天幕に忍び込んだ一刀だが、目の前の光景にしばし呆然とする。
何しろ目の前には自分と同じ顔をした生首の瓶詰めのケースがあるのだ。
書簡に記されていたとはいえ、実物の衝撃は相当な物だった。
そのケースを抱きしめ、柔らかな笑みをたたえたまま眠っている痩せ細った春蘭の姿も・・・。
魏、片目に眼帯、武将は全て女の子・・・。
そこまで考えた一刀の脳裏に閃くものがあった。
(この人は・・・まさか・・・夏侯惇・・・か?)
夏侯惇であれば何故このような姿になっているのか。
考えられるのは────
「これ・・・か」
一刀はケースの中の自分の顔を見つめる。
大事そうに、愛しそうにその瓶を抱きしめる夏侯惇のその姿に、一刀の胸が痛む。
そして・・・それを取り上げなければならないという罪悪感も。
管輅から渡された書簡に書かれていた『太平妖術の書・真書』への鍵。
それが今、夏侯惇の抱きしめる『この外史の一刀の残滓』
それを解き放つのが・・・一刀の目的。
開放する方法は、一刀がそれに触れる事。
一刀の手が、そのケースに伸びる。
贖罪の念を抱きながら。
やがてその手がケースに触れた瞬間、ケースとその中にあった一刀の生首が光の粒子となって弾けた。
だが────
その光が一刀の中に殺到する。
ザァ・・・という光の流れの中で、『記憶』が流れ込む。
それは『この外史の一刀』の記憶。
『春蘭』の記憶。
暖かい・・・記憶。
その記憶が、一刀の記憶と交じり合う。
体がふわふわとしたような・・・まるで熱に浮かされたような、不思議な感覚。
一刀はその記憶の流れの中で、自分の声を聞いた。
『悪い・・・少し・・・貸してくれ』
意識があるのに、自分の体が動かせない。
やがて────
一刀の着ていた黒いスーツが白に染まり、それは聖フランチェスカの制服そのものに変わった。
延々と繰り返される悪夢。
一刀が消える悪夢。
大切な物が零れていく悪夢。
────ん・・・。
声が聞こえる。
しゅん──・・・・・・。
懐かしい声。
しゅ────らん・・・。
それはわたしを呼ぶ声。
しゅん・らん・・・。
優しい声。
しゅんらん・・・。
恋焦がれた・・・声。
・・・春蘭。
一刀の・・・声。
もう・・・随分聞いていない・・・聞こえる筈の無い、声。
・・春蘭。
だが、また聞こえた。それはわたしの耳元から。
沈んでいた意識が浮かんでゆく。
深い深い水の底に沈んでいた意識を浮き上がらせる・・・優しい、声。
・春蘭。
抱いていた筈の冷たい感触が無くなっている。
春蘭。
代わりにあるのは、わたしを抱きしめる・・・暖かく、懐かしい感触。
恋焦がれ、何度も夢見た感触。
一刀の、感触。
嘘だ。
そう思う。
もう・・・手に入らない筈の感触だ。
「春蘭」
ハッキリと聞こえた。
一刀の声・・・!
まさか・・・そんな筈は・・・。
湧き上がる微かな希望。
それに縋る様にして必死にまぶたを押し上げると、ぼんやりと光が見えた。
白い、光。
そして────
「ただいま、春蘭」
優しく微笑む一刀の笑顔がそこにあった。
懐かしい、何度も夢に見た一刀の顔。
わたしはまた夢をみているんだろうか。
でも・・・夢でもいい。何でもいい。今、わたしの側に一刀がいる・・・それだけで・・・いい。
「だいぶ・・・遅くなったかな」
一刀の瞳から零れた一滴の涙が、わたしの頬に落ちる。
遅いぞ・・・馬鹿者め。
「そう言うなよ・・・これでも必死だったんだぜ?」
一刀が微笑む。
以前と同じ・・・いくつか年を重ねたようだが、その笑顔の本質は変わっていない。
明るい、笑顔。
ずっと、ずっと、見たかった笑顔。
自分の頬が微かに緩むのを感じた。
「がんばったんだな・・・春蘭」
また落ちた、暖かい雫。
"約束"したではないか。
「そうだな、"約束"したもんな・・・」
一刀がわたしを抱く力を少し強める。
「ごめんな・・・すぐ来れなくて」
いい・・・戻ってきてくれたのなら・・・。
「・・・それも・・・ごめん・・・」
・・・・・・え・・・?
「時間が、無いんだ」
どういう・・・。
「俺の命を、春蘭に、分けるよ」
ダメだ!
