この作品の一刀は、性格、武力ともに原作とは異なっています。
また、一部キャラを否定する場面もございます。
ご理解をお願いいたします。
まだまだ誤字、脱字や分かりにくい表現などもあると思いますが、
こんな自分の作品でも楽しんでいただけたら幸いです。
裏切りの事実、それを持って放たれた一刀の一撃は蒲公英には届かなかった。
一刀「何のつもりだ、、」
一刀は己の刀を受け止めた者を見ながら、怒りに顔を歪める。
「っっ、、、、」
その、視線の先に居たのは、かつての間で忠誠を誓った越雟郡連合が長、
一刀「高定!」
沈黙は、怒声によって破られた。
一刀「もう一度言おう。何のつもりだ、高定」
怒声から数秒、今だ退けられない剣を見ながら一刀は話す。
高定「ば、馬岱を処断する前に、一つだけ、尋ねたいことが、あります」
放たれる剣圧と重圧を両手で握った剣で受け止め、歯を食いしばる高定は話す。
一刀「聞こう。言ってみろ」
高定「馬岱は、天に数々の功績を残しています。それでも、剣を振り降ろすのですか?」
一刀「重要なのは過去ではなく現在だとは思わないか?」
上から見下し、淀みなく答える一刀。
それに高定は一瞬眼を見開き、そして渾身の力で刀を押し返し叫ぶ!!
高定「ならばやはり貴方は魔王だ!我が義は、もはや貴方と共には居られない!俺はもう、天には従わぬ!」
あまりにも、あまりにも無謀な行動。
天の城内、しかも王座の間にて高定は天への隷属の放棄を叫んだ。
もしこの場に一蝶や獅堂が居れば、二人は後先など考えずに高定の首を切り落としていただろう、
いや、二人はおそらくそれでも止まらない、
おそらく死体は切り刻まれ、人であったことすら分からなくなっていただろう。
そんな結果を残す、勇気では無く蛮勇。
高定自身、それは良く解っていただろう、現に手足は震え、歯はガチガチと鳴っている。
一刀「、、、高定、おま「そ、そうだ」、、」
しかし、人は時として蛮勇に捕われる。
刃向かう相手が強大であればある程に、蛮勇を勇気と履き違え、
諸侯「わ、私ももう嫌だ。悪だと後ろ指さされるのは嫌だ!」
刃向かうことこそが正義だと、勘違いを起こしてしまう。
強大さで言えば一刀は大陸一、
そして一刀の人格を知らぬ大陸の多くの民は漢王朝の言葉を信じていた。
世論は、天は悪だと叫んでいる。故に、その勘違いは、連鎖する
それが、正しいか正しくないかなど知る由も無く、勢いで
高定の謀反に同調した諸侯、見ればその顔触れはかつて高定が忠誠を誓ったすぐ後に、
後を追うように天への隷属を決めた者達だった。
一刀「、、、お前達、」
一刀は思考する、どうすればいいのかを。
無論、謀反の発生を考えてなかった訳じゃない、
しかし、こんな形で、この瞬間に起るとは予想していなかった。
それは天の頭脳である軍師二人も同じだった。
音々「なっななな、なに言ってやがるですか!」
風 「むー、自分たちがなにをしてるか、わかっているのですかー」
一刀は、音々音は、風は、慌てた風を装いながらも思考する。
そして、一つの答えに至る
「「「この謀反は、止められる」」」
理と利を持ってすれば、無駄な血を流さずに済むと。
それが、自分達にも、彼らにも、一番良いのだと、
しかし、
そんな三人の思いは知らず、動き出す者達が居る。
凪 「天を、一刀様を裏切るだと、、」
真桜「しかも、覚悟決めてた蒲公英の意地まで無駄にして」
沙和「許せないの、、」
猪々子「斗詩、キレて良いかな?」
斗詩「うん、良いと思う」
明命「さすがに、許せません」
小蓮「こんな時期に謀反とか、もう少し空気読もうよ、、」
その、忠義心故に
麗羽「皆さん、その狼藉者達を捕えなさい!」
恋 「、、、、、、、、、、、、、、、抹殺」
「「「御意に!!!」」」
その場に嵐が吹き荒れる。
一刀「っっ、、」
悔しそうに顔を歪める。
王座の間では天の本拠地である洛陽の兵と隷属を誓いながら、
謀反を叫んだ諸侯の連れていた兵達が争っている。
数はそれ程多く無く、三十人程の争いだが、止められた筈の戦いは始まってしまっていた。
風 「お兄さん、、どうしますかー」
音々「恋殿~、凪~、斗詩~」
いつの間にか一刀に近づき問いかける風と悲しそうに親しい者の名を呼ぶ音々。
