カキカキカキカキ・・・
政務室の中
筆頭軍師三人、桂花、稟、風の三人は、司馬懿の仕事ぶりに呆気を取られていた。
【ありえない。華琳さまが大事にしていることは分かってたけど、まさか紗江がここまで……】
【紗江殿はこれほどの人物だったのか!これはまるで華琳さま以上の素早さではないか!】
【むむ…病弱な方だとばかり思っていたのですが、油断出来ないのです】
「皆さん、どうかなさいましたか?」
「「「<<びくっ!>>」」」
紗江の声に、三人とも正気に戻った。
「……あ、そういえばもうこんなに時間が…少し休憩になさいませんか?」
「そ、そうね……お茶も切れているし。少し休憩にしましょう」
「少女が行ってまいりましょう」
紗江は率先して立ち上がって、テーブルの中央の急須と湯飲みのお盆を持って外に出た。
紗江が外に出た後、桂花はパッと立ち上がって紗江が整理していた書類の内容を確認した。
「どうですか、桂花?」
桂花に問い詰める稟の声には余裕がなかった。寧ろ何かの不安感まで感じさせた。
「………」
桂花は何も言わずに、稟と風に自分が呼んでいた竹簡を渡しました。
稟はその竹簡を持って文字を目で追いながら一文字一文字を深く読みました。
隣の風も、その目こそいつもみたいな眠気な眼でしたが、その瞳の煌きはいつになく鋭いものとなっていました。
「……これが……じゃあ、他のものは」
「ええ、全部同じ内容よ」
「というのは、紗江ちゃんは孫呉と我々が戦ったとき起きる可能性がある状況の全てを頭の中に詰めているということですね」
紗江がこの場所で書き続けていた内容。
それは、魏と呉が戦った際に、魏が勝つか負けるか、勝ったらどのような行動をとれば勝てるか。相手がどんな行動をすればどう対応するべきなのか。
そういう話ではなかった。
それは、魏と呉の戦いとはまったく関係ない、けどそれが催す可能性があるあらゆる状況。
つまり巴蜀の劉備や涼州の馬騰侵攻。烏丸の反乱可能性。まだ制圧が完全に行っていない河北四州での既存豪族たちの反乱、あるいは他の敵への援助の可能性。
来るならどこからどうやって、どんな兵で来る。
きたらどう反応する。
そのために必要な将、兵の数、兵糧の想定。
内憂から外患に至るまで全てのあらゆる状況を想定したポートフォリオ。
とても当たり前な行動から、三人は想定出来なかった、あるいは可能性はあるけどあまりに小さい上に対応しきれなくて排除した状況まで。
この全てが彼女の中から出てきたもの。
三人の軍師たちは今自分たちの前からお茶を淹れに恭しく立ち去ったあの少女が、これから戦う孫呉の周瑜、孫策よりも恐ろしく感じていた。
がらー
「お茶とお菓子ができましたー」
「「「<<ビクッ!>>」」」
そして、彼女は軍師ではない、単なる末端の文官であった。
――あるクビにされたバイト解説者の雑談
「一刀……一刀!!」
気をついてみたら部屋の布団の中だった
……ゆ、め?
「夢ではありませんわ」
「!」
側を見たら、紗江が日が暮れて部屋の中に光が届かない陰の中から姿を表した。
「紗江、何故あなたがここに」
「気絶した華琳さまはここまで連れてきたのが、『僕』ですわ」
「……あなたは……」
そう、あなたが……
「あなたが仕組んだのね…あなたがあの場所まで一刀を…」
夢じゃなければ、
あの絶望的な言葉が夢じゃなければ私は一体どうすれば、
《…勝手にすればいいじゃない》
無関心。
恐ろしかった。
あの子が私から離れることが恐ろしかった。
一体どうすれば?
