No.196779

真・恋姫†無双~神の意志を継ぐ者~ 第五幕

ユウイさん

すっごい、お久し振りです。前の投稿からいつの間にか年明けてしまいました。あの時は、まだ半袖で書いていたのに・・・そんな訳で待っていてくれた方々、大変お待たせしました。次回は、もっと早く投稿しようと思います。

2011-01-19 20:26:31 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2477   閲覧ユーザー数:1955

 ※この物語は『北郷 一刀』に対し、オリジナルの設定を含んでいます。

 

 

 

 

 

 

 

 基本的に蜀ルートです。

 

 

 

 

 

 

 

 それでも大丈夫という方のみ、どうぞ。

 

 

 

 

 盗賊退治から暫く経った。

 

 一刀達は、白蓮の客将としてそれなりに仕事を与えられている。

 

 愛紗や鈴々は武将として、星と共に近隣の匪賊の討伐。

 

 そして一刀と桃香は、主に街の治安維持が仕事だった。

 

「とはいえ平和そのものなんだけどな・・・」

 

 街の大通りを桃香と並んで歩く一刀は、平和な街並を見て呟く。

 

「白蓮ちゃんの政治が、それだけ優れてるって事だよ」

 

「・・・・・・そうかもな」

 

 一応頷く一刀。

 

 だが、この平和は仮初めでしかない。

 

 事実、城では日夜、白蓮が軍議を行っている。

 

 また一刀の知る日本と違って貧富の差が余りにも激しい。

 

 大通りに面する店や家などはともかく、裏路地一つ入ると治安が悪く、貧民も沢山いる。

 

(日本ってよっぽど平和だったんだな~)

 

 改めて今までの自分の住んでいた世界、国が平和なのだと思う一刀。

 

 そうして桃香と歩いている時だった。

 

「ひゃん!」

 

「?」

 

 その時、後ろから変な声が聞こえたので振り返り、一刀は眉根を寄せる。

 

「ご、ご主人様~」

 

 困ったような桃香の声。

 

 彼女の周りには、いつの間にか街の子供達が群がっていた。

 

「た、助け・・・きゃ! 誰、今、お尻触ったの!?」

 

「僕じゃないよ~」

 

「僕でもないよ~」

 

 笑顔を振りまく子供達。

 

 桃香も口では困っていそうでも、笑顔で実際は余り嫌がってない様子だった。

 

「ご主人様~」

 

 しかし、桃香の声を聞いて、一刀は溜息を零すと不意にポケットに手を突っ込んだ。

 

 そこで彼は、ポケットに入れっ放しで、この世界では全く役に立たないお金の入った財布がある事に気付く。

 

 一刀は、子供達に揉みくちゃにされる桃香を見て、ふと財布から小銭を取り出す。

 

「ったく・・・おい、お前ら」

 

「な~に、お兄ちゃん?」

 

「この金、良く見てろ」

 

 両手を開いて、人差し指と中指の間に小銭を挟んで子供達に見せる。

 

 そう言って、一刀はピンと親指で小銭を弾いた。

 

 子供達は言われるままに宙に舞う小銭を見つめ、一刀は落ちて来た小銭を右手でキャッチする。

 

「さて、今の金は何処にある?」

 

「「「「「右手ー」」」」」

 

 当然とばかりに子供達は声を揃えて右手を指差した。

 

「残念」

 

 しかし、一刀が左手を開くと、そこに小銭があった。

 

 驚き、唖然となる子供達。

 

 更に一刀が右手を開くと、小銭は何処にも無かった。

 

「す、凄い! お兄ちゃん!」

 

「どうやったの!? ねぇ、どうやったの!?」

 

「もう一回やって! ねぇもう一回!」

 

 一刀の手品を見た子供達は興奮し、彼の下へやって来る。

 

 若干、子供達に纏わり付かれるのに苦手意識を覚える一刀だが、この隙に桃香に此処から離れるよう視線を促す。

 

「ご主人様すご~い!!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 が、当の桃香は子供達と同じように目を輝かせて自分に群がっていた。

 

「ご主人様、今の仙術!? 使えないって言ってたのに・・・」

 

「仙術じゃなくて手品・・・タネがあんだよ」

 

「てじな? たね?」

 

 すっかり子供達と同じように、手品に夢中になる桃香。

 

 キラキラと子供たちと一緒に瞳を輝かせる彼女に、一刀は溜息を吐いた。

 

 どうやら完全に見廻りの事など彼女の頭から消え去っているようだ。

 

 仕方なく一刀は小銭を持っている手を軽く振る。

 

 すると、指の間に小銭がパッパと増えて行った。

 

「「「「「お~~!!」」」」」

 

 更に増えた小銭をグッと握り、手を開くとそこにもう小銭は無かった。

 

「「「「「「「「「おお~~~!!!!」」」」」」」」

 

(何か増えてないか?)

