No.200006

真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~第61話

第61話です。

春が待ち遠しい今日この頃

2011-02-06 11:43:48 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5169   閲覧ユーザー数:4749

はじめに

 

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です

 

原作重視、歴史改変反対な方、ご注意ください

 

「負傷者を宿舎へ、残りの者については食事と小休憩を…一刻後に再び出るぞ」

 

踵を返し散らばっていく兵達の姿を見届けた後、愛紗は赤兎の背から降りると同時に深く息を吐いた

 

横に並ぶ赤兎の腹をゆっくりと摩る

 

ブルルと嘶く赤兎の白い息が夕闇を漂い消えていく

 

「…お前も私を背に乗せることが不服か?」

 

誰に聞こえるでもなく

 

ましてや声をかけた相手がそれに返事をするわけでもないことは百も承知だが

 

そう呟かずにはいられない自分がいた

 

‐何でお前が~‐

 

「…何故私が…か」

 

先ほどに対峙した敵将の言葉が浮かんでは彼女の心を苛んでならない

 

「…それは私が一番知りたいところだ」

 

額を赤兎の体に押し付け瞳を閉じる

 

握った拳から、膝から

 

震えが全身を覆う

 

押しつぶされそうになる心

 

自身を抱きしめ震える身体を何とか治めようとするがいくら力を込めても震えが止まることはなく

やがて眼頭さえも熱くなってきた

 

私は何をしている

 

私は何故此処にいる

 

‐諸葛亮はさぞほくそ笑んでいたことでしょうね‐

 

(そうなのか朱里よ?)

 

はたして自分は

 

「ふっ…くっ…」

 

一度弱気を見せた関羽という稀代の武人の胸の内は溢れるそれは

 

嗚咽となり、間も無くにそれも闇に消えていく

 

仲間を疑ったことはない

 

だが

 

独りでいることの今の境遇が

 

愛紗という少女の胸の内を焦がしてならない

 

戻れないかもしれない

 

私はもう

 

「…戻れなくなってしまうかもしれない」

 

悲しくてしょうがない

 

食いしばる歯がギリリと音をたてる

 

それさえも

 

自身が懐疑を増長してならない

 

こんなにも

 

「…愛してるのに!」

 

王を義妹を仲間を

 

怖くてしょうがない

 

はたして自分が戻ったとき

 

「あなたは…あなた達は!」

 

はたして

 

「わ…わだじっを…」

 

どんな眼で見るのだろう

 

期待してしょうがない

 

歓迎されることを

 

よくぞ戻ったと

 

そして涙を流してくれることを

 

おかえりと

 

恐ろしくてたまらない

 

自身が期待が裏切られるのが

 

怖くてしかたない

 

ズルズルと重力に引かれるようにその場に尻もちをつく

 

冷たく硬い地面の感触が

 

彼女を尚も蝕んでいく

 

「ふっ…うっ…」

 

外からも内からも侵食してくる孤独に

 

身が引き裂かれそうになったそのとき

 

「っ!?」

 

彼女の肩に赤兎が触れる

 

「…おまえ」

 

顔を上げれば

 

赤兎が首を擡げ彼女に寄りかかっていた

 

漆黒の闇の中でも映える真紅の瞳が彼女を見つめていた

 

やがて長い睫に濡れる瞳をそっと伏せ

 

静かに彼女に身を寄せていた

 

‐せきとが一緒にいてくれるって‐

 

そういって優しく微笑んだ同じく真紅の髪の少女の言葉が彼女の消えかかった灯に再び火をつける

 

「そうだったな…お前も居てくれたのだったな」

 

鼻を啜り立ち上がると赤兎の首に手を回し息を吐く

 

「女子の扱いはあの方譲りか?」

 

ついて洩れるは苦笑

 

何時だったか共に戦場で肩を並べた男の事を思う

 

「ふふふ…危うくお前に…惚れるところだったぞ」

 

深く、ゆっくりと息を吸い、深く、ゆっくりと吐く

 

ポンポンと赤兎の首を叩くと返事をするように叩かれた側も息を吐く

 

「…なんだその残念そうな溜息は」

 

ジト目で見上げればヒヒンと鳴き首を振る赤兎

 

「…まったく」

 

フンと鼻を鳴らし再度深呼吸をした後

 

「…申し訳ありません、文醜を討ち取り損ねました」

 

振り返ればそこには両腕を組んだ覇王の姿があった

 

「…そう」

 

何時からそこに『居た』のか今の彼女にとっては既にどうでもよく

 

目を伏せコツコツと歩み寄る華琳もまたそれを告げることなくそっ気なしに返事を返す

 

「まさか文醜が貴女が手を焼くほどの者だったとわね」

 

瞼を押し上げ彼女を見つめれば真直ぐな視線が返ってくる

 

「冗談よ…田豊が出張って来たのでしょう?聞いたわ」

「お耳が早い」

 

先ほどの華琳の言葉が気に食わなかったのだろう挑戦的に此方を睨みつけてくる

 

(成程…やはりというか)

 

それが彼女の本心なのだろう

 

「正直嬉しいわね…此処に来て漸く私をそんな目で見てくれるだなんて」

 

今日この日まで自身の前ではずっと伏し目がちに逸らされてきた愛紗の視線を漸くに真正面から見据える

 

「彼と何を話したなんて事までは聞かされてないわ」

 

挑みかかる様に睨みつけてくるそれを涼しげに往なし

 

「私の下から去るというのね?」

「…御意に」

 

此方を見つめていた瞳を伏せ頭を下げる

その姿に華琳ははあっと息を吐き

 

