桃香さん達が袁術さんの元を去ってから数日。
徐州の平定に費やしていたのでしょう。
曹操さんに目立った動きがありませんでした。
私達は、曹操さんの動きに気を付けつつ今までと同じような毎日を送ってました。
それは、文字通りつかの間の休息だったようです。
その知らせは、突然届きました。
いつも通り、日々の報告を袁術さん達にしていたところ、傷ついた兵士さんが玉座の間へ飛び込んできました。
「報告します!! 曹操軍が北方の砦を突破して我が領内に侵入してきました!!」
「なんじゃと!!」
「防衛の軍が応戦していますが、なにぶん曹操軍が大人数の為苦戦しております!! なにとぞ援助を!!」
そう言うと、その兵士さんは気を失ってしまいました。
張勲さんが衛生兵を呼んで、その兵士さんを連れて行きました。
「曹操さんが攻めてきたみたいですよ。お嬢さまどうします?」
「曹操なぞ、追い返してやるのじゃ!! 孫策!!」
「何、袁術ちゃん?」
「今すぐ曹操を追い返してやるのじゃ!!」
「え~!! 私達がやるの?」
「そうじゃ!!」
袁術さんに言われ、不満を言う孫策さん。
でも、それも短時間でした。
しばらくして納得したように言いました。
「判ったわよ。曹操を追い返せばいいのね」
「そうじゃ!!」
孫策さんは、袁術さんの言葉に一度頷くと、何やら思いたったような表情で言いました。
「でも、袁術ちゃん。私と冥琳と祭の三人じゃ、とてもじゃないけど曹操は追い返せないわよ」
「それでもやるのじゃ!!」
「そうねぇ。妹達を呼び寄せれば曹操くらい簡単に追い返せるわよ。呼んでもいいかしら?」
「おお、構わぬから早くするのじゃ!!」
「了解。あと、兵士も貸してくれないかしら? 私達に割り当てられている数じゃ無理よ」
「七乃、大丈夫かの?」
「そうですね~。大丈夫だと思いますよ」
「うむ。兵士達を連れて行けばいいのじゃ」
「ありがと。さあ、冥琳、祭。曹操の奴に孫呉の力を見せるわよ!!」
「うむ」
「久々に腕が鳴るのぉ」
孫策さんの問いかけに、周瑜さんと黄蓋さんが答えます。
こうして、三人は玉座の間を出て行きました。
三人とも久々の戦に、はやる気持ちが抑えられないようでした。
特に孫策さんは、普段見たこと無いような笑顔を見せていました。
戦好きとして知られているので、その為のようにも思えましたが、私には別の意味で嬉しいように見えました。
「なあ、俺達はどうすればいいんだ?」
お兄さんが袁術さんに聞きます。
「曹操の相手は孫策に任せておけばいいのじゃ。一刀達は妾と一緒にここに居ればいい」
「そうか……」
お兄さんは、袁術さんの言葉に納得できないような返答をしました。
そう、私も先ほどの孫策さんの態度に違和感を覚えました。
そこで、私は北郷軍の皆さんに集まってもらうことにしました。
袁術さんには久々に話がしたいと適当な事を言って、北郷軍の皆さんだけで集まってもらいました。
ただし、国内を駆け回っている張三姉妹を除いてですが。
「風よ、皆を急に集めてどうしたのだ?」
「そうや。曹操が攻めてきたっちゅう事と何か関係あるんか?」
「そうですね~。それと関係してくるかもしれません~」
全くの無関係と言えば嘘になります。
ですが、そこまで関連してくる事かどうかは、今の段階ではなんとも言えません。
「なんや。勿体ぶった言い方やなぁ」
「いえ~。今の段階ではまだなんとも言えませんので~」
「それなら、急に皆を集めた理由は?」
白蓮さんが直球な質問をしてきます。
「そうですね~。皆さんは孫策さんが出陣した事は知っていますよね~?」
私の質問に皆さんが頷きます。
「孫策さんが曹操さんと戦う為に要求した事~。一つが妹さん達、おそらく孫権さんやそのお付きの人達でしょう~。その人達を呼び寄せる事~。もう一つは兵士さんを借り受ける事~」
「それがどうしたのだ? 当たり前の要求のように私は思えるのだが……」
「当たり前だけど、孫策が目指している事を合わせると、結構危険なんじゃない?」
詠さんが答えます。
「その通りです~。孫策さんの目指すところは孫呉の復興~」
