No.193866

真・恋姫†無双‐天遣伝‐(23)

遅い、非常に遅くなりました。
待っていて下さる方々には申し訳ない気持ちで一杯です・・・

2011-01-04 00:56:59 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:10153   閲覧ユーザー数:7432

 

 

・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

 

 

 

―――陳留郊外、曹操軍の模擬戦地にて。

 

 

今そこでは、怒号が鳴り響いていた。

その源は、猛将と名高い夏候惇将軍。

二手に分かれ、互いに軍師を一人ずつ、そして武将をそれぞれ力量が均等になる様に分け、死者こそは出さぬ様に全力を持って戦う。

そんな厳しい模擬戦が、先程終わったばかりだというのに、夏候惇―春蘭はまるで親の仇でも見るかのような怒りの色を双眸に宿らせ、少女の胸倉を掴み上げていた。

 

 

「貴様ぁ! 先のあれは、一体全体どういう領分だ!?」

 

「姉者、落ち着け」

 

「これが落ち着いていられるか!!」

 

 

先程まで敵味方に分かれていた妹の夏候淵―秋蘭が止めに入って来るが、それすらも打ち払い、野獣の如き呻り声を上げながら、掴み上げている少女へと目を戻した。

 

 

「・・・・・・離して頂けます?

それと貴女、一体何に怒っているので?

説明が全くなっちゃいませんね」

 

 

侮蔑の色を隠そうともせず、掴み上げられている少女は言った。

それが、尚一層春蘭の怒りを誘った。

思わず胸倉を掴んでいるのとは逆の拳を握り締め、弓を射る様に顔面へと放とうとした時、漸く制止の声が響いた。

 

 

「止めなさい、鴉羽は私の軍師となったのよ。

私の所有物に勝手に手を出せる程、貴女は私を軽んじているのかしら?

だとしたら、私はかなり奢っていた様ね」

 

「か、華琳様・・・・・・し、しかし」

 

「夏候元譲! 私は止めろと言った!!」

 

「は、はいぃーーー!!」

 

 

そう、愛しき主に言われてしまっては、さしもの春蘭も拳を引くしかなく、鴉羽と呼ばれた少女、司馬仲達の胸倉を掴んでいた手も離さざるを得なかった。

解放された鴉羽は、自身の身体の調子を確かめる為に呼吸を二,三度行い、自身の身体に異常が無い事を確かめてから。

 

 

「・・・孟徳殿? 貴女は配下に如何な躾を施しているので?

納得がいかぬならば、論を用いて説くのが道理であると言うのに、いきなり支離滅裂を語って暴力に訴え出る等とは・・・獣でも見習っているのかと思いました」

 

「貴様ぁ!?」

 

「春蘭、黙りなさい」

 

「か、華琳様ぁ・・・・・・」

 

「言い方が必要以上に容赦無いだけで、貴女に否定できると思っているのかしら?」

 

「うぅ・・・・・・」

 

「姉者、抑えろ」

 

 

漸く何とか抑え込まれた春蘭を一瞥し、鴉羽は語り始めた。

 

 

「まず、第一にですが。

私の命を無視して、勝手に特攻した夏候惇が悪いのです。

故に、捨て駒に使わざるを得なかった、本来ならば切り札であるのに」

 

「成程、しかし背後から味方毎矢を射かけたのは?」

 

 

そうなのである。

鴉羽は、命令を無視して特攻した春蘭の部隊毎、接敵していた敵の部隊を撃ったのだ。

 

 

「味方? 命令を無視して突っ込んで、軍の和を乱すのが味方? 笑えない冗談です」

 

「なん、だとぉ!?」

 

「姉者!」

 

 

心底おかしそうに笑って言い切った鴉羽に、先程から切れてはいたが、堪忍袋の緒が切れた春蘭がまたまた食ってかかった。

秋蘭が抑えようとしているが、やはり地力の差もあって、中々止まろうとしない。

 

 

「貴様、味方や仲間を何だと思っている!?」

 

「傷の嘗め合いが、戦で美徳だとでも思っておいでで?

そんな物が見たいのならば、戦を模した劇でも見ればよいでしょう。

戦においては、曹家の剣と楯ですら唯の駒です。

貴殿は、繰り手の思慮無しに動く駒を見た事がありますか?

