天の御遣い、公孫賛に仕える。
大陸に平和をもたらすとされていた天の御遣いが公孫賛――白蓮に拾われたのは偶然だった。
たまたま遠乗りに出ていた白蓮はいきなり眩い光に襲われ、目を開ければそこに天の御遣い――北郷一刀が寝ていたのである。
一刀は初めは戸惑っていたがやがて状況を把握し、白蓮に仕えることを決意する。
っというのは今となってはだいぶ昔の話である。
今現在、白蓮は四国同盟の一角を担う、『普』という国の王である。
ちなみに一刀が命名した。
初めは地方の太守でしかなかった白蓮だが、星こと趙雲から始まり、名高い豪傑、軍師を次々に配下に取り込んだのである。
みな、一刀の人柄に惚れ込んだ結果だった。
そして幼馴染である劉備――桃香、そして桃香と同盟を組んでいた孫策――雪蓮と同盟を結び国力を充実させていった。
みな、一刀の人柄に惚れ込んだ結果だった。
そしてついには『蜀』の桃香、『呉』の雪蓮と共に赤壁の戦いで曹操――華琳率いる『魏』を打ち破り、四国同盟結んだのである。
初めは同盟を拒否した華琳だったが、皆の必死の説得により同盟を結ぶことができた。
みな、一刀の人柄に惚れ込んだ結果だった。
「……北郷、こんなところにいたのか? 探したぞ全く」
「ん? ……ああ、白蓮か。どうしたんだよ。大陸連合の立役者が」
一刀は城壁の上から宴を眺めていた。
国など関係なしに皆は四国同盟の宴を楽しんでいた。
「まったく。桃香があんなに酒癖が悪いなんて知らなかったよ。曹操に抱きついて胸を触ろうとしたんだ。それを孫策は笑って見ているだけだし。私には誰も絡んで来ないしまいったよ」
「華琳が桃香にされるがままってのもめずらしいな。雪蓮はいつも通りか」
「北郷、お前いつみんなに真名をもらったんだ?」
「えっ? 桃香は最初に客将で来た時、雪蓮は同盟を組んだ時、華琳は戦いが終わってすぐだよ」
「わ、私は桃香だけなのに……」
「ん? なんか言った?」
ぼそぼそと何かを言っている白蓮だがよく聞こえなかったようだ。
「あー、一刀さーん! そんなところで何やってるんですかー! みんないるからこっちにおいでよー!」
「そうよ一刀、こっちに来て一緒に飲みましょうー!」
「ちょっと一刀、この二人を止めなさいよ!」
そこで三人の王から声がかけられる。
「……人気だな、北郷」
白蓮がジト目で一刀を睨む。
「えっ、そうかなー? それより行かないのか?」
「……私は呼ばれてないからな」
フッと自嘲気味に笑う白蓮が格好良く見えた一刀。
「ま、まあ散歩でもしようよ!」
「……そうだな」
白蓮のご機嫌をとるのだった。
二人が歩いて来たのは城の賑やかな喧騒とはかけ離れた静かな小川だった。
水の音、草木の揺れる音、風の音。
どれもが心を落ち着けるものだった。
二人を照らすのは蒼い月のみ。
白蓮は一刀に背を向けていた。
「……綺麗な月だな」
「そうだな……。俺、こんなに大きな月、初めて見たかも」
最初の頃は心に余裕がなくて、碌に眺めることもなかった月。
その月が今ではゆっくりと眺めることが出来る。
それは白蓮や仲間のおかげだと一刀は思っている。
「そうだなー。北郷が来てからずっと戦だったからなー」
「そう考えれば長い付き合いだよな俺たち」
様々な戦いを経て今ここに二人はいる。
二人の間には確かな絆が存在していた。
「白蓮には感謝してもしきれないよ」
「そ、そんなこと言われるとこっ恥ずかしいじゃないかっ!」
「でも事実だよ」
「ま、まあありがたく受け取っておくよ。でもお前ならこれからも返し続けてくれるんだろ?」
「…………」
「…………」
一刀は言葉を返さない……いや、返せないのである。
二人の間に静寂が流れる。
「……帰るのか?」
意外にも口を開いたのは白蓮だった。
「さてな。……自分では分からないよ。だけど……考えてはいたよ。……この国の歴史のこと」
一刀は白蓮が何を言いたいのか分かっていた。
「お前の知っている歴史とかなり変わっているって話か?」
「ああ。今考えるとさ……白蓮って本当は麗羽に殺されるんだよね」
「うおいっ! い、今聞いちゃいけないことを聞いた気がするぞ! う、嘘だよな? 私が麗羽に殺されるなんて!」
思わず振り向いて一刀に詰め寄る白蓮だった。
「大丈夫だ。嘘は言っていない」
そして力無く膝を着いた。
「ま、まあ生きてるからよかったじゃん?」
「そ、そうだけどさ~」
どこか納得がいかない白蓮だった。
「でさ、調子が悪くなったのって、歴史の大きな分かれ道……大きいのかな?」
「わ、私に聞くんじゃない!」
「ま、まあとにかくそんな時だったんだよ」
