No.19778

2027 The day after

136さん

パチスロ2027よりエンディング後のお話。
三部作の第一部です。
これは2027セカンド発表前に書いた物で、
セカンド以降の設定は一切反映されていません。

2008-07-17 22:05:37 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1161   閲覧ユーザー数:1124

はじめに

 

これはJPS社のパチスロ台「2027」を原作とするファン

フィクションです。

基本的にはパチスロ台で展開するストーリーを知る人が

読む事を前提にして書いてあります。

 

なお、筆者は潜水艦についての知識は深くありません。

こんな事は出来ない、しない、表現がおかしい、などと

いう箇所が多々あると思いますが、その辺は流して読んで

頂ければ幸いです。

 

 

2027 The day after

 

1.銅色の艦

 

2027年の市民防衛軍と海賊の熾烈を極めたあの戦いから数ヶ月。

結局センチュリオンはマスターが倒れたにも関わらず過去に戻れず、いまだこの時代にいた。

そんなある日の事―――

 

ベース―――センチュリオンのクルー達が単に基地と呼んでいるあのベース―――海賊達に対抗する勢力の一つであったこの拠点も、今は単にセンチュリオンの母港として機能しているのみだった。

センチュリオンは現在航海中で、主不在のそのドックだったが、そこには今一隻の潜水艦が係留されていた。

我々はその艦に見覚えがある。銅色の、優美な曲線を持つその船体、それは南の海の海賊旗艦、セルフィッシュだった。

 

「ふん・・・無駄な抵抗はしないよ。好きにするがいいさ。」

ドック脇の小屋に、背中の曲がった老人を相手に毒づくケイがいた。そのケイの周りには、不安そうに見守る老クルー3人がいる。

小屋の中には大して明るくない照明に簡単な机と椅子一脚があるのみで、ケイはその椅子に座り、長老と呼ばれる老人と相対していた。

彼女達は海賊の残党狩りをしている市民防衛軍の艦隊と戦闘を繰り返し、僚艦を失い、魚雷も底を突きかけ、半ば漂流するうちにこのベースのエリア内に迷い込み、哨戒中のベース構成員らに拿捕されたのだ。

「ははっ、海賊は縛り首って昔から相場は決まってるからな、そうするかい?」

自嘲気味に笑うケイの言葉が終わるのを待って長老は言った。

「おまえさんらをどうこうするつもりはないよ。魚雷も食料も提供しよう。」

「・・・なんだって?」

怪訝そうに聞き返すケイに長老は

「わしらも今となっては別に海賊と敵対する立場に無い。お前さんらをどうこうする理由が無いだけじゃよ。」

事も無げにそう答えた。

「つまり、このまま逃がす、って事かい?随分とお人よしな事で。あたいらは仮にも海賊だよ?出港してから反転して魚雷を打ち込まれるかも知れないんだよ?」

「いいや。」

老人はきっぱりと言う。

「お前さんはそんな事はやらんよ。ああ、やらないとも。」

「・・・・・・」

長老の、何もかも見透かしたような言葉にその意図を計りかね、ケイは押し黙る。

「それよりお前さんにはちょっと別の話があるんじゃが・・・ちょっと向こうに来てくれんかの?」

「・・・話?・・・ああ、いいだろう。」

長老の言葉に、訝しがりながらついて行こうとするケイ。それを老クルー達は止めようとする。

「お嬢!何を企んでるかわからん、わしらも・・・!」

老クルー達は二人を追おうとしたが、いつの間にかそこにいた若者が間に割って入り、その言葉を遮り動きを制した。

「信じられないのは分かる。でも信じてやってくれ。」

ドレッドヘアーに無精髭の、キースというその青年は、まっすぐに老クルーの目を見据えてそう言った。

「心配するんじゃないよ、別に何をされるって訳でもないんだろ?な?」

ケイはそう言って長老に視線を投げる。長老は微笑みながら無言で頷いた。

「じゃ、ちょっと待ってな。」

ケイはそう言い残し、長老と共に小屋を出て行った。

 

長老がケイを連れて来たのは窓から夕陽が射し込むホール―――食堂だった。

「夕陽・・・久しぶりだな、夕陽なんか見るのも。」

そう言いながらケイは手近な椅子に雑に座ると、

「で、話ってのはなんなんだい?」

そう長老に促した。

「そうじゃな。あまり回りくどいのも好きじゃないからのう、単刀直入に言うかの。」

長老はそう言うとケイの方を向き、

「お前さん、父親は?」

脈絡無く切り出した。

「父親ぁ?」

ケイは予想もしなかった長老の言葉に思わず間抜けな声を上げる。

「父親・・・ね、あたいが生まれる直前に死んだって母さんに・・・って母さんも死んじゃったんだけど、まあ、そう聞いてる。今思えば女でも作って逃げたんじゃないかって思ってるけどさ、だってなんか父さんの話をする時、母さんっていつもどこか歯切れが悪いところがあって・・・」

