No.198546

Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)七巻の4

七巻続きです。
引き続きどうぞ。

2011-01-29 19:25:59 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:871   閲覧ユーザー数:867

第四章 繋がる線

 

 

 リリが襲われてから数時間経過したころ。

魔連南支部の入り口から、二人の青年が出てきた。

 

 事件報告が終わった俺は、無駄に疲れきった体を、引きずりながら南支部から出た。

 

 犯人逮捕と手柄を立てたはずだった俺たちだが、被害を出しすぎたことが原因となり、始末書を書かされるはめになったのだ。ちなみに、数に表すと、二十件におよんだ。

「はぁ~、やっと終わったー。まさか、あんなに書かされるとは、思わなかったぜ」

「仕方ないよ。《過剰防衛》《器物損害》《命令違反》他もろもろ―――」

「あー、うるせぇ。もう、聞きたくねーよ」

苦笑いを浮かべて、隣を歩くジークを、半目で睨みつける。

 ちなみに、《拷問》は、この中には入ってないのは、俺が口封じしたためだ。

「まあ、そう落ち込まないで一休みでもしようよ。気分転換でもさ」

「おいおい、これからナンパに行く予定だろ。そんなのアトでも―――」

「僕もさすがに疲れたよ。一休みしてからなら、付き合ってもいいからさ」

「ちっ、分かったよ」

こいつに逃げられると、勝率が少し下がるから、な。

 逃がすのは惜しいので、俺は、渋々ジークの提案にのることにした。

 俺たちは、喫茶店〝ヒマツブシ〟に、いつものように足を向ける。

 

 カラン カラン カラン

「んっ?」「あら?」

「げっ」「あれ、二人もお茶してたんだ」

喫茶店のドアを開けると、すぐのカウンター席に、見知ったヤツらと目が合ってしまった。

 リニアとポピーだ。まさか、コイツらと会うとは、な。

 俺は、嫌な予感がしたが、無視する理由もないので隣の席に座ることにした。

「しっかし、てめーらも暇だなー。こんな日に、こんな店で、」

「随分な言いようだなー。サブ」

すると、カウンターの向こう側でコーヒーを淹れていた店長が、半目で睨み付けてきた。

「こんな店ってどういう意味だ? 気に入らないなら帰ってくれてもいいだぞ?」

白髪にエプロン姿のおっさん、店長は、俺とジークの前に、まだ注文をしていないのに、いつもの コーヒーを置いてくれた。

 このことから、俺たちが常連であることがよく分かるだろ。

 このことから、俺たちが常連であることがよく分かるだろ。

 俺は、苦笑いを浮かべて言い訳をする。

「いやー、言葉のあやだって。あ、店長。ケーキ注文」

貴重な屯場所を死守するため、俺はすぐに注文する。店長は、『分かればいいんだ。分かれば』と笑みを残して、ケーキを取りに奥に姿を消す。

 まあ、これは、いつものあいさつみたいなものだ。

 そんなやり取りのあと、サクヤが、バカにしたように笑う。

「バカなヤツ。入禁にされっぞ」

「うるせーよ。暇人。てめーは、さっさと出て行け」

「ンだとォ! てめェが、あとから来たんだろォ、が。てめェこそ、店替えろォ!」

「まあまあ、二人ともやめー。他のお客さんに、迷惑やでー」

リニアと俺がにらみ合いを始めると、ポピーが呆れ顔で止めに入ってきた。

 ジークのヤツは、いつものさわやかスマイルで、俺たちの様子を観戦だ。

 そんなとき、店長が奥から出てくるなり、

「はい、ケーキ。甘いもん食べて、落ち着きな。ちなみに、向こうさんからのおごりだ」

女性陣の前に置く。

 ・・・・・・・って、ちょっと待て。

「それ俺が注文したのじゃーん」

「店の迷惑料だ。それとも、まだ、払ってくれるのか?」

その言葉に、俺は、机の上にうな垂れる。

「・・・・・・分かったよ。だから、こっちも早くしてくれ」

「よし。それでこそ男だ」

それだけ言い残し、また店長が奥に入っていた。

 まったく、あの人には、勝てる気がしねー。

 俺は、どうでもよくなり、コーヒーに口をつけることにした。

 うーん、いい仕事するぜ、店長。

 

