No.199048

ポケットモンスターNovels 第5話

羽流さん

第5話『もうひとつの道』

2011-02-01 01:44:21 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:741   閲覧ユーザー数:732

*

キッサキ神殿を後にする。

マキナ『ミツキ! ミツキ……っ!』

マキナの叫びが聞こえ、胸が痛んだ。

逃げる必要なんて無い。

ただ、後ろめたかった。

力だけに拘る俺は、マキナの眼にはさぞかし滑稽に映る事だろう。

 

 

*

『遅ぇっ! 遅すぎるぜミツキっ!!』

傷心の俺を待ち受けていたのは、筋肉質な赤毛アフロのバカ野郎。

黄色いシャツを着たこの男の名前は、オーバ。

ポケモンバトルの腕前は俺と互角かそれ以上だが……

ミツキ『あー悪い悪い』

このノリを相手するのは面倒なので適当に答える。

オーバ『だーかーら、俺ら手伝うって言ったろ! なあ、ナツメもなんか言ってやれよ?』

オーバは、部屋の端で眼を閉じて瞑想している女性…ナツメに話しかけた。

が、ナツメはちらりともオーバの方を見る事なく瞑想を続けている。

すごい集中力だな。

それとも、スルーしているだけなのだろうか。

オーバ『グハァ無視かよっ?!』

オーバは背を仰け反って右手で自分の額を叩いた。

が、ナツメは完全にだんまりを決め込んでいる。

オーバ『……おーい、ナツメー?』

オーバは手をひらひらとナツメの顔の前で振ってみるが、ナツメが反応する気配は全くない。

沈黙。

――突然、ナツメが眼を見開いた。

オーバ『え゛っ?!』

同時に、オーバが見えない力によって後ろに大きく弾き飛ばされる。

人間ってあんなに飛ぶものなんだな……

……じゃなくて。

ミツキ『ナツメ、超能力使ったろ』

──ナツメは他の人とは違う異質な能力を持っている。

そのため、幼い頃から化け物と恐れられてきたらしい。

それが関係しているのかは分からないが…かなり複雑な性格をしている。

というか、捻ねくれている。

ナツメ『あぁ、すまない。鬱陶しかったもので、つい』

ナツメはそう言って髪をかきあげた。

……つい、で念力を受けたらたまったものじゃないな。

オーバ『ってめぇ、なんのつもりだコラァ!』

まぁオーバが怒るのも当然なわけで。

オーバは眉をつり上げて頬を膨らませている。

対してナツメは、邪気たっぷりな笑顔を見せた。

ナツメ『別に? お前が私の目の前にいたのが悪いんだバカアフロ』

ナツメはふん、と鼻を鳴らす。

あー……とことんオーバを怒らせたいようだな。

オーバ『お、ま! 俺と勝負しやがれ! ぎゃふんと言わせてやる…ッ!』

オーバが喚く。

なんでそうなるんだ。

ナツメ『──その喧嘩買ってやる。身の程を教えてやろう』

ナツメも、乗るなよ。

っていうかどう考えても喧嘩売ったのはナツメだろ。

オーバ『言ったな! その高慢な鼻をへし折ってやるぜ! 場所変えんぞっ!』

オーバはどかどかと足音を立てて歩いて行く。

ナツメは嬉々としてそれに続き、後には俺だけが残される。

厄介な事になったな……

嫌だけど、とりあえず俺も見に行くとしようか。

死人が出たら困る。

オーバは周りの被害を考えないし、ナツメは手加減を知らない。

……気が重くなる。

オーバ『おーい! 早く来いよっ!』

オーバが大声で俺を呼んだ。

今から行くところだって。

ミツキ『あーわかってるよ』

適当に返事をして、渋々腰をあげる。

ナツメ『ミツキには後で、私が勝った事を証明してもらわなければならないからな』

ナツメはさも当然のように堂々と言い切った。

あーもう。またそういう事を。

オーバ『んだとコラァ! 勝つのは俺だコンチクショー!』

はいはい。

勝敗はどうでもいいから、とにかく滅茶苦茶しないでくれるよう祈っておこう。

 

 

 

