昨夜の盗賊討伐作戦は成功に終わった。
民の被害はゼロ。
兵の被害も限りなくゼロ。
と、十分な結果を上げることは出来た。
だが、大成功とは言えなかった。
外にいた盗賊たちを全滅できなかったのだ。
真夜中ということもあり逃げる者を深追いすることも出来ず、
かなりの人数を逃がしてしまったのだ。
それでも半分以上は数を減らしたため、昨日の戦いは俺たちの勝利という形で終わった。
「と言っても街自体に被害が出たわけじゃないからな~」
民に被害は無くても建物などに多少の被害があったのだ。
「あ、ここちょっと被害が大きいな……。
桂花、ここには多めに人をやって」
「分かったわ」
という訳で俺も桂花と一緒に戦後処理をしている。
ちなみにまだ朝、お互い戦いが終わってから寝ていない。
まぁ、眠れそうにもないんだけど……。
「……ねぇ」
「何?」
珍しい。桂花が俺の顔色を伺うようにたずねてくるのは。
普段ならこっちのことなんかお構いなしに何でもズバッと言ってくるのに。
「……怒ってる?」
その一言で理解した。
桂花は琥栗のことを聞いているんだ。
盗賊たちとの戦いの後、桂花に琥栗のことを話した。
監視されていた。そう琥栗は言っていた。
俺に見に覚えはなかったが誰が監視させたかは何となく想像はついた。
案の定桂花は琥栗の話しを聞いても、
「……そう」
としか言わなかった。
「………」
どう答えようか迷っていると何だか桂花の表情が変わっていく。
何だ?怒ってるのか?いや、これは不安?
もしかして俺が怒ってないかって不安になってるってことか?
そう思うと嬉しい気持ちになった。
怒ってないか不安になるっていうことは少なくとも俺のことを嫌いってことじゃないもんな。
少しだけ、沈んだ気分が軽くなった。
「怒ってないよ」
「……アンタに黙ってたのよ」
「でも、桂花の読みは間違ってなかったじゃないか」
「そうだけど……」
「前にも言ったけど……」
話すと同時に桂花の髪を撫でる。
出来るだけ優しく、ゆっくりと。
「俺は桂花を信じてるから」
「…………」
「…………」
「~~~~~~~~~っ!ば、バカじゃないの!?
ていうか気安く私の髪に触るなっ!妊娠しちゃうじゃない!!
バカバカッ、バカーーー!!」
そう叫びながら俺のことを殴る蹴る桂花。
だかどその顔は赤くなって―ちょ、そろそろマジで痛いんですが
桂花さん?だからやめっちょ顔はやめて……アッーーーーーーーーーー!!
「………ってあれ、痛くない?」
「………」
いつの間にか攻撃は止んでいて、桂花は顔を伏せていた。
「……桂花?」
「…………がと」
「え?」
「ありがと……北郷」
それは桂花の口からは久しぶりに聞く俺の名前だった。
自然と頬が緩む。
でもどうして、俺の気持ちは沈んだままなんだろう?
ねぇどうしてなのかな……琥栗。
「何人集まりそう?」
「五千ほどですかね、お嬢!」
「ちっ、それだけじゃちょっと不安だね……。
でもこれ以上数はまわしてくれそうにないか」
何とか昨夜の強襲から逃れた賊たちのアジト。
そこに生き残りの賊とその中心に座る琥栗がいた。
「あっちは追っかけで忙しいそうですぜ」
「ふん、乗っかってる私たちがいうのも何だけど、
誰も思いはしないだろうなぁ最近各地で暴れてる盗賊共が
ただ女の尻を追っかけてるだけのバカだなんて」
一刀といた時と雰囲気も言葉遣いも違うが、おそらくコチラが地なのだろう。
「奴らの兵数もこっちと一緒で五千だったっけ?」
「はい」
「不味いわね……悔しいけど兵の質はあっちが上。特に――」
その先を琥栗は口にしなかった。
特に―天の御使いが来てから、とは……。
「お、お嬢!!」
「どうしたの?」
「吉報です!さらに二千人こっちによこしてくれるみたいでさぁ!!」
「本当かっ!?」
「ええ、何でも今度は近くで例のあれをやるみたいで、
駄目もとで追加を頼んだら更に二千人程追加してくれるって」
琥栗は唇を吊り上げる。
その目は野獣のように鋭く光っていた。
「数は上回った。実際もう少し人数が欲しいくらいだけど
贅沢は言えないか……よしっ!」
勢い良く立ち上がり、腕を組む。
回りの賊たちもその目に光を宿し琥栗の言葉を待つ。
「兵が届き次第、私たちは戦いに出る!
