No.199021

ポケットモンスターNovels 第1話

羽流さん

ジャンル:
オリキャラメインの二次創作小説
16才の少女マキナがシンオウ地方を舞台に冒険を繰り広げるお話
登場する様々な人物の視点からストーリーを展開していく

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2011-01-31 23:44:16 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2318   閲覧ユーザー数:2227

 

*

それは、雪の降る町での事だった。

キッサキシティ。

私の住むシンオウ地方では最北端に位置する町。

年中雪の止まない、白銀の町。

──私の名前は、マキナ。

女の子してます。

 

……数ヶ月前、16才になった私は初めて旅に出た。

行動を起こすのがちょっと遅かった気もするけど、今の今まで世間知らずでいたんだから仕方ないという事にしておこう。

私の家はわりかし裕福で、何不自由ない恵まれた生活を送ってきた。

けどそれは、四方八方を囲まれた檻の中の話で、

……、

それが嫌になった。

実のところ、家族と喧嘩して飛び出して来てしまったのだ。

持ち物は鞄ひとつ。

その鞄の中も部屋にあったものを手当たり次第に適当に詰めただけ。

辛くて、謝って帰ろうかと思った事もあったけど……

慣れてくるとまぁ、楽しいものだ。

フレンドリィショップやポケモンセンターで仕事を貰って、お金を稼いで。

ある程度貯まったら次の町へ。

自分で言うのもなんだけど、旅をはじめてここ数ヶ月、かなり逞しくなった気がする。

……鞄の中。

忘れていた小さな思い出。

私とあの人の友情の証だった、ひとつのモンスターボール。

何故今まで忘れていたんだろう。

それを受け取ったのは何年前の事だろうか。

鞄に紛れていたこのモンスターボールを見つけて、

私は……、

投げる事ができなかった。

会う事が怖かった。

大切な、大切な私の友達だ。

会いたくないわけがない。

けど、

いくらモンスターボールの中が快適だとはいえ、何年も放置していたんだ。

嫌われたに決まっている。

──気が付くと、私はモンスターボールを握りしめていた。

……会いたい。

、会っても良いんだろうか……?

『ねーねーそこの君!』

……!

突然声をかけられた。

振り向くと、そこには15、6才程度だろう少女がいた。

髪を左右で三つ編みにしていて、白いシャツにオレンジ色のスカートといった姿。

水色の上着を腰に巻いていた。

面識は多分、ない。

会った事があるのかもしれないけど、覚えている範囲にはない。

マキナ『ぁ……、何か?』

慎重に訪ねる。

『はじめまして、あたしの名前はスズナ! よろしくね!』

スズナと名乗った少女は、握手を求めて、私に手を差し出してきた。

やっぱり初対面だったか。

でも……、すごく元気の良い人だな。

なんとなく悪い人じゃない気がする。

マキナ『えぇと、私はマキナ。……よろしく』

私も手を出して握手に応じた。

スズナ『早速なんだけどさ、マキナもポケモントレーナーだよね? あたしとバトルしようよ!』

……あー、しまった。

ポケモントレーナーか。

今までなるべくポケモンを持っている事を隠していたのに……、

つい感傷に浸ってしまっていた。

っていうか、これは反則じゃないだろうか。

……うーん、、

なんとか誤魔化せないかな。

マキナ『でも、私はポケモン持ってないし……』

……いや、馬鹿だろ私モンスターボール持ってたし。

言ってから後悔した。

誰がこんな嘘を信じるんだよ。

しかも、ポケモン無しでこんな辺境まで来れる人がいたら、それはまともな人間じゃないと思う。

まあ私は野生のポケモンやトレーナーとは絶対に戦わないように避けていたんだから、実際ポケモンは必要なかったわけで。

今の定義で言うなら、私はまともな人間じゃない事になるわけなんだけど。

スズナ『んーそっか、それじゃ仕方ないね。スズナの勘も狂ったかー……』

……なんでやねん! と内心ツッこみを入れつつ、結果オーライという事で納得しよう。

うん。よかった。

バカな人で助かった。

スズナ『……そうだ、あたしのポケモンを貸してあげるよ! それで、そのモンスターボールでマキナが自分のポケモンを捕まえれば問題無しだよねっ!』

前言撤回!

バカにも程があるって……!