もしあると言うならば、私に見せて下さい。

ならば、しかと謝罪致します」

 

「ぐ、ぐぐぐ・・・・・・"ギリギリ”」

 

「いい加減にしろ、春蘭。

鴉羽も挑発は大概にする事だ。

今、お前がやっている事も、軍の和を乱す行為だぞ」

 

 

黙って華琳の背後に佇んでいた華蘭がここで漸く動いた。

最も、華琳は先程からずっと無言であったが。

 

 

「成程・・・見ようによっては、そうですね。

子孝殿、申し訳ありませんでした」

 

 

そう言い、ぺこりと頭を華蘭に向かって下げる鴉羽。

 

 

「(・・・これで有能なのが、また扱いに困る・・・・・・)」

 

 

そう。

事実、先程の模擬戦も結果は鴉羽の指揮した側が勝っていた。

華蘭は、深い深い溜息を吐くしかなかった。

 

 

 

 

 

新・恋姫†無双

―天遣伝―

第二十二話「猛毒」

 

 

「何よアイツ! ふざけんじゃないわよ!!」

 

 

そう言って椅子を蹴飛ばして、足を抱えて痛みでピョンピョン飛び跳ねているのは桂花。

苛立ちの原因は、無論鴉羽の事だ。

 

 

「なーにが駒よ! 兵は皆人間なのよ!? 思い通りに動かす方が難しいに決まってるじゃない!

なのに、思い通りに動かなきゃいらないって・・・華琳様の民を何だと思ってんのよ!?」

 

 

ガスガスと今度は椅子を削る様に蹴り始める。

鴉羽と夏候姉妹、そして華蘭と後一人他の将がいないこの部屋で、一番荒れていた。

因みに、悠は部屋の片隅にある椅子に腰かけながら舟を漕いでいた。

 

 

「せやから、駒やと思うとるんとちゃう?」

 

「何だって嫌なのー」

 

「・・・アカン、自分で言うときながら嫌な心地や」

 

 

発言したのは、黄巾の乱中に華琳に仕官した李典と于禁、真名はそれぞれ真桜と沙和という。

 

 

「・・・しかし、指揮は巧みでした」

 

「ぐっ! そ、それはまぁ、そうだけど・・・」

 

 

楽進―凪の鋭い一言で、桂花は思わず言葉に詰まる。

実際、桂花との戦いで勝った様なものなので、当然だろう。

 

 

「でもやっぱり嫌だな・・・ボク、鴉羽ねーちゃんと仲良くなりたい」

 

 

しょんぼりしながら言うのは、真名を季衣と言う許緖。

実は、模擬戦において春蘭部隊毎矢を射かけられた敵部隊を率いていた将だったりする。

そんな言葉に、皆一様に「それは無理だろう」と思う。

がしかし、その幼さ溢れる容姿から絞り出された言葉に、自然とどうにかしようという思考が生まれるのが、凄い所だ。

 

 

「向こうはこちらに合わせる気は無いみたいですしね」

 

「いっその事、強引にどうにかしてまう?」

 

「寧ろ、尚一層悪化する気がするのー・・・」

 

「・・・・・・って、何でアイツがどうやったら受け入れられるかの話になってんの?」

 

 

桂花の突っ込みで、急に元に戻る空気。

どことなく、桂花に対して「空気読め」とでも言いたげな雰囲気が漂った。

 

 

「な、何よ? と言うか、あんた等だってアイツと仲良くやれるだなんて本気で思ってる?」

 

 

皆一様に言葉に詰まった。

誰しも、一度以上は鴉羽の容赦無い物言いにむかっ腹を立てた経験がある。

それでも尚、仲良くしたいと言う季衣の方が特殊な感さえあった。

 

 

「どうしようもないのでしょうか?」

 

「少なくとも私達に出来る事が無いに等しい事だけは分かるの・・・・・・」

 

「そうですよね・・・あれ?」

 

「どうしたのよ、凪」

 

「悠様、何処へ行ったのでしょう?」

 

「あ? ・・・ホンマに姐さんおらん!?」

 

「い、一体何時の間に!?」

 

「さ、探さなきゃー!?」

 

 

さっきまで椅子に腰かけながら爆睡していた悠が、いなくなっている事に漸く気付いた皆であった。

 

 

「あれ、手紙?」

 

 

周りがギャーギャー騒いでいる間に、季衣は腰の後ろに差し込まれた紙片に気付いて広げた。

して、そこにはこう書いてあった。

 

 