「その父親が生きてるとしたら?」

ケイの言葉を遮って長老は言った。

「・・・ちょ、・・・何の冗談だ?」

軽く狼狽し、引きつった笑いを見せながら言うケイに長老は尚も続ける。

「生きておるんじゃ。今もこの世界に生きておる。」

「いいかげんにしろ!からかってんのか!」

ケイはまだ半信半疑、いや、疑う気持ちの方が大きかった。

「鳴海恵介」

「え?」

「それがお前さんの父親の名前じゃ。」

「なんで名前なんか・・・」

「20年前から来た艦の、現艦長じゃよ。」

「それってあの艦・・・20年前・・・・・!」

ケイの表情が変わった。

「察しがいいようじゃの。そういう事じゃ。20年前には死んだという事になっているがの、死んだのではなく消えてしまったんじゃよ。」

ここまで言われてケイはようやく長老の言葉を信用に足るものと感じた。そう、彼女には心当たりがあった。

「・・・それで・・・あのときの暖かい感覚・・・あれが父さん・・・」

涙が溢れた。生まれてから父親のいなかった彼女にとって、父親というのは幼少の頃からの憧れの存在だった。恵介の婚約者、つまり母親の遥は何度もケイに父親の自慢話をしていた。その度に彼女は会ってみたいという思いを募らせていたが、それは叶わぬ願いだったのだ。

「生きてた・・・生きてたんだ・・・・!母さんも・・・死んだとは言ってたけど、本当は生きてるって信じてるって言ってた・・・本当に生きて・・・生きてるなら会いたい!・・・会いたいよ・・・!」

そこまで言って、ケイは何かに気付いたように愕然とした表情を見せる。

「あ、あたい、あたい!」

完全に狼狽するケイ。

「あたい、あの時の戦闘で父さんを殺そうとしてたんだ・・・殺してしまう所だったんだ・・・!」

「大丈夫じゃよ、そんな悲しい運命なんか神様だって許しやせんよ。」

長老はそう言って彼女の手にその手を重ねる。ケイはその手を握り締めて泣き続けた。

 

その深夜。

「補給は終わったが本当に行くのか?」

月が明るい港の桟橋でキースがケイに訊ねる。桟橋にはドックを出たセルフィッシュが停泊している。

「ああ、すぐにでも父さんに会いたい。父さんの力になりたいんだ。」

「ここで待っていた方が安全じゃよ、現にお前さんは追われる身じゃろうに・・・」

長老も心配そうに引き止めた。

「いや、行くよ。父さんは戦ってるんだろ?無事に帰って来る保証なんてないじゃないか!」

「そうか・・・ではの、忘れるでないぞ、能力《ちから》の事は。」

「ちから?」

「うむ。お前さんはまだ自分のものには出来ていないようじゃが、もしもの時には必ずお前さんの助けになるからの。」

「この右目・・・か。」

ケイは眼帯の上から右目に手を当てた。

「ちぇ、何でも知ってるんだな。あんた一体何者なんだよ?・・・まあいいか。ああ、覚えとくよ。じゃあ、世話になったね!」

ケイはそう言うと踵を返し歩き出した。

 

「父さん・・・どんな人なんだろう・・・あの温かい感覚を持つ人・・・」

いつもの艦長席に収まり、ケイは思いを馳せた。

「よし!出発だ!機関最大!全速前進!」

ゆっくりと桟橋を離れて行くセルフィッシュ。それをを見送りつつ、キースが言う。

「センチュリオンですが、どうもまたかなり深く潜っているようで連絡が取れないんですよ。大丈夫ですかね・・・」

「大丈夫、大丈夫じゃとも。」

長老は深く刻まれた顔の皺を尚深くして微笑んだ。

「注水開始!潜航するよ!」

発令室から指示を飛ばすケイ。

そして満月が照らす中、二人に見守られたセルフィッシュは潜航し海面から消えた。

 

 

2.海賊掃討作戦

 

「敵艦まで距離、およそ2000です。」

発令室に愛の声が響く。

「よし、発射管注水!全艦魚雷発射準備!」

 

恵介はその後、急逝した艦長に代わり正式な艦長としてセンチュリオンを指揮していた。

そしてセンチュリオンは今、海賊掃討作戦の最中一隻の海賊の潜水艦を発見、戦闘体勢に入っていた。センチュリオンを旗艦とし、市民防衛軍の艦二隻を従えた編成である。

 

