「う、うぅ……」
意識が朦朧とする中で、俺は突然の寒気を感じて思わず呻き声を上げた。
一体何だよ、人がせっかく良い夢見てたってのに……これじゃあ目が覚めてしまうじゃないか。
目を瞑って布団を掴み必死の抵抗をみせるが誰かが俺を起こそうとしているのかぐいぐいと引っ張り返してくる。
(待ってくれ、今いいところなんだ!)
夢の中では華琳と蓮華という二人の王が、嫉妬心で対立しながらも
一緒になって夜のお相手してくれるという垂涎必死なもの。
―ぐいっ!
「うおっ寒!!」
下衆な妄想を戒めるように突然下半身がまくられ素肌が剥き身で晒される。
(なんだ一体! 何事だ!?)
身を縮こませようとしても誰かが邪魔しているのか一向に体が動かせないぞ?
ぐっ、落ち着け北郷一刀。焦っても状況は変わらない。クールになれ一刀。
今生きてるなら長坂橋からは無事脱出できたってことだ。近くに凪達がいるだろうから身の危険は取り合えずない。
ならこれは誰かの悪戯だろうか? 袁術? それとも風だろうか?
(いや待て!)
天啓が舞い降りる。
(そうこれはきっとあれ。神様がお目こぼしに正夢を起こそうとしてくれているに違いない!(錯乱中)
朝+悪戯+エロゲとくれば、ある系統のゲームで欠かせないシチュエーションの一つ、
朝の生理現象を治めてくれるアレだろ!キターーーーー! 我が世の春が来たーーー!!!!)
感涙にむせび泣き、いったい誰だろうと逸る気持ちを押さえつける。
もし凪だったら―
「その、隊長が苦しそうだったので……僭越ながら、あの……ご奉仕……を……」
なんて言ってくれるのかな?
それとも風、稟のコンビだったらどうだろう?
「おうおう兄さん、なかなかのもん持ってんじゃねーか。久しぶりにあたいの女が目覚めちまったぜ」
「くっ……これはあくまで後学の為です。か、勘違いしないでください!」
ダブル?ダブルなの?
もはや辛抱堪らず目を見開くとそこには、
メリハリのある肉体に突き出した胸部、すぐ目に留まるのは立派なお髭。
「む? 目が覚めよったか」
……………………………………………………
白ひげのおっさんがドアップで迫っていた。
「ですよねー」
「なんじゃいきなり、起き掛けに真っ白になるとはおかしな奴だのう」
黙れホワイトドール(暫定)。
密かな夢を返せ、そして黒歴史に帰ってしまえ。
「……あなたは一体どちら様ですか?」
ぶつけようの無い怒りを堪えて状況を把握しようと話しかけるがふと違和感。
まだ足元でもぞもぞ動いている感触がするな。まさかまだ何かあるのか?
「ワシの名は卑弥呼。漢女道の求道者にして貴様の手助けに来た者だ。うなされておったので熱の一つでもはかって」
「いわゆる貂蝉の仲間ですね。分かります……それは全力で置いといて、だ。まさかとは思うが下半身の感触にお前は関与してないよな」
「ぬ? それは遠回しにワシに奉仕してもらいたいというアピールと受け取ってよいのか? その心意気や良し。すでにダーリンという思い人はいるがここは人助けと割り切って全力で介抱してや
ろう」
言うや否や服を脱ぎ、はちきれんばかりの筋肉を露出させる変態。畜生! 何でどの変態も勝手に勘違いして迫ってくるんだ!