マキナ『い、いや、それはさすがに悪いかなー……なんて、、というか、初対面の人に自分ポケモンを預けるなんて危ないんじゃ……』

スズナ『きっと大丈夫だよ!』

……あぁもう、泣きそうだ。

その確信がどこから来るのか教えてほしい。

マズい。非常にマズい。

これでポケモンを預かってしまうのは良心が痛むってば……

私は本当はポケモンを持っているっていうのに。

スズナ『……ところでマキナのポケモンは可愛いのかなー?』

と、スズナが身を乗り出す用に聞いてくる。

マキナ『え? あ、うん、そりゃあ勿論可愛いに決まって……』

そして律儀に応える私。

 

スズナ『……』

 

マキナ『……』

 

……やっちまったぜ☆

スズナ『ねー、スズナとバトルしてくれるよね?』

そう言うスズナは嬉々としていた。

あぁ、こんなレトロな手に引っ掛かった自分が憎い。

というかバカじゃなかったんだね見直したよスズナ……!

スズナ『ねーマキナー』

どうやら、抵抗もここまでのようだ。

よし。

こうなったらさっさと勝つか負けるかして解放してもらおう。

うん、それがいい。

マキナ『お、お手柔らかにお願いね』

スズナ『うん、全力で行きます!』

……あーもう。こういう性格なのか。

スズナ『おいでニューラ!』

スズナがモンスターボールを投げると白い光と共にニューラが出現した。

スズナのニューラは両腕を前に構え、誇らしげに自慢の爪を見せる。

うわぁ、いかにも強そうな感じだな。

マキナ『……出てきてっ』

私もスズナに続いてモンスターボールを投げた。

、こんな形でまた会う事になるとは思わなかったけど……、

……

…………

白い光を纏ってポケモンが現れる。

キリッとした赤い目に黄色い小柄な身体に、着物の袖のような手に袴のような足。

頭から黒い蔓のようなものが垂れ、その先端には瓜のような形の、キバのついた大きな鋼鉄の口があった。

――友達に貰った、私のはじめてのポケモン。

スズナ『……? 見た事ないポケモン……だね』

見慣れないポケモンに、スズナは少し戸惑っているようだ。

私は意を決して、自分のポケモンにおそるおそる声をかけた。

マキナ『……久しぶり、クチート』

 

 

 

クチートは目を閉じて威風堂々と腕を組んでいる。

対峙する敵に意識を集中させているようだ。

敵──スズナのニューラは、ゆっくりとクチートへ近づいてくる。

突如、クチートが鋼の口を大きく開けて鳴き声を上げた。

クチートの威嚇を受けたニューラが一気に後退する。

ニューラはスズナの方を振り返った。

スズナ『……威嚇ねっ! 気合い負けしないでニューラ! みだれひっかき!』

スズナの指示を受けて、意を決したニューラがクチートに飛び掛かる。

、クチートは微動だにせず、襲い来るニューラを見つめていた。

……っ!

マキナ『え、ちょ……待、クチート!』

どうしよう、、戦い方がわからない。

私はクチートの事を何も知らない。

クチートが何を出来るのか、わからない。

戦った事なんて1度もないのだから。

マキナ『クチート、逃げ……っ』

叫んでも間に合わない。

ニューラの鋭い爪が神速で数度繰り出された。

私は咄嗟に目を瞑ってしまっていた。

鈍い打撃音。

暗闇の中、悲鳴が聞こえる。

クチート……ッ!?

……

おそるおそる目を開けると、

そこには、何事もなかったかのように佇むクチートの姿があった。

マキナ『……え?』

私の心配とは裏腹に、クチートは全くの無傷。

未だ聞こえる悲鳴はニューラから発せられているものだった。

スズナ『ニューラ!?』

ニューラの爪が欠けている。

スズナ『……鋼タイプね!』

クチートは見せつけるかのように鋼の口を左右に振って、赤い瞳を私に向けた。

…、

クチートが私に、一緒に戦えと訴えている。

マキナ『……そっか。その口が、君の武器なんだね』

、クチートが笑った気がした。

スズナ『……っ、行ってニューラ! 冷凍パンチ!!』

ニューラが腕を振って再び戦闘態勢に入った。

右手に冷気を纏わせてクチートに突撃する。

マキナ『クチート、防いで!』

はじめてトレーナーとしての私の命令を受けたクチートは、今度は確かに、嬉しそうに笑った。

クチートはニューラの冷凍パンチを鋼の口で受け止め、軽々と弾く。

ニューラがバランスを崩し、よろけて退がった。

いっ、けぇ……ッ!!