 〝♪♪♪〟

「? 誰からだァ?」

そのとき、急にリニアの携帯が鳴り出した。だが、ディスプレイで確認したリニアは、怪訝な表情を浮かべた。

 リニアは、席を立つと、通話を始めた。

「おい、誰だァ? 掛けるヤツ間違えてねェかァ?」

いやいやいや、いきなりドスきかすなよ。

 俺は、その姿に胸の中で突っ込みを入れると、リニアに呆れる。

 まあ、雰囲気からそれを間違え電話かな。

 俺は、興味がないので、コーヒーに戻る。しかし、通話しているリニアが、急に声が荒げだした。

 おいおい、アイツ、なにヒートアップして―――

 

 〝♪♪♪〟

 んっ? 俺も? えーと、相手は・・・・・・ナミ。いったい何のようだ? はっ、まさか、

「なんだ、ナミ。俺が恋しくなったか?」

『サブ! よかったー。繋がった』

通話ボタンを押すと、ナミの声が、耳に入ってきた。しかし、その声色は、なぜか焦っているようだ。俺は、冗談をやめる。

「・・・・・・どうかしたか?」

『今、そっちで《ネット動画》観れる? 今、そこで大変なことになってるのよ!』

「ああ、持ってる《PDA(携帯端末)》で観れっけど。なんか映っんのか?」

『いいから! 今から送る《URL》にアクセスしてみて!』

 

「おい、誰だァ? 掛けるヤツ間違えてねェかァ?」

 

 オレは、《非通知》で掛けてきた奴の電話を取る。

どうせ悪戯だろうけど。

『いいえ。貴女であっているわよ。《リニア・ハワード》』

「あァ? てめェ、どこでオレの名前を―――」

『知っているわよ。貴女の家族構成、学園での成績、それに《施設》でのこととか。まあ、施設で、一度会ったし、ね。あの施設で、貴女は私の唯一の《作品》だからね』

「!?」

聴こえてきたキーワードに、オレは、驚きで体中の毛が逆立つのが分かった。電話の向こうの声に、オレの頭に、施設の光景が過ぎる。

 この声・・・・・・まさか、あのときのガキ?

 相手が分かった瞬間、怒りが一瞬で沸点にかかった。

「てめェ!! 今どこ居やがる!! 場所言いやがれェ!! 今すぐ潰してやらァ!!」

『・・・・・・ビックリした。いきなり怒鳴らないよ。まったく、情報どおりの性格ねー。昔は、あんなに大人しい子だったのに。そもそも、貴女が、あのときのことを不快に思ってるのは知っているわ。でも、言っておくけど、一応命の恩人なのよ。私』

「・・・・・・よくも、ンなこと言えるなァ? てめェのおかげで、オレが、あそこでなにされたか知ってんのかァ!」

『もちろん知ってるわ。でも、なぜ、研究者の興味を惹いたか、分かる?』

「あァ? ンなもん、オレが女唯一の成功者だったから決まって―――」

『そうよ。あれ以降、女性の《機械魔導士》はできてないわ。だって、私は、あの施設で、貴女以外の実験に関っていないんだから』

「!?」

コイツの言うとおりだ。オレの実験前と後に、何人もの女被験者が失敗して、廃棄されている。

『あの手術、量産型を目的の研究だから、全部全自動でやってたからね。まあ、あの虫食いのPGと計算だと、女性が耐えれないのは、分かりきっていたんだけどね。だから、貴女の実験前に、私がプログラム改変したわけ。こんなので、どう?』