「いやあああぁぁぁ!助けてー! 犯されるーーー!!」
「人聞きの悪い事を言うな、若造がっ! 奉仕してやるだけだっ!」
「だ、誰かいないのかーーーー!?」
「ここに居るぞーーっ!」
足元の感触が離れた瞬間、下から飛び込む影が卑弥呼を横殴りにふっ飛ばす。
「だが甘いわ、小童がっ!」
空中で身を捻り、ポーズを決めて着地する卑弥呼だが残念な事に誰も見ていない。
「馬岱ちゃん!?」
遅れて、変態を無視し勢いもそのまま彼女は俺の首に手を回し密着してくる。
「えへへ、ご主人様だぁ」
なんでここに? 寝そべった俺の胸にぐしぐしと顔を擦り付けてくる馬岱ちゃんはさっきまで戦っていたはずの相手に警戒するでもなく全身を委ねてくる。
嬉しそうに足をばたつかせ、「むふー」とか「にしし」とか言ってる姿は懐いた子猫みたいだ。明らかに機嫌が良い。
(でも理由は? あとご主人様って一体?)
首を傾げていると馬岱ちゃんはそれに反応して、今度は頬を膨らませる。
「ノリが悪いよ、ご主人様! せっかくたんぽぽと再会できたのに何でもっと喜んでくれないの!」
「再会?……って ちょっ、くっ、首が絞まる!?」
本人は悪ふざけのつもりみたいだけど、回された腕が的確に頚動脈を圧迫してくるもんだから意識がどんどん遠ざかっていく。
タップするように頭にぽんぽんと手を乗せるとなぜか更にきつく抱き締めてくる。なんでさ!?
再び助けを求めて視線を彷徨わせると隅にグラグラの実の能力者(変態漢女)が無意味にダブルバイセップスフロントでアピールしているが黙殺しておく。
人類は同じ過ちを繰り返す程愚かじゃない。
マリンフォードに沈め。
「たじか」
いかん。血液が圧迫されて正常な言語も発声できなくなってきたぞ。なんとかしてこの子を引き剥がさないと地球が、いや命が危ない!
「――そこまでにしておけ、たんぽぽ。それ以上続けると主が新しい性癖に目覚めてしまうぞ」
くやしい。でも感じちゃ……ビクンビクン。やばい、これは脳に血が回らなくて痙攣してきた証拠だ
「うわっ、ご主人様がどんどん恍惚の表情にっ!」
トリップという意味では間違っていない。
ようやく自分が危険行為を行っていたのに気付いたのか馬岱ちゃんは慌てて手を離す。
い、今のうちに袴を上げておこう。
「やれやれ会えて嬉しい気持ちはわかるがいささか焦りすぎだな、こういう場合は雰囲気が重要なのだぞ」
助け船を出してくれた女性が寝台の隅に腰掛けてしなだれかかってくる。
「随分と久しいですな、主。この時を一日千秋の思いで待っておりました」
「ちょ、趙雲さんまで……まさか俺、蜀に捕まってるの?」
ありえない話ではないけど、それだと春蘭や袁術の安否が気になってくる。
まんまと蜀と袁術軍を戦わせる事に成功させた今、俺達は蜀にとって怨敵に違いない。
(まさか凪達と合流したのは夢だったとか?)
