No.198394

新・外史伝『希望』編 第14話 『愛紗と十文字』

第14話です。前回の続きから始まります。
愛紗達の前に現れた一刀の目的とは…?

2011-01-29 00:24:09 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:3987   閲覧ユーザー数:3442

 

 

 

 

 

新・外史伝『希望』編 第14話 『愛紗と十文字』

 

 

 

 

謎の義勇軍の頭目はあの北郷一刀だった。

 

分からなかったとはいえ、御使いに剣を向けてしまった兵士はその頭を深く下げ、激しく罵っていた者達も頭を深く下げていた。

 

「一刀様!!申し訳ございませんでした!私としたことが御使いであられる貴方様を疑ってしまうとは!!この関羽雲長、いかなる罰もお受けいたします!」

 

 

「「「「御使い様とは露知らず、大変失礼いたしました!まことに、申し訳ございません!!!」」」」

 

一刀は、彼らに優しく声をかける。

 

「あ~メッチャ怖かった~

 

あっ!

 

いやいやいや…。どうか、気にしないでくれ!

 

俺は別に怒ってるわけじゃないんだ。

 

だいたい、先んじて『俺は北郷一刀だぞ~』って、知らせていなかった俺自身も悪いし…

 

それに、君らは自分の任を全うしただけだろ。

 

何も恥じることはないって!」

 

 

「「「ハハーーー!!恐れ入ります!!!」」」

 

 

 

一刀の言葉に愛紗は安堵する

 

しかし

 

「…!」

 

一刀の顔を見た愛紗は言葉を失う

 

彼の瞳は悲しそうに愛紗を見つめていた

 

「か、一刀様?」

 

一刀に話しかけようとする愛紗に、葛玄が割り込んだ

 

「な、なんだ、貴様!?」

 

葛玄は彼女に語りかけた

 

「関羽殿。

 

此度の劉璋殿との一件、北郷殿が御存知ないとお思いですか?」

 

「!?」

 

愛紗は、顔をゆがめる

 

「葛玄、落ち着けって。

 

順を置いてだな…」

 

「いいえ。

 

言わせてください。」

 

葛玄は、一刀に頭を下げてまで頼んだ

 

「葛玄…。わかったよ。

 

それじゃ…俺の変わりに頼むよ?」

 

「御意!」

 

一刀は、一歩後ろに下がる

 

 

「関羽殿…無礼を承知で、申し上げます。

 

何故、貴女様は劉璋殿の話を最後まで聞かなかったのですか?」

 

「そ、それは…劉璋が、奴が政を一切しない愚君で!

 

そ、そんな奴が偉そうに桃香様の理想を…」

 

「理想を…貶した、と?」

 

「そ、そうだ!」

 

葛玄は呆れたようにため息を吐く

 

そして

 

「人を導くためには…それ相応の覚悟が必要です。

 

貴女には…いえ、貴女方にはそれが足りない。」

 

「な、なんだと!?

 

貴様!」

 

愛紗は怒鳴るが、一刀に阻まれる

 

「愛紗…俺も、彼と同じ意見だよ」

 

「か、一刀様!?」

 

「葛玄。後は、俺の口からちゃんと言うから。」

 

葛玄は無言で、後ろに下がった

 

 

一刀は優しく愛紗に語りかける

 

「愛紗…。」

 

「はい」

 

「劉璋を殴ったとき、自分の手はどうだった?」

 

「痛い…そう感じました」

 

一刀は頷きながら続けた

 

「うん。そうだね。

 

『人を導くために必要な覚悟』

 

その一つは、まさにそれだよ。

 

人を傷つけたとき、自分も傷つく…その覚悟。

 

覚悟が無い者の武は、盗賊達のそれと同じだ。

 

あの時、君はその覚悟なしで怒りのままに殴り飛ばした。

 

劉璋があえて避けなかったのは、君にその痛みを…いや覚悟を知ってもらいたかったんじゃないかな?」

 

「一刀様…」

 

「そして、その覚悟なしには人は付いてはこない。

 