一刀「、、、」
誰かが悪い訳じゃない。
自分の愛した者だけに優しさを向けてきた一刀は、高定の裏切る気持ちも理解できる。
凪や麗羽が自分の為に動いてくれたことも嬉しく思う。
誰かが間違えた行動を起こした訳じゃない。
ただ、時と場所が悪すぎた、、、
剣と剣がぶつかる音が聞こえる。
風 「お兄さん、これではもう」
一刀「ああ、分かっている」
この王座の間で血が流れた今、もはや全ての者が無罪放免とはいかない。
その罪を、この間を穢した過ちを、誰かに償わせなければならない、
たとえそれが本意でなくても、それが王である一刀の役目。
なら誰に?処罰を、罪科を問う。
決まっている、守るべき者も、
一刀「風、音々、」
犠牲になって貰う人柱も、
一刀「謀反を叫んだ高定、並び追随した諸侯達を捕えるぞ。”全ての罪を償って貰う”」
「「御意」」
外に音も漏れぬ密室で、一つの戦争が始まった。
一つの蛮勇から始まった小さな戦。
しかし、その一戦が後に後世に語り継がれる一大事件のきっかけとして文献に記され、名を残す。
その一戦の名を、高定反乱。天に置いて、最大で最初の謀反の始まりであった。
風 「凪ちゃーん」
凪 「はっ、はい」
兵を殴り飛ばしていた凪が振り返れば、そこには息を切らした風と数人の兵の姿。
一室と言っても元帝の間であるこの間は無駄に広い。
一刀の立っていた場所から凪の戦っていた場所まで全力で走って来た風の息は上がっていた。
風 「むー、勝手に暴れては駄目ですよー」
凪 「す、すいません。しかし、この者達は、一刀様を」
ギリッと歯を噛み締める凪に風は同意するように頭を上下に動かす。
風 「凪ちゃんの気持ちは分かるのですよー。けど、今はすぐに劉協様の所へ行ってくださいなのです」
凪 「陛下の元に?」
風 「はいー。もし陛下が連れ去られでもしたら、とても面倒なことになるのですよー」
凪 「あ、はい。分かりました!」
元帝が連れ去られ、敵に神輿にでもされれば民の信頼を失いかねない。
その事実に気づいた凪はすぐに駈けて行った。
風 「すでに真桜ちゃんと沙和ちゃんに行って貰ってますからー、三人で守ってくださいねー」
走っていく凪の背にそう叫んでから風は後ろに居た兵達の方に振り返る。
風 「では風達は下がってましょー、怪我したくありませんしー」
「「「御意」」」
音々「れ、恋殿ー。落ち着いてくださいー」
恋の服の袖を必死に掴む音々、しかし悲しきかな、止めること叶わず引き摺られる。
恋 「駄目、、こいつら、一刀泣かせた」
引き摺られ続ける音々、
音々「別に泣いてませんでしたぞー」
力を入れている為に無意識に語尾が延びる。そろそろ手が限界だ。
音々「それに此処で恋殿が戦われては余計に被害が、それこそあいつが悲しみますぞー」
ピタッ
恋 「本当?」
音々「わわわ」
一刀、悲しむ、の二言ですぐに制止する恋。こけかける音々。
音々「はいですぞ。ですから恋殿は一旦あいつの元に下がりましょう」
恋 「ん、一刀の所行く」
音々「はふ、なんとかなりましたぞ」
明命「はああ!」
小蓮「やああ!」
自分に向かってくる無謀で無策な兵達が明命と小蓮に斬られるのを視界の端で捕えながら一刀は思考する。
一番の考えられた混乱に乗じた劉協の誘拐も凪達三人を御衛に付けた今、ほぼ不可能だろう。
恋の暴走も阻止したし、斗詩や猪々子が自由に動けている。
いくらこの間が広いと言っても高定の捕獲や兵の殲滅は時間の問題だろう。
一刀「完全に、反乱はこの間に閉じ込めた。鎮圧も時間の問題」
ようやく心に余裕が出来た一刀はふと、疑問に気づく。
一刀「そう言えば、翆と蒲公英は何処に」
獅堂に蹴りで怪我をしている蒲公英はまだ自由に動くことはできないだろう。
なら、おそらく二人は部屋の端にでも、
そう思い、視線を壁際に移せば翆の姿が映る。
しかし、蒲公英の姿は無く、喧騒によって聞こえないが翆は扉の方に向かって何か叫んでいた。
その方向に眼を向ければ、高定と蒲公英の姿が映った。
高定は蒲公英を抱えながら扉を目指し、
蒲公英は抵抗しようともがいているが力が入らないのだろう、成すがままにされている。
一刀「っっ、、まさか、」
此処に来て、一刀はようやく気づく。高定の策略に!
