No.199399

真・恋姫無双~妄想してみた・改~第三十六話

よしお。さん

第三十六話をお送りします。

―混乱―

開幕

2011-02-03 02:32:14 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:4133   閲覧ユーザー数:3310

 

「工兵隊、柵の製作を急げ! 相手は待ってくれんぞ!」

 

袁紹軍が攻め入ろうとしている西門前で、秋蘭が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

“平原”は民を受け入れる『北郷』の本拠地であるが故に、防御面でかなり脆弱な部分がある。

袁紹軍本隊が控える北方の守りはともかく、西側は住民増加に伴ない拡張工事の真っ最中でろくな城壁が一つもないのだ。

現在、無いよりはマシ程度の防護柵を作らせているが、民が傷つくのを嫌う北郷のことだ。恐らく戦いは平地戦になるだろうと秋蘭は予想していた。

 

「建築中の家屋は出来るだけそのままにして矢避けに利用しろ、必要最低限の柵だけを全面に配置するのだ!」

「「「はっ」」」

 

命令を受けた兵士達が駆け足で各班に伝達を告げていく。

まだまだ敵の姿は霞む程度の距離も開いているが攻城戦の常套手であればこの後、城攻め用に陣地構成を始めるはずだ。

攻めてくるのは早くて明朝。それまでに防衛の準備を整えておかなくては。

 

ふと前方に視線を向ければ作りかけの町並みの先に自分の姉である春蘭と呉の将軍である思春の部隊が肩を並べて展開している。

平原に侵入したという晩から妙に意気投合していた二人からは険悪な雰囲気は一切感じられない。

 

(……人生、何があるかわからんな)

 

小さく感嘆し、指示を出す作業を中断する秋蘭。

魏と呉。敵対こそすれ、強大な力を誇っていた両雄が協力関係を結ぼうとは誰が予想しただろうか。

しかも利害が一致したわけではない。ある意味本当の意味での信頼で我らは戦いに挑もうとしている。

 

なんたる奇跡。

いや、原因ははっきりしているがここまでとは思わなかった。

 

 

 

北郷一刀。

過去にその燐片を見せてはいたが、人を惹き付ける力に関しては華琳様にも勝るだろう。

 

(人一つ変わっていないのに状況が変わればここまで大きくなるか……)

 

かつて野に倒れ、自分達に保護された頃の一刀を思い出し、微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

「では敵軍、袁紹軍は一万程度の兵力、牙門旗に掲げられているのは『顔』と『文』の二つで間違いないのですね?」

「はい。西側における軍勢に伏兵を擁している様子は見受けられませんでした。恐らくこのまま真っ直ぐ進軍してくるものと思われます」

 

哨戒から帰還した凪が俺を始めとした軍師一同に報告をしていく。

 

「一万ですかー。うーん、こちらを攻め落とすにしては些か規模が小さすぎる気がしますねー。舐められているんでしょうかー?」

 

ペロペロと飴を舐めて小首を傾げる風。

今が非常時でなければ“よぉし、おじさんがもっと飴ちゃんを買ってあげるぞー”と甘やかしたくなる可愛さだ。

 

「舐められるのはこのへちゃむくれの変態男だけで充分よ。おおかた蜀領を経由してる時に兵を消耗したんじゃないの?」

 

ぐりんと首を斜めに動かし見上げる桂花。

今が非常時でなければ『そして、死ね』と止めを刺す気満々な殺気が漂ってくる。

俺は慣れてるけど横にいる亞莎がぷるぷると震えて反論したげだ。

 

(一途なのはありがたいけど、この場は抑えてもらわないと)

 

いらぬ口論を起こさないようそっと彼女の手を握って先を制す。

 

「あっ……」

 

すると亞莎は小さく息を漏らして顔を俯ける。

うんうん、誰かさんと違って素直な子は可愛いなぁ。

 

「……なにか言った? 変態」

「いいえ、なんでもありませんよ軍師殿」

 

心の声を読むな。

 

「あの、桂花様のご指摘なんですが……偵察の際、相手方に装備に損傷は無く負傷兵もいないようでした。その点から戦闘は行われていないものかと自分は推測するのですが……」

 

やや自信なげに追加報告を続ける凪。

 

「ふむ、となるとよほど慎重にこちらまで進軍してきたか、それとも誰かが手引きをしたのか……そのどちらかでしょうね。とにかく相手の規模は判明しました。後は対策を講じるのみ、一刀殿、布陣はどう致しましょう」

「ちょっと稟、何を血迷ってるのか知らないけど、こんな奴に意見を聞いたってろくな結果にならないわよ。時間の無駄、無駄」

 

(あの、俺って一応君主なんですが)

 

片手をしっしっ、と振る桂花に一度は落ち着いたはずの亞莎が腕を振り上げて噛み付く。

 

「さ、さささっきからお言葉が過ぎると思います! 一刀様は呉において軍師の才を如何なく発揮されたお方です! 下策なんて講じるはずがありませんっ!」

 

なんという過大評価。むしろプレッシャーがきついよ?