不安に襲われ尋ねようとすると趙雲さんは可笑しそうに口元に手をやる。
「捕えるとは心外なご感想。そのような乱暴なマネをするはずがありませぬ。長坂橋の事件で貴方の存在を知った我らがここまで馳せ参じているのです。席を外しておりますが恋と陳宮殿も随行し
ておりますよ」
「恋とねねがいっしょって事は……」
「はい。この場所を見つける直前まで恋が黙っていましたから知りませんでしたが、既に事情は聞いております。主の事情、使命、そして過去の記憶の事も……」
「記憶……もしかして君は過去の事を……」
「はい、ここのたんぽぽも含め、蜀には主を忘れている者はおりません。ですから君などとつれない呼び方はお止めください。以前のように星と、我が名を呼んでくだされ」
口元に当てていた指を俺の唇に重ねる。
「主が忘れているのならもう一度名乗りましょう。我が名は趙雲。字は子龍。真名は星。過去に貴方と共に乱世を駆け、命も含めた“全て”を捧げていた者です」
もう一度指を自分の唇に這わせ、真っ直ぐ視線を投げかける。
曇りない眼とはこの目の事を表すんだろうか。
彼女の言葉は重く、俺には勿体無いが今までと同じようにどこかこの気持ちに心当たりがあった。
記憶は無くとも、感情が再会を喜ぶ。
吸い込まれそうな瞳を見据えて俺は無意識に言葉を返した。
「……命まではかけてほしくないな、星」
一瞬、ハッとなった表情を浮かべるが趙雲さんはすぐに表情を戻し、微笑む。
「それは承服しかねますな。我が無二の主よ。既にこの身は愛も魂も貴方にかけているのですから」
馬岱ちゃんの時とは違って、慈しむような抱擁で首に手が回り密着される。
この体勢じゃ顔は見えないけど、なぜか彼女が少しだけ泣いているような気がした。
「あぁー! 星お姉さまずっるーい! 抜け駆けだぁー!」
負けじと馬岱ちゃんも再びこちらへダイブ。
またもやハグされまくってしまう。
どうやらこの娘達は過去の記憶が戻っているとみていいんだろう。
心に安堵を感じ、二人一緒に頭を撫でると趙雲さんは恥ずかしいのか身を捩っているけど、胸元にいる馬岱ちゃんのせいでなすがままになっている。
しばらくそうしているとなんだか幸せな気分になって頬が緩んできた。
(こういう甘々な展開今まで無かったからなぁ)
すっごい癒される。
エロは無かったけど萌えはあった今日この頃。
「……完全にワシを除外するつもりか。良い度胸じゃのう」
まだ居たか。
女の子特有のふよふよした感覚を名残惜しみつつも顔をそちらに向ける。
「出来れば関わり合いたくないが、そうもいかないんだよな?」
「とことん失礼な奴じゃな。まあ良い、これがツンデレというものじゃろうて。その通り、先も言ったがワシは貂蝉から言伝とお主を手助けしてくれと頼まれておる。我が弟子たっての願いとなれ
ば聞かぬわけにはなるまい、存分に力を貸してやろうぞ」
「俺への感想は極力どうでもいい。用件、言伝の内容を先に教えてくれ」
変態への対処は簡単に済ますに限る。……感謝はしてるけどさ。
「むっ! 一瞬デレの気配を感じたがお主やはり……いや待て、なぜ娘っ子どもが身構える」
二人が振り向いて卑弥呼相手に敵意を飛ばす。
「ご主人様は渡さないからね、この変態!!」
「そうだとも。主の性癖を問うつもりは無いが、ここは我らに譲ってもらおう。……後は主の懐の大きさ次第だが」
「待つんだ星。君は俺が同性愛を容認できる人間だと言いたいのか」
背後になぜか二人の小さい軍師が見えるのは気のせいだろうか?
((はわわっあわわっ))
言いたい事は山ほどあるが話が進まないので先を促す。
「内容はいくつかあるが、まぁ今は関係あるものだけを話しておこう。お主が置かれている状況も含めてな」
変態は時々、妙に人が良いから困る。
卑弥呼の話はこうだ。
現状として俺はあの長坂橋の事件後、華琳と合流した凪達に助けられたところで倒れてしまい、寝たきりのまますでに三日が経過したらしい。