ずっと反乱の機会を窺っていた高定が何故、天の将ほとんどが揃うこの時を選んだのか、
何故、天の要、密室である王座の間で謀反を叫んだのか、
何故、この時、この場所でなければならなかったのか。
その、答えは、
一刀「高定、お前、最初からこれが狙いか。蒲公英を、涼州を謀反に巻き込むことが」
一刀が至った答えを聞いたのは、近くに居た一部の将兵だけ、
それ以外の者には高定と共に居る蒲公英も、謀反の共犯に見えた。
涼州、かつて英雄馬騰を天に殺され、蹂躙された土地。
今、その地が大人しく天に従っているのは長である馬超、そして馬岱の存在が大きい。
故に、そのどちらかがもし、少しでも天への敵意を見せれば、
民衆は動く、二人の意思とは関係なく!
そうなれば、一刀も動かざるえなくなる。最悪、数万の涼州の民を犠牲にすることになる。
無論、翆と蒲公英はそれを見過ごせない。今は亡き馬騰との約束、涼州を守る使命が二人を動かす
一度は消えた涼州との戦火が、再び点火される。一刀も、蒲公英も、翆も望まぬ形で!
一刀「高定、貴様!!!」
高定「、、、こうでもせねば、貴方に勝てない」
そう、それこそ高定の考えた策。
越雟郡連合だけでは天軍には敵わない、ならかつて天軍と渡り合った涼州連合を反乱に取り込む。
あわよくば、馬岱と馬超、二人の英傑すらも、それこそ。
それこそ、高定の天殺し、黒天分断!
一刀は悔む、それに気付けなかったことを、一秒悔み、すぐに動き出した。
一刀「猪々子、斗詩、高定を捕えろ!」
斗詩「はい!」
猪々子「おう!」
一刀の叫びを聞いた斗詩と猪々子は周りの兵を蹴散らしていたのを止め、高定の方に走りだす、
兵士「行かせるか!」
兵士「高定様をお守りしろ!」
斗詩「退いてください!」
猪々子「邪魔すんなー!」
立ちはだかる兵を全て吹き飛ばしながら。
猪々子「でりゃあああ!」 ゴウッ
高定「くっ、このままでなのか、、天よ、我が覚悟では足りぬのか!」
そう、此処まで、この無謀な謀反は無謀故に此処で終わる筈だった。
天を倒す、黒天を滅す、所詮は叶わぬ幻想。所詮は、笑い話で終わる反乱。
ガキンッ
しかし
猪々子「なっ、、」
高定「あ、、、、」
何の因果か、終わらない。
「部下に裏切られるような君主を、」
反乱は、終わらない!