「魚雷発射準備完了!」

魚雷室から水雷長の声が届く。

「敵艦に動きありません。機関停止しています。」

「注水音は聞こえたはずだ。充分な警告になる。向こうが注水を開始したら魚雷を撃つ。」

海賊掃討作戦。市民防衛軍が主導して展開している作戦である。センチュリオンは市民防衛軍からの参加要請を受け、今回がこの作戦での初陣だった。

「しかし・・・」

恵介が独り言をつぶやく。

「ん?どうしたの?」

その独り言に優が反応した。

「あ、いや、奴らだけどな、今は味方とは言え不気味だよな。」

「奴らって、僚艦の事?」

「ああ、乗員がロボットだったっていうのは驚いたと言うか、やられたって言うか・・・」

「そうね、でもそう判れば納得出来る事ばかりよね。」

会話に愛も参加して来た。

「ああ、あの機械的な動きとか、何より同じ艦が何度も出てきたりとかな。」

そう、センチュリオンの僚艦は海賊殲滅作戦終了後に市民防衛軍が接収したアイオーン艦、乗員もel型のアンドロイドだった。

「それよりこの掃討作戦だが・・・」

「どうしたの?」

愛が訊き返す。

「どうも俺は気に食わん。市民防衛軍には義理があるから参加しているが、これはただの

殺戮なんじゃないかと思ってる。」

恵介は疑問を感じていた。海賊掃討作戦に参加してはいるものの、そのやり方に。伝え聞く話によれば海賊の艦は発見されると同時に問答無用で撃沈されているらしい。言うなれば慈悲が無いのだ。

恵介がそんな作戦への参加要請を受けたのは、市民防衛軍への義理はもとより、

自分なら投降させる、という思いが強かったからだ。

「タイラス司令の傘下に入る事になるのが気に食わないんじゃないの?」

それを優が茶化す。

「俺はそんな小さい人間か!?」

「ごめんごめん、冗談だから。怒らないで、ア・ニ・キ。」

「コラ!作戦中は艦長と呼べと言ってるだろう!」

「アイサー!今後気を付けます、艦長!」

「まったく・・・」

恵介は優を叱り付けるものの、しかしその一方で優のキャラクターのお陰で殺伐となりがちな作戦中の空気が和らいでいるのも事実なので、恵介もそれ以上は咎める事はなかった。

「でも、確かにこの作戦ちょっと変よね・・・」

愛が恵介の言葉に同意する。恵介だけではない、クルーの誰もがこの作戦内容に少なからぬ疑問を抱いていたのだ。

「艦長。」

通信士が振り向いて恵介に報告をする。

「敵艦から通信が入りました。応えますか?」

「なんと言って来た?」

「当方に戦意無し、投降する、と。」

「よし、よく決断してくれた。では一旦浮上、乗組員の身柄確保の後ベースまで戻り

武装解除に応じてもらう旨を伝えて・・・」

「魚雷発射音!二番艦です!」

優が叫ぶ。

「馬鹿な!」

二番艦が撃った魚雷は無慈悲に海中を突き進む。

「・・・この距離では回避も出来まい・・・何故だ!何故撃った!」

数秒の沈黙の後、船体破壊音が伝わる。海賊の艦は圧壊して沈んでいった。

「二番艦より通信入ります。当方は海賊の殲滅が任務である。海賊は発見次第撃沈せよとの命を受けている。これは貴艦の命に優先する、と。」

通信士がモニターに表示された文字を淡々と読む。

「くっ・・・」

恵介の思いは、緒戦からいきなり挫かれる形となった。

 