恐らく負ければ次はないだろう……だがそんな心配はいらない。
なぜなら勝つのは私たちだからだ!
私たちの恨みを奴らに叩き込もう!!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」」
戦闘に向けて熱くなる空間で、琥栗は一度だけ空を見上げた。
いや、空というより天を見上げたのかもしれない。
「……一刀さん」
一度だけ呟き目を閉じる。
数秒、目を開けた琥栗の表情は決意で満ちていた。
そんな彼女の髪にある風車が悲しく廻っていた。
「ぁ……んっ」
「どう?気持ちいいかい?」
「っ……はぃ……きもひいいれふ」
その返事を聞いて一刀はさらに彼女の身体を撫でる。
体中隅々まで丁寧に。
愛しい殿方に優しく触れられ彼女は頭が沸騰しそうになるほど緊張しながら、
その余りの気持ちよさに完全に一刀に身を預けた。
「ハハ、すっごく気持ちよさそうな顔だね」
「いわ……ないで………くらさいぃっ!あんっそこはぁっ!!」
まるで自分の気持ち良く感じてしまう場所を全部知られているような
一刀の愛無に彼女は膝を揺らす。
一刀はその反応に笑みを浮かべ更に激しく優しく愛無を続ける。
「ん?今ビクンってなったね。
ここが弱点かな?」
「ひぐぅぅっ!ら、らめぇ……!
そこは感じすぎちゃいまふぅぅ!!」
弱点を見つけられそこを集中的に責められる。
すると今まで以上の快楽が彼女の体中を襲う。
それは今まで彼女が感じたことのない快感であった。
経験したことのない快楽……それに抗うことなど、出来はしない。
まぁ一刀が今相手にしているのは……
「我慢することはないんだよ?
ただ素直に感じてくれればいいんだ」
「あひっ……!れも…このままじゃわらひ
おかしくなっちゃいます~~~旦那様ぁ」
「ハハ、本当に気持ちよさそうだ。
こっちもやりがいがあるよ六花」
馬の六花なのだが。
つまりはただ六花をブラッシングしていただけである。
一応言っておくが六花のセリフは一刀には全部「ブルル」や「ヒヒーン」
などとしか聞こえていないのであしからず……。
「ブルッ…(旦那様の手は危険すぎます……でももっと撫でて欲しいにゃ~♪)」
一刀はこうして定期的に六花にブラッシングを行っていた。
当初は六花のある意味身の危険を感じる視線にドギマギしていたものの、
旅を経て気にならなくなっていた。
それにお互いに絆も出来、いい関係といえるだろう。
だが一刀は知らない。というか知らないふりをしている。
未だにその身体を六花が狙っているということを……。
「……今日はさ、報告もあって来たんだ」
「ブルル(報告ですか?)」
「多分数日後、また盗賊が責めてくる。
だからその時はまた頼むよ」
「ヒヒン!(懲りずにまた来たんですか?大丈夫です!旦那様は六花が絶対護るんだから!)」
鼻息を鳴らし自信満々に答える。
が、一刀の様子がおかしいことに気づく。
「…………」
「ヒン?(……旦那様?)」
「ん?ああ大丈夫大丈夫……ちょっとボーっとしてただけだから。
……心配いらないよ」
「ヒィン(あふぅ~……旦那様の手気持ちいいれふ~♪)」
本当に凶器だ。と六花は思う。
この手に撫でられれば六花は一刀のすることなら何でも許してしまえるだろう。
そして、誤魔化されてあげられるだろう……今回のように。
六花は一刀に何があったか聞くのを諦め、
ゆっくりと一刀に擦り寄った。
優しく抱きしめるように……。
六花、結構いい女(めすうま)である。
「おや、六花の所におりましたか」
「星!うん、いつものをね」
「ハハ、では邪魔をしてしまいましたな」
その言葉通り六花は一刀とのスウィートタイムを邪魔した星を
殺さんばかりに睨んでいる。
六花、嫉妬深い女(めすうま)でもある。
「で、何かあったの?」
「おや、主は用がなければ会いに来てはダメと申すのか?」
「いやそんなことは……って星!近いっ近いよ!!」
艶やかな表情で詰め寄って来た星に一刀は慌てる。
キスまでほんの数センチしか距離はない。
このままキス……とはならず星は一刀から身を離す。
「はぁ……頼むから心臓に悪いからかいはよしてくれよ」
「それは無理ですな。主をからかうのは最近の私の楽しみですから」
(勘弁してくれ……。只でさえ凄い美人なのに
心臓がいくらあっても足りないよ……)
「ですが今は止めます。
六花に何をされるかわかりませんから」
「ブルル!!(星殺す!!)」
この二人、実は桂花と六花より仲が悪い。
というか一方的に六花が星を嫌っているだけなのだが……。
まぁ基本六花は一刀に近づく女は全員嫌っていたりする。
「……で、用件は?」
「そう睨まなくてもいいではないですか。
……盗賊たちについて軍議をするとのことなので呼びにきたのですよ」
「……!そう、分かった行こうか」
「はい」
「じゃあ六花、また来るよ」
「ブル(いってらっしゃいませ旦那様)」
そうして六花に見送られながら一刀たちは軍議へと向かった。
その途中。
「どうするおつもりですか?」
星からの質問。
だがその意味はすぐ察しがついた。
琥栗のことだ。
「知ってたの?」
「桂花から聞きました。
ダメでしたか?」
「いや、星には知ってて欲しかった」
その言葉に星は笑みを浮かべる。
元々星に黙っている気はなかった。
というか少なくとも桂花と星に隠し事をする気は俺にはないしね。
俺は琥栗とのことを詳しく話した。
「なるほど、そういうことが……」
「……俺はどうしたらいいのかな?」
もうすぐ戦が起こる。
つまりは琥栗と戦うのだ。
殺し合いをするんだ。
出来るのか?俺にそんなことが?
