくて…」
またボクが急に動くことはなかった。
どうしてだったんだろう。
「ボクは大丈夫だよ。それよりほら、お姉ちゃんたちこれから忙しいんじゃない。早くしないと……」
「え、ええ……そうね」
結局どうしてボクがあんなことをしたのかは誰にも分からずその場のことはそのまま流された。
そしてお姉ちゃんたちは各々の部隊を持って散った。
春蘭お姉ちゃんは東、秋蘭お姉ちゃんは西側にして前進。
本陣の華琳お姉ちゃんの部隊から散開して所々にあった拠点を占拠。
そんな風に続いていたら、いつの間にか向き先に今までとは違う大きいな城が見えた。
「あれは……」
「…風から水の匂いがします。とてもたくさんの水……廬江に到着したみたいですね」
「あそこがお姉ちゃんたちが戦う城?」
「恐らく……」
結以お姉ちゃんは少し困ったような顔をした。
そんな顔をするお姉ちゃんを今まで初めて見て、ボクはちょっとびっくりした。
「どうしたの、結以お姉ちゃん?」
「……風から……微々たるものの血の匂いがします」
「え?」
「先までの戦いからのものではありません。廬江城から来る風から、血の匂いがします」
「もう春蘭お姉ちゃんたちが戦いを始めたの?」
「いいえ、そういうものではありません。戦いが始まったと思うには、あまりにも薄い匂いです……ですが…とても致命的な…!!」
その時結以お姉ちゃんはパっと立ち上がりました。
「結以お姉ちゃん?」
「一刀様、申し訳ありません。わたくしは、これで、一刀様にお別れを告げることになりそうです」
「え?どうして急に…」
あまりにも急だったからボクは面食らっていたけど、結以お姉ちゃんはそんなボクに反応する時間も惜しいように外に出ようとした。
「ちょ、ちょっと待って結以お姉ちゃん、よく分からないけど、せめて華琳お姉ちゃんにでも……」
「一秒を争うことなんです。ごめんなさい、一刀様」
「……じゃあ、ボクも一緒に行く」
「へ?」
こんな風に別れるのは嫌だ。
「どこに行こうとするのかは知らないけど、もうすぐここは戦いが繰り広がる場所になるよ。そんなところで急に一人で行こうとしたら危ない。誰かに見つかったら斥候かと思われて殺されるかもしれない。
「………」
「ボクが連れて行ったらそんな心配もない」
「それは……」
「大体、目も見えないのにどうやって行くつもりだよ。一人で行っちゃ駄目、絶対。ボクが一緒に行く。結以お姉ちゃんのことボクが守ってあげる」
「……!」
結以お姉ちゃんの目があったその場所がボクを見ていた。
「わかりました」
「うん、じゃあ、ボクの手掴まって」
ボクは結以お姉ちゃんに手を伸ばしました。
その手を握った結以お姉ちゃんの手は少し震えていました。
「行き先は…南南東に五里ぐらいです」
「……それだと城の中に入っちゃうよ?」
「…心辺りがあります。とにかく急いでください」
焦っている……?ように見えた。
とにかく行こう。
スッ
バサッ
着いたところは森の中。
「この辺り?」
「……これ以上詳しい場所は……周りには木しかないようですね」
「うん、森だよ……何でわかるの?」
「わたくしは目が見えない代わりに他の感覚を使って周りの景色を描くのです。日が良く入らない場所、湿っぽい空気、小さく聞こえる川の流れる音。そういうものを合わせてここがどんな場所かを予測するのですよ……そんなことより、周囲に何かありませんか?」
「木しか見えないよ……もっと詳しい方向は分からないの?」
「ちょっと待ってください」
バサッ
「!」
他に誰かが居る。
もしかしてバレた?
ここは仮にも敵の城の中だから。バレたらどうなるか分からない。
「結以お姉ちゃん、ボクの手を絶対放したらだめだよ」
いざという場合になってもボクは大丈夫。だけど結以お姉ちゃんは………
バサッ
こっちに来る。
「結以お姉ちゃん、ボクの腕に掴まって」
さっちゃんからもらった指輪を取った。
指輪は少し光ってから弓の形に戻った。
音が聞こえた場所に向かって弓を射る。
見つかった瞬間、矢を木に狙って撃ってから直ぐに逃げる。
バサッ
「結以お姉ちゃん、まだなの?」
「……嫌な匂いがします。……これは、毒」
「毒?」
「近づいてきます」
バサッバサッ
走ってきてる。
「うわっ!」
「な、何だ?」
「!」
味方の鎧?
十数人はいる。
「誰?まだ戦争は始まってもいないはずなのにどうしてこんな大勢に城に潜んできてるの?」
「お、俺達は……」
「おい、何ガキのこと気にしてんだよ。さっさと逃げないと連中が……」
「馬鹿、この方は……」
群れの一人がこっちが誰か知らないで剣を振ろうとした。
「待って!」
サシュッ!
「ぐぅっ!」
「!」
倒れた?
ボクは打ってない!
「あなたたち……その毒を見せなさい」
「な、何だ、貴様は!わかってんのか?俺たちは味方……」
「その使った毒を見せろと言っています!」
結以お姉ちゃん?
「あなたたち…自分たちが何をしたのかわかっているのですか?」
「な、なんだってんだ。俺たちはただ、孫策をうった者には千金をやるというから…」
「だからこんなことをしたというのですか!」
何を言っているの?
