この作品を故・石ノ森章太郎先生に捧ぐ。
パソコン画面を見るときは、部屋を明るくして画面に近づきすぎないよう注意して下さい。
――2005年
――ヒマラヤ山脈
吹雪に包まれたチベットで一人の青年が雪をかき分けていた。
未だ存在している人類未踏の地。そこは宝の宝庫のはずだ。そんな中、青年は一つのおかしなモノを見つけた。
「……さん、ちょっと来……さい」
少し離れたところにいた男性が彼の元に駆け寄ってくる。
「どうし……一騎君?」
「これって……」
「そんな……これが……で……」
学園都市。
そこはあらゆる学問の最高峰が集められた都市。
そこはあらゆる研究の最先端を行き、数々の議論が産まれ技術が産まれていく。
そこはあらゆる知識が内包され、進化し淘汰されていく。
人の進化。学園都市はそれを象徴していた。
あらゆる人材が集まり、生徒が集まり、研究者が集まる。
そうして人の群れとなった学園都市には奇怪な噂が漂い始める。
七不思議。
その一つに研究によって生まれた怪人が日夜闊歩しているというものがあった。
そしてもう一つ、それに反した七不思議があった。
その怪人達に対抗する正義の味方がいると……。
――2011年9月
――城南大学学園都市 理系学区 医療学部 13:00 p.m.
「広すぎる……」
一人の女性が学園都市に降り立っていた。
しかし初めて訪れる人にはこの都市は異常に映るだろう。
教育および大学改革によって、大学教育が広げる手は大きくなった。小さく弱い大学は淘汰され、大きな大学はそれらを吸収しさらに巨大になっていった。
その結果が、今や首都よりも大きい学園都市である。
大学生。修士、博士を志す者。自らの研究を進めたい者。自分の研究が正しいと立証したい者。教育に携わらないが教育人から利益を得ようとする人々。
そういった人の流れがこの学園都市を研究大学として、また教育大学として大きくしていったのだ。
そんな都市の地図を片手に、例年より熱い炎天下に晒されている女性は自分の家にたどり着くだけの簡単な作業をこなせずにいた。
別の病院で急に人手が足りなくなった。その話を聞いた彼女は文字通り飛んできたのである。
医療人としては立派だがもっと計画的に動くべきである。まあ要するに下見をしていなかった。そのため家がどこにあるかも分からずに、この炎天下の中途方に暮れているわけである。
そんな彼女が見つけたのは、さんさんと輝く冷房完備の甘味処であった。
「こんなので大丈夫かしら……」
とりあえず雪結晶かき氷(苺+練乳)を頼んだ看護士は机の上で地図を広げるのであった。
「まず駅の名前がむちゃくちゃよ。理系学区医療学部駅って」
どんどんと巨大になった街にしては、区画分けができているのは器用なことだ。元々海を埋め立てているため、拡大するには合理的であるほうがいいだろう。
現に地図をみても医学部、看護学部、薬学部など、医療に関係のある学部が並び大学病院や薬局もこの区画にあるようだ。
その横には生物系や科学系の区画が並んでいる。区画の横には、関係深い学問を司る区画があるのだ。
その都市の造りを地図の上からじっと眺め、女性はこの状況を楽しむことにした。
これから住む街なのだ。少しくらいぶらりとして把握するのもいいじゃないか。
そう思って彼女は街に乗り出すのであった。
* *
各区画には生活必需品はそろっているらしいが、衣料品や装飾品は被服学区、娯楽施設なんかは心理学区に集まっている。
関心を通り超えてある種の敬意を覚える。もっとも造った人間からすれば合理性の固まりなのだろうが。
もっとも衣料品など生活必需品が無いというわけではない。
そういった視点で見るとこの町も不便ではない。気分が晴れて視線も上がった。
だがその視界の中に一つ違和感を覚える。路地に腹を抱えて入っていく男性。
挙動不審とはいかないが、医療人として放ってはおけなかった。その男性の後を追って路地をのぞき込む。
男が一人、腹を抱えて座り込んでいた。
「あの……大丈夫……」
そう声をかけた時だった。男の体格が変わり始め、青い怪人とも言える形態となった。
騒然。
蜘蛛の子を散らすという表現がこれほど正しい状況に、そうはお目にかかれないだろう。彼女も思わず尻餅を付き、怪人は彼女に覆い被さるように彼女を見据える。
「お前、俺の顔を見たな」
「えっ……え」
