No.196151

明け空彼方に、君を想う-呉書†思春伝-一章

月千一夜さん

思春√の第壱話、公開いたしますw
今回も、っていうかこの作品は全体的に短いです
そこのところがOKでしたら、どうかお暇つぶしにでも読んでやってくださいww

2011-01-15 23:58:46 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:9603   閲覧ユーザー数:7698

始まりは、いったいいつだったのだろう?

 

気付いた時にはもう、“お前”は私の中にいた

 

 

『ねぇ、思春!

今度はあっちにいってみよう』

 

『はぁ・・・仕方ないな』

 

 

胸の奥が、妙に“温かい”

だがこの気持が何なのか、私にはわからなかった

何も、わからなかったんだ

だが・・・

 

 

『ホラ、早く行こう♪』

 

『ま、待て!

こら、引っ張るな!』

 

 

“嫌”じゃなかった

私は、あの時間が嫌いじゃなかったんだ

あの温かく、太陽のような笑顔を見つめ・・・こうして、共に過ごせる時間が

 

私は、“好き”だったのだ

 

 

 

 

『ああ、そうか・・・』

 

 

そこまで考え、私はようやく気付いた

ああ、そうだったのか

この“感情”の正体は、これだったのか

 

 

『私は・・・』

 

 

私は、コイツのことが

“北郷”のことが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪明け空彼方に、君を想う-呉書†思春伝-≫

一章 知らない気持ち

 

 

 

 

『アイツの、好きなところ?』

 

 

母の言葉

私は“はい”と、大きく頷きます

そんな私の返事に、母は難しそうに顔をしかめていました

 

気になったのです

母は、父のどんなところが好きになったのか

 

 

『アイツの好きなところ、か・・・』

 

 

呟き、母は考えるよう腕を組みます

そんな母の姿に、私は僅かに首を傾げてしまいます

そのように考えなければ、思いつかないのでしょうか?

 

やがて、母はポツリと口を開きます

 

 

 

『ヘタレ・・・な、ところ?』

 

『母上、それはちょっと・・・』

 

 

いくらなんでも、それはない

そう思い声をかけた瞬間、母は頬を僅かに赤く染めながら“冗談だ”と言いました

それから、再び腕を組み考えます

真剣に考えているのか、表情も険しいです

 

 

『そもそも・・・』

 

 

ふいに、ポツリと母が何かを呟きました

何事かと、私は耳をすませました

 

 

『そもそも、私にはよくわからないんだ』

 

『わからない?』

 

 

“ああ”と、母は頷きます

そのまま、見あげた空

果てのない青空を見つめ、母はフッと笑っていました

 

 

『気づかぬうちに、始まっていたのだから

私の、この“想い”は・・・この、未だ慣れない“くすぐったさ”は』

 

『母上・・・』

 

 

慣れない、と母は言いました

だけど、私にはわかります

“慣れない”けど、“嫌い”だということではないのです

照れくさそうに笑う母を見て、私はそう思いました

 

だから、もっと知りたくなったんです

 

 

母の、母と父の“物語”は

いったいいつから、始まっていたのだろうかと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

~ある少女の手記より・・・~

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「御遣い様、一緒にあそぼ~」

 

 

それは、ある晴れた日のこと

街を歩く私の耳に、聞き慣れた名が聞こえてくる

ふと顔をそちらへと向けてみると、たくさんの子供に囲まれ困ったように笑う“アイツ”の姿があった

 

 

「ごめん、今日はこれから仕事があるから」

 

「「え~~」」

 

 

アイツの言葉に、残念そうに声をあげる子供たち

そんな子供たちの様子に苦笑しながらも、アイツは近くにいる子供の頭を撫でた

 

 

「明日なら、遊んであげるから」

 

「ほんと!?」

 

「ああ、約束だ」

 

「やったーーーー!」

 

 

元気よく、はしゃぐ子供

その姿に笑みを浮かべながら、アイツは“それじゃあ”と手を振り歩き出す

そんな“アイツ”の傍まで歩み寄り、私は呆れたようにため息を吐き出した

 

 

「相変わらずだな、お前は」

 

「思春・・・見てたのか」

 

 

“ああ”と頷くと、アイツは・・・“北郷”は照れくさそうに頬を掻いていた

それから、何か思いついたように口を開く

 

 

「思春、今って時間ある?」

 

「あるにはあるが」

 

 

この答えに、北郷は“よかった”と声を漏らした

嬉しそうに、微笑みながら

 

 

「なら、一緒に来ない?

これから、市の視察に行くんだけどさ」

 

「良いのか?

