No.194364

真・恋姫†無双 北郷史 5

たくろうさん

別にネタに困ったわけではなく単にモンハンやってたら遅れました。

2011-01-06 18:48:11 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:10087   閲覧ユーザー数:7214

黄巾の乱が終わり一時の平和に浸っている政務室。

一刀は鼻歌を歌いながら書簡の処理に励んでいる。

 

「風、アメちゃん上げるからこれ解いてくれ」

 

「ダメですー」

 

一刀は前回の無断外出の罰で政務室の椅子に縄で縛り付けられていた。そして何故かご丁寧に六甲縛りのオプション付きで。手だけは仕事が出来るように解放されているが結び目は体の後ろにあるので自力で解くことは出来ない。

 

「まったく、お兄さんは太守としての自覚が足りません。一人で黄巾党の本陣に赴くなんて考えられません。何もなかったのが幸いですよー」

 

声は穏やかなものだが風の眉間には皺が寄っている。

 

「自覚がなかったことは認める。だが後悔はしていない……ぐべっ」

 

一刀が開き直り発言をしたら風が咥えていたアメの棒の先を一刀の頬に突き立てた。

 

「この調子だともっとキツいお仕置きが必要ですねー」

 

その発言は華琳の専売特許なのに、と一刀は思った。

そんなことをしていると仕事が終わったのか一刀は筆を机の上に置いた。

 

「さー、仕事が終わった。じゃあ俺は出掛けるから」

 

「何言ってるのですか。お兄さんは今日一日中ここに……あらー?」

 

風が一刀の居る方に目を向けたがそこには一刀がおらず、解かれた縄と椅子だけがそこにあった。

部屋の中を見渡すと一刀は扉の前で身支度を整えていた。

 

「どうやって解いたのですかー?」

 

「ル○ン三世にでも聞いといてくれ。では」

 

一刀は扉を開けようとする。

 

「無駄ですよー。こんなこともあろうかと部屋の前には見張りが付けてありますので」

 

「なら扉を使わなければいいじゃない」

 

そう言うと一刀は壁を這い登って天井裏に上がった。その姿は家庭に出没する黒光りするモノによく似ていた。

 

「お兄さんは間諜か何かですかー?」

 

風は一刀の行動に呆れて乾いた口調で質問する。

 

「出身地で考えるなら忍者のほうがしっくりくるな。って言ってもわからないか」

 

一刀はそれだけ言うと増援来ないうちにと天井裏を伝って消えてしまった。

 

「むぅ、お兄さんを縛り付ける口実が出来て二人きりという状況を使って風の魅力を思い知らせる作戦、失敗ですねー」

 

風は大して残念がる様子もなくそう言った後、再び仕事を開始した。

「天和達の事務所は確かここだったな」

 

小さな舞台が付属された小屋と呼んでも差し支えない建物の前に一刀は立っている。

 

「確か世話係が配属されて三日が経ったからそろそろ限界かな……?」

 

一刀がそう呟いた矢先に事務所の扉が勢い良く開いた。

 

「もうあんな我儘娘達の世話なんかできねぇ!!」

 

中から男が飛び出して来て、一刀を一瞥もせず涙を流しながら走り去ってしまった。

 

「あー、やっぱり俺以外の奴じゃ無理か……。俺もたくさん振り回されたしなぁ…」

 

一刀は昔を思い出し苦笑いする。そして開けっぱなしの扉から事務所の中に入った。

 

「こらこらお前達、あんまり我儘言うんじゃないぞ」

 

「開口一番に言うことがそれ? 別にちぃ達は悪くないわ。あいつが根性足りないだけよ」

 

三人はまったく反省していない。一刀もこれが当然の反応だと思っていたので大して咎めもしない。

 

「一刀ー、私お腹すいたー」

 

天和は先程のやり取りはもう忘れてしまったのか、それだけ言うと机に突っ伏した。

それを見て一刀は心の中で「すまない、犠牲になった君の給金は上げとくよ…」と密かに先程飛び出していった男に約束するのだった。

 

「それで一刀さんはここに何用で?」

 

唯一の救い、人和が話を切り出す。

 

「今日の舞台は夜始まるだろう?だから午前中にこの街を紹介しようと思ってね。まだこの街に来て日は浅い三人がこの街を見てどう思うかを聞こうと思ったのさ。あとは世話係を俺が引き継ごうと」

 

「どうでもいいからご飯ー!!」

 

そう叫ぶ天和に苦笑いしつつ一刀は三人を連れて外に出た。

「あっ御使い様だ」

 

「御使い様ー、遊んでー」

 

民達は一刀を見つける度に一刀に一声掛ける。一刀はそんな民達に笑って手を振る。

 

「ふーん、一刀ってば随分と民に慕われているのね…」

 

地和は民達の反応を見て少し驚く。初対面で剣を突き付けられた地和は一刀のことをあまり心良くは思っていないのだ。

 

「そりゃあ民達と心を通わせなければいい街は作れないからね」

 

一刀は地和の気持ちを知ってか知らずか大して自慢することもなく答える。

 