「いいからさっさとその毒を見せなさい。でないと解毒薬が作れないじゃありませんか」
「解毒だと?じょ、冗談じゃない。あいつを殺ろうと命かけたんだ」
「貴様、実は孫呉の連中だったのか?ならここで……」
「渡さなければ全員倒すのみです」
「貴様がか?盲人のくせに俺たちを相手できるとでも思って……」
サシュッ
「うっ」
結以お姉ちゃんのマントの中から手が一瞬出てまた中に消えた。
「神経を麻痺させる毒です。命に害はありませんが…もしここに倒れていて孫呉の兵に見つかったら、その場で処刑されるでしょう。どうしますか?その毒をわたくしに渡しますか?それとも………」
「ううっ……や、やればいいだろ?」
「なんだってんだ。わけがわからんぜ!」
男の一人が小さな瓶を投げるようにこっちに渡す。
「これは……何?」
「一刀様、それをわたくしに…」
「うん?…うん」
ボクから瓶をもらった結以お姉ちゃんは瓶の蓋を開けて……
「<<ゴクッ>>」
それを飲んだ。
「!」
「おい、貴様、死ぬ気か!それは猛毒……!」
猛毒?!
「………なるほど……材料はわかりました」
でも、猛毒といったそれを飲んだ結以お姉ちゃんはなんともないように立ち上がりました。
「行きましょう、一刀様。時間がありません」
「結以お姉ちゃん、…大丈夫なの?」
「南蛮であらゆる薬を自分の身体で試してきたわたくしです。こんな大陸の安物毒にやられる身体ではありません」
その時、森の中に風が吹いた。
「あなたたちも死にたくなければ早く本陣に戻ってください。最も……」
その風にマントが反らされて、ボクは初めてちゃんと結以お姉ちゃんの顔を見ることが出来た。
「帰っても生きるかどうかわかりませんけど」
「ひっ!」
「ば、化物!!」
「結以……お姉ちゃん」
その顔は、人の顔なのかもよくわからないほど酷い有様だった。
顔のあっちこっちに疫病にやられたような腫れ物があって、むしろちゃんとある皮膚よりもかさぶたや腫れ物が占めている部分が多かった。
「ひ、ひぃぃ!!!」
「お、おい、待て、まてって!」
「………」
味方の軍の人たちが皆逃げてから、結以お姉ちゃんは急いでマントを振りかぶった。
「…一刀様」
「…結以お姉ちゃん」
「ここからはわたくし一人で行きます。先のやつらが来た方向に行けば、きっと孫策さまを見つけられるでしょう」
「…どういうこと?」
先からどういうことか分からなかった。
「あいつらは孫策さまを暗殺しようと毒を用意してここまで来たのです。理由は多分賞金でしょう」
「孫策を…暗殺?」
どうして?
華琳お姉ちゃんは、正々堂々と孫策さんと戦うと言ってた。
なのに、暗殺?
そんなことするはずが……
「さあ、一刀様はもう戻ってください」
「……」
帰りたい。
帰って華琳お姉ちゃんと話がしたい。
どうしてこんなことをしたのか?
どうしてこんな卑怯なことをしたのか?
でも、結以お姉ちゃんをここに一人で置いていくわけにはいかない。
結以お姉ちゃん一人では、孫策さんの近くに行くどころか呉の人に見つかったとたん死んでしまう。
……華琳お姉ちゃんのことはお預け。
「駄目、ボクも一緒に行く」
「ここからは危険です」
「それは結以お姉ちゃんも同じでしょ?ボクが結以お姉ちゃんのこと守るって言ったから最後まで守る」
「っ……!あなたは、怖くないのですか?」
「大丈夫だよ。ボクは何か危険があったら直ぐに逃げれるから…」
「そういうのではなく…!……わたくしのことです」
「……?」
急に何を言ってるの?
「こんな顔…誰にも見せたくなかったのに……だから今まであの小屋から一歩もでないで、妹にも会わずに生きてきたのに……」
「あ」
そっか、結以お姉ちゃんは先自分の顔をボクに見られて……
「…大丈夫だよ、結以お姉ちゃん」
「一刀様」
「ボクも分かるよ、そんな気持ち。自分が他の人と違うから、人たちが自分のことを怖く思うのが怖いんでしょ?」
「………」
「ボクもね?そうだったの。母さんがね……ボクがあっちこっちに歩かずに行けるのを見て、それが怖くてどっかに行っちゃったの」
「あ…!」
「だから、ボクはそんなことしない。結以お姉ちゃんのおかげでボクは短い時間だったけど話せるようになったから、凄く感謝してるよ。そんな人がただ顔がそんなんだとして怖いと思うとか……そんなことはしない」
「一刀……様……」
「後ね。ここから戻ったら絶対その妹さんのこと会いに行ってみて。きっとお姉ちゃんのこと歓迎するからさ」
「……はい」
結以お姉ちゃんは泣いていたのかな。
結以お姉ちゃんの目から涙は落ちなかったけど、多分、結以お姉ちゃんは泣いていたのだろうとボクは思う。
「行こう!一大事でしょ?早く行かないと、孫策さんが危ないよ」
「…はい!」
そしてその感情は、もうすぐボクの感情になる。
Tweet |
|
|
17
|
5
|
追加するフォルダを選択
いきなり真面目路線に戻ります。
ギャップは激しながら結構大丈夫です。
大丈夫…ですか?
内容は前々大丈夫じゃありませんけどね