目立ったケガをした覚えは無いけど卑弥呼の連れに医者がいるらしく、彼の診断によると普段からの疲労が重なり急に気が抜けて体が一気に休息を求めた結果、目が覚めなかったという。
確かに最近仕事や訓練が多くてあんまり寝てなかったし無理が祟ったって事なんだろう。
心当たりを言ったらなぜか女性二人が「またまたー」みたいな顔をしていたのはあえてスルーした。
ちなみに凪や風達は偶々席を外しているらしい。……なぜ微笑む馬岱ちゃん。
で、一番重要な貂蝉からの言伝の内容はかなり深刻な事実を含んでいた。
脇に控える趙雲さんと馬岱ちゃんに聞かれるのを一瞬躊躇ったが、
秘密を打ち明けずもう煮え切らない態度を取らない為に過去の記憶といった全ての事情を説明し、そのまま聞いてもらう事にした。
―――左慈を止める為の必要なファクターが足りない。それが無ければこの外史は必ず滅びてしまう―――
そう、外史には寿命ともいえる物語の終端が必ず存在する。
世界が役目を終え、崩壊とともに幕が下りる不可避の現象。
貂蝉はそれを見越して新たな世界を創造出来るよう今まで手を尽くしてくれたらしいが、どうにもおかしいらしい。
必然である世界構成の鍵、ファクターが“最初から”存在していない。
このままでは世界が物語を終えてしまった瞬間、誰も彼もが生き残れず正史から断絶される。
いまだ貂蝉が現れないのはいまだ捜索を続けている為、卑弥呼が出てきたのはその肩代わりだそうだ。
「ワシの場合は別件も兼ねての干渉だがな」
「別件? 難しい問題じゃなければ手伝ってもいいが……」
助けてくれるというなら、変態といえど協力は惜しむわけにはいかないだろう。それが礼儀ってやつだ。
「やはりデレ……ええい三人揃って睨むでない、至極まともな目的じゃわい。……ワシは今、とある『鋼』を探しておるのじゃ」
「鋼って………観測者であるお前が探すぐらいだから結構な代物なのか?」
「うむ、ワシが捜し求めているのは炭素含有量の多い希少なものでな。それを使って刀を打ちたいのじゃ」
「刀って………打てるのか? この時代に製造技術はまだ無かったと思うけど」
あっても大陸と同じ鋳造の剣だろう。
「片腹痛いわ。ワシは卑弥呼。日ノ本の技術なら過去未来全て習得済みじゃ。不可能など無い!」
「そうか。それでそっちの手がかりは有るのか?」
「ダーリンとともに探してはおるのだがな。許昌辺りで一度売られたらしくその者に会って譲ってもらおうとは考えておる」
「どんな人物なんだ? なかなか難しそうだが……」
「なにやら乳の大きい童顔の娘っ子が買っていったらしいが心当たりは無いか?」
「んー……」
さすがにそれだけだと判断に困るな。大きい胸が特徴だって穏と比べたら大概の人は小さく見えるし、童顔の子は山ほど居るしなぁ。
悩んでいると卑弥呼は何を思い出したのかカッと目を見開いた。
「そういえば貴様。刀を使うらしいが居合いや中段構えやら動きに一貫性が無いようじゃな。流派はなんという?」
「む? それは私も興味がありますな。相手がたんぽぽとはいえ一介の武将を手玉に取る実力。どのようなものでしょう」
「別に大したものじゃ……って……あっ、痛たっ! うそうそ、大した事あります! 馬岱ちゃんが負けてもしょうがありません!」
謙遜のつもりがプライドを傷つけたのか抓られてしまった。
地味に痛い。
「いてて……一応小さい頃に祖父から習ったのはタイ捨流だけど、今は正道剣術しか使ってないぞ。居合いはあれだ、格好良かったからそこだけ教えてもらった」
まさかこの世界で必殺技扱いになるとは夢にも思わなかったが。
「随分と節操が無いのう、まあ良い。タイ捨流に心得があるワシが直々に指導してやろうぞ」
「本当か? 嘘だったら性質が悪いぞ」
「侮るなよ小僧、いやバカ弟子よ! だから貴様は阿呆なのだ。かつては日ノ本不敗と呼ばれたこのワシがつまらぬ嘘など突くものか!」
こいつ素手で機械獣を倒した事あるだろ。
「だったらよろしく頼む……俺は自分の手で奴と決着をつけたいんだ」