袁紹――麗羽が攻めてきた時に体調をくずした一刀。
その他にも歴史にないことを選択した時にたびたび体調を崩していた。
「だよなー」
「気付いてたの?」
「星に言われていただろう? メンマを莫迦にするな、莫迦にすれば身の破滅……とな」
「いや、それは別の話だろ!」
どこか抜けている白蓮だった。
「占い師の話だよ!」
「……あ、ああ! 思い出した! あの大局に逆らうなってやつだろ!」
「ああ。俺は白蓮が殺されないように手を打った。その他にもいろいろとしてきたからね」
一刀の知っている歴史では公孫賛は普通に殺されている。
「そうか……。北郷は後悔しているか?」
「ちょっとね」
「うおいっ!」
「じょ、冗談だよ冗談。後悔してるなら最初から見殺しにして桃香について行ったよ」
妙にありえそうな考えだった。
「それに役目を果たして死ねる人間は素晴らしいって白蓮言ってたじゃないか」
「……私は言ってない」
「あれ? 華琳だったっけ?」
そうです。
「でもまあ、なんやかんや言って白蓮に会えてよかったよ」
「そ、そうか! ハ、ハハハ」
嬉しさを隠すことが出来ない白蓮。
「……白蓮、これからは俺の代わりに華琳、桃香、雪蓮がいる。国を吸収されないように頑張ってくれ……。無理かもしれないけど君なら出来るんじゃないかと思う」
一刀の中では希望的観測でしかないようだ。
「す、少しくらい信じてくれてもいいんじゃないか?」
「本当ならもっと面倒見てあげたかったんだけどね……」
「そ、そうだよな。……それならもっと私の傍にいてくれないか?
勇気を出した白蓮の告白。
「そうしたいけど……もう無理……かな?」
撃沈。
「うぅ。なんでだよー」
「もう、俺の役目はおしまいだから」
すでに一刀は役目を果たしていた。
「白蓮の夢が叶った……白蓮って夢あったっけ?」
「い、一応あるぞ。幽州を平和にすることだ」
「そうそれ。それが叶ったからその物語を見ていた俺も終わらなければいけない」
「そっか……」
「少しは粘ってくれよ」
サバサバしている白蓮にちょっと悲しくなる一刀。
「だ、だって! これ以上親しくなると余計に悲しくなるだろっ!」
今まで気丈に振る舞っていた白蓮だったが、それももはや限界。堰を切ったかのように涙が溢れていた。
「白蓮……」
それを見た一刀も悲しくなる。
「逝くな! 逝くなよほんごぉ!」
「ごめんな……。もう、終わりみたいだ」
一刀の体がだんだんと透けてきた。
「恨むぞ……」
「ははっ。全然怖くないや。けど、少し嬉しいって思える……」
恨まれるということは白蓮の心の中から自分が消えないということ。そのことが嬉しいと感じた一刀。
「……逝かないでくれ」
白蓮の声はひどく弱々しい。
「ごめんよ……白蓮」
「北郷……」
「さよなら……普通の王……」
「北郷……」
「さよなら……馬好きの女の子」
「北郷……!」
「さよなら……愛していたよ、白蓮――――」
言いたいことを言い終えた一刀。
しかし、一刀が消えることはなかった。
「あれ? 消えなかった? なんで? …………うおおおおおおおおお! 消えなかったあああ! またみんなと一緒にいれるんだぁ! やったよ白蓮! 白蓮! ……あれ? 白蓮はどこに行ったんだ? ぱいれーん! 出てこいよー! 俺、消えなかったよー!」
そして、白蓮は消えた。
完。
一年後。
白蓮が消えた後、一刀が王位に着いた。
そして国号を『十』に改めた。
「一刀ー! そんなところで何やってるのよー! もう宴が始まっちゃうわよー!」
「今日は立食ぱてぃっていうのをやるんですよね?」
「立食ぱぁてぃよ、桃香」
蒼穹を見上げて昔のことを思い出していた一刀。
「ああ、ごめんごめん」
一刀は三人の王のもとに走る。
そしてもう一度空を見上げた。
「白蓮……俺は俺の物語でうまく主役をしているよ。君は……どう? うまくやってるかな?」
新たな……今度は自分の物語を歩み始めた一刀。
「次に会えたらさ、別れてからのこといろいろ聞かせてくれよ」
赤毛のポニテールを思い出し微笑む一刀。
「いつか会える時まで胸を張って生きるよ。……君に笑われないように」
白蓮の代わりに国を守ると改めて誓う。
「一刀さーん! 早く~」
「早くしなさい。みな待ってるわよ」
「一刀の作ったお酒飲ませなさいよねー!」
そして前を向いて歩きだす一刀。
「今行くよー!」
最後にもう一度空を見上げる。
「じゃあな! また会おう、白蓮!」
書いてて悲しくなった。゚(ノД`)゚。
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泣けるぜ!