マキナ『クチート、かみつく攻撃!』

クチートは即座に反応する。

クチートの鋼の口がグバァ、と限界まで開かれ、そのままニューラを挟み込む。

直撃を受けたニューラはふらふらと足がおぼつかない様子でしばらく歩き、倒れた。

スズナ『……っ、戻ってニューラ』

スズナがボールをかざすと、ニューラは赤い光に包まれてボールへと吸い込まれる。

スズナはふぅ、と一息ついて私に向き直った。

満面の笑顔。

スズナ『マキナ、すごいんだ! かなり尊敬するかも』

それは、素直な賞賛の言葉。

スズナは目を輝かせて私に視線を合わせてくる。

……うわー、眩しい。

これ、言ったら落ち込むかな…?

マキナ『……えっと、その、私、今日はじめてバトルしたんだけど…さ』

、スズナが不自然に硬直した。

うぅ気まずい。

スズナはすぐに驚いた表情になった。

スズナ『え、嘘!? こんなに強いのに初めてだなんて』

スズナの疑問はもっともだ。

正直、自分でも勝った事が信じられないし。

マキナ『あ、あはは……今まで逃げ回ってきたからさ……』

てへ、と笑ってみせると、スズナは俯いた。

落ち込ませちゃったかな……?

そりゃあ、はじめてバトルをした人間に負けたらキツいよね。

いや、私の場合クチートが元から強かっただけなんだろうけどさ。

と、いきなり、スズナが両手で私の腕を掴んで胸の前に寄せた。

心なしか、目がきらきら輝いている気もする。

スズナ『すごい! それって本当にすごい!』

……あぁ、そうきたか。

スズナ『ポケモンリーグには挑戦しないの? きっとマキナなら良い線いけるよ!』

スズナは明後日の方向を指差す。

マキナ『……あのさ、スズナ』

熱弁中のところを悪いんだけど。

スズナ『はい!』

マキナ『ポケモンリーグって……何?』

再び、スズナが固まった。

 

 

 

*

バトルの後。

スズナに連れられて、私はキッサキシティのポケモンセンターにいた。

壁にかけられた巨大なモニターでは激しいポケモンバトルが映し出されている。

四天王と呼ばれる最強のトレーナーが挑戦者を迎え撃つ、ポケモンリーグの光景。

その中でも特にクローズアップされていたのは、金髪の女性だった。

黒いドレスが良く似合っている。

――チャンピオンのシロナ。

四天王のさらに上、リーグの頂点に立つポケモントレーナー。

形容するなら、無敵。

素人の私が見ても破格の強さが伝わってくる。

シロナ『いきなさいガブリアス! ドラゴンクロー!!』

シロナの神速の指示の元、ガブリアスが相手のポケモンを打ち倒す。

シロナとガブリアスの息はぴったりで乱れがない。

ひとつの演舞のようなその戦いは荒々しくもあり、美しかった。

なんとか四天王に勝った挑戦者も、ことごとくシロナの前に敗れてリーグを去っていく。

挑戦者は全力でリーグに挑み、四天王もチャンピオンも、自身の全力で応じる。

そこには、ポケモンバトルに全てを捧げるまっすぐなトレーナーたちの姿が合った。

……、

マキナ『……格好良い』

私はシロナに見惚れていた。

スズナ『全てのポケモントレーナーの憧れポケモンリーグ。みんな、あの場に立つ事を夢見るんだよ』

スズナは優しい目をして話す。

…不覚にも聞かれていたようだ。

マキナ『……まぁ、ひとつの目標にはなるかもね』

私もあんな風になれるだろうか。

シロナのように、悠然と戦うポケモントレーナーに。

……私がそんな事を思っていると、スズナが話を切り出してきた。

スズナ『……マキナ。あたしと一緒にポケモンリーグを目指してみない?』

マキナ『え?』

スズナ『旅は道連れって言うよね? きっと、1人より2人の方が楽しいに決まってるからさ』

…とんでもない提案だ。

見ず知らずの人と2人旅なんて、普段の私なら考えられない事だろう。

普段の私なら、ね。

――さっきまで初対面だったのに、私はもうスズナの事を微塵にも警戒していなかった。

どころか、慣れ親しんだ親友のように感じている。

そっか、これがバトルで会話するっていう事なんだ。

ポケモンからうまれる友情。

……うん。案外悪くない。

元々、目的もなくフラフラしてるだけだったんだし。

マキナ『……まぁ私は、スズナさえよければ』

……たまにはこういうのも良いよね。

見る見る内にスズナが笑顔になっていった。

スズナ『やったぁ! じゃあ、決まりだね! 改めてこれからよろしくね、マキナ!』

スズナは軽く頭を下げて、出会った時のように右手を差し出してきた。

……、

私はその手を、しっかりと握った。

 

 


 
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