 

「……だったら言うだけ言ってみなさいよ。この一大事に女の手を握り合う素っ頓狂男」

「「あっ」」

 

大きく掲げられた亞莎の手には当然、俺の手が握られているわけで。

 

「……ごほん」

「「「「…………」」」」

 

視線が痛すぎる。

 

「ええっと! 布陣についてだろ!? ……ええと、あれだ」

 

無理にでも話を進めて話題の矛先を変えてしまおう。

前軍を指揮しに行った華琳と蓮華がこの場にいなくて本当に良かった。

 

「軍の展開については西側を中心に平地戦を挑みたいな。普通なら街を楯に戦った方が有利なんだろうけど、この街は元々防衛に向いた作りをしていないし、作りかけの家屋を壊されたら士気が下がりやすいからね。相手の兵力も考えて打って出る方がいいと思うな」

 

作りかけの物が破壊されるのは誰だって辛いからな。

この後の事も考えれば出来るだけ相手は近づけたくない。

 

「布陣は今の配置を活かして正面前曲に春蘭、秋蘭、思春。それに恋とねねを配置。両翼には機動力のある霞と星、たんぽぽなんかが適任じゃないかな。今回はこっちが兵数で勝る戦いだし囲い込んで両側から撹乱する感じで良いと思う。……あぁ、万が一の為に季衣と流流は置いていってほしいな」

「……万が一って、突破されるのを前提に軍を配備するの? 馬鹿じゃない?」

「そうじゃないぞ桂花。俺が警戒してるのは敵の別動隊だ。相手はこっちの監視を潜り抜けてここまで来たんだ、この後別方向から攻められないなんて保証は無いだろ」

「ぐっ……」

「ちなみに北や東、南にもすでに斥候は放ってあるよ。すぐに連絡できるよう過去に真桜が開発した色煙を持たせてね」

 

演習の時に使ったあの色の付いた煙が出る矢を全員に配布してある。これなら早期警戒がし易いだろう。

 

「以上で、俺の見解は終わりだ。指摘があるならもったいぶらずに言ってくれ、亞莎は持ち上げてくれたけど本職のみんなより勝ってるとは思わないからね」

 

辺りを見渡し、意見を募る。

歯噛みする桂花はともかく発言する者はいない。本当にこれでいいのかな? と少し不安に駆られたところで風が手を上げた。

 

「将の配置についてですが風は呂布さんをセキトちゃんに乗せて両翼どちらかに回して撹乱してもらった方が良いと思うのですよ。

なぜかは分かりませんがすごく活躍する予感がしますねー」

「あー、それは言えてるな。うん、そこは風の意見を採用したいな」

 

“人中の呂布、馬中の赤兎馬”の再来か。

楽しみ半分、恐ろしさ半分な感じが漂ってくるぜ!

 

「他には意見、あるかな?」

 

再度、質問するが今度は頷くだけで反論は返ってこない。

 

「よし、それじゃあ細かい指示はみんなに任せるとして、会議はここまでって事でいいな。じゃあ、俺は西門の方にでも――」

 

実際の編成を確かめようと歩き出したところで腕が引っ張られてしまう。

 

「亞莎?」

 

掴まれた方向に首を向ければ未だ繋がったままの亞莎にぐいぐいと引き寄せられる。

 

「ああああ、あのっ! ……一刀様はここでしばらく指揮を執ってください。進軍戦ならいざ知らず危険な前線に出る必要はありませんから。きっと、大丈夫ですよ」

「いや、でもまだ戦いには余裕が……」

「……うぅ……一刀様ぁ……」

 

(やだ、なにこのヵゎぃぃ生き物)

 

両手で腕を引っ張りながら上目使いで涙目してくるとか卑怯すぎるでしょう?

 

「……まるで最近構って貰えなくて必死に愛想を振りまく犬さんみたいですね~」

「!! ……ぁぅ……ぁぅ……」

 

(ビンゴなのか亞莎!)