「まあいい、性能を確かめるにはいい機会だ」
そんな彼女に救世主は現れた。
突如現れたバイクを駆る人物が、怪人をバイクで吹っ飛ばす。
「逃げろ!」
怪人が吹き飛んだのを確認すると、そのライダーは彼女に向かって叫ぶ。
怪人の反撃は早かった。すぐさま体勢を整えライダーに報復を開始する。
その報復に対し、ライダーはウィリーさせる要領でバイクの前輪を浮かし再び怪人に突撃する。
怪人は前輪を大きく弾くが、救世主にはよくやられる対処法だ。すぐさま重心を前に預け前輪を着地、後輪での攻撃を仕掛ける。ジャックナイフだ。
これに驚いた怪人はなすがままに後輪の一撃を受け、大きく転がる。
「速く逃げろ!」
女性を気遣うのは紳士としてよき立ち振る舞いだったが、少なくとも戦場で見せる立ち振る舞いではない。
そう叫んでいるうちに怪人は手にエネルギー弾を形成している。
「後ろ!」
女性の叫び声に反応した救世主は後ろを確認するが、間に合わないと踏んだかバイクを放棄した。
エネルギー弾はバイクに直撃するが救世主は無事。
「こっちだ!」
バイクはどのみち消耗品だ。ヘルメットを目眩まし程度に怪人に投げつける。怪人は投げつけられたヘルメットを人間とは違う怪力で真っ二つにする。
既にライダーと女性の姿はなく、その代わり怪人の目には姿を隠すには都合の良さそうな路地が見えていた。
「……逃がさない」
一方の正義の味方と看護士は路地を駆け抜けていた。
「雨無君……だよね?」
「中学生時代の同級生をよく覚えているな。同窓会なんて滅多に行かなかったのに」
「ということは……覚えてるんだ」
「ああ、久しぶりだな。和泉」
和泉亜真菜
ImageCV:花澤香菜
「兎に角、今は君を安全な場所に送り届けるのが先だ。連中の顔は見たのか?」
少し正義の味方が速度を落とす。
彼の立場上、事情や情報は聞いておきたいのかもしれない。
「はっきりとは見てないけど……」
「やれやれ、まあモンタージュやら何やらで特定はできるかもしれないしな」
路地の終わりが光と共に視界に入る。
しかしそこには一人の男……いや、赤い怪人に姿が変わり始める。おそらく二人目だ。
「はぁ……二人いたか」
悪態をつく彼の後ろに先ほどの青い怪人が現れる。挟み撃ちになったようだ。幸い曲がり角で少し広いスペースが在る分マシかもしれないが。
そして全く焦る様子のない彼は、彼女の前に目の前に手を出す。手配せは下がっていろだ。
「無理だよ!どうにかして逃げる……」
「大丈夫だ」
そう言って彼は大きくサムズアップしてみせる。
「そうだ、兄ちゃん。逃げるところなんかねえよ。黙って後ろの女のこっちによこしな」
怪人がくぐもった声で笑いながら救世主に要求する。
しかしそんな怪人の一言が、救世主の顔を笑みに変えた。不遜、不承、不適。どの笑みでもある。
「お前ら、本当に俺のことを知らないようだな」
彼はそういいながら、スライド式携帯電話を取りだしコードを入力する。
4――9――1――3
入力が終了した途端に、彼の腰に光が宿りベルトが召喚される。
「まさか貴様……」
救世主は左手を右の天に突き上げ構える。
もう何回目だろうか。
少なくとも暴力に訴えるのは心が痛む。
彼の師がそう説いたように彼もそう思っている。
だが……戦いたい。
否、戦わなければならない。
何故戦うか?
それは後付けでもいい。
今戦うことで誰かが救えるなら。
そして……その覚悟を叫んだ。
――変身!
彼はかけ声とともに召喚されたベルトの前の部分、そこに開いたスペースに携帯電話を差し込む。
『EINS』
電子音とともにベルトから光の輪が飛び出し、彼の体を白い光で包むように回り始める。
「さあ……」
荒々しく光輪を振り払らわれた時、赤い目を持った正義の味方が姿を現した。
「派手に行こう」
雨無一騎/Kamen Rider Eins
ImageCV:中村悠一
* *
仮面ライダーEINS
EPISODE1 学園
次回:仮面ライダーEINS
――大丈夫。人の手だよ
――こいつ……違う!
――……変身!!
EPISODE2 都市
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この作品について
・この作品は仮面ライダーシリーズの二次創作です。
執筆について
・どうみてもタジャトル初登場です。