「華琳さま、どうしてあんな馬の骨かも知れない者を一刀と一緒に居させるのですか!一刀にもし何かあれば…」
孟節という者が一刀ちゃんと秋蘭たちと一緒に来た際に、私はその者の要求を何の疑いもなく許可した。
他の将たちの不満は十分承知していた。
春蘭と秋蘭は特には何も言わなかったが直ぐに季衣と流琉を一刀ちゃんのところに行くようにさせた。
そして桂花も我慢できずに私の部屋に来て不満を言っているところだ。
「彼女は紗江の紹介で来ていると言ったわ。それに、なにより彼女が危険な者だとしたら一刀が先に反応していたわ」
「それはそうですが…いくらなんでもあのような怪しげなものを…大体、盲人として南蛮からここまで来たという話から有り得ません」
普段ならそうでしょうね。
最も南蛮なら現在蜀が征伐するために奮闘しているところ。
そんなところからどうやって一人でここまで来られたというのかしら。
だけど、そんなことは問題にならなかった。
「落ち着きなさい、桂花。季衣と流琉も一緒にいるから、変な動きがあれば即座で止めさせるわ。…最も……」
「…?」
「………」
あの者の願いを断れない理由があった。
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「援軍?」
「出立して一週間ぐらい過ぎたら、南蛮から来た女一人が華琳様の前に現れるでしょう。彼女を一刀ちゃんの側に居させてください」
「いくらアナタのお願いだとしても、そんな何者かも知れない者を易々と一刀ちゃんの側に居させるわけには…」
「お願い?何を勘違いしているのですか?」
「何ですって?」
「これは絶対必要事項です。もし華琳さまがこの話を断るとしたら、一刀ちゃんおろかあなた様と一緒に呉へ向かった軍の一兵たりともまともな身体で帰ってくることはないでしょう」
「!!<<ゾクッ>>」
「紗江がやめろと言った。僕も駄目だと言った。一刀ちゃんまで駄目だと言ったのにこの戦争を続けたのは曹孟徳、あなたです。僕の最小限の安全措置までも断る権利が、あなたにはない」
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「………」
「華琳さま、どうなさったのですか?」
「…なんでもないわ。とにかく、あの孟節とやらについてはもう口を叩かないで頂戴」
「……御意」
スッ
「ねーねー、華琳お姉ちゃん!」
突然一刀ちゃんが現れた。
「うん?一刀じゃない、どうしたの?」
「あのね、あのね、前からずっと言いたかった話があったの」
「なにかし………え?」
次の瞬間に気づいた。
何でこの子普通に口で喋ってるの?
もしかして以前の事件の時の失った記憶を戻した!?
「あのね、華琳お姉ちゃん
だーいすき!!」
だーいすき
だーいすき
だーいすき
…………
「…………」
「ちょっ、ちょっとあなたいきなり何を言って…てか何であなた
「あ、桂花お姉ちゃんも好き」
「!」
「じゃあ、ボク他のところにも行くから」
スッ
それから休憩が終わるまで、私を含めた軍のあっちこっちに居た子たちが思考停止状態になっていたらしい。
…
孟節と申します。
南蛮の万安という場所に隠れて住んでいる、美似の実の姉でもあります。
美似ちゃんとは年が結構離れていて、多分彼女はわたくしのことを覚えていないだろうと思いますけれど。
これでもわたくしは影からたくさん彼女のことを助けてあげているつもりです。
それが左慈さまの頼みを聞いて、今は曹操が率いている部隊の中にいる、天の御使い北郷一刀様をお守りするためここに居るのですが…
「あの…一刀様?」
先から少し騒ぐ声が聞こえると思ったらまた何も聞こえません。
「あの……典韋さん?許緒さん?」
「……………」
「……………」
座った場で手を広げて何かあるかあっちこっち振り回ってみます。
そっと
「あ」
人の肌が…
「あ、あの」
……トン
「え?」
倒れました。そのままわたくしの手におされて倒れました。
一体何が……
先確かに「だいすき」という声が聞こえてからそれから何も聞こえなくなりましたけど、三人方とも一体……
スッ
「孟節お姉ちゃん!」
「あ、一刀様」
一刀様が帰ってきたようです。
「ありがとー!!」
がしっ
「へっ!?」
え、あ、いや、ちょっと……
そんなに強く抱きしめられたら
「ありがとう!ホントにありがとう」
「く、苦しいです、一刀様」
「あぁ、ごめん」
首に絡まれて息苦しくて訴えたのですが、一刀様は直ぐに放してくれました。
「そんなに、話が出来るようになったことが嬉しいのですか?」