 

風の突っ込みに反応して真っ赤な顔でもじもじしだした。

その様子に稟が溜息をつく。

 

「……呂蒙殿の心情はともかく、一刀殿が前面に出なくていいのは本当ですよ。今陣頭指揮を執っている華琳様は色々と漲っていますからね。いても邪魔なだけでしょう。……はぁ……あの真剣な眼差しがまた見られるなんて……ぷふぅ!!」

「血の噴水!?」

 

恐らく始めて見た稟の隠し芸(?)に亞莎、驚愕。

まあ俺を含めた魏軍連中はいつも通りなリアクションに取り乱す事は無かった。

っていうか直ってなかったのか稟。

風が『はーい、とんとんしましょうねー』と介抱しながらこっちを向いた。

 

 

 

 

 

 

「ともかくお兄さんはここで待機しててくださいねー。華琳様ってば張り切りすぎて少し怖いぐらいなんですよ。命が惜しければ近づかない方が身のためと思ったり思わなかったりー」

「そ、そんなにか……!」

「……袁紹には散々煮え湯を飲まされたんだもの、お怒りになるのは当然よ。“蹂躙”とか“殲滅”とか仰ってたし」

「あっ、そういえば蓮華様も負けていられないってものすごく勇んでました。……ちょっと鬼気迫るくらいに」

 

次々と明かされる王の気概を知った俺はすかさず皆を見渡し、こう宣言した。

 

「俺もうここから動かない」

 

日本人は保守的なんです。

 

「効果抜群ですねー」

「普段からあの覇気に耐えているお方とは考えられませんね」

「……やっぱりへたれの変態じゃない。少しでも見直そうとか思ったのが恥ずかしいわ」

「……兵達にはこの姿見せられませんね」

「…………でも母性本能がくすぐられます」

 

机に齧りつくように身を硬くした俺に非難、中傷、好意が飛んでくる。

こっちからしてみれば二人とも普段から結構怖いんだぞ?

しかも相乗効果なのか、やきもちの具合が二倍、いや二乗な感じで迫って割と身の危険に晒される毎日を送っているんだ。

 

(無用なトラブルは避けるが勝ち……)

 

「あのー、会議ってもう終わりましたかー?」

 

この前の蓮華とのデートの結末を思い出し身震いしていると出口の方から凶兆の音ではない、ころころと可愛らしい鈴みたいな声色が聞こえてきた。

 

「ん? あなたは……劉備殿ですか? なぜこちらに」

 

凪が突然の声に振り返り相手を出迎える。

 

「えと、うちの雛里ちゃんがね? ご主人様はきっと城の中でお留守番するはずだからって言ってたの。

だから今のうちに独占して唾つけておこうかなーなんて思ったり?」

 

人差し指をちょこんと唇に当ててウインクする劉備さん。

こういう可愛い可愛いとした女の子は逆に新鮮だなー。

見惚れていると彼女の後ろからぞろぞろ蜀のみなさんも出てくる。

 

(……暇なのか? ……暇なんだろうな)

 

相変わらず鋭い視線を送ってくる魏延を見ない振りして視線を落とすと不意に息が止まった。

 

「――えっ?」

 

そこには見慣れない服装に包まれた二人の少女。

確か玉座の間に魏延が突っ込んできた時にちらりと見えたあの子が目の前に居る。

ヒラヒラのタイトスカートやフリルがふんだんにあしらわれたメイド服。

 

小さめの身長と愛らしい童顔。

一人はきつめの瞳でこちらを見据え、もう一人は恥ずかしげに目を伏せている。

あぁ、この子達は……。

 

「……久しぶりだね。月……詠……。元気だったかい?」

 

俺がこの世界で始めて戦場に出た泗水関の戦い、その出陣のきっかけとなった董卓こと月と軍師賈駆である詠が並んでこちらに歩み寄って来た。

 

「はい。あの時ご主人様が頑張ってくれたおかげで無事に逃げ遂せることができました。……再会できてうれしいです」

「ふんっ、あんた国の代表になんかになって元気いっぱいみたいじゃない。心配して損したわ」

 

腕を組み、首を逸らす詠とそんな彼女の仕草を可笑しそうに見守る月。

戦のうやむやでようやく再会できた俺達はしばし三人で語り合うのだった。

 

……。

 

…………。

 

「って駄目ですーーっ!」

 

うおっ!? いきなり亞莎が噴火した!?

