その海は
混沌に包まれながらも
一本の樹によって無に帰すことはなかった・・・
一滴一滴と。
いろんな色の雫がそこに落ちるたび。
そばにそびえ立っている大樹の花に色が宿る。
時に鮮やかに。
艶やかに。
それは例え、どんな色であろうと。どんな形であろうと。
――金色の果実であろうと。
その海は誰もが知っていて
誰もが知らない場所
その樹の存在を誰もが認め
誰もが否定する
蛇が笑う
人は愚かだと
時という雫がまた落ちる。
一滴。
ほら、また一滴。
ぼぉっとしている瞬間が混沌につながるんだよ?
誰かが言う。
蛇が?
神様が?
悪魔が?
私という体はいったい何処からできるの。
お母さんから。
それなら私という"意識"は――いったい何処から来るの・・・・・・
大きな音がした。
水がはねる音。
大樹には蛇が番人として枝に絡まっているだけ。
それだけ。
時という雫。
その雫の色は一滴それぞれ違います。
毎日毎時毎秒、混沌という海におちてはそのたび調和されています。
尽きることなく。
何処までも闇が広がり、底はなくただ冷たい。
ゆいいつ光は大樹に何処からともなく降り注ぐ、名もなきその世界。
私という意識は雫になるのでしょうか。
誰かの問いに蛇は答えず。
全てはそこから生まれ、そこに帰るの。
人も獣も。
何もかも問わず。
全てが。
一滴の。
雨水が砂に解け消えます。
瞬間ちかくの植物の栄養になるでしょう。
植物が遠ければ遠いほど、その分その土に停滞・浸透するでしょう。
例えその土がコンクリートのような固い強度を誇っていても、例え毛布のような柔らかさを持っていても。
――水が与えたダメージが強ければ強いほど、思いもよらないほどに脆くなっている。
やがて。
星さえも。
何もかも問わず全てがそこに帰るの。
そして。
全てがまたどこかで生まれる。
何かの形で。
時という雫。
毎日一時一秒。
尽きることなくその樹に栄養を与えている。
ただそばに太陽があるだけ。そばに月があるだけ。
それで君たちは生まれた。
それで君たちは育っている。
それで君たちは生きている。
それで君たちは死ぬ。
それで君たちは感じるんだ。
色彩を。
物事を。
感情を。
時間を。
時という雫。
・・・怖い?
何が?
蛇が?
神様が?
悪魔が?
時という雫が?
ほら。
そんなこと言ってる瞬間に、雫が落ちてるよ。
何かの命が落ちて、樹に何かの命が宿って・・・いつかきれいに咲くよ。
混沌の海は死ぬって意味じゃない。
新しい命へのつながり。
この世界樹への橋渡し。
それでも時々笑う。
誰が?
蛇かな。
神かな。
どうしても救いようがない罪を犯した存在だけは、あの海の暗くて冷たい底に沈んでいくのさ・・・
枝に腰掛けるようにして。
蛇のそばで時々誰かが休む。
人として生まれ変わることをやめ、ほかの何かとしても生まれることを捨てた命――死神が。
時という雫が、毎日毎時毎秒何処からともなく降ってはおちて来るのを見てつぶやいた。
時々。
この雫が時間を示すのか、人の命を示すのか。
どちらが正しいのか判らなくなる。
また一滴。
雫が混沌の海ではねて、その私という”意識”の色が調和された。
蛇は笑う。
両方だと。
個の全てを無に帰し、有に変えるためだよ――
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時を”命”の雫に例えて綴っています。