 

 いつの間にか普通に大人も混じっており、すっかり大道芸人みたいに自分の知ってる手品を連発する一刀だった。

 

 

 

「はぁ~」

 

 ほくほく顔で満足げに一刀の隣を歩く桃香。

 

「ご主人様、一躍街の人気者だよ~。流石は天の国の人!」

 

「こんなんでか・・・」

 

 ちゃちな手品で人心掌握するなど、三流ペテン師のする事だ。

 

 肩を竦める一刀に、桃香は疑問を投げかけた。

 

「てじな・・・だっけ? それって天の国じゃ皆使えるの?」

 

「皆って訳じゃないけど、練習すれば出来るぞ。仙術とか妖術なんてもんじゃない・・・ちゃんと仕掛けがあるんだよ」

 

 そう言って、パッと手に一輪の花を出す一刀に、桃香はまたもビックリする。

 

「タネの無い所に花なんて咲かないしな」

 

「あ! 何するの!?」

 

 更にその花を握り潰す一刀に、桃香が声を荒げるが、手を開くと、潰れた花は無かった。

 

 キョトンとなる桃香の頭に、一刀はポンと手を置いて再び歩を進める。

 

「ちゃんと見廻りしないと愛紗に怒られるな」

 

「あ・・・」

 

 ふと頭に違和感を覚えたので、手を触れると、そこには一刀の握り潰したと思われた花が挿されていた。

 

 桃香はくすっと笑い、一刀の後に続く。

 

「ご主人様って凄いね~」

 

「そうか?」

 

「そうだよ」

 

「自分が凄いなんて思った事ないけどな・・・」

 

 今やった手品をやった理由も何となく兄が、マジックのテレビ番組見て、

 

『これなら私でも出来んじゃね?』

 

 とか言って、あっさり真似できた。

 

 少しの期間だが、それに嵌まって、タネを見破ってみろと付き合わされている間に覚えてしまっただけだった。

 

 特に好きでやってるとか、趣味でやってるとかではない。

 

 単に兄―――来人が遊び半分で自分に仕込ませた芸に過ぎない。

 

 寧ろとばっちりを喰らったと言えよう。

 

「本当に凄いよ~。だって、子供達や街の人達も喜んでたじゃない。あんな風に沢山の人を笑顔に出来るのって、凄い事だよ~」

 

「・・・・・・」

 

 屈託のない笑顔を浮かべて言って来る桃香に一刀は、何だかこそばゆくなり、少しだけ歩くペースを速めた。

 

 

 

 暗い部屋で一刀は蝋燭の明かりの下、本を読んでいた。

 

 漢文は得意で、学校の授業では常に上位をキープしており、決して読めない事は無いが、それでも現代日本で生きて来た一刀にとって、馴染みの薄い代物だ。

 

 その為、勉強として白蓮から比較的、簡単な本を借りて、夜はこうして読み書きの勉強をしている。

 

「ご主人様?」

 

「?」

 

 すると扉の方から声が聞こえたので振り返ると、そこには愛紗が立っていた。

 

 一刀は本から視線を外し、彼女の方を向く。

 

「愛紗か。ノックぐらいして欲しいな」

 

「のっく?」

 

「他人の部屋に入る時、扉をこうやって叩くんだ」

 

 そう言って、拳の甲で軽く叩く仕草を見せる一刀。

 

「俺の世界の礼儀」

 

「すみません・・・扉の隙間から明かりが漏れていたので・・・まだ起きてらしたのですか」

 

「まぁな」

 

 再び本へ視線を向ける一刀。

 

 そんな一刀に、愛紗はふと言った。

 