「うん!これで、これで皆と話が出来る。いつも我慢していた言葉も全部……」
わたくしは目が見えませんけど、一刀様は泣いているようでした。
「一刀様…?」
「ずっと……ずっと苦しかった。話したいことが話せなくて……皆に言いたかったのが、今は言える……」
「一刀様……」
想像してみました。
口を封じられ、話せないことがどういうものか。
文字を通して人に話が出来るかもしれません。
だけど、文字では伝えない気持ちがあります。感情があります。
『ありがとう』と書くだけでは表せないその人への感謝の気持ちがあります。
『寂しい』とかくだけでは言い切れない胸のしこりがあります。
『好き』と書くだけでは伝えないその人への愛があります。
それができなかった。そして出来るようになった。
…ああ、とても、とても嬉しそうです。
『嬉しい』という言葉だけでは言い切れない何かが溢れ出しそうです。
「一刀様」
「…うん、うん、ごめん、何でもない。ちょっと、嬉しくて」
「はい、わかります」
「……あの、孟節お姉ちゃん」
「ああ、もし良ければ結以とよんでくれますか?」
「それがお姉ちゃんの真名なの?」
「はい……実は、わたくしはつい最近まで一人で住んでいました」
「一人で?」
「はい、ですから…長い間誰かに真名で呼ばれたことがありません。ですから、一刀様がわたくしを結以って呼んでくれたら嬉しいです」
「結以…お姉ちゃん?」
「……はい」
結以お姉ちゃん………
美似ちゃんをわたくしに会ったらわたくしのことをそう呼んでくれるのでしょうか。
…多分、もう無理ですね。
「あの、結以お姉ちゃん」
「あ、はい、何ですか?」
「その…お姉ちゃんの目は……どうしてそんなになったのか聞いてもいい?」
「…あぁ、この目ですか…あまり、人に聞かれて良い内容ではありませんが…それでも聞きたいですか?」
「…話しづらいの?」
「そうですね…なんと言いますか…昔の話ですし…」
そう、それは昔のこと……
昔、南蛮では多くの部族があって、その部族たちの長たちは自らを大王と称し、南蛮の地を持って争っていました。
そのなかで最も力を持っていたのが、わたくしと美似ちゃんの母上でした。
母上が急な病でなくなって、長女であったわたくしが部族を受け継いだ次第、他の周りの部族たちは同盟を組みわたくしたひの部族を襲いました。
こうなることを既に予測していたわたくしは美似ちゃんを信用できる部族の方に任せ、一緒に逃げるように命じました。
わたくしは母上に恩を受け、命を賭けてでも戦うと言う部族の勇者たちと共に部族を守るために戦いましたが、数の暴力に負けてしまい、わたくしは南蛮の古代から伝わる伝統の通り、両目を抉られ南蛮人でも生きていられない僻地へ追放されました。
わたくしは一人で南蛮の僻地を彷徨い続けることになりました。
南蛮では毒のある草もたくさんありますので、何か知らないままむやみに口にすることもできなく、そうやって食べることも飲むこともろくにできず一ヶ月をただただ死ぬ日を待つようになっていました。
だけどなにより嫌だったのは側に誰もいないということ。
逃がした美似ちゃんに、亡くなったお母様に、一緒に戦ってた勇者たちと会えないという感覚が身の苦しさよりもわたくしを苦しめました。
そんな時でした。
『あの方』に出会ったのは。
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バサッ
「!」
バサッ
「ちっ、道を誤ったか。于吉のやつめ。後で絶対に殺す…」
「だ、誰ですか?助けてください!」
あの時、一ヶ月ぶりに人の声を聞いたわたくしは必死でした。
「うん?……貴様は…祝融の後継者か」
「母上のことをご存知ですか?」
「お主の母上は知らんが、祝融というのは火の神の化身を言う。…そうか、貴様はその部族の生き残りか」
「た、助けてください!」
「俺は忙しい。貴様なんかに構ってあげてる暇は……」
わたくしはあの時に思いました。
この人が行ってしまうとわたくしは絶対ここで死ぬ。
「お願いします!お願いです!何でもします!何でもしますから見捨てないでください!」
「……何でもする、といったな」
「はい!何でもします!何でもします!!」
「…良い。貴様の命を預けよう。いつかその生命、俺のために捨てることになるかも知らないけどな」
「ありがとうございます!ありがとうざいます!!」
卑屈だというかもしれません。だけど、あの時わたくしはそれで良かったのです。