 

「最終兵器であるメイド服をデフォで装備するなんて卑怯です! 卑猥です!!卑屈です!!! そ、そんなにも一刀様の趣味に合わせるなんてあ、あああ、あさましいです!」

 

慣れない罵倒のせいか未来の言葉が入り混じってるぞ。

 

「うぇ!? ボ、ボク達こいつの趣味に合わせてなんか――」

「だったら何でメイド服着て準備万端なんですか! そんな奇抜な服より私服のほうがよっぽど使者としてふさわしいじゃないですか」

「なっ、なによそれ! 人がなに着ようと勝手じゃない!」

 

興奮する亞莎と詠。二人を急いでなだめる。

まさか服装について噛み付くとは思いも寄らなかったぜ。

空いた片手で若干怯えた様子の月を頭を撫でながら双方落ち着くまで口を挟んでいく。

 

「……へぅぅ……ご主人様ぁ……」

 

む、たぶん撫でられてほわほわになってるであろう月の表情が見れないのが残念だな。

ちらりと視線を動かすとそんな光景を達観、もしくは面白がっていた劉備さんが優しい瞳でこちらを向いている。

口ではあんな事言ってたのにこっちが本題だったのか。

したり顔で微笑む彼女に無言でアイコンタクト。

 

(……ありがとな、桃香)

 

渦中の人物だった二人を保護するのは一苦労したはずだ。

記憶が戻っていないうちはなんとなく憚れる真名での呼び方でこの時だけは誠意を込めて感謝した。

 

「……気持ち悪い視線を桃香様向けるな」

 

グサリと言葉という名のナイフが突き刺さった。

 

(なに? なんでこの子だけ敵意たっぷりで俺を睨んでるの?)

 

軍議に乱入してきた時から感じてたけどもしかして俺の事嫌いなのか?

 

「そうだ」

 

そうですか……。

 

「風の噂で逞しくなったと期待していたのに、蓋を開ければ以前と同じ女ったらしじゃないか。まったくとんだ肩透かしだ」

 

申し訳ない、そればっかりはどうしようもありませんでした。むしろ喜んでました。

 

「ふんっ、そんな奴に桃香様は渡せんな。とっとと身を引け」

 

いや、でもなぁ。あのおっぱいで求められたら男として断れないと思うんだ。……勿論、時と場合はきちんと考慮するつもりだけど、

劉備さんの可愛いさは兵器クラスだろ、常考。

 

「お、おっぱ……!? この破廉恥男め! そこに直れぇぇ!!」

 

激昂した魏延が巨大な金棒を振り上げて迫ってくる。

 

「ちょっ! それはマジでシャレにならないって!」

 

当たれば確実に骨ごとひしゃげる、その重量感。

全然びびって無いけど、恐ろしいから戦略的撤退しよう。

 

逃げる俺。追う魏延。静観するみんな。

オウフ、やっぱりこの手の痴話喧嘩は誰も助けてくれないのか。

くっ、凪や稟の視線が痛すぎるぜ!!

 

「……えっと、今のご主人様と焔耶ちゃん、どうやって会話してたんだろ? ご主人様喋ってないよね」

「ふーむ。焔耶もなんだかんだでお館様と通じ合ってるという事でしょうな」

 

厳顔がにやりと頬を緩ませる。

その瞳には変わらず人の縁を繋いでみせる主を優しく見守る暖かさが篭っていた。

 

……。

 

…………。

 

「だったら助けて!? 割と命がストレスでマッハなんだけど!!」

 

先の亞莎ばりの突っ込みで助けを請う。

まだ終わらないよ!? 今回のお話も俺の命も!

どたばたと逃げ回っていると今度は出入り口の方から切羽詰まった大声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

「た、大変だーー! 北郷、北郷はどこにいるー!!」

「この声は……白蓮さん、でしょうか? 随分慌てた様子ですね……」

 

鳳統ちゃんが首を傾げている。

そういや此処にいなかったな、どこに行ってたんだろ?

おもむろに急停止して扉に注目した。

 

「うわぁぁぁ!? いきなり止まるなぁぁっ!!」

 

この行動を予測していなかった魏延が勢い余ったまま突っ込んでくる。

必死に足を踏ん張って停止を試みているようだが、如何せん速度が付き過ぎて惰性がものすごい。

 

キキーっと甲高い音を響かせながら滑り込む。

どんだけスピード出してたんだよ。この世界の住人はホント規格外が多いな。

そんな娘と追いかけっこに対応できた自分を褒めてあげたい。

自画自賛するが、危機は変わらず迫っているようだ。

すでに目と鼻の先に魏延の顔がある。

 

「お、お館っ! 退いてくれぇ!!」

 

せめてもと、握る金棒を横に逸らしているがこのままじゃ彼女と俺の激突は必至だろう。

 

「なら……よっ、と!」

 

ぶつかる瞬間、腰に差してあった刀で居合いを放つ。

目標は大金棒。

迫る威力を殺さず、手前へと軌道を逸らす。

 

結果は成功。対象は鈍く底に響くような轟音とともに、したたかに床に叩きつけられた、その反動で魏延が中空へと浮かび上がるがそこは計算内だ。

 

「ひゃあああ!?」

 

落ちてくる彼女をお姫様だっこでキャッチ。

 

(うん。ようやく落ち着いたな)

 