撫でていた手をぎゅっと握り締め決意を新たにする。
まったく手が出せなかった長坂橋の対峙、あそこで自分の未熟さを思い知ったんだ。
だから俺はもっと強くならなくちゃいけない。心も体も、だ……。
「ならば私も主の訓練に付き合いましょうぞ」
「たんぽぽもー!」
「二人とも……」
「正直、主を前線で戦わせるのには抵抗がありますが、そこまで強い意志を持っているのでしたら文句は言えませんな。全力で手助けさせて頂きます」
さっきと同じ迷いの無い瞳に感謝の念が絶えない。
でも待てよ? まだ重要な質問をしてなかった。
「趙雲さんって蜀の武将だろ? そもそも俺の傍に居ていいのかい?」
当然の疑問に気付き聞いてみると、抱きついていた彼女は突然居住まいを正したかと思うと寝台の隅で正座の姿勢を取った。
「こほん…………主に抱かれ続けるのも一興ですが、ここからは真面目にお話すべきですな……この世界における蜀の現状と、我らがここに居る理由を」
迷いの無い瞳がこれまで以上に真剣さを増してこちらを見据える。
それに釣られてか馬岱ちゃんも反対側で同じように真面目な態度で座り込む。
「先も言いましたが蜀の者は皆誰一人として貴方様を忘れておらず、記憶が戻った当初から各地で捜索を開始しておりました」
横でうんうんと首を振って頷く馬岱ちゃん。
「ですが再会は今日この時まで叶わず仕舞い。洛陽の騒乱、泗水関では敵将としてのお姿をちらりと拝見しただけでその後の消息はどうしても掴む事ができませんでした」
確かこの時は干吉が姿を消して雪蓮と助けに来てくれたんだっけ。
「それより数ヵ月後に主の居場所が知らされた時は驚きましたぞ。恋の時はいざ知らず、まさか呉の将として身を立てているとは予想外も良いところでしたな」
「しかも変な格好して人気者になってるしー」
そこは触れないでほしいなぁ 触れられたくない過去ってやつだ。
「後で折檻だな、たんぽぽよ」
「「何で!?」」
同時に突っ込むが趙雲さんは答えてくれない。そのまま話は進む。
「そしてその情報が入った時、すぐにでも主を迎えに行くべきか、国家の地盤を整えてからにするかで大分揉めましてな。話し合いの末、まず国力を高め、天下泰平の為の足がかりをしっかり整え
ようという結論に至りました」
自分で言うのもなんだけど確かに俺個人と大陸の平和を天秤にかけたらそりゃあ国として後者を取らざるを得ないだろう。
しかもこの時期って華蝶仮面としての噂が先行してたから本当に北郷一刀本人か判断付きにくかったんだろうな。
「ですが、それが原因である異変が起きてしまいました。……愛紗、つまり関羽が主と再会したいが為に乱心したのです」
「……穏やかじゃないな」
「はい。本人からしてみればただ純粋に会いたい一心なのでしょうが、どうにも手段がまずい。あれの兆候は泗水関の頃より感じていましたが愛紗は諭す我らに武器を取り、力づくで押し退けよう
としたのです。主への忠義はそんなものか、と」
「あの時の愛紗ね、まさに鬼そのものって感じだったよ」
「なんとか押さえるのには成功しましたが愛紗はその後情緒不安定になりましてな……。事ある度に“ご主人様、ご主人様”と呻くような素振りばかりするのです」
「それにね? こっちがご主人様の話をするとものすっごく反応するんだよ?」
「ですから私はもし次に再会する機会があるのならば、愛紗が落ち着くまで逆にお傍に付こうと考えておりました」
「たんぽぽ達は会いたいから来ただけ!」
右手を天井へ大きく突き上げて自己アピール。
「って事は、今回の件は蜀公認?」
首を傾げるとまたも趙雲さんは破顔し、笑い飛ばす。
「まさか。此度の行動は完全に独断。今頃は四人もの将が居なくなっててんやわんやでしょうな。はっはっは」
「おいおい……。仮にも五虎大将軍の一人が言うセリフじゃないだろ?」
「よろしいではないですか。結果として主の真意に気付けたのです。無駄な行動ではありませんし、あの場に居た紫苑ならばうまく事後処理をしてくれるでしょう」