『取り敢えず、鴉羽には私なりのやり方でちょっかいを出してみる。

もしかしたら更に仲が拗れるかもしんないけど・・・いや、拗れる程仲良くは無かったね。

ま、これより下は無い訳だし、好きにやってみるよ。

追伸:巧くいったら、流琉と一緒に膝に乗ってね!! 絶対だよ!!』

 

 

思わず噴き出してしまった季衣であった。

 

 

 

 

 

 

―――玉座の間

 

鴉羽は、華琳に呼び出されて此処にいた。

辺りよりも一段高い玉座から華琳に見下ろされつつ強力な圧を叩き付けられても、鴉羽は小揺るぎもしない。

それを面白くなさそうに見るのが、華琳の右脇に立つ春蘭である。

 

 

「さて、司馬仲達」

 

「何でしょう」

 

「何故呼ばれたかは分かっているわね?」

 

「・・・貴女も、仲間や味方と言う言葉に固執する愚者なのでしょうか?」

 

 

その様な不遜な物言いに対しても、華琳は眉を顰めすらしない。

寧ろ、傲然と笑い飛ばした。

 

 

「違うわ、全ては貴女の言う通り、駒よ。

但し、戦場と常は違うし、大駒は誰しも簡単には捨てたくない物でしょう?」

 

「・・・・・・成程」

 

 

華琳の言葉に、鴉羽は合点が言った様に頷いた。

 

 

「なれば、鴉羽? 貴女の野心は何?

私は覇道其の物であり、絶対なる統治」

 

 

フッ、と鼻先で笑いを漏らし、鴉羽は言った。

 

 

「全ての欲望が叶えられる世」

 

「・・・・・・成程、もう良いわ。

問いたい事は、それで全てよ」

 

 

一度形だけの礼をし、鴉羽は玉座の間を後にした。

 

その姿が消えてから、春蘭は傍の柱を強く蹴り始めた。

 

 

「うがーーーっ!! 鴉羽め! 華琳様に何と無礼な!!」

 

「姉者、よくぞ堪えてくれた。

だが、柱に当たるのは止めてくれ。

今にも折れそうだ」

 

 

当然止めに入る秋蘭だが、目はそれ程本気ではない。

それもその筈、秋蘭自身鴉羽には怒っていたのだ。

華琳を敬愛する姉妹にとっては、先程の鴉羽の物言いは許し難い。

黙っていられたのは、二人揃って華琳から「手と口を出すな」と厳命されていたからに過ぎない。

 

一方の華琳は、鴉羽の一言一言を反芻し、思わず口元を吊り上げた。

思い通りにならぬが、実に面白い。

素晴らしい頭脳を持っているものの、軍内に不和を呼び込む凶者。

真名に相応しく、まるで鴉の様だ。

だが巧く飼いこなせれば・・・その利は計り知れないものとなる。

 

 

『使いこなして見せよ』

 

 

まるで天がそう言っているかのようだ。

そう、華琳には思えた。

 

 

「思い通りにならぬ? いいえ、『思い通りにしてみせねば』、我が覇道は成せぬ。

良かろう天よ、曹孟徳が生き様、その対の眼に刻み込むがよい。

春蘭、秋蘭、行くわよ。

今宵は二人揃って可愛がってあげる」

 

「本当ですかっ!?」

 

「ありがたき幸せ」

 

 

華琳の言葉で即座に柱を蹴飛ばすのを止める春蘭に、口元に笑みを湛えながら何事も無いかのように装う秋蘭。

この二人のそれぞれの差が、華琳はお気に入りだった。

自身も玉座を降り、その場を後にする。

二人はその後をピタリと付いて来た。

 

 

「(華蘭、貴女も早く帰って来なさい。

貴女も私の物、何れ可愛がってあげるわ)」

 

 

新たに参陣した将のテストの為に、黄巾残党を名乗る賊達の退治に向かせた従姉妹の事を思い、華琳は既に昇った月を掴む様に手を伸ばした。

 

 

「そう、私は全てをこの手の内に納める。

北郷一刀、貴方の思い通りには、させない」

 

 

月に向かって伸ばした手を握り締め、誰にも聞こえぬ様に、そう呟いた。

後の魏王、曹孟徳にとって最たる難敵と言わしめた天遣―北郷一刀との戦いの幕は、もうじき上がる。

 

 

 

 

 

「これで、終わりだ!!」

 

“ザンッ!!”