あまりの恐ろしさに、いつの間にか両手が自分のくるくると回ってる髪の毛を握っていた。
「仕組んだ……そうですね。確かにあの場所に華琳さまがいらっしゃるだろうと話したのは僕です。だけど、災いの種をつくっておいたのは華琳さま、あなたです」
「………」
反論をすることができなかった。
そう、結局あの子のことを無視し続けていたのは私。
だけど、それはあの子を危険に晒せたくなかったから。
「以前に僕が話したことがありましたね?あなた様の覇道、あの子の幸せ。華琳さまはその両道を歩くことができません。なのにあなたはその半端な立ち位置であり続けようとした。魏の覇王としても、一刀ちゃんの保護者としてもあり続けようとした。そしてこれがその結果です」
「どうしてそうなるの?何故あなたは私にそれが出来ないというのよ!」
不可能だという言葉は私が一番嫌いな言葉。
やる前から諦めることは出来なかった。
「そしてこれがその結果です。両方全て失いたくなければ、早くどっちかを選んでください」
「……いいえ、断るわ」
どっちも譲れない。
覇道も、一刀も、全てとってみせる。
「今回の私のやり方が間違っていたことは認めましょう。だけど、だからといって私がどっちかを諦めなければならないということには繋がらないわ」
「………ならば、先ずは一刀ちゃんと仲直りする道を作らねばなりませんね」
紗江は目を閉じて部屋の戸へ向かった。
「僕はこれから政務に戻ります。華琳さまは今日の休日のうちに、一刀ちゃんの部屋に訪ねてみてください」
「あなたは行かないの?」
「……僕がなんとか出来るものではありません」
そこまで行って、紗江は部屋を出て行った。
「………」
一刀ちゃんの部屋に行こう。
行ってどうするか?
分からない。
でも、これだけは分かる。
今あの子と一緒に居たい。
そして、きっと一刀も………
「……」
一刀の部屋の前。
何も迷う必要はないわ。
普通に入ったら……
「………」
戻って来て一度も入ったことがないわ………
「っ……」
がらりっ
「!」
「………」
内側から開かれた戸に、私は一瞬びっくりした。
「……(じー)」
中では身体の半分ぐらいだけ見える一刀が私を見つめていた。
「……入っても……いいかしら?」
「……」
一刀は何も言わずにこっちを見つめていた。
まるで、言葉が言えない昔の一刀を見ているように思った。
「…大事な話があるの」
「……」
暫く何も言わずに一刀はこっちを見ていた。
そして、
「興味ない」
がらっ
閉じようとする戸を手を塞がる自分の行動の素早さには、自分からも驚いた。
もしかしたら、一刀がこうでるだろうと最初から思っていたのかも知れない。
「………」
閉じきれなかったその戸を、一刀はそれ以上閉じようとせずに戸から手を離した。
「なんの用?」
「……用ならあるわ。中に入れてもらえるかしら」
「ここで言って」
「いいえ、入って話すわ」
「…………」
そこまで言われたら、一刀ちゃんは片目がやっと見える程度開かれていた戸をそのままおいといて、部屋の中に消えていった。
私はその戸を開けて中へと足を運んだ。
一刀は布団の上に居座っていた。
特にお茶を淹れてくるとか、いつもならするそういう器用な動きはなかった。
望んでもないけれど……
「………」
一刀の目が「なんの用?」という目でこっちを見ていた。
ついさっき川辺で見た一刀がこの一刀と同じ人だということを疑ってしまうぐらい、一刀の目は面倒くさそうだった。
一刀が、私と居ることを面倒臭がっていた。
「……<<ぶるるっ>>」
身体に戦律が走った。
でも、言わなければダメよ。
「ごめんなさい」
………え?