「でもこれから蜀は袁紹軍と戦争するんじゃないのか? 戦力差があんまり無かったはずだから苦戦すると思うんだけど」
その状況で実力も知名度も高い恋と趙雲さんが抜けるのは蜀側にとってかなり痛いはずだ。
兵の動揺もあるだろうし。
「そちらは心配ありませんよ。既に北方の勇、馬騰殿。盟友である白れ……公孫贊殿が共同で遠征した袁紹軍のスキをつく手はずになっています。まず負ける事は無いでしょう」
「……あー、そこらへんも最初から計算済みだったって事か」
「はい。もし攻め込まれても即座に対応できる策を用意しておく。我らの軍師は優秀ですから」
「馬騰様とか二人とも協力してくれてよかったよー」
「ま、そういうわけでこれからは主の下にお世話になろうと思います。以後手足のようにお使いくだされ」
「不束者ですがよろしくお願いしますっ!」
同時に頭を下げ、恭順を示される。
これほどまでに強い彼女達の思い。俺はしっかりと受け止めなくちゃいけないだろう。
背筋を伸ばして精一杯の誠意を表した。
「たぶんこれからは過去の記憶とは違う事件が数多く起こるはずだ。それは世界の終わりに関する問題、放っておけば全ての人間が不幸になってしまう。だから」
俺も彼女達同様に頭を下げた。
「力を貸してくれ。星、たんぽぽ。俺には君達が必要だ」
額が布団に着く位深い姿勢で土下座をすると、星はそっと俺の手を握って体を起こしてくれた。
「頭を下げてしまうのがいかにも主らしいですな。ここはもっと尊大に構えても良いところですよ」
「でもそういう謙虚なご主人様も大好き!」
繋がれた手のひらにたんぽぽの手も重ねられる。
「今後ともよろしくな」
「はい。何処までもお供致しますぞ」
「たんぽぽ頑張っちゃうんだから!」
「…………ここで水を差すほど無粋では無いぞ」
誓いも新たに仲間が増えた北郷一行。
これより待ち受けるのはどんな事件か。
明日をかけた戦いが今始まる。
―バタンっ!!!
「隊長っ!! ご無事ですか!」
感動のシーンを突き破って部屋に闖入してきたのはなぜか葉っぱまみれの凪。
すごい息切らしてるけどなにかあったのかな?
「げっ。もう抜け出してきたんだ……もうちょっときつく結んでおけば良かったかな?」
「あああっ!? やっぱりここにいたな馬岱! あれほど療養中の隊長に近づくなと言っておいたのに! しかも趙雲殿まで!」
(……最初の方の笑いと騒いでたのに誰も来なかったのはこのせいか)
「曹操殿が許可するから特に拘束もしてなかったのに……仕方ありません。ここは一度灸を据えた方がよさそうです」
凪の両手に氣が収束していく。
「待った! 待つんだ凪!! 星とたんぽぽは純粋に俺を心配して……」
二人を庇うべく制止の声をかけると凪は一瞬動きを止め、冷たい視線で口だけを動かす。
「そうだ隊長。先に用件だけを伝えておきましょう。無事お目覚めできて大変嬉しく思います」
「あ、あぁ、どうも」
なぜか汗が頬を滑り落ちる。
「それと曹操殿が気がついたのなら外に一人で来るようにとの事です。早めに行ってください」
ならなんで後ろ手にドアを閉めるんだろう。
「自分の用件が済んでから」
氣がうねり、螺旋の球へと形状を変化させる。
「……凪さん、あのね」
「随分と仲がよろしいのですね……真名を呼ぶほどに」
「予定調和ですな、主」
「いつも通りだね、ご主人様」
さっきまでの忠誠が行方不明だ。
「すまない凪……多分あと二人増える」
球が大玉になった。
意外にやきもち焼きさんな凪ちゃんは氣弾こそ撃たなかったが、しこたま説教された。
その後で一人華琳の元に向かう。
そこには珍しい組み合わせ。
華琳と恋がセキトを挟んで会話していた。
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第二十四話をお送りします。
―目覚めた一刀は、新たな仲間を迎える―
開幕