翌日。センチュリオン艦隊は、あれから数えて四隻目の海賊艦を発見した。

一隻は逃走を図り僚艦に沈められ、もう一隻は、一隻目と同じく投降の意思を伝えて来たが、やはり僚艦の独断で沈められてしまった。

そしてこの四隻目。僚艦二隻は発見と同時に、恵介の命令を待たずに発射管注水を開始した。

「止めろ!撃つな!」

恵介の叫びも空しく、僚艦二隻は魚雷を発射。海賊の艦はあっけなく撃沈された。

「冗談じゃないぞ・・・皆殺しのつもりか・・・」

恵介の市民防衛軍への不信はこの時点で決定的なものとなった。

「ここまでだな。」

意を決したような響きを持った恵介の声に発令室の全員が耳を傾ける。

「これより本艦は艦隊を離脱、ベースに帰投する。」

安堵の空気が流れる。恵介のみならず、クルーの誰もがこの任務に嫌気がさしていた。

「僚艦に打電!市民防衛軍への協力はここまでとし、これより当艦は当海域を離脱すると。」

「了解しました。」

「打電後180度回頭、全速前進!海域を離脱する!」

「打電、完了です。」

「よし!回頭始め!」

恵介は通信士の報告を受け、回頭の命令を出したが、そこに通信士の声が割り込んだ。

「待ってください!僚艦から返信です!」

通信士の声は緊張で張り詰めていた。

「艦隊からの離脱は脱走行為とみなし・・・撃沈する!?」

「なんだと!?」

「僚艦、こちらに向かって回頭始めました!」

優が叫ぶ。

「注水音です!」

「ふざけるな!回頭中止!ダウントリム最大!急速潜航!」

「僚艦、魚雷発射しました!」

悲鳴にも似た声で愛が叫ぶ。

「機関最大!急げ!」

 

3.夢

 

「敵艦発見、距離3000。」

「ちっ・・・またか・・・敵艦の数は?」

ケイは恵介に会うための航海を続けていた。大まかな作戦海域はベースで聞いたものの、移動する相手を見付けるのは容易な事ではない。更には市民防衛軍の艦という障害に何度も遭遇する。出くわしては息を潜めてやり過ごす事を繰り返していたのでなかなか思うようには進めずにいた。

「どうやら一隻だけのようじゃの。護衛はおらんわい。哨戒中かの?艦種はアイオーンじゃの。」

ソナーが答える。

「アイオーンが一隻か・・・一隻だけ・・・よし、あの艦は沈める。先制攻撃を仕掛けるよ。」

「お嬢、市民防衛軍はわしらにとっては敵じゃが、その、親父さんにとっては友軍じゃぞ?それに魚雷には限りがある。やはり今度も出来るだけやり過ごした方が・・・」

諌めようとする水雷士。

「判ってる、判ってるけど今は情報が必要だろ?人間が乗ってないアイオーンだからこの際利用させてもらうんだ。なに、あたいに考えがある。ともかくあの艦はなんとしても沈めるよ。魚雷発射準備!準備完了次第即座に発射だ!」

「そうか・・・分かった。了解じゃ。・・・よし、魚雷発射準備完了じゃ。」

「撃てー!」

完璧な奇襲だった。比較的浅い海域で障害物も多く、全く気取られる事無く魚雷は発射された。アイオーン艦が注水・発射音を感知した時にはもう手遅れだった。難なく魚雷は命中、アイオーン艦は沈んで行った。

「敵艦破壊音確認じゃ。」

「よし、ダウントリム30。沈んだ艦を捜索するよ。」

「お嬢?」

「そうか、そういう事か、お嬢。」

「ああ、あの艦には必ずelが乗っているはずだ。奴の残骸を引き揚げてメモリーから情報を引き出すよ!」

 

そしてしばらくの探索の後、沈めた艦を発見、捜索が始まった。

「船外ポッド、出せ!」

セルフィッシュから遠隔操作で動かす船外ポッドが切り離された。

「上手い事、船外に放り出されてると助かるんじゃが・・・」

ポッドを操作しつつ操舵手がつぶやいた。

「水深が浅い所で良かったよ。圧壊する前にバラバラになってる。」

モニターに映った艦の残骸を見てケイが言う。

だが、残骸の山の中から人間大の物などそう簡単に見付かるはずもなく、捜索は長時間に及んだ。

「・・・こりゃ時間が掛かりそうじゃぞ、お嬢。」

「・・・・・・・・・・」

「お嬢?」

操舵手が振り返ると、ケイは艦長席で寝息を立てていた。

無理も無い。ベースを出てからおおよそ丸二日、彼女はろくに睡眠を取っていなかった。父親に会えるという興奮と、繰り返される索敵の緊張で眠るという事自体を忘れていたのだ。

しかし、ここでその緊張が緩み、彼女は眠りに落ちていった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「・・・あなたの父さんはね、お母さんの自慢だったのよ。」

「じまん?じまんってなに?」

「そうね・・・みんなにこんなに素敵な人なんだよ、って教えてあげたくなるぐらい

素敵な人だっていう事かな。」

「すてき?すてきってなに?

