第三話 一刀、アルバイトをするの事
「むう・・・・」
愛紗が顔をしかめながら何やら考え事をしていた。
「おや?どうした愛紗よ。そんなに額にしわを寄せて」
「ん?ああ・・・星か・・・」
愛紗が振り向くと、そこには買い物から戻ったのだろう手にビニール袋を提げた星が立っていた。
「何だ?何か悩み事でもあるのか?」
「ん・・・・、いや、悩みというほどのことではないのだがな・・・」
愛紗は一度言葉を区切った後、再び口を開いた。
「最近、ご主人様が私達に内緒で外出することが多くなったと思ってな・・・」
「ああ、確かにその通りだな。主は最近我々に内緒で外出なさる」
「・・・まさかとは思うが私・・・達以外の者とし、しし、していないかと思ってだな!!私は一度ご主人様を問い詰めてみたのだ」
「それで、結果はどうだった?」
星の問いかけを聞いた愛紗は情けなさそうな顔で答えた。
「自分は私達以外の女とは絶対付き合わない、とおっしゃっておられた。どう見ても嘘をつかれているようには見えん。自分の主を、愛する人を信じることが出来ないなど・・・、最低な女だな・・・私は・・・」
「まあまあ、主が私達に何も教えず外出しているのだ。そう考えても仕方が有るまい」
少々自嘲気味な答えに星は、少し可哀想になったのか、愛紗を慰めた。
「それで、一体なぜ外出しておられるのか分かったのか?」
「ああ、なんでも新しくアルバイトを始められたらしい。一体何かは教えてくれなかったが・・・。なんでも少々恥ずかしいバイトらしい・・・」
「少々恥ずかしい・・・ふむ・・・」
愛紗の言葉を聞いた星はにんまりと笑みを浮かべた。
「愛紗よ」
「む?な、何だ、星よ」
「明日、主の後を尾行してみないか?」
「び、尾行だと!?そ、そんな無礼な真似ができるか!!馬鹿者!!」
「ほう?愛紗よ、お前は主がどこに行っておるのか、知りたくはないのか?
ひょっとしたら、我々とは別の女のところに通っているかも知れんぞ?」
「うっ・・・」
愛紗は心の中で悩み始めた。
あの時、ご主人様は私に絶対浮気はしていないと言った。
だが、もし星の言う通り、他の女の元に通っていたとしたら?
・・・もし私の事を忘れてしまっていたりしたら?
そこまで思い至り、愛紗は決意した。
「・・・いいだろう、星、お前に付き合ってやろう」
「ふむ、別に私一人でも問題なかったのだがな。まあ愛紗と一緒ならば退屈もしないだろうしな」
「な!?せ、星!?お前、私をからかっていたのか!?」
「うむ!(キリッ)」
「いちいちかっこつけるなあああああ!!」
屋敷中に愛紗の怒声が響き渡った。
一菜side
「・・・まったく騒々しいですね。この声は・・・愛紗ですか!!」
一刀の妹、北郷一菜は、その顔を忌々しげに歪めながら扉の向こう側で叫んでいるであろう人物への恨み言を口にした。
「大体兄さんも兄さんです!!私というものが有りながら・・・、に、二十五人も女の子を恋人にするなんて!!」
ちなみに一刀は袁紹達には特に何もしていないのだが、その事を一菜は知る由もない。
「あれ?二十五人?あと二人いたような・・・。あ~思い出せません!!もういいです!!」
ちなみにあとの二人は華雄と公孫賛である。
そんなことはどうでもいいとばかりに一菜は手元にあるアルバムを開く。
そこには学園祭の際の一刀のウェディング姿の写真が何枚も存在した。
「うへへへ・・・兄さん・・・綺麗です・・・素敵ですううう!!その姿を見せられたら、一菜は、もう~~!!」
一菜は叫び声を上げながらベッドにダイブした。
ちなみに彼女の部屋の壁には、一面一刀の巨大な写真が所狭しと貼られていた。
「・・・おっと、この新しいコレクションもアルバムに入れておかないと」
一菜はそう言って笑みを浮かべながら、ある写真をアルバムに入れた。
その写真はつい最近、とある場所で働いている兄を盗撮・・・もとい撮影したものだ。
「ふふふふふ・・・素敵です、素敵ですよ~~、兄さん♪待っていてください。いつかあの女狐共を追いやって、兄さんを私のものにしますから~♪」
部屋の中で、一菜の笑い声が響き渡った。
愛紗side
翌日、愛紗と星は、外出した一刀の尾行を始めた。
「・・・しかし、ご主人様のあのバッグの中には、一体何が入っているのだ?」
「さあ?そんなことは、つけてみれば分かる」
愛紗と星は物陰に隠れながら一刀を尾行する。
しばらく一刀をつけていると、一刀がいとこの無刀と出会って会話をしていた。