「何を持って善君としようか!」
高定に天運が着いている、、訳ではない。
関羽「関雲長、義によって助太刀致す!」
ただ、天が、北郷一刀を嫌っているのかも知れない。
高定「関羽、、」
死を覚悟した高定の前には、青龍偃月刀を構えた関羽の姿が有った。
関羽「貴方のその覚悟、しかと見届けました。後ろに下がっていてください」
高定「あ、ああ」
斗詩「関羽さん、、どういうつもりですか」
猪々子「退いてくれよ、関羽」
突然の事態に戸惑いながらも二人は武器を構える。その眼に、確固たる殺意を宿しながら。
関羽「どうも無い。言葉道理だ、部下に裏切られるような君主を私は認められない」
猪々子「そっか、なら、もう話すこと無いね」
斗詩「一刀さんの好意を無駄にして、、許せない、、」
関羽「、、、来い」
猪々子「でりゃあああ!!」 ゴウッ
斗詩「やあああああ!!」 ゴウッ
関羽「はあああああ!!」 ブンッ
ガガンッ
猪々子「くっ」
斗詩「きゃっ」
ぶつかり合った三つの武器。
力を求めた斗詩と猪々子の攻撃を関羽はいなし、二撃目で二人を吹き飛ばす。
関羽「鈴々、高定殿と馬岱を連れて外に出ろ!」
鈴々「わっ、わかったのだ!うりゃりゃりゃりゃー!」
関羽の言葉で張飛は扉近くの兵士を吹き飛ばし、
鈴々「くるのだ!おっちゃん、馬岱!」
高定「う、うむ」
馬岱「ちょ、まっ、たったんぽぽは、、きゃあ!」
鈴々「うおおーー!!」
高定を連れ、馬岱を抱え何処へともなく走りだす。
関羽「焔耶、お前も朱里を連れて先に行け」
魏延「しかし、桃香様が「桃香様を無事に助ける為の道を作るのだ」よし、分かった!行くぞ朱里!うおおおおおおお!!」
朱里「はわ、はわわわーーーー」
桃香、助ける、の言葉に反応して焔耶は走りだす。
抱えられ眼を回す諸葛亮。
関羽「桃香様!お早く!」
張飛と魏延、二人に逃げ道を確保させた関羽はすぐに劉備に手を差し出す。
劉備「愛紗ちゃん、、」
しかし、
関羽「桃香、さま?」
劉備はその手を握らない。
関羽「何故、ですか」
劉備「たとえ鳳薦さんの考え方に反対でも、こんなやり方は間違ってるよ。ちゃんと、話し合うべきだよ、、鳳薦さんなら、きっと聞いてくれるよ」
関羽「しかしあの男はあんな簡単に部下を殺そうとしたのですよ!それに反乱を起こされるなど、君主として正しくない証明ではないですか!」
劉備「、、、でも」
関羽「行きましょう、桃香様!蜀の地を取り戻し、もう一度やり直しましょう!益州の民もそれを望んでいるはずです」
劉備「、、、、、、、民のみんなが望んでいる?愛紗ちゃん、本当にそう思うの?」
関羽「はい!」
『民が望んでいる』その言葉を伝えれば、劉備は動いてくれると関羽は信じていた。
今までもそうだったように、
しかし
劉備「違うよ、間違っているよ。愛紗ちゃん」
関羽「え?」
これからがそうだとは限らない。
劉備「益州のみんなも、大陸のみんなも、誰も戦いなんて望んでないよ!わかっているの、愛紗ちゃん!反乱なんて起こしたら、また鳳薦さんと戦ったら、いっぱい、いっぱい人が死んじゃうんだよ!」
関羽「とうか、さま?」
劉備「愛紗ちゃん、もうやめよう。反乱なんて駄目だよ。私たちが目指したのはみんなが笑って居られる世界、そうでしょう?」
関羽「、、、はい」
劉備「なら、私たちは間違っていたんだよ。人の優しさを証明して、本当に人を救いたいなら。私たちがすることは戦うことなんかじゃないよ」
関羽「ならば、許せと申されるのですか!あの男を、天を!我らの大地を踏み荒らし、同胞を奪った者を!」
劉備「そうだよ。私たちが恨むのは鳳薦さんじゃない、戦いを、戦争を恨むべきなんだよ」
関羽は感じた。感じてしまった、劉備が始めて放つ覇気を
一刀が放つ威圧も、華琳が纏う重圧も、雪蓮が使う荒々しさも無い。
だた、人を包み、覆い、慈しむ覇気。
劉備玄徳がこの世界で初めて、本当の意味で王になった瞬間であった。
関羽「、、、確かに、そうのかもしれません。けれど、それで人が、民が救えるのですか?大陸の皆が桃香様の理想を信じはしません。なら、剣を振るわねばならない。正義には、それを貫く力が必要なのです!それは桃香様も認めていたではないですか!」
関羽は思う。