 

「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!」

 

「・・・ふう」

 

 

賊の最後の一人を薙ぎ倒し、華蘭は漸く一息を吐いた。

 

 

「よし、命は果たした、帰投するぞ」

 

「は、はい!」

 

 

その傍には、小さな体躯の少女が控えていた。

最も、持っている得物はその体躯に似合わぬ巨大さを誇っている。

 

 

「流琉、この度の働き見事だった。

帰ったら、華琳の親衛隊へ推薦させてもらうよ」

 

「わぷっ、そ、そんな、私は唯曹仁様の仰る通りに動いただけで」

 

 

クシャクシャと、少女の頭を撫でる。

突然の事に面食らっていたが、流琉と呼ばれた少女はそれでも気持ち良さ気だった。

この少女、本名を典韋と言う。

親友の季衣に呼ばれ、先日曹軍に仕官したばかりだ。

 

 

「言われた通りを正しく完璧に行える事。

それこそが、感嘆した点なのさ。

誇っていい。

流琉、君は立派な将だ」

 

「あ、ありがとうございます、曹仁様!!」

 

 

眩しい位に満面の笑みを浮かべる流琉に、華蘭は片目を瞑って言う。

 

 

「私の事は華蘭で良い。

私だけ真名で呼ぶのは不公平だ」

 

「そ、そんな曹仁様「華蘭だ」・・・分かりました、華蘭様」

 

 

再びニッコリと笑う。

今度は、華蘭も釣られて笑顔となった。

 

 

「将軍! 帰投の準備全て滞りなく整いました!」

 

「よし、帰るぞ!」

 

「はいっ!」

 

 

歩き始めた華蘭の号令に真っ先に反応したのは、傍にいた流琉であった。

背の高い華蘭を追う、背の低い流琉は自然と速足にならねばならない。

その可愛らしさに、思わず笑みが零れた。

 

 

 

―各々が馬に跨り、三里も行った頃。

 

 

「全体、止まれ!」

 

 

華蘭が突如として、部隊に停止命令を出した。

統制の取れた部隊員は一人残らず馬を停止させる。

馬に乗るのがまだ不得手な流琉は、華蘭の前に乗っていたのだが、何故停止命令を出したのか分かっていなかった。

が、暫くし、その理由を理解した。

 

 

「伝令ー!!」

 

 

全速力で走る馬の姿が見えたのだ。

つまり、華蘭は他の誰よりもずっと早くに、早馬の姿を捉えていたのだ。

 

走ってきた早馬は、華蘭の目前で停止。

馬共々、荒く息を吐いた。

華蘭は兵に水を持って来るように命じた。

そして、それを兵に渡し、呼吸を落ち着かせた。

 

 

「どうした、随分と唯事では無い雰囲気だが?」

 

「い、一大事でございます・・・・・・!」

 

 

華蘭の問いに対し、未だ息も絶え絶えな兵の口から語られた、信じ難い言葉を聞いた華蘭の反応は劇的であった。

 

 

「そんな訳があるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

「ひ、ひぃっ・・・ぐっ!!」

 

「答えろっ! その様な下らぬ出鱈目を貴様に吹き込んだ下衆は何処にいるっ!!?」

 

「ぐ・ぐるじ・・・・・・・・・・・・」

 

「答えろぉ!!!」

 

「ふぁ、華蘭様! 止めて下さい! お願いです、その人が死んでしまいます!!」

 

 

突如、伝令兵の喉首を掴み上げ、殺意と憎悪、そして憤怒以外の感情を消し去った目で尋問し始めた。

そんな華蘭を、恐怖に慄きながらも、流琉は必死で止めようとする。

しかし、止まらず。

 

 

「さっさと吐けぇ―――!!」

 

「将軍、止めて下さい! そのままじゃ吐く前に死んじまいます!」

 

「どうか、どうか冷静に―――!!」

 

 

部下達に抑え込まれながらも、華蘭は手の力を全く緩めようとせず。

結局その手から伝令兵が解放されたのは、先程水を持ってきた兵に、頭から冷水をぶっかけられてからだった。

無論、伝令が運んで来た情報とは。

「天の御遣いと董卓と何進が共謀し、皇帝を毒殺し、十常侍を鏖殺した」

という物であった・・・・・・

 

 

 

 

 

鴉羽は、水辺の畔で一人佇んでいた。

そんな彼女の背後から、近寄る影が一つ。

 

 

「かーらすばっ」

 

“グワシッ”

 

「・・・・・・」

 

「・・・あれ? 無視すんなってば。

って言うか、あんた結構【ある】じゃん。

まさか秋蘭並とは・・・服の上からじゃ全然分からんかったよ。

いやはや、試してみるもんだねぇ」

 

 

悠であった。

背後から鴉羽の胸に手をやり、暫しまさぐっていたのだが、反応が無いのが気に入らず止めにした次第だ。

 

 

「それでさ、何で反応してくんないわけ?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「いやだからさ、無視しないでってば」

 

「・・・好きなだけ触ったら如何です?」

 

「おっ、漸く反応してくれた・・・って、ちっがーう!!