俺は、そう思うんだよ。」

 

一刀は優しく語り続けた。

 

「乱世をおさめるには、優しさも確かに必要だ。

 

だけど、戦という手段を選んだ時点で…その桃香の理想とはかけ離れた現実になっている。

 

戦場は多くの命が失われ消えゆく場所だ。

 

君たちの志を信じて戦場で死んでいった兵たちも両手では数え切れない。

 

その兵士に殺された敵兵たちの命もそうだ

 

そして、僕たちの言う『敵味方』とは関係なく犠牲となるであろう民達達の命もだ…

 

それでも、前に進むんなら…奪った命の倍の人を幸せにする覚悟を固めなくてはならない。

 

君達が乱世を終えさせたいと言うのならば…

 

これからも必ず奪い合うであろう『命』を、君達はその小さな背中に背負わなくてはならない。

 

奪った命のことを決して、忘れてはならない。

 

そして、自分の体が傷ついていくことを…恐れてはならないんだ。」

 

「か、一刀様…

 

私…私は…」

 

一刀の言葉に、衝撃を受け膝折れした愛紗を、一刀は支えてやる

 

「愛紗…。俺の言いたい、『覚悟』の意味分かってくれたかな?」

 

「は…はい…。

 

申し訳ございませんでした」

 

愛紗を立ち直らせながら一刀は二カっと笑顔になる

 

「さぁ、ここからが正念場だぞ!愛紗、桃香、そして皆!」

 

劉備軍一同「「「ハッ!!天の御遣い様!!!」」」

 

一刀は、愛紗からゆっくり離れると

 

「葛玄。嫌な役を買ってくれてありがとう…さぁ、帰るとしよう。」

 

「ハッ!」

 

 

「では、私も主と共に帰るとしましょう」

 

星は愛槍を抱え、一刀の元に歩き出した

 

「せ、星ちゃん!?」

 

桃香はあわてるが、朱里たちにあることを気づかされる

 

「はわわ!桃香様ぁ~!

 

星さんは、ご好意で力を貸してくれていた客将ですよぉ~!」

 

「あわわ!お忘れですかぁ~」

 

「(そ、そうだった!すっかり忘れてたぁ~!!)

 

あは、あははは…」

 

乾いた笑いをこぼす桃香に、一刀も噴出す

 

「ぷっ!あはははは!

 

いつもの、桃香で安心したよ!」

 

劉備軍「「「あはははは」」」

 

桃香は、頬を膨らませて抗議する

 

「もぉ~!皆して酷いよぉ~」

 

皆につられて、愛紗も小さく笑う。

 

一刀「(流石は、桃香。

 

愛紗の心を癒してくれている。

 

本人は気がついていないようだが、彼女の近くにいる限り関羽雲長は決して負けない。

 

やはり、俺の感は間違ってないみたいだな。)」

 

 

そして…

 

葛玄の術により、3人の体が光に包まれる

 

桃香「一刀様。もう、行っちゃうの?」

 

「あぁ、だけど…俺達は君たちが正しい道を歩み続ける限り、味方であり続ける。

 

また、いつか会おう!桃香、そして皆。」

 

星「桃香殿。貴女のとこをは居心地が非常に良かったのですが、やはり主の隣が一番落ち着きますので。

 

あなたの器が一日でも早く大きくなることを期待しておりますよ?」

 

桃香「うん!いままで、ありがとう星ちゃん!

 

私、頑張るよ。」

 

 

そんな、中…葛玄は愛紗を見つめる

 

「関羽殿。行き過ぎた発言…申し訳ない。

 

しかし…」

 

「いや…かまわん。

 

むしろ、お主と一刀様には感謝している。

 

二人のおかげで、私はより強くなれた気がした。

 

むろん、劉璋のおかげでもあるが…」

 

「ははは!

 

それは、ようございました。

 

それでは、失礼いたします…

 

 

 

母上様……」

 

最後の葛玄の言葉は風の流れが消し去っていた。

 

つづく

 

 


 
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