私がついて行っても」

 

「思春の意見も聞いてみたいし」

 

 

“それに・・・”と、北郷は何かを口ごもる

何事かと、気になった矢先

北郷の手が、私の手に触れた

突然のことに戸惑う私だったが、そんな私のことも知らずアイツは言ったのだ

 

 

 

「思春と一緒なら、きっと楽しいって思うから」

 

「っ・・・!!」

 

 

 

この一言に、私は言葉が出なくなってしまう

口をパクパクとさせながらも、間抜けにも何も言えないでいたのだ

 

やがて・・・

 

 

 

 

「駄目、かな?」

 

 

そう言って寂しそうな表情を浮かべる北郷に

私は“仕方ない”と、そう言うことしかできなかった・・・

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「結構、賑わってるね」

 

 

市につき、北郷は笑顔のままそう言った

その言葉に、私は無言で頷く

北郷の言うとおりだ

市は、とても賑わっている

多くの人が、笑顔のまま歩き回っていた

そんな中、私たち二人も歩いていく

 

 

「この前よりも、人が増えてる

それに、食材の種類も前よりもあるみたいだ」

 

 

言いながら、北郷は懐から取り出した紙に何かを書いていく

大方ここで見て思ったことを書き留めているのだろう

そう思い、私は再び辺りを見てみる

 

ふと・・・何かが目にとまった

 

 

「あれは・・・」

 

 

それは、古ぼけた装飾品屋

そこにあった、二つの“鈴”だった

 

私の持つそれよりも古く、だが妙に美しく見えるそれから・・・私は、目が離せなくなっていた

 

 

「どうかしたの、思春」

 

「っ!?」

 

 

その声に、ハッと我にかえる

それから私は、慌てて“何でもない”と言う

しかし北郷は何かに気づいたのか、“ああ、そっか”と言うとあの装飾品屋に向かい歩いて行ったのだ

“一体、何を?”

疑問に思う私もよそに、北郷は店の主と何かを話している

 

それから少しして、北郷は戻ってきた

その手に、あの二つの鈴を持ったまま・・・

 

 

 

 

「はい、これ」

 

 

戻ってくるなり、私に向かって鈴を差し出す北郷

そのことに驚きながらも、私は慌てて首を横に振った

 

 

「いらないの?」

 

「貰う理由がない」

 

 

言って、私は苦笑する

そんな私に、今度は北郷が首を横に振った

 

 

「そんなことない

思春には、普段から随分と助けられてるし

そのお礼だよ」

 

 

そう言うと、無理やり私にその鈴を握らせる

それから、ニッと無邪気に笑ったのだ

 

 

「だから、受け取って」

 

「北郷・・・」

 

 

 

ギュッと、握ったソレ

妙に温かく感じるソレを、私は一つだけ腰にぶら下げる

 

そしてもう一つを、北郷の腰にぶら下げたのだ

 

 

「一つでいい

もう一つは、お前が持っていろ」

 

 

自分でも、よく理解が出来ないままに・・・私は、そのようなことを言っていた

何故、このような行動をとってしまったのか

私にも、わからなかったのだ

 

そんな私の行動に、一瞬驚いた表情をする北郷

だがすぐに、その表情が笑顔に変わる

 

 

「ありがとう、思春」

 

 

そして出たのは、感謝の言葉

普通ならば、ここは私が言うべき言葉なのだが・・・そう思い、私は自分でも気づかぬうちに笑っていた

 

 

 

「うん・・・やっぱりさ、思春は笑顔の方が可愛いよ」

 

「っ!!」

 

 

 

それに気づいたのは、北郷のその言葉を聞き・・・驚いた拍子に、北郷の“御遣い”を豪快に蹴り上げた後のことだった

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「ふぅ・・・」

 

 

部屋の中

私は寝台に体を倒したまま、小さく息を吐く

 

窓の向こう、日はもうすっかりと沈み・・・頼りない月明かりが微かに部屋に差し込んでいた

静かだ、と私は目を瞑る

 

 

不意に、“チリン”と小さく音が響いた

視線の先、窓にぶら下げた“鈴”

それから響いた音だろう

そう思い、私は再び目を瞑る

 

 

 

 

『うん・・・やっぱりさ、思春は笑顔の方が可愛いよ』

 

 

 

 

瞬間、私は思い切り体を起こした

恐らく、顔は真っ赤になっていることだろう

 

思い出してしまったのだ

今日・・・あのとき、北郷に言われたことを

 

 

「はぁ・・・」

 

 

溜め息を吐き出し、私は自身の胸にそっと手をあてる

鼓動が、妙に早い気がする

胸が、微かに苦しい・・・?

 

 

「どうしたのだ、私は・・・」

 

 

呟き、私は再び寝台に倒れこんだ

 

わからない

この“感じ”がいったい何なのか、わからないのだ

 

 

「いったい、どうしたというのだ」

 

 

寝台に体を沈めながら、私は考える

だが、答えは出てこない

 

かわりに・・・

 

 

 

「北郷・・・」

 

 

 

こぼれ出たのは、アイツの名前

こうして口にした瞬間だけ、何故か胸の痛みが取れた気がしたのだ・・・

 

 

「北郷・・・一刀」

 

 

この“胸の痛み”が何なのか

その日・・・結局、答えは出てこなかった

 

 

★あとがき★

 

こんにちわw

思春√の第壱話、公開ですww

 

このお話は、ほっこりシリアスな展開を突き進んでいきます

 

ていうか、毎回短いですw

そのくせ、後四話くらいで終わっちゃいますwww

や、もともと短めのお話なんで仕方ないんですが

 

さて、本作は今までとは少し違う“雰囲気”を意識して書いてます

“ある少女の手記”もですが、全体的にゆっくりとした感じを目指しているんです

 

今作のテーマ“夜明け”の一つ、“時間”を意識してみてるんですが

中々難しいですね(ぁ

 

いや、好きなキャラだけに気合だけは十分なんですよ

ええ、気合だけは(おい

 

まぁ、何はともあれまだ一話目

とりあえず、次回をお楽しみくださいwwwww


 
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