「うふふ、難しいわね。そうね、恵ちゃんに解りやすいように言えばかっこいい、って

ところかな?ううん、でもかっこいいだけじゃないのよ。優しくて、頼りになって・・・」

「そうなんだ!おとうさんかっこよかったんだ!ハンサム?ハンサムなんだよね!?」

「あらあら、そういう言葉はもう覚えたのね。そうよ、ハンサムだったんだから。」

「けい、おとうさんにあいたいな・・・」

「・・・そうね。私も会いたいわ・・・きっと・・・あの人はどこかで生きて・・・

るんだか・・・ら・・・」

「おかあさんどうしたの?かなしいの?けいわるいことした!?」

「ん・・・大丈夫・・・大丈夫よ・・・ごめんね恵ちゃん。泣き虫なお母さんで。」

「おかあさん・・・」

「そう、信じてればきっと・・・いつか会える・・・いつか会えるから・・・」

「うん・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「発見したぞい!」

ケイの意識はその声で現実に引き戻される。一瞬の混乱の後、彼女はいつの間にか眠ってしまっていた事を理解した。見れば老クルーが掛けてくれたのだろう、毛布が掛かっていた。彼女はそれを見てふっと微笑む。そして艦長席から立ち上がった。

「見付けたかい!?」

「うむ、どうやら奴の頭部じゃの。回収するぞい。」

ようやく目的の物は見付かった。

「よし、上出来だ。ポッド収容後、浮上する!」

 

そして回収された頭部が艦内に運び込まれた。見れば水圧で外殻が凹んでいるが、それは内部までは浸水していない証拠だった。

「さて、ひとまずコンソールに繋げるよ。」

ケイは端末からケーブルを引っ張り出し、elの頭部のメンテナンスハッチを―――水圧で食い込んでいる物を―――ドライバーで無理やりこじ開け、露になった端子にケーブルを繋いだ。

「どうだい?」

ケイが端末前に座っているソナーに訊ねる。

「うむ・・・大丈夫じゃの、メモリは生きとるわい。」

「よし、中身は読めるか?」

「うむ、暗号化もされちょらん。モニターに出すぞい。」

そしてモニターに現れたのは、海賊と潜水艦、海賊船のリストだった。見れば赤い文字と白い文字で表示が分けられている。

「なんだいこれは・・・赤い文字のは・・・覚えがあるね。あたいが知る限りこれって沈められた艦ばかりじゃないか・・・」

ケイはバーニーズの名前を探す。

「あ、あった・・・」

そこには旗艦、つまりセルフィッシュのみ白文字、僚艦三隻は赤文字で表示されたデータが記されていた。

「やっぱりそういう事か・・・って事はこのリストにある艦は全て沈める?そういう事か?」

リストを眺めながら画面をスクロールさせて行くケイ。

―――すると終わりの方に見覚えのある文字列が見えた。

 

CENTURION

 

「え?なんでセンチュリオンが・・・」

 

――――計画は前倒し、現在交戦中――――

 

「どういう事だよ!市民防衛軍はセンチュリオンの味方じゃなかったのか!?」

ケイの背筋に冷たい物が走った。リストの意味は彼女の推測通りと思えた。

「父さんが危ない・・・!助けなきゃ!でも一体どこに居るんだよ、父さん・・・あっ」

 

 (忘れるでないぞ、能力の事は)

 

長老の言葉がケイの脳裏に蘇る。

「そうだね・・・やってみるよ、じいちゃん。」

彼女はそう一人呟くと手甲を外し、眼帯を取り去った。

「お嬢?」

クルー達の困惑をよそにケイは静かに眼を閉じる。

(父さん・・・どこにいるんだい?)

彼女は精神を集中した。ふと、何かが見えるような気がした・・・と思う間もなく彼女の視界はその体を離れ、猛スピードで海中を飛んで行った。そして、視界が辿り着いた先に見えたのは、アイオーン艦二隻に追われるセンチュリオンの姿だった。彼女の推測は裏付けられた。

(父さん!)

直後、視界は彼女の許に戻る。ケイはそのショックで尻餅をついた。

「お嬢!?」

「大丈夫か!?お嬢!?」

「あ、ああ大丈夫さ。ちょっとびっくりしただけだ。それより見付けたよ、父さんを。」

「それって、例の感覚・・・なのかの?」

「ああ、そんな事より今すぐ出発だ!現在センチュリオンは市民防衛軍と交戦中!注水開始!潜航の後左回頭45度!全速前進だ!」

 

自らの意思でこの能力を使うなどとは今まで考えた事も無かった。

 

光る右目は疎ましい物でしかなかった。

 

しかし彼女は今、この能力に心から感謝していた。

 

 

4.雌伏

 

コーン・・・コーン・・・

アクティブソナーの音が繰り返し響く。現在センチュリオンは岩礁の影に張り付き、息を殺して僚艦だったアイオーン艦が立ち去るのをじっと待っていた。

「厳しいな・・・」

恵介は思わず呟いた。

「このまま奴らが諦めるのを待つのはどうも現実的じゃないぞ。」

「どういう事?」

優が訊ねる。

「このまま機関停止していたらいつか酸素が切れる。その点向こうはロボットだ。酸素も必要なければ疲れる事も無い。加えて原潜だ。エネルギー切れを起こす事も無い。」

「それじゃあ・・・」

愛が不安そうに言う。

「ああ、持久戦になったらジリ貧だ。こちらに勝ち目は無い。」

「反撃すれば?私達が”見る”から勝ち目はあると思うよ?」

「駄目だ。」

優の提案を恵介は否定した。

「先制されたのが痛い。回避優先で、ポジションが不利になってしまった。一対一なら何とかなったかも知れないが、相手は二隻だ。こちらが一隻を相手にする間にもう一隻に沈められてしまう。まあ、イニシアチブは向こうにあるって事だ。」