あたしが求めてんのはこう、『止めて下さ~い!』とか、『な、何て事するんですか!?』とか、そう言う恥じらう乙女的な反応なの!! 分かる!?」

 

「・・・理解しがたいです」

 

「くそぅ、あんたは莫迦だ。

それでも女か!? ああん!!?」

 

 

何故か半分キレる。

そんな悠に対し、鴉羽は嘲る様な失笑を漏らしたのみ。

その反応で、悠は諦め・・・る訳が無く。

 

 

「おーし、言ったなこんにゃろ!

こうなったら、癖になるまで揉みしだいてくれるわ!」

 

「お好きにどうぞ」

 

「では、いざ尋常に勝負!!」

 

“ガシッ、モニュモニュ・・・・・・”

 

 

こうして、悠と鴉羽の(途轍もなくどうでもいい)勝負が初まった。

 

 

「むぅ・・・これは何と言う極上の手触り」

 

「・・・・・・」

 

「ぬっ、これも駄目か。

ならこうして・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

―約半刻経過

 

 

「くぬっ、こなくそっ、何故駄目!?」

 

「・・・・・・気は、済みましたか?」

 

「参った」

 

 

漸く鴉羽の胸から手を離し、降参の意を籠めて、両手を上げる。

その顔色はやはり不満気だ。

 

 

「どうして、嬌声の一つも上げないのさー。

袁紹軍にいた頃は、斗詩や猪々子、姫だってあたしの手に掛かればアンアン喘がざるを得なかったっていうのに」

 

「・・・胸を揉まれると、快感を得られるものなので?」

 

「うん、まぁそりゃ」

 

「そうですか、私にはやはり理解しがたいですね」

 

「ふんふん、んー、何となくあんたって人間が分かった気がする」

 

「それはそれは、良かったですね」

 

 

それを最後に、鴉羽はその場を離れて行く。

 

悠は、近くにあった手頃な石を一つ拾い、鴉羽の頬を掠める様な軌道を狙って、投げた。

結果、鴉羽の頬を狙い通り掠めたものの、鴉羽の歩みには少しもリズムの狂いは無かった。

 

 

「・・・・・・やっぱり」

 

 

深い溜息を吐かざるを得ない、そんな結果と悠に思えた。

 

 

 

 

 

―――明朝、玉座の間

 

 

「華琳、どういう事だ!!」

 

“ズガーン!!”

 

「華蘭様ー、落ち着いて下さいってばー!!」

 

 

玉座の間に繋がる扉を吹き飛ばす様な勢いで開け放ち、腰付近に流琉をぶら下げた姿で、華蘭は玉座の間に入った。

昨晩から強行軍に近い速さで帰って来たにも関わらず、その姿には些かの衰えも見えない。

否、実際にはかなりの疲労が溜まっているのだが、怒りを始めとする感情で分からなくなっているだけだ。

 

 

「まずは貴女が落ち着きなさいな」

 

 

視線の先にいた華琳は溜息を吐きながら、頭を抱えた。

 

華琳自身、昨晩未明に春蘭秋蘭『で』楽しんでいた最中に齎された情報に、頭が痛かったと言うのに。

華蘭がこうなる事は火を見るよりも明らかである事も、充分分かっていたと言うのに。

これからの軍議次第では、本気で軍が割れかねないと思っていた。

 

 

「そんな事で、母様との約束を守れるのかしら?」

 

「む・・・・・・」

 

 

華蘭を抑制する取って置きを使わざるを得ない事態ととった華琳の判断は正しかったと言えよう。

華蘭の勢いが削がれ、冷静な部分が戻って来た。

心中で少しだけホッと一息吐き。

 

 

「軍議を始めるわよ。

華蘭、『分かっている』わね?」

 

「・・・・・・あぁ、無論だ。

先程までの狂態を思えば、到底信じられぬだろうが」

 

 

今度こそ本当に落ち着き、華琳は漸く本題を切り出した。

 

 