「……へ?」
「ボクね、ここに戻ってくる時、もうボクもこんなに成長したから、華琳お姉ちゃんの役に立てるだろうと思ってた。でも……どうやらボク勘違いしていたみたい」
遅かった。
一歩も二歩も、
私は遅かった。
何もかも手遅れだった。
「調子に乗ってたの。もうボクもこんなに強いんだ。華琳お姉ちゃんにも褒められてたし、ボクももう皆の後で隠れてばかりいないで華琳お姉ちゃんのためになれるって……戦う、というのはちょっといやだけど、でもそれも華琳お姉ちゃんのためなら出来るだろうと思ってた」
「………」
「でも………」
一刀の話はそれ以上続かなかった。
この子は、こんな時になってもまだ自分を責めるような言葉を言うの?
怒ってもいいのよ。むしろ怒って頂戴。
あなたの意志を無視してきた私に。
自分の努力を無駄にした私に。
にもかかわらず、この子は結局私を責めるような言葉は出さない。
「……」
違う。
この子はそんな言葉出せないのかもしれない。
「じゃあ、あなたはどうしたいの?」
「………」
「ここでずっと居座っている?」
「………ボクは……わからない」
「私と一緒にいたくないの?」
「それはヤだ!」
一瞬自分の声があまり大きかったことに自分からも驚いて、一刀は口をとじて顔を俯いた。
「でも、ボクがここに要らなかったら、」
「あのね……誰も一刀のことを要らないと思ってないわ」
「でも……」
「あなたがまた消えてしまったという言うと、今回は気が沈むだけでは済まないはずよ」
「………」
「それに、私だってまたあなたが消えるとかしたら戦なんて気にしていられないわ」
「え?」
「探すわ、あなたを」
一歩一歩近づいてみる。
一刀は直ぐそこにいたのに、そこに届くまでの道があまりにも遠く感じた。
「天下なんてどうなってもいい。あなたがいない天なんて必要ないし、意味もないから。あなたがいる場所が天だろうと地の底だろうと探しに行くわ」
「…ウソ、華琳お姉ちゃんはそんなことしない」
その言葉を聞いて足を止めた。
「嘘じゃないわ」
「………」
私は一刀の目を見つめた。
一刀の目は私を観ていなかった。
一刀は今私のことを信じていなかった。
信じようがなかった。
私は一刀をずっと側に居させたい。
けど、一刀が私のことを信じてくれなければ、一緒にいるとしても他人みたいな関係でしかならない。
それでは、私は紗江が言っていたようになってしまうかもしれない。天下のために一刀のことを無視してしまう。
それではダメだ。
「どうしたら私を信じてくれるの?」
「…………」
一刀はその時私をまっすぐに見た。
今まで見せたことのない、鋭くてまっすぐな目。
今まで私に見せてくれた嬉しさの目も、悲しさの目も、恐怖に満ちた目でもなかった。
強い意志を込めた、まるで強い使命感を持って立ち上がった漢のような目指しで私を見ていた。
「………孫呉との…孫策との戦うのやめて」
「………」
――あなた様の覇道、あの子の幸せ。華琳さまはその両道を歩くことができません。
っ!!
以前、
自分が夏侯惇の目のことを言った時に、
実は自分はみなさんが夏侯惇を目を討てと言うだろうと思ってました。
が、皆さんのご要望の通り夏侯惇の目は討たれず、結果的には黙々を閉じるようなシナリオにしてしまいました。
そして、自分はもう一度この虚々のこれからの話を大いに変える話の流れを皆さんに任せようと思います。
選択の道先は三つ。
1. 華琳は天下を選ぶ
2. 華琳は一刀を選ぶ
3. それでも華琳は両方を選ぶ
1を選んだら、孫呉との戦い続行します。
2を選んだら、孫呉との戦いを準備していた兵力で馬騰を討ちます。
3を選んだら、孫呉との戦い続行します。
皆さん、曹魏の未来を選んでください。
ちなみに三つとも一遍ずつは書いてあります。
制限は2011年1月18日00:00基点で多数決で外史の行き先を選んで、他の二つの道は完全除外されます。
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父親の仕事の手伝いで遅くなりました。
その上、皆さんに未来投げっぱなしにしようと思います。
皆さんがこの作品のジャンルを決めるのです。
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