安堵して駆け込んできた公孫賛さんに顔を向ける。

 

「どうしたの、公孫賛さん? 問題でも発生したのかな」

「あ、ああ……すご……って、違う! 城下で民の混乱が収まらないらしいんだ。もっと人員を増やしてくれって近衛隊のやつらが……」

 

まだ足りないってのか? 防衛戦とはいえ全住人を一斉に逃がすわけじゃない。落ち着いて行動すれば人手は十分なはずだけどな。

 

「亞莎。人ってまだ回す余裕あるかい」

「え、っと……あまり手配は出来ないかと。残っているのは新兵ばかりですし、場を任せるにはちょっと」

「そっか。……なら」

 

……ちょうどいいな。

顔が真っ赤になっている魏延を下ろし、刀を納める。

 

「ご主人様?」

「月や詠は悪いけどここにいてね。ちょっと出かけてくるから」

「! まさかあんた、自分から出向くつもりなの!?」

「うん。俺が出て行ったほうが何かと安心感が出るだろ? 凪、付いてきて」

「え、いや……はいっ!」

 

さすが凪わんこ。すぐさま駆け寄って来たな。

後で存分にいい子、いい子してあげよう。

 

「一刀殿!? 軍の指示はどうされるのですか!」

「騒ぎが落ち着くまでは稟たちに任せるよ。なるべく早く戻るから」

「そんな無責任な! ……風も何とか言って!」

「………………………………………………ぐう」

「寝た!? ……魏の軍師さんはおおらかなのかな?」

「いや、あれは特別な部類に入ると思うぞ、桃香」

 

感心する劉備さんに公孫賛さんが答える。

まあ、うちの伝統芸能と思っていただければ幸いです。

逃げるようにこの場を後にする俺と凪。

道すがら凪が喋りかけてきた。

 

「隊長、なにか気になる件でもあるのですか?」

「ん。少しだけね」

 

胸には小さな違和感。なぜか今朝方の出来事が思い返された。

 

 

 

 

 

 

「ええい、落ち着け! 落ち着かんか、馬鹿者どもがっ!!」

 

ここ平原通用門では突然の敵襲来に対し、逃げ惑う住人が所狭しと殺到。

まさか攻められると思っても見なかった彼らの動揺は大きく、七乃や華雄率いる警備隊と真桜と沙和の近衛隊が合流しても混乱を抑える事が出来ないでいた。

 

「なんじゃこやつらは! 急に目の色変えおって、そんなに主様が信用できぬのか!」

 

憤慨する美羽。そこへ彼女の従者である女性が憶測を挟む。

 

「うーん。たぶん信用とかの問題じゃないと思いますよ、お嬢様。この街に集まったのは戦が嫌で逃れて来た人ばかりで、人一倍危機に対して敏感なんですよ」

 

実際、七乃の言うとおりだった。

一刀を『天の御遣い』として崇めていた民衆にとってこれはあまりに予想外、戦乱の世においてようやく安堵の地を得たと安心していたのにこの始末だ。

過剰なまでに動転し、我先にと逃げ惑う。

 

「おいっ! さっさと手伝わんか、そこの二人っ!!」

「なんじゃこやつは藪から棒に、わらわを誰だと心得ておる。恐れ多くも――」

「いい加減、名前くらい覚えろ!! 張勲! どんな教育をしているのだ!!」

「むむ、ちゃんとお教えしてますよー。……甘く、優しく、ゆとりを持って。そりゃあもう、箱入り娘のように大事にしてます。で、たまに見せる世間知らずなところが堪らなく可愛いんですよねー♪」

 

うっとりと顔を緩ます七乃。

突っ込みを入れたい華雄であったが、どうせいつもみたいに言い返されるのがオチなので今回は矛先を変えてみた。

 

「ならば袁術、張勲! そこな近衛隊の働きを見てみるがいい! あの働きを見て何も感じないのか!!」

 

こんな状況では人手はいくらあっても足りない。比較し、見直させる為にもと視線を無理矢理向けさせたのだが、そこに映った光景は華雄の予想を大きく裏切るものだった。

 

「おうおうおうー! ビチ糞の中から生まれる価値も無い給料泥棒どもーー! きちんと働いているのかー!」

「「「 イエス、マム!!! 」」」

 

「こういう非常時にこそ日頃の汚名を挽回すべく活躍してみせるのー! そうすれば糞以下のお前達は便所虫の触覚程度にはましになれると思えー!!」 

「「「 イエス、マム!!! 」」」

 

「声が小さい! お前達は返事がましなだけの蛆虫野郎かー!! もたもたするなら、貴様らの包○ち○こを毟り取ってケツに突っ込むぞー!!」

「「「 イエス、ノー、マム!!! 」」」

 