お互いに使用ポケモンは4体。

途中交代不可。

1対1の勝ち抜き戦だ。

ミツキ『それで良いな? 2人共』

……まったく、なんで審判までやらなきゃならないんだ。

まあこの程度ならおやすい御用だが。

オーバ『おう! オーケーだぜ!!』

オーバがぐっ、と親指を立てる。

ナツメ『私は常に万全だ』

ナツメは俯き加減で目を閉じ、腕を組んでいる。

瞑想中といったところか。

……よし。

そろそろいいだろう。

ミツキ『では、戦闘開始!!』

審判らしく声を張り上げる。

両者、ほぼ同じタイミングでモンスターボールを投げた。

オーバ『行くぞモウカザル! 俺達の熱い魂をぶつけてやろうぜ!!』

ナツメ『全開で潰せネイティオ!』

白光と共にモウカザルとネイティオがボールから飛び出す。

モウカザルは両腕で自身の胸を交互に連打。ネイティオは微動だにせず直立していた。

……オーバは炎タイプのポケモンの使い手。

自分の名前が炎技のオーバーヒートに似てるからとかいう理由で炎タイプに拘っているらしい。

対するナツメは、エスパータイプのポケモンを使う。

ナツメとはカントー地方で出会った。

ナツメの力は弱っていたらしく、そこでバトルした時は俺が勝った。

だが、俺と旅をするようになってシンオウ地方に来て、着実に力を取り戻していっているようだ。

オーバ『燃えろモウカザル! オーバーヒートだッ!』

オーバの指示を受け、モウカザルが最大出力で燃え盛る炎を纏う。

……いきなりとっておきかよ。

ナツメは動かない。無言でネイティオを見つめる。

と、ネイティオはモウカザルと全く同じ動作を行い、炎を纏った。

オーバ『な、何っ!?』

そしてモウカザルが動くより先に、自身に纏わせていた炎を撃ち出す。

──先取り、だ。

相手の出そうとした技を先に出す特殊な攻撃で、その威力は元の技よりも格段に強力になる。

ネイティオの放った炎……オーバーヒートはモウカザルに直撃。

モウカザルは力尽きて倒れた。

ここまでか。

ミツキ『モウカザル戦闘ふの……』

オーバ『待てー!!』

んあ?