「さて、昨晩齎された情報に依れば、天の御遣い、董卓、何進大将軍、これ等が結託して皇帝陛下と十常侍を殺害。

洛陽を支配下に収め、暴政を強いているとの事」

 

「えー、何なのそれー? 天の御遣い様って良い評判しか聞かないから、良い人だと思ってたの」

 

「・・・私もだ、よもやその様な事をする者だったとは」

 

「・・・・・・落ち着きなさい華蘭、気持ちは確かに分かるけど」

 

「「!?」」

 

 

呟いた沙和と凪に、青筋の浮いた拳を握り締めて今にも飛び掛かりそうな華蘭を制止する華琳。

睨まれた二人は、身を竦ませた。

 

 

「私は最初から、何時かはそんな事をしそうな奴だと思っていたぞ! うん!!」

 

「姉者・・・・・・」

 

 

胸を張って言う春蘭に、頭を抑える秋蘭。

どうやら、こちらでは考えがかなり異なっている様だ。

華蘭はこっちにはそれ程反応はしない。

春蘭の頭の残念さを良く知っているからだ。

良い事なのか悪い事なのかは、よく分からない。

 

 

「あー、ちょっといいかい?」

 

「何かしら、悠?」

 

 

手を上げた悠に、発言を促した。

 

 

「こん中で、実際に御遣い様が情報通りの事をやったと信じてる奴、どれ位いる?」

 

 

その質問に、場は静まり返った。

互いに互いの顔を見、考えを見透かそうとしている。

 

 

「あ、因みにあたしは、してない派」

 

「無論、私もだ」

 

 

悠の発言に続き、華蘭が手を上げた。

 

 

「私もだ」

 

「えっ!?」

 

 

継いで、秋蘭が手を上げる。

その際、春蘭が二足走行する猫を見たかのような顔をした。

華蘭の顔が、誇らしげになった。

 

 

「ほんっと~に不本意だけど、私もそっちよ」

 

「んなっ!? 桂花まで!?」

 

「個人的には認めたくないけど、軍師的な観点からすれば、そうとは思えない奴なのよ、あの男は」

 

 

華蘭が更に、勝ち誇る様な顔になる。

しかし。

 

 

「だからと言って、天の御遣いを討たない理由にはなり得ませんね」

 

 

鴉羽のその言葉で、一気に般若の如き怒りの形相へとすり替わった。

凪、沙和、真桜が抱き合って震え始めた。

 

 

 

 

 

「何か勘違いしていませんか?

私達の目的は何です?」

 

「それは無論・・・」

 

「華琳様がこの地を治める事だ!!」

 

 

春蘭が、誇らしげに口にした。

鴉羽は頷いた。

 

 

「えぇ、その通り、私達はその目的の為に集った。

ならば、それ以外は皆討ち下すべき敵。

なればたとい相手が天の御遣いであろうとも。

個人的な感傷で、覇道を唱える孟徳殿が見逃していい訳が無い」

 

 

華蘭は、唇を強く噛んだ。

血が出る程に。

 

 

「それをせねば、孟徳殿が情報の上で怨敵と相成った天の御遣いの同類と見られるのは、最早必定。

此処は、全ての感情を捨て、御遣いに贄となって貰うしかないのですよ」

 

 

烏扇で口元を隠しながら、鴉羽は語る。

だが、他者には見えないその口元は笑いの形に歪んでいた。

 

 

「そうだよ! もし本当に、この通りの事が起こってたらどうするの!?

ボク達、苦しんでる人達を見捨てる事になっちゃう!

それだけは、絶対に華琳様がやったらいけない事だよ!!」

 

 

季衣が、涙ながらに叫んだ。

実際に国から見捨てられ、華琳達に救われるまで孤軍奮闘し続けた猛将の実感が籠った

言葉に、華琳達はおろか華蘭さえも心を射抜かれた。

 

 

「そう、だな。

その通りだよ、季衣」

 

 

その言葉が華蘭の口から零れ、華琳はフッと破顔した。

 

 

「どうやら、迷いは消えた様ね。

やれやれ、最初からこうなら文句は無かったのだけれど」

 

「済まない華琳」

 

「いいわ、その言葉を待っていたのよ」

 

 

笑った顔はそこまで。

此処からは、覇王:曹孟徳として。

強く表情と気を引き締めた。

 

 

「良いか、皆の者!

我等は、逆賊となった天の御遣い―北郷一刀を討たねばならぬ!