衝撃の真実に、オレは、携帯を持つ手の振るえが止まらなかった。

 コイツが言ってることがもし本当なら、今まで疑問だったことの辻褄があう。

 だが、

「・・・・・証拠がどこにも」

そうオレが言いかけたとき、携帯にメールがきた。

『それが、実験前と後の、貴女のスキャン結果。これは、私しか持っていないものよ』

向こう側のヤツは、余裕な笑みを浮かべているのが、声色で分かる。

 胸糞わりィが。アイツの言ってるのは本当らしい。だが、そのことで、体をいじったことが、チャラになるわけじゃねェ。

『貴女には悪いけど。施設については、これくらいにしてもらうわ。一応、緊急じたいだからね。貴女に掛けたのは、それを知らせるためよ』

「ンなことどうでもいいんだァよォ!! てめェには、訊きたいことが山ほど―――」

『親友の危機でも?』

「ンだと」

電話越しに聴こえてきた言葉に、オレは、驚きで勢いが萎える。その瞬間、一人のヤツの顔が頭を過ぎる。

 ここに居ない、アイツの顔が・・・・・・。

「おい! てめェ! リリがどうかしたのかァ?」

『・・・・・・だから、『怒鳴らないで』って。耳が痛いでしょ』

「ンなことたァ、どうでもいいンだよォ! まさか、てめェ」

『言っとくけど。犯人は、別の人よ』

じゃあ、一体誰の仕業だ。

 オレは、犯人の姿を考える。リリに恨みがあるヤツだと思うが。アイツが恨まれることなんて・・・・・・。

『そろそろ、アシュラ君の《PDA》に、メールが送られてくるころだから。一緒に観てみなさい。そのメールに《共有動画サイト》のURLが添付されているわ』

 それを聞いた瞬間、オレは弾かれたようにサブの方を近づく。

「サブ! すぐに送られてきたメールを開きやがれェ!」

「ええ!? いきなりどうした? てか、なんでそれを?」

「ンなことどうでもいいんだよォ! 潰すぞ!」

オレの言動にサブは、一瞬、訝しげな表情を浮かべた。だが、サブは、すぐに《PDA》を操作する。他の二人も、ただごとじゃないと気付くと、オレとサブに近づいてきた。

 オレは、サブの持つ《PDA》を覗き込む。すると、《PDA》には、有名な《動画サイト》のロード画面が開いていた。

「―――えっ?」

「・・・・・・なんや・・・・・・これ」

「これって、まさか、リリちゃん?」

「・・・・・・マジかよォ」

そこに映し出されていた映像に、各々驚きの声が漏した・・・・・・。

 

 場所は変わって、別世界〝ユーダリル〟

 リョウたち一行は、事件の引継ぎを終わらせ、現在、《時空港》のロビーで出発時間を待っていた。

 

 俺は、ロビーの長椅子で一休みをしていると、急にポケットに入れていた携帯が鳴り出した。

 

〝♪♪♪〟

「・・・・・・《テレビ通信》なんてめずらしい、な。誰からだ?」

ディスプレイには、《非通知》と表示されていた。だが、俺は、なんの躊躇もせずに通話ボタンを押す。

 だが、そこから聞こえたのは、見知らぬ男の声だった。

『よぉー。リョウ・カイザー。観えてるかー』

「・・・・・・誰だ? お前」

表示された画面には、髪を後ろに縛った野郎の楽しそうな顔だった。しかも、いやに馴れ馴れしい。

 会ったことあったか?