「孫呉の主要な武将が揃い、且つ兵士の数も万全となると……」
「そうです~。今が復興に向けて動くには絶好かもしれません」
「確かにそうだけど、曹操との戦いはどうなる?」
数字上や状況的には絶好です。
ですが、今は曹操さんと戦わないといけない。
その疑問をお兄さんはぶつけてきました。
「曹操さんとの戦いですが~。もしも、曹操さん側が孫策さんに何か借りを作っていたら~」
「そんなのがあれば、協力する事もあり得るな」
「だけど、そんな貸し借りを作るようなやり取りをあの二人がしているとは思えん」
「曹操さんがそんな借りを作るようなことはしないと思いますよ~。ただ……」
「その部下は、判らないか……」
「そうですね~」
曹操さん自身でなくても、そこにいる武将さんが孫策さんに借りを作っている可能性はあります。
それが利用できるとなると、今の状況はかなり危険です。
「それなら美羽に伝えた方がいいんじゃないか?」
「いえ~、今話している事はあくまで風の想像の域を出ません~。なので、袁術さんには話さないのがいいと思いますよ~」
「そうだな。袁術の事だから、北郷が話したらそれを信じて何をしでかすか判らないからな」
「そうね。今は様子見でいいんじゃない?」
詠さんの言葉に皆さんが頷きました。
「それなら、みんな。常に最悪の事態を想定して動くようにしよう」
お兄さんの言葉でその場は解散されました。
曹操さんが攻めてきたという報告から数日。
孫策さんが曹操さんと戦っているはずなのですが、一向に報告が来ません。
もしかしてという想いがしていた矢先、やはりという報告が届きました。
「孫策軍が謀反を起こしました!! 曹操軍と連合し、こちらに向かってきております!!」
「なんじゃと!!」
兵士さんからの報告に、その場がざわめきました。
思った通り、孫策さんは孫呉復興の為に反旗を翻したようです。
曹操さんと連合で来るとなると、今の私達では太刀打ちできません。
「孫策!! 今まで助けてやったというのに!!」
「そうでしょうか~。孫策さんを結構いじめていたように見えましたけど~」
「七乃、何か言ったかの?」
「いえ、別に~。それより、お嬢さまどうします? 孫策軍と曹操軍が攻めてきますよ」
「一刀達がいるから問題ない」
袁術さんはそういって胸を張ります。
正直、私達ではどうする事も出来ません。
「いや、美羽。俺達じゃあの二人の軍にはどう転んでも勝てないぞ」
「なんじゃと!! 一刀は天の御遣いじゃろ!!」
「いや、それは関係ないと思うけど……」
袁術さんの言い草にお兄さんも困っています。
「美羽、今は早く逃げ出さないと」
「ここは妾の城じゃ!! なんで逃げる必要がある!!」
「孫策軍と曹操軍が来るんですよ!! 今のままじゃ私達殺されちゃいます!!」
張勲さんもさすがにまずいと思ったのか、必死に訴えています。
それでも、袁術さんは動きません。
「お兄さん、仕方ありません~。袁術さんを置いて風達だけでも逃げましょう~」
私はそう言うと近くの兵士さんにお願いして、今ここにいない皆さんへ伝言をお願いしました。
「しかしだなぁ」
お兄さんは踏ん切りがつかないようです。
「……逃げる時間なんて無いと思うわよ」
その時、玉座の間の入り口から聞き慣れた声がしました。
「孫策(さん)!!」
そこにはここにいるはずのない孫策さんが立っていました。
「孫策!! 曹操を倒しに行ったはずじゃ?」
「行ったわよ。でも、残りは冥琳にお願いしちゃった。私は後始末をするために戻ってきたの」
「後始末?」
「そう……」
そう言って、孫策さんは腰に下げている剣を抜きました。
「袁術!! お前の命を奪うためによ!!」
かけ声と共に駆け出す孫策さん。
袁術さんは突然の事に身動きが取れないようです。
そして、あっと言う間に近づいたかと思うと、手に持っていた剣を袁術さん目掛けて振り下ろしました。
いつ聞いてもイヤな肉を切り裂く音がしました。
ですが、切られたのは袁術さんではありませんでした。
「ぐっ……」
お兄さんが左腕を押さえて座り込んでいます。
「一刀!!」
孫策さんが剣を持ったまま叫びました。