「そうか・・・」

優が落胆した声を漏らす。

「その前に、現在この艦の船籍はベースにある。脱走どころか奴らに攻撃を加えたりしたらその向こうにいる奴らにベースへの攻撃の口実を与える事になる。」

「口実・・・?」

何故?といった顔で愛が訊ねる。

「ああ、なんとなく、だが見えてきた。この掃討作戦は結局口封じの為の作戦なんじゃないか、ってな。」

「口封じ?」

「そうだ。海賊を片っ端から問答無用で沈めているのは、内情を知る者に生きていられては困る、って事なんじゃないかと薄々思えてきた。」

「・・・・・」

優も愛も無言で恵介の言葉を聞いていている。

「内情とは言わないが、長老、あの人は色々と知っている。俺達が20年前から来る事すら事前に知っていたぐらいの人だからな。口封じをしようとしている奴にとっては、恐らく邪魔な存在なんじゃないか?」

「えっと・・・よくわかんない。」

優がそう言う横から

「つまり、海賊掃討をさせている人は、海賊と繋がりがあったって事?」

愛が鋭い所を突く。

「多分、な。そういう事だ。そして恐らくは俺たちも、実は最初から奴らのターゲットになってたんだろう。」

「・・・・・・」

沈黙が場を包む。

「ともかく、ここで攻撃したらベースは攻撃され、奴らは長老の口を封じると同時にベースを手に入れる。攻撃しなくても酸欠で全滅だ。・・・八方塞りってって奴だ。奴らにとってはどう転んでもいい結果しか出ない訳だ。」

「そんな・・・」

悲痛な声で愛は呟いた。

「何か・・・イレギュラーな事態が起きればあるいは・・・」

恵介はそう言って天を仰いだ。

 

 

5.浮上

 

あれからほぼ丸一日。膠着状態のまま、センチュリオンの艦内酸素濃度はかなり危険なレベルに達していた。酸素濃度の低下とともに機関部が発する熱によって艦内気温も上昇、息苦しさと暑さで全員が心身ともに疲弊していた。

「潮時か・・・このまま酸欠で死ぬか、それとも動いて撃沈されるか・・・」

発令室を見渡すと、男性クルーは持ち堪えているものの、女性クルーは既にぐったりとそれぞれのコンソールに突っ伏している。声を掛ければ返事をするのでまだ大丈夫なようだが危険な状態という事に変わりは無い。恵介本人も立っている事が苦痛になり、既に座り込んでしまっている。

「今から戦闘しようとしても、ソナーがあれではそれすら叶わないか・・・」

恵介は腹を決め、マイクで艦内全体に伝える。

「みんな、済まない。こうなったのは俺の責任だ。だがこのまま死を待つというのは俺にはできない。ここは一か八か、ここからの脱出を試ようと思う。・・・これは失敗すれば即、死に繋がる。異論のある者は申し出て欲しい。ここでリスクを冒さず、ぎりぎりまで奴らが立ち去るのを待つべきだと言う者が一人でもいればこの脱出は取り止める。」

発令室の、魚雷室の、機関室の全員が顔を上げた。異論は出なかった。

「・・・みんな、ありがとう。よし、ソナー!敵艦の動きをモニターし続けろ!二隻がこちらに背中を向けるタイミングがあれば、合図しろ。苦しければ声は出さないでいい、手を上げてくれ。合図と同時に機関始動、全速で脱出する!」

「了解!」

愛と優の二人ともが気丈にも声を出して返事をした。もうかなり息苦しいはずだが、それでも兄に心配は掛けたくないのだ。そして二人はやや朦朧としながらも必死でソナーに集中する。そしてしばらくの後、チャンスが来た事を愛が告げた。