 少し考えるが。ダメだ。全然思い出せない。

『俺の名前は、《ラルフ》。こうやって、話すのは初めてだな』

「・・・・・・考えて損した」

『?』

画面に映る、ラルフと名乗る男は、訝しげな表情を一瞬浮かべるが、すぐに表情は戻る。俺は、気にせず訊くことにした。

「っで、なんか用か?」

『ああ、もちろん、お前にドストレートの用事だぜ。そんじゃあ、いきなりだが、ここでゲストの登場だ』

「・・・・・・本当に、唐突だなー。一体誰―――っ!?」

『おっ! いい表情になったじゃねぇか』

ラルフが、カメラをズラす、すると、そこに、一人の女の子が映った。

 その女の子は、両手を拘束され、その両腕をアンカーで吊るされている。

 リリだ。

 その映像に俺は、驚愕した。だが、その気持ちは一瞬で消え、それとは別、腹の底からなにかドロドロしたようなものが沸きた。

「・・・・・・おい。洒落じゃ済ませねーぞ」

『凄むなよ。今から、楽しいショーが、始まんのによー』

すると、ラルフは、リリの方へ移動した。

 そのとき、俺は、カメラの映像を睨むように見る。

 明らかに様子がおかしい。真冬はずなのに、顔に玉の汗を浮かべ、なにより、目が虚ろで焦点が合っていない。

『リョウ。これなーんだ?』

ラルフは、リリの横に立つと光るものを掲げた。

 俺は、それがなにか、すぐに分かった。

 《コンバットナイフ》だ。

 俺は、自然と携帯を持つ手に力を入れる。

『あっ、そうそう、この映像なー。ネットで動画配信しんだよ。っで、ヒット数上げるのに、ゲストがこんな姿じゃあ数字取れねーとおもわねーか?』

「・・・・・・なにが言いたい?」

『だからよう。こうしたら、みなさんが喜ぶんじゃ、ね』

そのとき、ナイフがリリに向かって振り下ろされた。だが、リリの肌を傷つけることはなかった。

 切れたのは、リリが着ているTシャツだ。その瞬間、裂かれたTシャツから、リリの白い肌と下着が覗いた。

 俺の中でなにかが、音を発てて切れる。

「てめぇえええええええええええ!!!!」

『あははははははははははははは!!!!』

俺は、気が狂いそうになった。そんな俺を、ラルフは、狂ったように嘲笑う。

 リリは、そんなことをされたのに、一向に叫びも抵抗する気配がない。

 やっぱり、薬か魔法を使ってやがる。

『いやー、思ってた以上に、いい表情するじゃねぇか。この勢いで、下をやったら、どんな表情をするのか、予想ができねぇなぁ?』

 そういうと、ラルフは、ナイフをリリのスカートに位置にもっていく。

 怒りで震えが止まらない。

 噛み締めた口からは、ギリギリっと歯が割れるような音が聴こえてくる。

 だが、ラルフは、笑うばかりでそれをしなかった。ラルフは、リリからナイフを離すと、カメラの方へ歩き始めた。

『まあ、これで終わりじゃー。おもしろくねぇよな? 余興代わりに、十分。時間をやるよ。でもな―――』

そのとき、ラルフは、カメラ向きを、リリから別のほうへ向けた。すると、観るからに普通ではない集団が映る。

軽く見ても、三十人以上は居る。

『コイツらにあげちゃうから、な』

「・・・・・・てめーは、絶対にこの手で殺す」

あまりの怒りで、目が熱い。

『あははははは!! いいねー! 殺ってくれよ』

だが、負け惜しみに聴こえたのだろう、ラルフは、うれしそうに笑う。

『ほらほら、早くしないと、こっちが逆に犯っちまうぜ?』

すると、ラルフは、カメラに近づいて、手を振る。

『それじゃあ、また、あとで。絶望に狂うお前を、俺に見せてくれよー』

それだけ言い残すと、通信が切断された。

 俺は、怒りでどうにかなりそうだった。

 だが、どうにもならないのが現実。

 俺は、悔しさで持っていた携帯を、叩き壊そうと―――。

 