彼の者を知る身としても、心苦しき事ではあるが、これは成さねばならない責である!

私は彼の戦友として、彼の過ちを糺さなければならぬ!!」

 

 

そこで、一度言葉を切り、皆の顔を見渡した。

鴉羽を除き、皆戦意に溢れる顔をしていた。

鴉羽だけは、何を思い考えているのか見透かす事が出来なかった。

だが、そんな事はこの際どうでもよい。

 

 

「戦の準備を!

桂花、鴉羽は戦の間持つ糧食の準備を。

そして、戦場と成り得る場を見出せ!」

 

「はっ!!」

 

「御意」

 

「春蘭、秋蘭、悠、凪、沙和、真桜は、部隊の再編を!」

 

『応ッ!!』

 

「季衣と流琉は、私達が遠征している間の陳留の防備を命ずる!」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

「華蘭は残りなさい、直々に話さねばならない事があるわ」

 

「・・・あぁ」

 

「早速かかれ! 時が経てば、苦しむ民がそれだけ増えると思え!!」

 

 

その言葉を最後に、我先にと玉座の間から飛び出していく。

残ったのは、華琳と華蘭のみ。

華琳は華蘭に向き直り、訊ねた。

 

 

「貴女は、一刀が眼前に現れ、『その時』になったら、殺せる?」

 

「・・・どうだろうな。

皆の手前ああは言ったが・・・・・・見ろ、華琳。

この腑抜けた者の手を」

 

「震えて・・・いるわね」

 

 

差し出された手を取り、直に震えを感じ取る。

 

 

「さっきからこうなのさ。

一刀を討つ、そう考えただけで、これなんだ」

 

「一刀はきっと、相手が貴女でも躊躇わずに切り捨てるわよ?

あの男は、本当に護りたいものを護る為なら、手段を選ばない」

 

「それが分かっているから、辛いんだ。

自分で言うのもなんだが、私はあいつを良く理解している。

だから、そうなるのが怖くてたまらない」

 

「・・・ならば、貴女が死んだら、私も自害するわ」

 

「華琳!?」

 

 

突如言い放たれた言葉に、動揺する。

華琳は、本気の目だった。

 

 

「これならば、貴女は絶対に負けられないし、死ねないでしょう?」

 

「お前はずるい、本当に覇王を志しているのか?」

 

 

呆れたように笑った。

それに対し、華琳は鼻で笑って言う。

 

 

「私は強欲なのよ、欲しいものは絶対に手に入れる。

それには貴女も含まれている。

・・・何より、貴女はお母様の形見だもの。

失うだなんて、考えられないの」

 

 

華蘭は、真剣な表情から言われたその言葉に対する言葉を思い付けなかった。

唯、頭を下げたまま、上げる事が出来なかった。

 

 

 

 

 

所は変わり、洛陽。

時も、一刀が陳寿と会った翌日まで戻る。

その日、一刀の部屋は何時も通りだった。

先日皇帝が亡くなり、その葬儀の準備の為に、少々仕事量が増えた程度。

そんな中で、一刀は黙々と仕事を片付けていく。

傍らに控える風は、怪訝な表情をした。

 

 

「お兄さん、何か気に病む出来事でもありましたかー?

例えばどこの誰かも分かんない女の子を押し倒しちゃったとか」

 

『もしや、大将軍辺りにムラムラ欲情でもしちまったかい』

 

 

風と、宝譿の明らかにおかしい問いに、一刀は手を止める。

そして怒った様に風に向き直り、右手で非常に軽~くチョップをかました。

 

 

「アホか、そんな事してみろ。

俺は今頃街角で吊るされてるよ」

 

「むむぅ・・・?」

 

『気の所為か?』

 

 

軽い笑顔と共に放たれた言葉に、何処かしら違和感は拭いきれないものの、やはり何時も通りの一刀だ。

そう判断した風は、仕事に戻る。

それから暫くは、互いに必要最低限の会話のみを交わしつつ、仕事に従事していた。

 

仕事が終わり、一刀の淹れた茶で一息吐いている所で。

 

 

「風、今時間空いてるかしら?」

 

「おや、稟ちゃん、そっちのお仕事は終わったのですか?」

 

「えぇ、それで暇が出来たの。

それで、賈駆が軍師同士で問答でもやらないかって。

貴女も誘って」

 

「それは面白そうですねぇ・・・”チラッ”」

 

 

今日は別所で仕事を請け負っていた稟が現れた。

提案を受けた風は、一刀に流し目をして確認を取り、一刀は頷く事で善しの返答とした。

 