「この動き・・・間もなく二隻とも背中を向けます・・・後10秒。」

「秒読み開始します。」

秒読みを開始したのは優だった。

「5・4・3・2・1!」

「よし、今だ!機関・・・」

「待ってください!前方より潜水艦!距離・・・いえ、凄いスピードで接近してきます!」

恵介の命令を遮り、優が叫んだ。

「なんだと!始動中止!何者だ?こんな時に・・・」

「・・・!魚雷発射しました!数4・・・これは・・・二発は二番艦、残りは三番艦に向かっています!」

「何!?味方なのか!?この艦の味方・・・そんな艦がいるのか!?」

「魚雷命中します!」

愛の報告と共に振動と轟音が伝わって来る。二番艦はあっけなく沈んだ。

「通信入ります!音声信号です!」

通信士が声を振り絞り叫ぶ。

「流せ!」

通信士は恵介の言葉に従い、艦内スピーカーで通信を流した。

「ザッ・・・ピー・・・ガガガ・・・」

スピーカーからはノイズしか聞こえなかったが、距離が縮むにつれ次第にクリアになっていく。

「ザッ・・こえるかセンチュリガガッ・・・ちらはバーニー・・・艦長・・・だ。ザッ・・けあって海賊は廃業した。加勢するよ!」

艦内のざわめきが歓声に変わった。

「バーニーズ?あの時の海賊か?いや、何であろうと今は助かる!機関始動!排水開始!」

軽い振動を立て、身じろぎするようにセンチュリオンは海底から浮き上がる。アイオーン艦の二隻は、アクティブソナーを遠慮無しに打っていたが、それはケイにとって幸運だった。自分が発見される前に相手が居場所を教えてくれるのだから、魚雷を当てるのは造作も無い事だったのだ。そして、残りの二発の魚雷は三番艦に接近していた。

「敵艦回頭、回避されるぞい。」

「ふん、お前らの回避パターンはよく知ってるんだよ!誘導魚雷に予想座標をインプット!全門装填!いいかい、奴らに撃つ暇を与えるんじゃないよ!センチュリオンを守るんだ!」

「了解じゃ・・・よし、座標インプット完了、発射準備完了じゃ。」

「撃てー!」

腹を見せ、回頭する三番艦。その横っ腹目掛けて魚雷は一直線に突き進む。

「バーニーズの魚雷、直撃しました。三番艦圧壊します。」

愛が状況を報告する。

「イレギュラーが・・・起きた・・・これ以上無い形で助かった・・・」

恵介が安堵の言葉を漏らす。

「バーニーズ艦、浮上します。」

「そうか、よし、こちらも浮上する!浮上後通信回線開け!礼を言わなけりゃな・・・」

 

そして浮上した両艦、恵介はマイクでセルフィッシュに呼び掛ける。

「こちらはセンチュリオン艦長の鳴海だ。危ない所を助かった。感謝の言葉も無い。」

(これが父さん・・・父さんの声・・・)

通信を聞いたケイは胸を締め付けられた。が、口から出たのは気持ちとは裏腹なものだった。

「礼には及ばないよ。実はあたいらあんたのとこのベースに世話になってね、その恩返しさ。」

「お嬢?」

老クルーたちもそんな言葉は予想していなかった。

「いいんだよ、これで。」

マイクを押さえ、小声で言うケイ。

「いやしかし、あんなに会いたがってたじゃ・・・」

「いいのさ、これで・・・父さんが無事ならね・・・」

そう言いながら、彼女の目は赤くなっていた。

「それで、だ。あんた達、相当参っているようだから、ベースまで護衛してやるよ。」

「それは助かるが・・・」

一度は交戦した相手の申し出に恵介は戸惑った。

「いいじゃないか、昨日の敵は今日の友、ってね!さあ、また発見されないうちに出発するよ!」

そして両艦はベースへの帰途についた。

 

 

6.夕日の再会

 

ベースに着いたのは翌日の夕刻だった。夕陽の紫外線は弱く、外に出ても害は無いので両艦はドック内ではなく桟橋に接岸する事にした。センチュリオンを先導する形で来たケイは先に接岸を済ませ、桟橋に降りていた。そこへ長老とキースがやって来た。

「ご苦労じゃったの。」

長老がケイに呼び掛けた。

「ああ、じいちゃん。いや、自分の好きでした事さ。礼なんか言われる筋合いは無いよ。それよりあたいの方こそありがとうな、能力の事言ってくれなかったら絶対に間に合わなかったよ・・・」

「そうかそうか、よしよし。」

長老は顔をくしゃくしゃにして笑う。

そうこうする内にセンチュリオンも接岸、ベーススタッフによって係留されていた。やがて乗組員が一人、二人と降りて来る。その様子を見るケイは、心臓の高鳴りを抑えられなかった。

(どれ?どの人が父さん?)