〝♪♪♪〟

 そのときだった。

 また、携帯が着信を鳴らしだした。

 手が止まったのは、奇跡に近い。

 俺は、何も考えられず、通話ボタンを押した。

『よかったー。間一髪ね。携帯壊されたらどうやって連絡取ろうか困るところだったわ』

すると、聴こえてきたのは、懐かしい声だった。

 俺は、そいつの名前を知っている。

「・・・・・・ミ―――」

『スットプ!! 《真名》は、言っちゃダメ。一応、全世界的《重犯罪者》なんだから』

「・・・・・・なんで、お前が?」

『そうね。でも、そこを説明している暇はないわ。分かりなさい』

掛けてきた女性は、懐かしいセリフを言った。俺は、そのセリフにつられて、目だけをあるものに向ける。

 監視カメラ。

『そういうことよ。察しが良くて安心したわ』

「っで、お前は、今の俺を観て、笑いたいのか?」

『・・・・・・まあ、そうね。カッコ悪いわね。今の貴方じゃあ、私は興味を持てないわ』

真剣な声だった。そして、とても淋しそうな声色だった。

『リョウ、覚えてる? 私が、分かれるときに言ったセリフ』

「・・・・・・」

俺は、少し考えた。

 世界に絶望した者が集う場所《スラム》

 一人の女性が、その歳に合わない大人びた表情で・・・・・・。

『世界は、貴方が思ってるほど、悪くないわよ。だから、もしどうにもならないことが起きたら、また貴方の前に現われてあげるわ』

女性は、きれいに笑う。

『だから、私が興味を持つぐらいの、いい男になりなさい』

 

「!」

だから、現われたのか。

 俺は、一度、目を閉じる。そして、もう一度開けたとき、目の色が黒から真赤な紅色に変わった。

 なにも、考えるな。

 すべての感情を殺せ。

「・・・・・・・シーキャット」

『・・・・・・少しは、マシな顔に戻ったわね』

シーキャットは、なぜか嬉しそうな声色だった。だが、今の俺にはどうでもいいことだ。

「俺をホシのところまで連れて行け」

『了解。ただし、報酬は高いわよ』

すると、シーキャットは、俺に指示を出した。

 

 世界は戻って《グラズヘイム》

 場所は、スラムのとある廃倉庫。

 ここにリリが捕まっていた。

 そして倉庫内では、明らかに一般人とは逸脱した男達、見た目青年と言ってもいい歳だろう。そんな青年たちが、倉庫内の至るところで、談笑をしてくつろいでいた。

 そんな状況の中、リリは一人、状況の打開策を練っていた。

 

 捕まったわたしは、自分の置かれている状況を確認した。

 

 まず、気付いたとき一番に魔法を試してみたけど。枷の所為だろう、うまく練ることができなかった。それに、今も意識はあるんだけど。体に力が全然入らない。だから、アンカーで無理やり立たされている状態だった。

 目の前も少し揺れている・・・・・・原因はあのときの薬、か。う~、気持ち悪い。

 車酔いしているみたいだ。

 わたしは、視線をラルフさんに向ける。

「んっ?」

その視線に気付いたラルフさんは、人を蔑むような笑みをこちらに向けた。

「もしかして、打開策でも探してる?」

「・・・・・・」

「さっすが、アイツが一目置いてる女だなー。普通なら、ブルって絶望に打ちひしがれてるんだけどねー」

そのとき、わたしは、疑問を聞くため、必死に口を動かした。

「・・・・・・なんで、こんな酷いことをするんです、か?」

「なんで? もちろん、アイツにも《傷み》を味わってもらうためだよ」

すると、ラルフさんは、冷たい笑みを浮かべる。

 傷み? なんのことだろう?