袁術さんは突然の事に青い顔をしたまま震えています。
「一刀……なぜ……」
「なぜって……、人の命は簡単に奪うものじゃないよ」
「でも……、袁術はお母様が死んだ後私達から土地を奪って、私達を離ればなれに……」
「そうかもしれないけど、雪蓮達の命を奪ったわけじゃない。」
「…………」
「それに、雪蓮達は美羽のおかげで普通の生活を……」
ここまで言ってお兄さんは苦しそうにうずくまりました。
「お兄さん~、あんまり話してはダメですよ~」
「そうや!! 早く治療せえへんと!!」
そう言って、霞さんは兵士さんを呼んでお兄さんを連れて行こうとしました。
その時です。
孫策さんとお兄さんの間にある人が立ちました。
「……ご主人様、傷つけた。ゆるさない……」
呂布さんが、もの凄い殺気を持って孫策さんを睨んでいます。
その手には、得物が光っています。
孫策さんは、お兄さんを斬りつけてしまったからか、呂布さんが目の前にいるにもかかわらず呆然と立ち尽くしています。
そんな孫策さんの様子などお構いなく、呂布さんは手に持つ得物を構えて、孫策さんに振り下ろそうとします。
「恋……、ダメだ……」
「……ご主人様」
兵士さんに抱えられたお兄さんが、少し体を起こして言いました。
お兄さんに言われて、さすがの呂布さんも得物を下ろしました。
そうなってもなお、孫策さんに動きはありません。
「それでは、風達は逃げさせていただきますね~」
一応、一言声をかけてから私達はその場を離れました。
出ていく間際に、もう一度孫策さんの顔を見ました。
お兄さんを斬ってしまったことよりも、お兄さんが袁術さんを庇った事に驚いたように見えました。
それから私達は袁紹さんなどに事情を説明しました。
案の定、色々言われましたが、曹操さんが来ると言うと従ってくれました。
怯えたままの袁術さんは、張勲さんが抱えて逃げました。
孫策さんが先に来ていたからでしょうか、幸いな事に孫策軍の他の方と曹操軍の足は遅いようです。
この隙に、私達は城を出て西へと足を進めました。
街の人達には、事情を説明しました。
多くの人が納得してくれましたが、そうでない人も何人か居ました。
そう言う人には、お兄さんが直接話をしてくれました。
しかし、怪我人であるお兄さんに無理をさせるわけにはいかず、その事情を察知してか街の人もそこまで食い下がって来ませんでした。
こうして、私達はまた再び逃亡の旅に出る事になりました。
目指す場所は西方の地、荊州。
荊州の地は劉表さんが治め、割と治安がいいです。
なにより、あの曹操さんからの侵略を幾度となく退けています。
劉表さんはかなりの年という事ですが、お兄さんの威光を利用すれば協力してくれるでしょう。
お兄さんはよしとしないかもしれませんが、今はそのような事をいっている場合ではありません。
そんな事を考えながら、私達は西へと歩みを進めました。
お待たせしました、21話のアップです。
なんとか1月中にアップできて良かった。
曹操軍の侵略と孫策軍の謀反ですが、如何でしたでしょうか?
もっと戦っぽい物を最初は考えていたのですが、そうなった場合どうやって逃げるという疑問にぶつかってしまい今回のような感じになりました。
もう少し、雪蓮との絡みがあっても良かったかもなぁ。
あと、雪蓮が動揺しすぎな気もしています。
まあ、原作とは違う外史の物語という事で勘弁して下さい(笑
次は荊州の地に渡った北郷軍ですが……という感じで話が進みます。
どうやって終わりに持っていこうか。
非常に頭を悩ませています。
あと数話だとは思いますが、最後までお付き合いいただけると幸いです。
今回もご覧いただきありがとうございました。
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真恋姫無双の二次小説です。
風の視点で物語が進行していきます。
ようやく続きのアップができました。
また一つ物語の分岐となる部分かなと思います。
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