そして会話が終わると無刀と一緒に再び道を歩き出した。
「無刀様?なにゆえ無刀様とご一緒に?」
「ふむ、まさか主は無刀殿とやらないか?、な関係では?」
「な、なな、なななななな何いいいいい!!!????」
星の言葉に愛紗は絶叫を上げるが、すぐに星に押さえ込まれた。
「おいおい、そのような大声を出して、主に気付かれたらどうする?」
「お、お前が変なことを言うからだろうが!!」
「いやいや、無刀殿は女性と見間違うほどの美貌の持ち主、可能性としてはありえなくもあるまい」
星の言葉を聞いた愛紗は考え始めた。
確かに無刀殿は一見すると女性に見えてしまう・・・というより女装をしたら女性にしか見えない。
ま、まさか・・・。
『ああ・・・一刀・・・駄目だよお・・・』
『無刀、俺、もう我慢できないんだ・・・。俺、お前のことが・・・』
『一刀・・・僕も、僕も君のことが・・・』
『無刀・・・』
『一刀・・・』
回想終了
「ぬあああああああああ!!!!許しません、許しませんよ~~!!!ご主人様~~!!」
そう叫び声を上げながら愛紗は猛スピードで一刀と無刀の後を追跡し始めた。
「ふ~む・・・、目覚めさせてはいけないものを目覚めさせてしまったか・・・。主も哀れな・・・。このお詫びは昨日買った国産高級メンマで許してもらうとしよう」
そう呟きながら星は怒り狂って暴走中の愛紗を追跡し始めた。
暴走している愛紗は、一刀と無刀がある建物に入っていくのを見た。
「ゴジュジンザアバ!!!・・・って、この店は・・・?」
愛紗はその店の看板を見ると、突然暴走状態を解除した。
その看板に書かれた店名は
『執事喫茶 kabuto』
と書かれていた。
「し、執事喫茶?」
愛紗が呆然と看板を見ていると・・・。
「あら?愛紗じゃない」
後ろから声が聞こえたので愛紗が振り向くと、そこにはいつもの通り春蘭と秋蘭をお供に連れた華琳が立っていた。
「こんなところで何をやってるの?・・・もしかしてこの店に入るところだったの?」
「いや、私はご主人様を追っていたらこの店に入っていくのを見ただけだ」
「一刀?・・・ああなるほど」
愛紗の言葉を聞いた華琳は、何かいたずらを思いついたような笑みを浮かべた。
「だったらこの店に入ってみたら?一刀がこの店で何をしているのか、知りたいでしょ?」
「むう・・・それは・・・「ならば、私もご一緒してよろしいか?」・・・せ、星!?」
「あら、星、あなたもいたの?」
「愛紗、お主があまりにも速く走るものだから、追いつくのが億劫だったぞ・・・。まあいい。それより愛紗よ。ここは華琳殿の言うとおり、この店に入って主が何をしているのか確かめてみたらいいのでは?」
「むう・・・」
愛紗は星の言葉を聞いてしばらく考えていたが、やがて顔を上げると頷いた。
「決まりだな。では華琳殿、参りましょうか?」
「ええ、それじゃあ入るわよ、春蘭、秋蘭」
「はっ!」「承知・・・」
そして五人は店に入っていった。
「いらっしゃいませ、お嬢様」
愛紗達が店内に入るや否や、執事服を着た男性に笑顔で挨拶をされた。
「いつもの席と、いつもの執事でお願い。彼女達も一緒にね」
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
執事服の店員は愛紗達を席へ案内する。
愛紗は移動しながら店内を見回してみた。
客は全て女性客で、執事服姿の店員が一つのテーブルの客に、お茶を注いだりケーキを切り分けたり等、世話をしている。
なるほど、これが執事喫茶か。しかし見たところご主人様はどこにもおられないが・・・。
愛紗はそんなことを考えながら、案内された席に座った。
「ふふふ・・・結構面白いでしょ?この喫茶店」
「まあ面白いといえば面白いが・・・、それよりもご主人様はどこに・・・」
「心配しなくてももうすぐ・・・、ああ、来たか」
秋蘭の言葉を聴いた愛紗が横を向くと
「ご、ご主人様!?」
「な!?あ、愛紗!?な、何でここに・・・」
執事服姿の一刀が、ポットとティーカップののったお盆を持って棒立ちしていた。
「・・・華琳お嬢様、お茶をどうぞ」
「あら、また腕を上げたわね」
「ありがとうございます・・・。愛紗お嬢様もいかがですか?」
「そのまえに・・・ごしゅ・・・いや一刀さん!!」
「は、はい!!」
一刀は愛紗の怒鳴り声に思わず直立不動の姿勢をとる。
周囲からなんだなんだと客や同僚の視線を感じるが、そんなことはいちいち気にしていられない。