「良いでしょう…でも今はまだ許可できないわ」

「解っております…戦の最中に逃げられたとあっては面目が立ちますまい…互いに」

 

頭を下げたまま

 

しかしはっきりと告げるその口調に口の端が上がる

 

それは疑いようもない確約、この戦の後に彼女は去っていく

 

「聞きたいのだけれども」

「何か?」

 

視線を上げればそれまで見たこともない困惑気な表情の覇王

 

「田豊とはどんな男だったのかしら?」

 

何を言うのかと首を傾げる愛紗だったが華琳は聞かずにはいられない

 

彼女が心変わりした根底にあの男の存在がチラついてならないからだ

 

「田豊が…あなたを揺らしたのでしょう?」

 

事実それはあり得ないことだ一介の軍師が戦の最中に敵将の前に出るなど

 

先の連合において対面をしている

 

言葉も交わしている

 

だというのに

 

ここに来てあの男が判らなくなった

 

桂花を一度は完全に沈め、そして再び立ちあがらせ

 

ここに至っては接点も何もない愛紗までも変えさせて見せた

 

何者なの…一体

 

「袁紹殿は龍」

「…は?」

 

愛紗の不意の呟きにポカンとしてしまう

 

「龍をご存じで?」

「…空想の産物だわ」

「如何にも」

 

ブルブルと首を振る赤兎を撫で上げ愛紗は視線を落とす

 

「だが空の飛び方を知らない…地を這い自身は気高き者だと周りに嘯いては失笑を向けられる」

「…私が聞きたいのは」

「急かされますな…龍が飛ぶには風を呼び雲を纏わねばなりません」

 

視線を上に向ける愛紗に釣られるように華琳もまた空を見上げる

 

「思うに田豊殿は風、飛び方を知らぬ龍を舞い上がらせる一端を担う」

 

故に貴女方は彼を欲しがっているのでしょう?と愛紗がさらに告げる

 

「…私は自身の飛び方も知らぬ間抜けではないわ」

「飛び方を知っていても飛ぶ術を持たぬ…風の吹かす方法をお持ちで?」

 

ピクリと眉を吊り上げる華琳

 

「はっ!此処にきて私達の肩を持ってくれるのね」

「我が陣には風を読み、操る術を持つ者が既に居りますゆえ」

 

フンと鼻を鳴らす華琳に向け甲斐甲斐しく手を胸に当て礼をとる様に頭を下げる愛紗

 

「臥龍…鳳雛」

 

首を傾げて見上げてくる華琳に対し「如何にも」と胸を張る

 

「ならば彼をものにすれば私は飛び立てると…?」

 

(まさかここまで饒舌に語られるとは思ってみなかったわね…田豊元皓)

 

完全に劉備…否、孔明との密約を引き裂かれた

 

あわよくばこのまま魏の将として迎え入れようとした愛紗の行く末を見事なまでに

 

「肝心な物が一つ足りませぬ」

「肝心な…物」

 

それが何かが判らない者とそれが「何」であり「誰」であるかを知っている者

 

華琳は愛紗のその余裕に知らずにイラつき始めていた

 

「風がいくら吹き荒れようとも、雲を纏わねば空は駆けれませぬ」

 

だがそれは

 

「貴女では無いのでしょう?愛紗?」

 

彼女は華琳の雲とは成り得ぬ…彼女の下を去るが故に

 

華琳の問いに頷きふうっと息を吐く、そして

 

「此度の戦…百度争えば百度曹魏に軍配が上がりましょう」

 

それはつい先日に自軍の軍師が自身に進言してきたもの

 

「ですが百一度目があればそれは危ういものとなる。そう…かの陣に雲が揃った時」

 

愛紗は言う

 

袁家には「雲」が欠けているのだと

 

「麗羽の…懐刀」

 

愛紗の後でフシュゥと赤兎が白い息を吐く

 

「張郃儁乂…此度の戦を確実に物にしたくば風に吹かれて雲が舞い降りる前に決着を付けるべきです」

 

叶うならば

 

(あの方を「此方」に向かい入れる事が出来れば)

 

華琳にそう告げた彼女もまた比呂の存在に目を付けていた

あとがき

 

ここまでお読みいただき有難う御座います

 

ねこじゃらしです

 

いや~危なかったw

あやうく愛紗の事放置したまま忘れるところだったw

 

今回もそうですが構想はちゃんとできているのですが所々抜けている箇所があるので棚から拾い上げて詰め込むという作業をひたすらに繰り返し…気づけば官渡始まってから何話消費してるんだwという現状…いやはや難しいものですな

 

とりあえずこれで一先ず自分の中では保管はもういいだろうということで次回はようやく悠の出番の予定…たぶん

 

展開が亀よりも鈍足ですがどうかお付き合い下さい

 

あとあと

 

前回はまあ…例によってへこむような出来事がありましたがメール、コメントにて励ましていただいた皆様には感謝しきりです。

 

わかってはいるんですけどねえ、気にしたら負けで、第一にしょうがないことも。

それでも会社帰りにTINAMIを開いて応援メッセとか着てて~♪鼻歌歌いながら開いたそこに「死ね」とかそんなんありましたら、そりゃあもうブルーですw

 

…いいさ、自分が好きで書いてるんだからさ

 

だからこそ

 

こんな駄作にコメントやら応援頂く皆様には全くもって頭が上がりません

 

そして叶うことなら

 

これからも~風の行くまま雲は流れて~を応援していただければ幸いです。

 

それでは次回の講釈で


 
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