劉備「ごめんね、剣は振るうべきじゃなかった。だって、人を救うのに人を殺すなんて間違っているよ」
違う、、私は謝罪の言葉が聞きたいんじゃない。
劉備「でも、それだけじゃ救えない人も居るよ。戦わなきゃ、救えないモノもある。でもそれが戦っていい理由にはならない」
お願いですから、貴方が私の正義を、、否定などしないでください。
劉備「思い出してよ、愛紗ちゃん。鳳薦さんの言葉」
私の前で、そんな嬉しそうな顔であの男のことを喋らないで。
劉備「『君に救えない者は、、俺が救う』そう言ってくれた。なら、私はもう剣なんて握らない。どんなに苦しくても、難しくても辛くても。もう、人を殺して人を救うことなんてしない」
それではまるで、貴方は私より、
劉備「私は誰も血を流さない平和を探す。鳳薦さんの元で、、、」
あの男を信じているようではないですか。
「私は鳳薦さんを信じてみたいって、思ったから」
沈黙、沈黙、沈黙沈黙沈黙
言葉を聞いた関羽はもう主を見ず、俯いたままだった。
関羽にも理解はできる。おそらく、今言った言葉こそが劉備の理想を叶えるには正しい行動だ。
どんなに愚かで、
荒唐無稽であろうと、
関羽が理想を押し付ける為に拳を振るうより、
”正しい”
しかし、関羽にはそれが認められない。
憎いから、己の主を奪ったあの男が
憎いから、己の正義を破ったあの男が
憎くて憎くて、嫉妬しているのだ。己より、姉の理想の助けになっているあの男に
関羽「、、、、そうですか。貴方となら、ずっとやって行けると信じていたのですが、、此処までのようですね」
そう言い、去る背中に劉備は語りかける。
劉備「愛紗ちゃん、、、、ごめんね」
関羽「何故、、、、謝るのです」
劉備「桃園での誓い、守れなくてごめんね」
関羽「、、、、いえ。星、お前はどうするのだ」
劉備の横に居た趙雲は不敵な笑みをうかべながら、
趙雲「私はあの男に借りを返さねばな。なに、愛紗達の分まで返しておいてやろう」
関羽「そうか、、、、、桃香様を頼む」
趙雲「うむ、心得た。早く行け」
関羽は頷くと、主の元を去り駈けて行く。
新たに歩む、己の道を、
その胸に信ずる正義を宿して
己が内に潜む。嫉妬という大罪を知りながら
その様子を見ていた厳顔はため息をつく。
厳顔「まったく、あっちに行ったりこっちに来たり、若者は元気だのぅ」
黄忠「ふふ、そうね。それで、貴方は行くの?」
厳顔「あのバカ娘達だけにするわけにはいくまい。して、お主はどうする?紫苑」
黄忠「私には璃理が居るもの。部屋に居るあの子を置いては行けないわ」
厳顔「そうだな。なら、次会う時は戦場かもしれんのぅ」
黄忠「ええ、そうね、、早く行きなさい、桔梗。あの人が本格的に動けば逃げられなくなるわよ」
頷くと、厳顔もまた駈けて行く。
黄忠「まさか、また貴方と争うかもしれないなんて、悲しいわ」
ちなみに数刻後、部屋の端で『あわあわ』言っている鳳統が無事保護された。
一刀「、、、、、、」
北郷一刀は思案する。
鳴りやまぬ喧騒、指示を仰ぐ声、それら全てから耳を塞ぎただ考える。
張飛により扉が破られ、元凶の高定は外へ。
ずっと反乱の時期を窺っていたんだ、逃走経路も確保しているだろう。
(なら、すぐに追うべきだ)
ふと、部屋の端を見れば茫然とたたずむ翆が映る。
自分ですら把握できていないこの状況、混乱した彼女は肩を振るわせ泣いている。
(だからどうした、慰めることは後でもできる。
今、高定の身を取り押さえる機会を失えば、
大陸の平定が遠のくぞ。
そんなこと、”後回しでいいだろう” )
一刀「はっはは、ああ、そうかもな、、、、明命」
明命「はい!」
近くで剣を振るっていた明命を呼び、一刀は耳打ちする。
一刀「今の言葉、翆に伝えてきてくれ」
明命「はい!」
すごい速さで人を避け、明命は翆の元に向かう。
明命「翆さん!しっかりしてください」
翆「えっ、あ、明命」
茫然と、佇んでいた翆は明命の言葉で我に帰る。
そして、気づく、自分が泣いていたことを
翆「あっえ、な、なんだよ」
明命「一刀様からの伝言です」
翆「大丈夫だ、蒲公英を追う気なんてないよ。た、たんぽぽが自分の意思でいった、んだ。悲しくもないし、心配でもない、し、、、あれ、なんで、、わた、し、、ないて、んだよ、、」
明命「、、、一刀様からの伝言を言います」