「何故この喫茶店で働いていると教えてくれなかったのです!!おかげでつい一刀さんがう、うう、浮気しているのかと考えてしまったではありませんか!!」
「・・・いえ、単純に言うのが恥ずかしかったので・・・」
「文化祭の女装の時よりはましでしょう!?」
「そ、そそ、それは言わないでください!!お嬢様!!」
「お嬢様ではありません!!それから執事言葉は使わないでください!!」
「いえ・・・今仕事中ですので、それはちょっと・・・」
「愛紗、あまり主を困らせるでない」
「ぐっ、べ、別に困らせるつもりは・・・」
星の言葉に愛紗は押し黙った。それを見て一刀は溜息をついた。
「確かに私が報告しなかった責任はございます。お嬢様、平にご容赦のほどを」
そう言って一刀は頭を下げる。それを見て愛紗は慌てて一刀を押し止める。
「そんな!私も言い過ぎました!私にも責任が・・・」
「愛紗、主よ、もう騒ぐな。周りが迷惑するだろう?」
星の言葉にはっとした愛紗と一刀は周囲を見回すと、あちこちの席の客や店員が、自分達をちらちら見ているのが分かった。それに気がついた一刀と愛紗はお互い顔を真っ赤にした。それを見て星と華琳と秋蘭はにやにやと笑っており、春蘭はどうでもよさそうにメニューを見ていた。
「さて、主よ、では黙っていたお詫びとして、今回はじっくり私と愛紗に奉仕して貰いますぞ。愛紗、それでいいな?」
「う、うむ・・・、それでは一刀さん、よろしくお願いします!」
「はい、もちろんですお嬢様方」
一刀は笑みを浮かべながらそう言って頭を下げた。
「一刀、私にケーキを食べさせて頂戴♪」
「はい、お嬢様」
「む、では一刀殿、私もお願いしますぞ」
「はい、星お嬢様」
「一刀さん!!是非私にも!!」
「はいはい、愛紗お嬢様」
「おい一刀!!この期間限定モンブランというのを頼むぞ!!」
「はい、期間限定モンブランですね?」
「ああ、北郷殿、お茶のおかわりを頼む」
「はい、承知いたしました、秋蘭様」
・・・と、まあご覧のように一刀は五人のお嬢様の絶え間ない注文に笑顔を崩さず、・・・少し冷や汗をかいていたがこなしていた。
・・・この男、実は執事の才能もあるのではないだろうか。
そして店に来てから一時間後、愛紗達は満足そうに帰っていった。
「ふう・・・やれやれ」
「お疲れ様、一刀」
休憩室で汗をぬぐう一刀に、無刀は笑顔でねぎらった。
「お前こそ大変だっただろ?あんなに女の子にいじられてさ」
「ははは、もう慣れたよ」
そう、大変さで言うなら無刀も一緒、いや、むしろこっちのほうが上かもしれない。
なにしろ容姿が容姿だから女子にいじられるんだよ・・・。可哀想に・・・。
この店には聖フランチェスカの女子もよく来るもんだから・・・。例のコンテストの件で俺達に女装してくれなんて注文をしてくるのまでいるから・・・。
「それじゃあ俺家に帰るわ。明日また学校でな」
「お疲れ一刀~」
そうして一刀は家に帰った・・・んだが。
「お兄ちゃ~ん!!鈴々にもご奉仕して欲しいのだ~!!」
「はわわ~。私にもお願いします~」
「ご、ご主人様・・・あ、あたしにも・・・」
「あらあら、みんなずるいわよ♪」
「へう・・・ご主人様・・・できれば私にも・・・」
「一刀、私も一刀に御奉仕して貰いたいの・・・」
「あんた!!華琳様にご奉仕なんてな、なんてうらやましい!!私にも奉仕しなさい!!」
家に帰ったときが一番大変だったことは言うまでもない。
その後執事喫茶には一刀が勤務する日には必ず一刀指名の女子が最低10人以上来るようになったという。
あとがき
はい皆さん、年賀状小説第三弾、一刀、アルバイトをする、の巻です。
・・・ラストが少々雑だったかな・・・。
妹の一菜は超が付くほどのブラコンで、一刀が連れてきた三国の武将全員を敵視している・・・という設定です。この世界では。
ちなみに執事喫茶のネーミングの由来は当然仮面ライダーカブトです。
なぜって、カブト役の俳優さんが、執事の役で出てきたことがあったから(別のドラマで)。
さて、次回の予告はずばり『地獄の姉妹』です!・・・まんまカブトだなおい。
次回の話ではいまいち可哀想な役のあの人達が大活躍します。
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・・・もう新年過ぎてしまいましたが、というか明日成人の日なのですが、年賀状小説第三弾投稿しました。
今回も一刀が・・・する話です。詳しい内容は・・・読めば分かります。