「『意味が分からない』っといった顔だな。・・・・・・じゃあ少し、時間もあるし、昔話でもするかな」

 すると、ラルフさんは、こちらに体を向けた。

「では、質問に答えよう、か。『なぜアイツを狙うか?』それは簡単。2年前の事件、あの事件で俺は、父親をアイツに殺された」

「!?」

2年前の事件。

 リョウ君の、能力暴走が切っ掛けになった事故。

 その事件は、西地区の半分を荒野に変える、大規模な暴走事故だった。そのリョウ君を止めるため、何人もの局員の方達が重症を負い。そして、亡くなった人も・・・・・・。

 この事件の唯一の救いは、報道規制が入り、局員と一部の人しか知らないということだ。そのおかげで、リョウ君がこの世界で暮らしていけている。

 そう、思っていたんだけど・・・・・・。

世界は、そんなに優しくはなかった。

「あの事件のあと、俺の母親は、酒に溺れ、挙句の果てには男作って俺を捨てやがった。俺は俺で、目標だった父さんがいなくなって、生きる気力がなくなったなー」

「・・・・・・」

ラルフさんは、遠くを見ているようだ。

「そのとき、俺は、ある組織に誘われたんだ」

話をするラルフさんは、楽しそうに笑う。だけど、それはとても黒いものだった。

 ラルフさんは、こちらに歩いてくる。

「おかげで、俺は、力を手に入れることができたよ。ンで、感謝の気持ちでいっぱいなので、カイザー君にも同じ《絶望》をプレゼントしてあげようと、考えたわけだ」

そして、わたしの顔を覗き込んできた。

 その表情に、わたしは、身がすくんだ。顔を逸らさなかったが、なんとかだった。

 それが、気に入らなかったのか、ラルフさんは、舌打ちをして、わたしから離れていく。

「ああ、つまんねー。もっとビビってくれてもいいのになー。そんなら、こんな話はどうだ?」

「・・・・・・なんですか?」

「お前、アイツが過去、なにをしてたか、聞いたことがあるか?」

「・・・・いえ、知りません」

本当のことだ。わたしは、リョウ君と出会う前のことは、に訊いたことがない。

 知りたくない、わけではないけど。本人が話してくれるまで、訊かないようにしていた。

 多分、わたしが想像する以上の辛いことが、たくさんあったと思うから。

 だけど、そんな過去を目の前のラルフさんは、それを面白そうに話し出す。

「そりゃあ、言えねーよな。『人殺し』だよ。アイツは、自分の欲求を満たすために、悪人を殺し周ってたんだよ」

「そんなっ! そんなわけ―――」

「ないかァ? なんで言いきれる? お前は実際、アイツが人を殺したところ、見たことがあるのに」

「そ、それは―――」

たしかに、リョウ君が人を殺めたところを、わたしは見ている。

 学園の初任務で。

 だけど、そのあとわたしは、リョウ君に『もう、人を殺めるのはやめて!!』と懇願して、リョウ君と約束した。

 わたしのうろたえた様子を、ラルフさんは、楽しそうに笑う。

「悪人だからか? じゃあ、殺された奴らは、殺されて当然だったのか? それじゃあ、アイツに狙われた奴は、さぞ運がなかったみたいだなぁ」

「おーい! ラルフさん、そろそろ時間ですけど。いいっスか?」

「おっ? もうそんな時間か? そんじゃあ―――」

そのとき、数人で固まっていた一人が声を掛けると、ラルフさんは反応した。

 そして、ラルフさんは、このフロアにいる者の方へ向き直る。

「てめぇら、喜べ! 相手は、誰も手をつけてねー、真白だ! 存分にかわいがってやれ!」

すると、ものすごい歓声を上げた。

 その瞬間、わたしの中の恐怖が膨れ上がる。

 散っていた人たちが、わたしに向かってくる。その光景に、全身の鳥肌が立つ。

 みんな、気持ちの悪い、嬉しそうな笑みを浮かべている。

「い、いや!」

わたしは、必死に逃げようとするが、体は動いてくれない。

 近づいてきた男性たちは、わたしの腕や足や胸などの、体のいたるところを触ってくる。そして、その中の一人が嬉しそうに、

「じゃあ、メインディッシュを楽しませてもらいますか」

その言葉に、わたしは、恐怖と憎悪で目を瞑り、顔を背けた。

 嫌っ! 助けて! 助けてよ!! リョウ―――。

 

〝ドゴォオオオオオオ〟

そのときだった。

 いきなり、重いものが弾ける轟音がした。

 わたしは、ゆっくりと目を開ける。

 たしか、あそこには、扉があったはずじゃあ・・・・・・。

 なぜか、男性二人がかりで、開閉する扉がなくなっていた。しかも、左右とも数メートルふき飛んでいた。

 そして、その扉があった場所には、

「よォ、楽しそうなこと、してんじゃねェかァ。オレも混ぜてくれよォ」

今まで見たことのない、狂気の笑みを浮かべた親友が立っていた・・・・・。


 
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