「じゃああそこで昼ご飯をとろうか」

 

そう言うと一刀達は一軒の飯店の中に入っていった。

 

「やや、北郷おーなー、よくぞ御出でなさいました」

 

店主と思しきオヤジは客が一刀だと分かると途端に畏まってしまった。

 

「いやいや、そんなに畏まらなくてもいいよ。それより売れ行きはどうだい?」

 

「おーなーのおかげで好調ですよ。これからもよろしくお願いします」

 

店のオヤジはそれだけ言うと料理を作る為に厨房に入って行った。

 

「今の何ですか?」

 

人和が一刀と店のオヤジとのやり取りを見て質問する。

 

「ああ、この街の店の一部は俺の傘下なのさ。そしてその店では天界の味、もしくは技術が堪能できるのさ。で、北郷オーナーって呼ばせてるのは俺の趣味」

 

「へぇ、そうなんですか……」

 

三人は一刀の街でのもう一つの顔を見て驚く。

 

「それから商売の話になるけど舞台で君達には俺の作った服、銘柄「stud(訳すと種馬)」を着てもらいたい」

 

「え? 「すたっど」ってあの!?」

 

地和が一刀の言葉を聞いて大きな声を上げる。

 

「そう、有名雑誌の阿蘇阿蘇でも取り上げられた今をときめく服の銘柄。その設立者が俺さ」

 

いきなり飛び込んでる事実に三人は目を丸くするばかりである。

そんな三人の反応に一刀は気を良くしたのか店の中で休憩を摂っていた警備兵から棒を受け取って語り始めてしまった。

 

「さて、今回紹介するのはこの棒。名付けて「伸縮式サスマタ」!これがあれば暴漢と対峙した時、比較的安全に遠距離から制圧できる代物さ。そして何より伸縮式なので持ち運びが便利!生傷が絶えなかった警備兵からも好評の一言です!!」

 

その姿はとても様になっていて何処かのテレビショッピングを見ているかのようだ。

 

「一刀さん、太守やめて商人になったほうが良いような気がしますけど……」

 

その姿に人和は呆れてしまった。

その後も一刀と三人達は色々な場所をまわった。

だが前の外史とはちょっと違った光景だった。

 

「おお、「竜の皮」だって!? こ、この材質!! これなら……!?」

 

一刀は旅商人が広げている商品に食いついてしまっている。

 

「一刀、人のこと散々言っておいて一番ハシャいでるじゃん」

 

天和からでさえ言われてしまう。

何百年も娯楽のなかった生活の反動だろうか一刀の目は子供のように輝いていた。その目を見てしまうと三人も止める気にはなれなかった。

 

「一刀さん、老爺っぽいところがあると思ったら真反対に子供っぽくなったり不思議な人ね」

 

人和はそんな一刀の姿を見て可笑しさで口元に笑みを浮かべる。

 

「ちーとしては一刀が悪い奴じゃないって分かって安心したわ」

 

地和はフンッと鼻を鳴らしながら言う。

 

「あっ、でも一刀はお姉ちゃんの物だからね」

 

 

そうしている内にすっかりと夕暮れ時になってしまった。

「じゃあ、舞台頑張れよ」

 

一刀達は今舞台裏の準備室にいる。

辺りはすっかりと日が落ちているが観客のざわめきで静けさは感じられない。

天和達は舞台の衣装の準備も終わり後は舞台に立つだけだ。

一刀は三人に応援の言葉を送ると観客の一人となる為に観客席へと向かった。

 

 

観客席は初舞台にもかかわらず多くの人が集まっている。

これは一刀が指示を出して規格外の数の広告を事前に出したからだ。

一刀は三人の実力から考えるとこれが当然だと思っているので観客の数に大して驚きもしない。

 

しばらく待つと天和達は舞台に上がり歌を歌い始める。

その歌はやはり彼女達を言うべきか人の心を掴む何かがある。観客席にいる人達はすぐに彼女達の歌の虜になってしまう。

 

だが一刀の反応だけは周囲と違った。

 

観客は全員舞台に集中して気付いてないが一刀の頬に一筋の涙が流れていた。顔はタガが外れたように放心している。

 

「アレ……何で、何で俺泣いてるんだろ?」

 

歌を引き金に一刀の頭の中には沢山の思いが溢れ濁流となっていた。

人の心を掴む彼女達の歌声。一刀にとってはそれと同時に思い出の歌声である。

 

歌声が一刀の心に溶けこんで思い出をざわめかせる。それは涙を拭う行為さえ忘れさせるほどに。

 

「ハハ、我ながら情けないな…。歌を聴いただけでこの様なんて……。近々反董卓連合のことも差し迫っているって言うのに。 今のうちに華琳達と対面した時のこと考えとかなきゃな。この調子だと号泣しかねない…」

 

それから一刀は涙を流したまま歌を聴き続け、聞き終えると人知れず涙を拭い近々起こる反董卓連合のことを思い表情を厳しいものにした。

 

~続く~


 
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