紡がれる言葉は想像できる。
あいつは誰よりも優しい人で、
誰よりも厳しい王だから
翆「止まれよ、涙、、、止まれよぉ」
明命「一刀様は、、、、」
翆は心のどこかで知っていた。
いくら笑顔を向けられても、
貪欲に愛してくれる夜も、
一刀は私達を見ていない。
いつも、何処か遠くを見ている。
そう、一刀は常に大義だけを見ていると、
だからきっと、紡がれる言葉は、
『大義の為に、馬岱を殺せ』
翆「っっ、く、、」
覚悟を決める、
”自分は彼を知っているから。”
その言葉を聞くことを
明命「 ■■■■■■■ 」
ここで物語を少し離れ、事実を語っておきたい。
鳳然薦、北郷一刀は確かに常に大義を見て歩んでいる。
彼自身、気づいてはいないが大義に捕われ愛した者が瞳に映っていないこともある。
いや、常に映っていない。断言しよう、この世界の北郷一刀は”彼女達を、彼らを見ていない”
そして、もう一つの事実、これも彼の知らぬことだが、彼の周りの者は皆、それに気づいている。
知っているのだ。”彼が自分達を見ていない”と
麗羽はそれを知っていることを隠さず、魔王と罵倒して
恋は本当は見てくれているのだと信じて、寄り添う
風は何時か振り向かせると心に決め、音々もまたどうすれば振り向くか考える
凪は、明命は、たとえ見てくれていなくても傍に居られるだけでいいと
小蓮は、沙和は、何時か見てくれると信じている
真桜と斗詩はだた、そんな彼を見守ろうと決めていた
蒲公英と猪々子はどうすればいいか分からないで居た
獅堂は、一蝶は、逆狗は、哀は、そんな彼を誇り、魅入られ、焦がれ、愛している。
そして、翆はそれを悲しんでいた。
いま、ここで事実を語った。
語るべきでない事実を語った。
なら次に、真実を語りたい。
と、言っても私から語れる真実は一つだけ。
あらゆる外史で言えることだが、
”北郷一刀は彼女達を愛している。”
無論、この外史の北郷一刀、鳳然薦は
”彼女達を見てはいないが、彼女達を愛している”
明命「『行け』」
翆「え?」
分からない、翆は明命が、一刀がなにを言っているのかが分からない。
明命「『行け。蒲公英を追って行け。そして力になってやれ』」
翆「う、うそだ。あいつが、そんなこというわけ」
明命「『天を抜けて、そしていずれ二人で戻ってこい』」
分からない、翆には分からない。こんなことを言われたら、
翆「、、、泣いていた自分が馬鹿みたいじゃんか、、、」
明命「『戻ってくるまで、二人の居場所は俺が守るから』」
涙は完全に止まり
そしてまた
明命「『だから翆は、蒲公英を守ってやってくれ』」
翆「っっ、、ぐす、、ふえっ、、ぅぅう」
溢れだす。
涙を零す眼を擦り、私はあいつの方を向く。
あいつは命を求める声を全て無視して佇んでいた。
翆「本当に、いいのかよ」
喧騒の中、届く筈もない小さな声
気づくはずもないのに、そう呟いた直後あいつの唇が動く。
聞こえない。だから私は唇の動きを自分で復唱する。
「『あ』」
「『い』」
「『し』」
「『て』」
「『る』」
翆「★■※@▼●っ?!」
明命「うー、翆様だけずるいのです」
自分でも分かるほど赤くなった顔をあいつから逸らすと、頬を膨らませた明命が居た。
翆「えっや、ずるいっていわれても、、その、あの」
明命「赤くなってないで早く行くのです。それと蒲公英に頑張ってって言っておいてください」
嫉妬しているのかいつもより冷たい口調の明命の言葉を聞きながら、気づく。
まだ、明命が蒲公英の真名を呼んでいてくれることに
翆「蒲公英のこと、怒ってないのか?」
明命「怒っています。一刀様を裏切ったこと、許せません」
翆「そう、だよな「だから」え?」
明命「だから、今度あった時に謝って貰います。そして、その後にまた一緒にお買い物に行きたいと思います!」
明命の言葉を最後まで聞いて、私は走り始めた。
涙で、もう言葉は出なかった。
扉を潜る瞬間、振り返り、一刀の微笑みと明命の笑顔を目に焼き付けて、
嬉しくて、涙が止まらなかった。
私は、妹の元に走っていく。
泣きながら、笑顔で、
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真恋姫無双夜の王第43話。第42話の続きです。