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左慈さまはその後私と会ったその地から少し離れた場所にわたくしを連れていき、そこに家を建ててわたくしを住めるようにしてくれました。
そして目の見えなかったわたくしに、見えなくても生きていけるような術を身に付けさせました。
わたくしが薬師になったのも左慈さまのおかげです。
そして、ある程度わたくしが一人でもやっていけると思ってきた時、左慈さまは姿を消しました。
それからわたくしの昔の部族の人がわたくしを探してあの家まで訪ねてきました。
周りの部族はその後同盟を崩し戦いを続け、全ての部族が壊滅寸前になるまで戦いました。
その中で残っていたわたくしの部族たちがその部族たちを一つ一つ落とし、南蛮を統一したという話でした。
ですが、わたくしはわたくしをまた部族の王、いえ、南蛮の王にあげようとする人たちの願い絶ち、美似ちゃんを大王に上がらせ、わたくしはそれを影から助けることにしました。
左慈さまはその後一度もわたくしのところに来たことがありませんでした。
だけど、忘れたことはありません。
この左慈さまに救われた命。
いつかあの方が必要としてくれたらいつでも捨てる覚悟が出来ていると。
そして……
ついにあの方が再びきてくださいました。
「あまり聞いて穏やかな話ではありません」
後で僕はあの時孟節に出会ったことが偶然ではなかったことが分かった。
あれもまた、『管理者』たちの『実験』の一つだった。
それを知ったのは僕はあの時北郷一刀に負け、死刑が決まった後のことだったけど、その後孟節は『管理者』に近い存在になっていた。
彼女は全外史の記憶を同期化していた。
この世界の孟節は僕は助けた孟節とは違う外史の存在だ。
にもかかわらず、彼女は僕のことを、姿さえ代わってしまった僕のことを命の恩人として思っていた。
……僕は彼女のことを友たちを思っている。
この世界、全ての外史を統べ括り僕の心中のことを何でも話せる数少ない友の一人だ。
だから、彼女が死ぬとかそんなことは考えたくもない。
だけど……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――ごめんなさい、万安ちゃん。ほんとに、ほんとに……ごめんなさい
「……左慈さまとの縁に、悔いはありません」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……
「………左慈さん?」
――…何で起きてるんですか?
「いえ、何か…起きたら左慈さんが居ませんでしたので……どうしたのですか?」
――別に‥何でもありませんわ。早く帰って寝た方がいいですよ。明日からは忙しくなりますわよ?
「左慈さんが側に居ないと何だか不安になりまして……誰かいないと眠れないといいますか」
――え、何それこわい。
「こ、怖いのは少女の方です!」
――はい、はい、一緒に行きますから早く寝ましょう。おチビちゃん?
「うぅぅ……」
まったく、一刀ちゃんが居なくても暇ができませんわね。
・・・
・・
・
キャラ設定
孟節(万安隠者)女 ?才 155cm
南蛮大王、孟獲の姉。
両目を失い人たちと会うことがなく万安界で一人で住んでいる、人より仙人に近い人物。
南蛮のあらゆる植物、動物に詳しく、それらを調合して作った薬は、世界のあらゆる病を癒すことができ、一説では不死さえも叶えるのではないかと思う者もいるが、彼女はそれについて一言も口から発したことがない。
左慈を恩人と思いながらもそれ以上の感情を持っている。
妹は違いグラマラスなボディーをしているが、いつも薬草や道具を詰めたマントをかぶっているため、見る機会はほぼない。
たまたま顔を見せることがあるが、色んな薬草を試している中毒草をかじったことも多くあるのでその顔は生まれる時母からもらった顔から大いに外れている。
人に会うことが滅多になく、本人も人に会うことを好まない性質だが、時々人が恋しくなることは仕方がない。
この度は左慈の依頼を受け、左慈が居ない間一刀ちゃんを守るように頼まれている。
そしてもう一つ密かに頼まれていることがあるが、それについては後ほど……
彼女が住んでいる家の周りには彼女が育てた多くの薬草が生えてあって、その中でも薤葉芸香という薬草は人が口に入れるだけであらゆる毒を制するという。
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孟節ごと結以の設定を淹れた奥話です。
最初の話は気にしなくて結構です。