社霞「約束」
全世界から無謀と非難された桜花作戦「オリジナルハイヴ攻略計画」はA-01部隊の実質的な全滅をもって成功を果たした。ハイヴ攻略部隊からの生存者は公式記録では「1名」社霞のみとなっている。
世界から消えた英雄、オルタネイティヴ4において数々の功績を挙げた青年「白銀武」彼について知るものは少ない。否、覚えているものは少ない、彼がこの世界を旅立ったその時から彼に関する記憶は世界そのものから薄れていきやがて消えていく。そして世界はその記憶をすり替え彼がいなかったものとしていく。そして彼の英雄はいつか完全に人々の記憶から消えていくのだろう
世界は安定を求めるが故・・・・。
海
静かな音を響かせる鈍色の海が目の前に広がっている。
広大な母なる海、全ての生命はここから産まれここへ還る。
「白銀さん・・・・。」
海。けして綺麗ではないけれど大きな海。
『平和になったら海を見にいこう。』
そう言った彼は最後の戦いの後、観測者[鑑純夏]の実質的な死とともに元の世界へと帰っていった。
知識でしか、画像でしかみたことのない海。
「・・・・・思い出、また・・・一つ増えました。」
少し暗い空にお世辞にも綺麗とは言えない海を見つめる。
白銀武が消えてから、その世界は「白銀武」の記憶を緩やかにそして残酷に塗り替えていく。
一人。また一人とその記憶が塗り替えられていく様を霞はずっと見てきた。
胸の前で組み合わせた両手の中には木彫りのサンタウサギがある。
そっとその眼を閉じる、何かを想うように。
「スミカさん・・・。」
霞の大好きな二人、白銀武 鑑純夏
その二人はもういない。純夏は霞に自らの思い出と武への想いを、武は霞に温もりと優しさを。
作られた人間の自分にすらその分け隔てない愛情を捧げてくれた二人に感謝する。
「私・・・。忘れません。二人のこと・・・。他の誰が忘れても・・・、私は・・・忘れません。」
衛士は死んでいった仲間を誇らしく語る、それは衛士の流儀らしい。
だけどと霞は思う。衛士じゃない私は二人を想い涙を流す。
思い出のない私、作られた私は純夏さんに触れて思い出というものを知った。
そして白銀さんによって、たくさんの暖かい思い出をもらった。
一緒にあやとりをしたこと忘れません。
一緒にお手玉をしたこと忘れません。
あなたに好きだと告白したあの日のこと忘れません。
この思い出は純夏さんからもらったものじゃないから、私自身の思い出だから忘れません。
そっと空を見上げる。目を瞑ればいつでも思い出せる。
二人の笑顔とその優しい眼差しを。
目を瞑ればいつでも思い出せる。
二人の声をそして寄り添うその姿を。
だから・・・。声を出して誓う。
「私・・・。二人のこと・・・忘れません、世界が・・二人のことを・・・全てなかったことにしても・・私だけはあなたたちのことを忘れません。」
あの日から世界は前へと向かって進んでいる。そして私も前へと進む。
たくさんの思い出と想いをくれた純夏さんに私自身に思い出をくれた白銀さんに
私は誇れる自分でありたいから・・・・。
「社~ そろそろ 行くよ~。」
後ろから声が聞こえてくる。栗色というより少し赤みのかかったオレンジの髪。
活発そうな女性が手を振っている。
「・・・はい、涼宮さん。今日は無理を言ってすいませんでした。・・・・ありがとうございます。」
霞は小走りで女性に駆け寄ると軽く頭を下げてそう言った。
その女性は小さく手を振って苦笑する。
「もう~気にしないでいいよ、私もいい息抜きになったし。」
そういって霞の手のあたりを気にする女性。
「それ、鑑の持ってた人形?」
霞はそれをそっと手のひらに載せて女性に見えるようにすると微笑みながら答えた。
「・・・はい。純夏さんが最後まで大切に抱いてたものです。」
女性も霞に微笑み返す。
「そっか、鑑にとって大切な心の支えだったんだね。手作りだしね~ 彼氏とかからのプレゼントだったのかな?」
霞はそっと目線を人形に移す。
「・・・はい、きっと自分より大切で、命をかけても助けたい。そう想い続けた人からの最初で最後のプレゼントです。」
女性はその霞の肩を引き寄せる。
「そっか・・・。鑑はその人に会えたのかな・・・。」
その問いに霞は優しく微笑みながら答える。
「・・・はい。二人はもうずっと一緒です。」
辛いこといっぱいありました。
悲しいこといっぱいありました。
それでも私はこの世界で生きています。
この世界で生きていきます。
だって世界には辛いことや悲しいことと同じくらい優しさが溢れているから。
純夏さん、私は私らしく。そして私自身の思い出を少しずつ作っていきます。
だから心配しないでください。
白銀さん、私に優しさや温もりを与えてくれてありがとうございます。
あなたの周りの人たちはみんなあなたと同じように優しく、暖かい人ばかりです。
私はこの世界で皆と一緒に生きていきます。
私は肩を抱く女性をそっと見る。
「・・・行きましょう、涼宮さん。そろそろ基地の門番さんが待ちわびてますよ。」
女性は手を離すと、素敵な笑顔を見せる。
「そうだね。・・・さ、帰ろうか。私たちの家へ。」
霞は最後にもう一度だけ海を見る。
「・・・はい、また来ます。 だから帰りましょう、私たちの家へ。」
・・・私も・・いつかは白銀さんのことを忘れる日が来るのかもしれません。
あの日々を共にすごした白銀さんは本来この世界には存在していないのですから。
でも、希望でも切望でもなくこれは確信。私、「社霞」はあなたを「白銀武」を忘れません。
白銀さん・・・・・ありがとうございます。・・・またね・・・。
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マブラブオルタの武が元の世界に帰った後の話です。
短編で社霞編となります。