「おう、艦長!」

キースが、今ブリッジの根元から現れた人影に呼び掛けた。ケイの心臓は飛び上がらんほどに高鳴った。彼女は恐る恐るその人物に注目する。制服姿の、長身で、抱いていたイメージよりかなり若い男がそこにいた。

(あの人が・・・あたいの父さん・・・母さん・・・本当に素敵な人だよ・・・)

涙が溢れそうになった。父親に会うという、叶わぬはずの願いが叶った瞬間だった。

しかしケイは目を伏せ、セルフィッシュへと足を向けた。

「これこれ、どこへ行きなさる?」

長老がその様子を見て呼び止める。

「・・・会えただけで十分だよ。それに元海賊のあたいが娘じゃ父さんだって迷惑だろ?」

そう、彼女は海賊だった自分に負い目を感じていたのだ。しかしその様子を黙って見ていたキースは

「ったく・・・」

そう呟き、めんどくさそうに頭をかくと、

「あっ、ちょっと!何するんだい!」

ケイの両肩を後ろからがっちりと捕まえた。

「俺は長老にめんどくさい奴、って言われるんだが、あんたも相当めんどくさい奴だな。」

キースはそう言うや否や、

「おーい!艦長!この娘がバーニーズの艦長だ!直接礼言っといた方がいいんじゃないか!?」

そう恵介に呼びかけた。

「いっ!?」

ケイはキースの言葉にぎょっとする。

「ちょ、ちょっと待て!余計な事を・・・」

恵介もその声に気づき、ケイの姿を確認すると小走りでやって来る。キースはケイの言葉を無視してその肩を掴んだままずいずいと前へ歩き出す。

「だ、駄目だって・・・!おいってば!」

ケイの抵抗も空しく、二人は至近距離まで近付いた。キースはそこでようやく彼女の肩から手を離した。そのままキースは笑顔を見せながら後ろ歩きで遠ざかる。

「まったくもう・・・」

キースを睨み付けるケイ、そして彼女は観念したかのようにゆっくりと恵介の方を伏目がちに振り返る。少し上目で見れば、すぐそばに父親がいた。彼女は父さんと呼びたくなる衝動を抑え、目を逸らした。

「あなたが・・・艦長でしたか。今回は本当に助かりました。お陰で全員の命が・・・」

「これこれ。」

長老が口を挟む。

「自分の娘に何をかしこまっとるか。」

恵介はしばらくはあ?という顔で長老を見ていた。

「何を呆けとるか。お前さんがこの時代に飛んで来た後に生まれたお前さんの娘じゃよ、

この娘さんはな。」

ぎょっとなる恵介。そして、何かに気がついたかのようにぱっとケイの方へ向き直る。

「済まん、ちょっとよく顔を見せてくれ!」

「あっ・・・」

恵介はケイの両頬に手を沿え、自分の方へ向けさせる。当のケイはどぎまぎしながらも

なすがままだった。

「・・・俺と、遙の子・・・そうだ、確かに彼女の面影が・・・遙・・・」

一気に涙が溢れ出す。

「やっと、やっと会えた・・・」

「え?」

ケイは恵輔の意外な言葉に疑問の声を上げた。

「探していたんだ、君を・・・遥、つまり君の母親がこの時代のどこを探しても居ない事は俺を絶望させていた。だが生まれてくるはずだった子供なら、ひょっとしたら生き残ってどこかにいるかも知れない、そう思う事で挫けそうな心を支えていたんだ。」

恵介は手で涙を拭いながら彼女に訪ねる。

「俺の、娘・・・なんだな。なんか不思議な気分だ。名前はなんと?」

「ケイ・・・です・・・父さん。」

 

(女の子でも男の子でも、あなたから一文字取った名前にしようと思うの。)

 

遙はそう言っていた。恵介はそれを思い出した。もう涙が止まらなかった。

「俺を・・・父さんと呼んでくれるのか。君に何もしてやれなかった俺を・・・」

恵介は思わずケイを抱きしめた。

「父さん・・・」

抱きしめられたケイの目尻にも涙が光る。

「ちょ、ちょっと、アニキ!その人誰なのよ!」

その様子を後から降りて来た優が見つけ、喚きながら走って来る。愛も更に遅れてついて来た。

「あ、ああそうか、そうなるんだな。はははっ!」

声に振り向きつつ涙を拭いながら、恵介はおかしそうに笑った。

「な、何がおかしいのよ。」

恵介の許に辿り着いた優は怪訝そうに疑問を口にする。そんな優に恵介は楽しげに答えた。

「彼女はお前たちの姪だ。つまりお前たちは彼女から見ればお・ば・さ・んって事だ。」

「お、おばさんー!?何よそれ!意味わかんない!」

喚く優。

「え?え?何?どういう事?」

混乱する愛。

 

夕陽に照らされた二人の再会―――彼女が胎児だった時以来の―――を、長老は嬉しそうに

見守っていた。

 

おわり


 
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