「だったらさっさと行動を開始するの、このまざーふぁっかーども!! 総員、駆け足!」

「「「 イエス、マム!!! 」」」

 

直角の姿勢で人員整理に精を出す近衛隊隊員。その瞳にはどこか恐怖を感じながらも恍惚の色が混じっている。

この独特すぎる応答を恐怖した子供の何人かは言葉の意味も分からず立ち止まり泣き始めてしまう。

 

「…………」

「…………」

「………………ひぐっ」

 

美羽が泣いた。

 

「ああもう面倒だ!! こうなったらワタシ一人、力ずくでも任務を遂行するぞ!!」

 

なぜか戦斧を振り回す華雄に真桜が慌てて飛びつく。

 

「力ずくて! ちょっ、華雄はん、こないなとこで乱心せんといて!? 近衛隊、押さえつけるの手伝ってや!!」

「「「 了解!!! 」」」

 

 

そんなこんなで事態の収拾がまったく落ち着かない頃。

民衆の中ではまことしやかに、あるざわめきが渦巻いていた。

 

「――くそっ、ここには天の御遣いがいるから大丈夫だって言った奴誰だよ! 結局戦に巻き込まれてるじゃねーか!!」

「――天は我らを見捨てになったのか……」

「――結局、北郷も他の領主と同じ無能なんじゃねーのか?」

 

他にも、『裏切られた』とか『君主様は本当に天から来たお方なのか』など、戦いが始まってもいない状態にも関わらず、様々な流言蜚語が飛び交っている。

 

「…………これはちょっと、違和感がありますねー」

「……ふぎゅ、ひわかん?」

 

涙ぐむ美羽を慰めながら七乃は疑問に思った。

 

――この状況、いかに新興国で新しい民への信頼を勝ち取っていない『北郷』であっても混乱の度合いが大きすぎる。

良く見ればただ一心不乱に逃げる者より、立ち止まり口論やヤジを飛ばしている人間も数多く、そのほとんどの内容が国ではなく一刀へと向いていた。

必要以上に高められた期待と羨望が反転し、人心掌握の弊害ともいうべき事態が起こっている。

 

「なんでしょうねー、どうにも作為的な匂いがぷんぷんします。誰かさんが良からぬ事を企み……ん?」

 

七乃の目に飛び込んできたのは小さな少女、一般人とは明らかに異なる上等な衣に身を包み込んでいる。

 

「――あれは二喬、さんですか? なぜこんな場所に……」

 

すぐに人ごみへと紛れてしまったが今横切ったのは間違いなく小喬、大喬の二人だった。

使者である彼女らはまず身の安全を確保しなければならないはず。それがなぜこんな城下に顔を出しているのか。

首を傾げる七乃であったが胸元に収まった美羽がまたも愚図りだしたので意識を一旦打ち切り、彼女をあやし始めた。

 

 

 

<つづく>

【節分ネタ?】

 

 

 

今日は二月三日――日本では節分の日だ。日ごろ退屈していたため、

朝議の際に真っ先にコレを議題として取り上げた。その時の諸将の反応は冷めたものではあったが。

 

「脳みそ腐ってるんじゃない?」

「食い物を粗末にするとは! 御館、見損なったぞ!」

「少なくとも一番に取り上げる議題ではないわよ、ばか太守」

「豆を捨てるぐらいなら恋殿に食べさせるべきですぞ!」

 

ふふ……可愛いツンツンな女の子は今日も活きがいいな。いつもの俺だったらこの罵倒の嵐に身も心も消耗していただろう。

だが!俺は知っている!

萌将伝で君たちがデレることを!!

 

 

 

 

 

萌将伝で桂花が孕むことを!!!

そんなメタなことを考えていると、間もなく華琳と蓮華に睨まれた。

 

(あ、相変わらず鋭いな……)

 

怒られる前に趣旨を話すことにした。

 

「この豆まきには意味がある。豆を“鬼”に投げ付けて、内に福を、あらゆる“魔”を外へと祓う儀式なのだ!!」

 

かなりはしょって説明したが、大体合っている気がする。

 

「鬼の面を付けた者に、豆をぶつければいいのか?」

「うん、そう」

「……よしッ」

 

春蘭の問いに答えたら桂花が俺を見ながらガッツポーズした。

大丈夫だ。桂花の力なら例え全力でも痛くならない気がする。

というかそもそも俺が鬼役をするとは言っていないんだけどな。

 

「……それで、その鬼役は誰がやるの?」

「ふふふ……焔耶だ!!」

「な、なんだとッ!? なぜワタシなんだ!!」

 

すかさず反論されるが無視。

理由は焔耶の持つ“鈍砕骨”が、俺の知る某“桃太なんとか”に出てくる鬼の得物にそっくりだからだ。キリッ!