俺は―――
「主は……本当に迷っているのですか?」
「………………………え?」
思わず星を見る。
その顔は笑っていた。
「私には、主がもう既に何をしたいか気づいているように見えますよ」
「俺が……何をしたいか?」
「今、主がとるべき行動は、すべき行動ではなく
したい行動だと私は思いますよ」
その言葉は……ストンと俺の胸に落ちた。
「もちろん全部が全部、そのような行動をとられては困りますが」
そう言って星は微笑む。
俺も釣られて苦笑する。
「そっか……そっか!」
俺のしたい行動か……。
確かにそれは悩む必要はないな。
「星」
「はい」
「俺、もう一度琥栗と話したい。
それがどんな結果になったとしても、
そうしないと俺は一生後悔すると思うから」
「……やはり主にはその強い瞳がよく似合う」
「え?何かいった?」
「いえ、ただ主らしい……そう言ったのですよ」
微笑みを浮かべたままの星を見て、俺は改めて思った。
やっぱり星は綺麗だなって……。
「……ありがとう」
返事は無かった。
ただ、優しげな瞳が俺を包んでくれた。
俺は、幸せもんだな……。
琥栗……待っててくれ。
君に会いにいくよ。
そうして俺と星は軍議の場へとついた。
だがそこにはいつものメンバー以外の人たちがいた。
見知らぬ女の子たちが三人。
どれもみんな可愛い女の子たちだ。
「おお来たか北郷」
「白蓮、彼女たちは?」
「ああ紹介するよ。私の友人の劉玄徳だ」
ペコリと頭を下げる彼女、劉備。
それが俺と彼女の初めての出会い。
これより先、全力でぶつかり合うことになる――
『敵』との出会いだった。
あとがき。
という訳で二章その5でした。
多分この人がくるのは予想してた人は大勢いたでしょうが、
この場面で劉備登場です。
そしてさっそく『敵』宣言。
まぁ隠すか隠さないか迷ったんですが、劉備に限り隠さずいきますw
どのように敵になっていくのか、彼女たちとどう過ごしていくのか、
楽しみにしてもらえると嬉しいです。
そしてこっからはVS琥栗との戦いへ…。
それにしても六花は書いてて楽しかったですw
どんどん変態になっていくな六花……。
出番は少ないですが僕の中では彼女がメインヒロインですwww
ではコメント返しを
村主さん>お久しぶりです。また読んでもらえて嬉しいです。これからの話で琥栗とは決着をつけます。どうなるかは一刀くん補正を信じてもらうしかないですねww
kashin さん>ただいまです。琥栗は強いですからね、一刀がどう立ち向かうか楽しみにしてて下さいw更新期間あいてスイマセンでした。これかたもまた読んでくださいね。
よーぜふさん>今回は一つ新展開になりました。彼女たちの参入でどうなるか楽しみにしてくれると嬉しいです。
SempeR さん>お待たせしてすいませんです。次回からVS琥栗です。ずっと琥栗のターン!
更新期間があいたにも関わらず、たくさんの人に見てもらえて嬉しい限りです。
温かいコメントも本当に力になります!
これからも頑張っていくのでよろしくお願いします!
感想指摘あればどんどん言って下さい。
ではまた次回にノシ
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二章も終盤へと入っていきます。
琥栗のことで悩む一刀。
戦いの準備を進める琥栗。
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