オーバ『俺のモウカザルはまだ戦えるぜ! 立てモウカザル!』

……いや、モウカザル、ぴくりとも動かないし。

ミツキ『モウカザル戦闘不能! 勝者ネイティオ!』

オーバ『ちょっとぉおお……ッ!?』

無視だ無視。

ミツキ『2回戦! さあオーバ、ポケモンを出して』

あくまで冷静にジャッジしないとな。

オーバ『クッソー! 戻って来いモウカザル! ……行くぜギャロップ! たぎる心をぶちかませ!』

オーバはモウカザルをボールに戻して新たにギャロップを繰り出した。

ギャロップはかつかつと蹄を鳴らす。

……ったく。

ホントに面倒くさいやつだな。

まぁ、こういう所がオーバらしいんだが。

ミツキ『開始!』

合図と同時、オーバが叫んだ。

オーバ『ギャロップ、メガホーン!』

ギャロップが駆け、ネイティオに猛進する。

ギャロップは頭を振って大きな角を突き立て、ネイティオを大きく後方へ弾き飛ばした。

オーバ『休む暇を与えるな! 続けて炎の渦だ!』

ギャロップが口から炎を吐いた。

炎は直進してネイティオに命中。直後に大きな渦となってネイティオを飲み込んだ。

ネイティオの姿が渦の中に消える。

オーバ『よし……』

――刹那、ネイティオが上空からギャロップの目の前に飛来した。

オーバ『……ッ!?』

ネイティオの両眼が怪しく光ると、ギャロップは我を忘れたように暴れだして何度も壁に突っ込んだ。

混乱している。

オーバ『ああっギャロップ?!』

炎の渦が消滅すると、そこには焼け焦げたネイティオ……の姿をした人形が転がっていた。

身代わりだ。

…おそらくは、メガホーンより前。

自身の体力を削って身代わりを作り、本体は隠れていたのだろう。

ナツメ『──終わりだ』

ネイティオが翼を広げ、飛ぶ。

ネイティオは回転しながらギャロップに突撃し、尖った嘴をギャロップに突き立てた。

ギャロップは一撃で倒れる。

ミツキ『ギャロップ戦闘不能! 勝者ネイティオ!』

オーバ『ク、ク、クッソー!』

オーバはうがーと頭を抱えて叫ぶ。

……これがナツメの怖さだ。

先程から、ナツメは一切ポケモンへの指示を声に出していない。

テレパシーでポケモンと心を通じ合う事が出来る、とは本人の言葉。

加えて、多少の未来予知も可能だという。

なんだそれ。反則だろ。

オーバ『止めだ止めっ! 勝てる気がしねーよ!』

降参、か。

普段オーバは途中で試合を放棄するような真似は滅多にしないのだが……

さすがに実力の差を感じ取ったのだろう。

むしろ、これ以上戦闘を続行して無意味に自分のポケモンを傷付けるつもりなら俺が止めていた。

ミツキ『オーバ、ギブアップ! 勝者ナツメ!』

勝敗はなんとなく予想していたが、まさかここまで差があるとは思わなかった。

取り敢えずナツメの強さを確認出来た事は収穫だが。

ナツメ『理解したかバカアフロ?お前と私では格が違う』

オーバ、これは立ち直れない……

オーバ『クッソー! 次やる時は今までの俺じゃねー!絶対勝ーつ!!』

でもないのか。よくわからんやつだ。

ひとまず、スランプの心配はなさそうで安心した。

ナツメ『ふん、それまでは私の下僕として農耕馬のように酷使してやろう』

覚悟しておけ!と、ナツメが高笑いする。

……同情するぞ、オーバ。

 

 

 

ナツメ『……で、だ。この後はどうするんだ? ミツキ』

ナツメはつまらなさそうに前髪を弄りながら言う。

オーバは燃え尽きて無言になっているので放っておこう。

ミツキ『――そうだな、当面は各々のレベルアップが最優先か』

……おそらくだが、今のナツメは俺より強い。

しかも、ナツメは未だ全盛期より劣るという。

うかうかしていられない。すぐに抜き返す。

俺は誰よりも強く、頂点を目指す。

 

 

*

ハクタイの森。

逃げるようにハクタイシティを去った私たち3人は、

マキナ『また迷ったー!』

再び迷っていた。

な、なんでだよ……!

3人も連れがいるのに迷うってどういう事だ。

今度はカイリがしっかり道案内してくれて、

私はちゃんとそれに付いて行って、

スズナがいつの間にか何処かに行ったから2人でそれを追いかけて……

……?

マキナ『……待て。今何か可笑しくなかったか』

もう一度考えてみよう。

今度はカイリがしっかり道案内してくれて、

私はちゃんとそれに付いて行って、

スズナがいつの間にか何処かに行ったから2人でそれを追いかけて……

 

マキナ『お前が犯人かスズナ……ッ』

全力で振り返ったけど、そこにいたのはカイリのみ。

……何処に行った!

マキナ『……カイリ。スズナは?』

満面の笑みでカイリに訪ねる。

カイリの顔がひきつったように見えたのはきっと気のせいだ。

カイリ『あ、あぁ。今、そこの洋館に走って……』

へー。

洋館にね。

マキナ『なんで止めなかったの?』

にこ。

カイリ『い、いや、お前がぼーっとしてたから、引き返して呼びに来た』

あーちょっと考え込んでたもんね。

周りが目に入ってなかったみたいだ。

こんな事をしてるから迷う羽目になるんだ…気を付けないと。

マキナ『ん、ごめん。じゃあ、さっさとスズナを追いかけよう?』

これ以上迷子になってたまるか。

カイリ『あ、あぁ。行こう』

って、うわー……見るからに何か出そうな洋館だな。

ま、私はお化けとかは信じてないから平気なんだけど。

スズナはなんでわざわざ入って行ったんだろう。

カイリ『……恐ろしいやつ』

ぼそっ。

マキナ『ん? 何か言った?』

主に私の悪口とかが聞こえた気がしたんだけど。

カイリ『いや何も』

カイリはぶんぶん首を横に振る。

……明らかに不自然だ。

マキナ『? なら良いけど』

カイリがそんな事言うわけないか。

気にしない事にしよう。

マキナ『こら待てースズナー!!』

 

 


 
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