「今日は見廻りで随分とご活躍なされたそうで・・・」

 

「活躍?」

 

「桃香様が、ずっと興奮しておられましたよ。『ご主人様が凄かったの!』って・・・」

 

「・・・・・・ああ、アレか」

 

 苦笑して桃香が、昼間の見廻りで一刀がやった手品の事について話していた事を語る愛紗。

 

「あんなの文字通り子供騙しだよ。ま、アレで飯食ってる奴もいるけどな」

 

「謙遜なさらないでください。私も桃香様と同じように、人を笑顔に出来る事は、凄い才能だと思っております。そして私達の夢は、その笑顔を大陸全土に広げる事なのですから」

 

「そうか・・・」

 

 一刀は本を閉じ、大きく背伸びをする。

 

「・・・・・・そろそろ寝るか」

 

「はい。お疲れ様でした」

 

「ああ、お休み」

 

 一礼し、愛紗は部屋から出て行った。

 

 蝋燭の明かりを消して寝台に横になる一刀。

 

 街頭の無いこの時代は、明かりを消すと真っ暗になり、近くにある筈の寝台の天蓋も見えない。

 

 しかし、やがて目が慣れてきた一刀は、動かない天蓋を見つめながら思った。

 

 史実通りならこの後、桃香は愛紗、鈴々と共に様々な土地を巡り、最終的には蜀の地に国を興す。

 

 だが、蜀は三国志において最初に滅亡し、愛紗、鈴々はその途中で戦死する。

 

(どうなる事やら・・・)

 

 この世界は三国志の登場人物が生きている世界だが、既に性別からして史実と異なる。

 

 そこへ投げられた自分はどのような意味を持っているのか・・・一刀はこれから先の事を考えるが、やがて眠りについた。

 

 

 

 夢を見た。

 

 懐かしい夢だった。

 

 物心つく前に両親と死に別れ、九州の祖父母と暮らしていた。

 

 その祖父母も小学校の頃に二人とも亡くなり、一刀は一人になった。

 

 その事を一刀は理解していた。

 

 このまま一人で一生過ごすのだとも解っていた。

 

 小学生離れした頭脳の持ち主だった一刀は『神童』と呼ばれていた。

 

 しかしこの時、一刀はそんな事を理解出来てしまう自分の才能を憎んだ。

 

 親戚もおらず、引き取り手のいないまま終わるかと思われた時、彼は現れた。

 

『初めまして。俺は君にお兄ちゃんだよ』

 

 そう言って、手を差し伸べて来てくれた事を一刀はハッキリと覚えている。

 

 祖父の葬儀が終わり、墓前に立つ自分の下に現れた兄と名乗る人。

 

 何でも出来た自分の目標となり、壁となり、憧れとなり、そして絶対に敵わないと思い知らされた人。

 

 今はもう、遠い日の出来事だった。

 

 

 

「ご主人様」

 

 自分の呼ぶ声がして一刀は目を開けた。

 

「・・・・・・桃香?」

 

 意識がハッキリした一刀は、目の前にいるのが桃香だと解った。

 

 彼女はニコッと笑顔を向けた。

 

「えへへ。おはよ、ご主人様」

 

「・・・・・・おはよ」

 

 一刀は体を起こし、窓の外を見る。

 

 既に日は昇っており、どうやら朝になったらしい。

 

「桃香・・・何で俺の部屋に?」

 

「ご主人様、今日は街の外に出てやる事がある、って言ってたでしょ」

 

「ああ・・・そういえば」

 

 一刀は頭を押さえ、次第に予定を思い出す。

 

 昨日は見廻りで市井を把握し、今日は街の外に出て周囲の地形を把握する予定だった。

 

 戦において最も重要な要素において、地の利を如何に利用するかがある。

 

 その地形を知る事で、劣勢を跳ね返す事も出来る。

 

 自分に出来る事などたかが知れている。

 

 だから今は、こうして地道に活動していくしかない。

 

 兄ならば、もっと上手い方法を見つけるだろうが、生憎と自分にはこれぐらいしか思い浮かばなかった。

 

 一刀は寝台から降りると、背筋を伸ばして腕を回す。

 

「良し、行くか桃香」

 

「おー!」

 

 一刀の言葉に、桃香は力強く答えた。


 
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