「あいしていたよ────春蘭───」
一刀の唇がわたしの唇に触れ、そこから温かい力が流れ込んでくる。
一刀の力が流れ込んでくるのが分かった。
それは一刀の命そのもの。
必死に抵抗しようとするが、体に力が入らない。
押し上げていたまぶたが途轍もなく重く感じる。
意識が遠くなり、目も見えなくなってきた。
嫌だ!
嫌だ!
どうして・・・!
どうして側にいてくれないのだ!
一刀────
春蘭から唇を離した一刀の服装が元の黒いスーツに戻る。
春蘭は再び眠りに入ったようだったが、その姿はさっきまでのやせ細った姿ではなくなっていた。
少し呆然としていたような一刀だったが、ハッと意識を取り戻す。
意識を取り戻した一刀は、急激に血の気が失せる思いだった。
「え・・・記憶が・・・ある・・・」
ポツリと呟く。
次々と湧き上がる記憶。
それは魏の者達と過ごした日々の記憶。
今の一刀の記憶と交じり合ってしまった『この外史の一刀』の記憶。
「う・・・そ・・・だろ・・・」
つまりは、やっちゃった記憶。
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!!オレじゃないから!!オレじゃないよ!!」
慌てて首を振るが、それは"誰"への弁明だったか。
「え。これ浮気?違うよね?記憶だけだよね?これ浮気にならないよね?」
早口でまくし立てるが、眠っている春蘭には聞こえない。
そこで・・・春蘭を見た一刀に、春蘭との夜の記憶が浮かび上がる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
違うっス!!凪さん、違うっスよ!!これは記憶だけでしてね!!!まったく私はそんなつもりは
ありやせんぜ!!!!!!」
記憶が浮かび上がった瞬間、凪の途轍もなく冷たい瞳で見下げられたイメージが沸き、
背筋に氷の柱を打ち込まれたような寒気を感じた。
その場でのた打ち回り、肩で息をしながら立ち上がった瞬間、思い出すのはここに来る前に
会った風の姿。
愕然とする。
「ううううううううううううううおおおおおおおおおおおおお・・・・なんという・・・」
さらには、村で会った少女────流琉の事も思い出す。
「をををををををををををををををををををををを!!!!極悪人め!!!逮捕されるぞ!!!!!
・・・って、今逮捕されるとしたらオレじゃねーーか!!!!」
二人の事を思い出した瞬間、あっちの事も思い出してしまった。
再び散々のた打ち回った後、そこでふと冷静になり、ポンと手を打つ。
「あー。だから消えたのか」
納得。
今思い出したのは、春蘭と風と流琉・・・そして凪との逢瀬の時間だった。
「凪は・・・分かる。だが・・・他の三人は・・・」
頭を抱えるが、その記憶は消えてくれない。
その四人以外の魏の者達の事はモヤが掛かったように思い出せないが、会ってしまえば
思い出す危険性が高かった。
そして、一刀の最大の心配事。
それは・・・この外史に来てから、一人になる夜はほとんど無かった。
建業では一日おきになぎと寝ていたし、なぎがいない時は護衛が一晩中部屋の前にいた。
つまりは────
欲求不満。
(今迫られたら・・・ヤバイ・・・とにかく逃げないと!!!)
種馬が、静かに覚醒の時を待っていた。
お送りしました第44話。
補足しますと、現在一刀の記憶に現れたのは凪、春蘭、風、流琉の四人で、
華琳や秋蘭などの他の恋姫は、ぼやけたイメージしか無い状態です。
全ての魏の恋姫と出会ってしまった場合、一刀はどうなるのか・・・。
それはこれから、と。
じっくりと進めた第二部も50話で終わりと考えているので、後6話です。
で、最終章の第三部へと。
第三部開始にはちょっと時間が開くと思います。
なので、なんとしても2月25日までには第二部を終わらせたいと思っております。
2月25日はFlyable Candy He・・・の発売bゲフンゲフン。
今度こそ晶が・・・ゲフンゲフン。
全ての始まりはPS2コーナーで見つけたななついろ☆ドロップスpure!!が始まりだった気がします。
面白い。
お?PCに18才以上がある。
ストーリーが多いのかな?wktk
で、ずるずると・・・。
・・・こちらはすごい雪です。
ちなみに現在外の気温は-9度。
寒いを通り越して痛いです。
こたつで丸くなる日々です。
まーいーにっちー♪まーいーにっちー♪うちのゆきかーきー♪
とおよげたい焼き君の替え歌を歌う程に雪かきをしています。
腕が上がりません。
そして風呂の水道が凍結しました。
トイレのタンク内の水が凍りました。
死ぬ。
普通に死ぬ。
今年は死ねる。
では。また。
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体調が悪いのがいまだ治らず。