無論、“桃なんとか朗”を知らない焔耶にうまく説明する術はない。

 

(だから当たり障りのない言い方をしよう)

 

「なぜなら焔耶……」

「なんだ!」

「君が鬼みたいだか――」

 

 

――ダッ     (焔耶が駆けだす音)

 

 

「ん?」

 

 

――ドカッ    (一刀が倒れる音)

 

 

「ぐえっ」

 

 

――スッ     (焔耶が一刀の腹の上に跨り、腕を振り上げている音)←マウントポジション

 

 

「……えっと……冗談ですよね……?」

「懺悔しろ」

「や、やさしくしてねっ!」

「ふぁっくゆー」

 

 

――ドガドガドガドガドガドガドガ.......

 

 

 

 

 

 

 

~しばらくおまちください~

 

 

 

 

 

 

「おでがおに゛やる゛……」(訳:俺が鬼やる……)

 

顔面が見るも無残に腫れている一刀の姿がそこにはあった。

焔耶の手甲にこびりつく血が生々しい。

 

「フン! 自業自得だ、馬鹿者!」

「あそこまでする必要なかったんじゃ……」

「桃香様は黙っていてください!」

「は、はい……」

 

俺、王なんだよね?なんだか自信無くなってきた。

 

「そう。それで肝心な豆の準備は出来ているの? 結構な量が必要だと思うのだけれど」

「ははは、任せてくれ。こういう困ったときの為の“まおえもん”だ」

「?」

「もう、仕方ないなぁたいちょはぁ」

 

振りをすると、どこからともなく真桜が現れた。それも猫型ロボットの台詞付きで。

 

「ウチの作ったこの“自動豆製造機”で、ぎょうさん豆作れまっせ♪」

「あら、でもお高いんじゃないの?」

「それがなんと、凪わんこが絶賛しとる“たいちょみにちゅあふぃぎゅあ”もついてにーくっぱ(2980円)やっ♪

売り切れごめんの商品やで!!」

「「買います!!」」

「……小芝居はいいから」

 

俺と真桜のコントに亞莎と明命がノり、蓮華がツッコむという見事な連携。

これは出し物が出来るレベルだな……。

 

「まぁ、そんなわけで豆の心配はないよ。やっていいなら早速準備するけど」

「準備ってなにかすることでもあるの?」

「いや、鬼の面被ったらここから脱兎の如く逃げないと死ぬじゃん。メンツ的に」

 

軍師たちはともかく、春蘭や焔耶などの武将たちの攻撃に耐えられる自信はない。

というか焔耶なんかさっき怒らせたから物凄くやる気満々だし。

 

「……それもそうね。いいわ、ではこれより半刻後に豆を持って出発するから、その間逃げるなり隠れるなりしなさい」

「ヒャッハー!!」

 

鬼の面をつけて、意気揚々と出ていく一刀の後ろ姿を見てほくそ笑む華琳。

なにかを企んでいる顔だ。

 

「さて、皆。景品無しじゃつまらないでしょう……」

 

華琳の計略が炸裂。

ただ豆を一刀にぶつけるだけだと何かつまらない。

つまらないなら楽しめるようにすればいいじゃない、という発想で思い付いたもの。

それは……!

 

 

「一刀に豆を当てた者は、今日一日一刀を好きにしていいわ」

「「「「「ヒャッハー!!」」」」」

 

 

狩りの時間が、始まった。

 

 

 

◆          ◆          ◆

 

 

さて、まだ城から出ていないわけだが……これもきちんとした作戦だ。

皆は恐らく俺が外に出ていったと思っている→裏をかいて城の中にいれば見つからないんじゃね?→俺天才じゃね?

という発想で思い立ったものだ。

 

ドタドタと城内を走る音がたびたび聞こえるが、それでも外に出ていった者たちの方が多いだろう。

このまま玉座の間まで戻って、玉座の後ろに隠れていよう、そうしよう。

 

 

来た道を戻る途中、凪に出くわした。

 

「な、なんで分かった!」

「隊長の匂いが残っていましたから(キリッ」

 

―パラッパラッ

 

「あうちっ」

「よし……一当て完了、他の者からお守り致します」

「へ?」

 

豆を軽くぶつけられたあと、急に優しくなる凪に思わず胸がキュンとしたが我慢だ。

楽進の罠かもしれない。きっと俺に残った豆を氣弾付きで喰らわせるつもりなのかも……。

 

 

でも、考えてみたら凪は俺のペットなので有り得ないな(^q^)

 

「なんだかよく分からないけど、任せたぞ忠犬凪よ」

「わんっ!」

 

やだ、可愛い。

 

(……隊長に豆をぶつけたのは自分だけのはず。ならばこのまま隊長を守りきれば独占できる!!)