 

「分かりましたー、今すぐ行くのですよー。

お兄さん、またなのです」

 

「それでは一刀殿、失礼します」

 

「あぁ、楽しんでこいよ」

 

 

パタンと小気味よい音がして、扉が閉まった。

それを確認してから、一刀は額に手をやる。

 

思い出すのは、陳寿との会話だ。

 

 

『(俺は、皆の死なんて見たくない。

・・・それに、皇帝陛下と約束したんだ。

俺には、責任がある)』

 

『(あー、つまり、だ。

ラストはこの外史と別れる、って選択でOK?)』

 

『(・・・”コクリ”)』

 

『(OK! それじゃさっさと処置をさせて貰おう。

何、難しいこっちゃない、少し目を瞑っていて貰えれば終わる。

よし、それでいい、理解が早くて助かるぜ。

それでは、3・2・1、ハイ! 変わったー!)』

 

『(・・・・・・ふざけてんのか?)』

 

『(まさか、俺は何時でも真剣そのもの。

まぁまぁ、俺がいなくなってからも例の記憶が戻るかどうかを確かめた方が早いだろ。

そんじゃな~! See you next case!!)』

 

『(次があるのかよ、ゾッとしないな)』

 

 

目を開く。

陳寿の言った言葉は、真実だった。

一刀は、しっかりとフランチェスカや歴史の中身を思い出せる。

だが、今度はそれを思い出す度、皆との別れが脳裏をチラつくのだ。

それが堪らなく心を痛める。

だが、それでも。

一刀は、前へと進む道を選んだ。

 

その道が正しいのか否か、其れを決められる者は、誰もいない。

神ですら、決める事は叶わないのだ。

 

 

 

 

第二十二話:了

 

 

 

 

 

オリジナルキャラ紹介

 

 

名前:司馬懿

字:仲達

真名:鴉羽(からすば)

武器:黒鴆羽扇

設定:名門司馬氏の次女。

多くの優秀な兄妹に囲まれて育っていて、その中でも最も素晴らしい才を持っていると言われている。

異常な程達観しており、思考は非常にドライ。

人間の欲望をこよなく愛していて、忠義で人に仕える者よりも、私利で人に仕える者の方を重要視する傾向がある。

自分の頭脳に自信を持っているが、絶対視してはいない。

思った事を、出来る限り相手にダメージが残る様に嘲って言う為、喧嘩になりやすい。

これでも兄妹仲や親子仲は良い方。

但し、すぐに「頭が悪い」的な発言をする為、苦手意識を持たれている感がある。

実は着痩せする性質。

その(バスト)サイズは、秋蘭と大体どっこい位(悠調べ)

 

 

 

 

 

後書きの様なもの

 

何とか帰って来れました・・・師走って、先生や教授だけが走るわけじゃないんですね。

分かっていた筈なのに、再度実感してしまいました。

今回、非常に難産でした。

色々と苦しい・・・次回更新も多分来月上旬から中旬だと思います。

 

レス返し

 

 

・btbam様:えぇ、その通りでございます。 これからも暗躍しますよ。

 

・KU-様:そこを突っ込んでくるのは、最早必然。 最初から突っ込ますつもりでしたし。

 

・2828様:一番違和感を覚えたのは、書いている自分自身だったり。

 

・mighty様:実は鴉羽はあんまり絡みません(キッパリ) もし絡むんだったら、華蘭ェ・・・とコメントしたくなる様な事態になりますけど、構いませんか?

 

・はりまえ様:一刀君は甘いが故に選んじまいました。 後悔を残しまくる道を。

 

・悠なるかな様:多分、予想通りだと思います。 自分よりも大切に思う女性の幸せの為、皇帝の今わの際の願いの為に、そちらです。

 

・F97様:ハハハ、マイペース過ぎてこんなになっちまいましたよ、笑って下さい。

 

・poyy様:えぇ、本当に。 『一刀君』にとって、究極の選択です。

 

・ヒトヤ犬様:!?

 

・瓜月様:皇帝は、自分が思う最良の父親を最後に演じ切りました、最後の一度で。

 

・ポセン様:連合は組まれます、それ以上言うとネタバレに・・・

 

・下ネタのお城様:止めて、分からないで下さい。 展開は大体決まってるんで。

 

 

では、今回はここまでになります。

更新が段々と遅れて行っている・・・直したいなぁ。

 

 

 


 
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