ここはとある雑居ビルの地下。
ここには、夜な夜な絵描き達が集まる酒場(バー)があるという。
【カウベルの音】
おや?今宵も、そんなうわさを聞きつけて、絵描きの一人がドアを叩いたようです。
「マスター、いつもの筆圧カーブと手ブレ補正を。」
「・・・。」
「分かってるよ。ここはアナロガーしか集まらない酒場なんだろう?」
「じゃあ2Bの鉛筆とA4用紙を。」
「兄さん、新顔だね?だめだよ、ココでデジ絵の話なんかだしちゃ。
少しは腕に自信アリと見えるが道具も自分で持って来ないなんて。ここでは相手にされないぜ?」
それにココの鉛筆と紙は兄さんの財布を全部、掻っ攫ってしまうかもしれないよ?」
マスターの舌打ちが聞こえる。
男はそういうと、ポケットから一本のマッ○ーを取り出した。
片手で器用にくるくると回す。
「いいかい?ここでの注文は道具を注文するんじゃない。
注文という形でマスターからお題をいただくんだ。」
そういうと男は、マスターからお題を貰うと同時に
手の平にマッ○ーで『ゆっくり霊夢』を描き始めた。
私の耳には、『ゆっくり霊夢』とはきこえなかった。
そう。お題は・・・。ハッ。
この男。マスターのお題を無視してやがる!
しかし早い。あっという間に『ゆっくり霊夢』が描きあがってしまった。
「俺は手描きマッ○ーのマキっていうんだ。よろしくな!」
少し背の低い、その男の手の平に描かれた『ゆっくり霊夢』は今にも「ゆっくりしていってね!」と喋りだしそうだった。
しかし、なぜ『ゆっくり霊夢』を描く?
どうせお題を無視してその後、自己紹介をするんだったら『黒マッ○ー』を描いたほうがシャレが効いてるじゃないか?
・・・と思ったが、きっと。東方厨なのだろう。口には出さず、そっと胸にしまうことにした。
「仲良くやっていこうぜ。」
■□■□
そこには見事に打ちひしがれた自分がいた。
「仲良くやっていけなかった。」
私は、よろよろと立ち上がり、逃げるように酒場を後にした。
とんだ負け犬だった。
「マスターあの新人また来るかな?」
そういいつつテーブルの篭からみかんを取り出し手の平にこすり付けている。
「お前はどう思うんだ?」
「さあね。来るやつはまた来るし、来ないやつはもう来ないんじゃない?」
「まったくな答えじゃないか。だが、また来てもらわないとな。」
テーブルには私の財布が乗っていた。
終わり。
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