 

意外としたたかな凪さんであった。

一方の一刀はそんな凪の考えていることなど分かるわけもなく。

 

(凪わんこ可愛いなぁ(*´ω`*))

 

と終始にんまりしていた。

 

 

 

 

 

 

そして当初の予定通り、玉座の裏に隠れる一刀と凪。

 

「そういえば、時間制限とか決めていませんでしたが、大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ、問題ない」

 

腹が空く時間帯になれば、外に出ている子たちも城内に戻ってくるはず。

皆が集まったときに俺が『遊びの時間は終わりだ』と言えばOK。

 

「にしても……本当ならこの“鬼子衣装”を蓮華や皆に着せるつもりだったのになぁ……」

 

俺の計画が見事に粉砕されたぜ。ちなみにこの鬼子衣装というのは、知る人ぞ知るあの『~だっちゃ☆』の着ている(履いてる?)ものだ。

人数分を用意してあって、色や意匠なんかがそれぞれ違うのが俺のこだわり。

 

 

「あら、可愛いじゃない」

「ははは! そうだろ!? そうだろ!? これをあの子たちが着て、俺が豆を優しく投げるんだよ!」

 

鬼は~外!(あっ♪) 福は~内!(んっ!)

……まことに惜しい。蓮華や恋あたりなら頼み込めば着てくれそうな感じはする。

 

「ってあなたは!!!」

「こんなところにいたのね、か・ず・と?」

「華琳様!?」「華琳!!」

 

ぬかった!華琳が近づいていることに全く気付けなかったぜ……。

心なしか隣に座っている凪も気落ちしているような、がっかりしているような……そんな感じの表情をしている。

 

 

「凪、抜け駆けをするとは抜け目ないわね」

「ぐっ」

 

唐突に華琳が笛を吹いた。

 

 

―ピィィィィィッ!!

 

 

高い音が辺りに響き渡る。

 

 

 

―ドドドドドドドッ

 

 

 

暫くして足音が近づいてきて……え?

 

「あの、華琳さん?」

「なにかしら? 一刀」

 

 

 

―ドドドドドドドドドドドドドドドッ

 

 

 

「も、もしかしなくても……皆呼んじゃいました?」

「ええ。みんな呼んだわ」

 

 

「ほんごぉおおおおおお!!喰らえぇぇぇ!!!!」

 

 

 

―バキュゥゥンッ!!

 

 

 

 

春蘭の投げた豆が当たった壁を見てみると、綺麗な穴が空いていた。

 

……。

 

…………。

 

「やぁだぁ! 俺逃げるの!」

「往生際が悪いわね。諦めなさい」

 

逃げようとするも華琳に腕を掴まれて逃げられない。

 

「だ、だって春蘭の弾丸が豆で俺を殺すんだぞ!?」

「大人しく喰らいなさい」

「穴が空く!?」

 

俺の意味不明な日本語をスルーしてムチャぶりする覇王様。

――キィィィィィン......

 

思えば、今朝からヒドイ目に合っている気がする。

そろそろ俺、爆発してもいいよね。

 

( 一 刀 、 性 欲 を 持 て 余 す )

 

――カッ!!

 

 

「うぉっ、まぶしっ!」

 

 

眩しがる春蘭たちの前に、全裸となった一刀が!!

 

「ご、ご主人様が乱心!? ……おっきぃ♪」

「「「桃香様!?」」」

 

「もう許さん……! オマエタチにはコレをキテもらう!」

 

さり気なく“うるせい☆”の衣装を出す。

 

 

 

「――んー……一刀ぉ、うちのコレちょっと小さくない? 胸がキツキツなんやけどぉ」

「……」

 

「隊長、似合ってますか(キリッ」

「……」

 

「お、お尻が……んんっ……キツいわ……」

「……ゥ」

 

「へ……へぅぅぅ……」

「イ……イヤッホォォォォゥ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

最初から……!

俺は……!!

最初から、“コレ、着てくれない?”って頼めばよかったんだ!!!

断る子の方が少ないということに気付けなかった俺のバカァ!!!!

 

 

 

 

下半身を滾らせながら彼女達に襲いかかる俺は、さながら狼さん。

鬼は鬼でも、可愛い鬼なら食べちゃう狼だぜ☆ミ

 

 

 

 

 

 

恐らく今後しないであろう二十人超え同時プレイを、五日間以上夢中になってヤった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その反動で、三日間たたなくなった|||_| ̄|○|||

<このお話は本編とは関係ありません>


 
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