No.193790

真・恋姫無双~妄想してみた・改~第九話

よしお。さん

第九話をお送りします。

―猪はいつまでも猪のままであった。
だが彼女を救うため、北郷が―

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2011-01-03 20:36:07 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:6063   閲覧ユーザー数:4678

 

 

 

「おおおぉぉぉ!!!」

 

泗水関前。両軍入り乱れる戦場の中で、華雄、夏侯惇による一騎討ちが始まった。

その周りで華雄の配下が何か叫んでいるが、熾烈を極める戦いに近寄ることも出来ず、声は届かない。

両者を中心にぽっかりと円を描いたような空間が出来てしまっている。

 

奇襲は成功し、一刻も早く帰還すべきこの状況で華雄の悪い癖が出てしまったのだ。

一刀に散々注意されたはずの撤退の機を逃し、華雄は力の限りに叫び、相手を倒す事に夢中になっている。

 

「ちっ!」

 

放たれた戦斧の薙ぎ払いを半歩後ろに下がり、避ける夏侯惇。

その空振りのスキを狙い、反撃の一手を仕掛けようと大剣を構え直すが。

華雄は空を切る戦斧の勢いに乗せて体ごと一回転。その場を軸に腕を捻り、追撃の打ち下ろしを放ってきた。

頭の中に危険警報が鳴り響き、すかさず後方へ飛び退く。振り下ろされた地面は爆音と砂煙立ち上り、地面には爆発したような大穴が広がった。

 

「デタラメな破壊力だな……これがあの華雄だと?噂以上の実力ではないかっ!」

 

予想外の劣勢に自分にあった過信に毒づく。

斬り結ぶ度に伝わってくる力と技。遠方においてもその武勇は聞き及ぶ程だったが、まさかここまで追い詰められるとは思わなかった。

 

「どうしたその程度か夏侯惇?そんなヤワな攻撃ではワタシは倒せんぞ!!」

 

いまだ砂煙舞う中で勝ち誇ったような声が響く。

 

「ぬかせっ、勝った気になるのはまだ早いぞ!」

 

実力を測り違えたとはいえ負ける言い訳にはならない。ここで敗北ないし撤退しようものなら負けた側の士気に大きく影響する。

ならば、ここで闘気漲る華雄に一騎討ちで勝てなくとも、兵による包囲が完成すればこちらの勝ちだ。いつまでも砦門を開き続けるわけにはいくまい。

普段なら策を弄する戦闘は好まない彼女だが、曹操からある密命を受けていた為、万が一にも勝機を逃がすわけにはいかなかった。

 

「貴様を倒し、目的を果たさせてもらう!」

 

「はっ!!吼えたな!!今のワタシに勝てる者などおらんわ!!愛を知り、愛を成就せんと戦うワタシはまさに無敵よ!!」

 

若干場違いな発言はともかく、ようやく前線に復帰し、勢い付いた華雄は絶好調だった。何合か打ち合うも夏侯惇は劣勢を覆せない。

このままでは包囲する前に敗られる。

それ程凄まじい攻めを見せる華雄。周りの兵士達の中には固唾を呑んで見守る者も出ている中……。

そこへ、一人の将が突如現われた。

 

 

 

 

 

 

「苦戦しているようだな。夏侯惇」

 

「き、貴様は……」

 

「ぬっ?」

 

最初に目に入ったのは鮮やかな黒髪。それは上質のシルクを思わせるほど。

次に写るのは武器、華奢な体に見合わない大きな得物、青龍偃月刀。

そしてその二つに劣らないほどの端麗な美貌が際立っている。

彼女こそ劉備軍にその人ありと呼ばれ、美髪公とまで呼ばれる英傑。関羽雲長だった。

 

「関羽、貴様どうしてここに……」

 

最前線のこの場所で援護の為、後方で備えていた彼女がここまで上がってくるとは思っても見なかった。

 

「協力しろと最初に言ってきたのは貴様らだろう?これは共同作戦。助けに行くべきと主が仰るものでな……」

 

本意ではない。暗にそう聞こえるが関羽の助力は頼もしい。

 

「……そうか。なら手を貸せ関羽。こやつ強いぞ」

 

「……」

 

「関羽?」

 

いざ構えたところで、なぜか返事が返ってこない。疑問に思い視線を追うと、真っ直ぐ華雄を見つめ……いや、凝視していた。

 

 

 

「華雄、ひとつ聞きたい」

 

「なんだ、怖気づいたか?この溢れる愛の力に恐れをなしたのだろう!」

 

「……その愛を、貴様に、教えたのは、誰だ」

 

 

 

底冷えする声が妙に恐ろしい。一瞬で場が凍りつく。だが華雄は気づいていないのか、声高らかに、地雷を踏んだ。

 

「無粋な。だが敢えて言おう。

……北郷一刀!!こやつがワタシに愛の力を気づかせてくれたのだ!!」

 

「……そうか」

 

今度は無言の威圧感が凄まじい。歴戦の勇、夏侯惇がたじろぐ程。

 

「……やはりここにおられたか……。ふっ、ふふっ」

 

「な、なんだ貴様。なにがおかしい!!」

 

ここに来てようやく異変を感じ取ったのか、華雄は警戒しながら戦斧を構え直す。

 

「……いやなに、あの方は変わらないと再認識しただけだ。貴様のような女にも等しく愛を説いておられるとはな……。

是非ともすぐにお会いしたい。そしてじっっっくりとご教授願いたいものだ。……多少のキズを覚悟してもらう事になるがな……ふふふっ」

 

せせら笑う愛紗もまた青龍偃月刀を構える。全身に闘気……だけではない。やや邪悪な気を纏って。

 

「……いくぞ、華雄。一身上の都合により貴様を、斬る」

 

「はっ!!やってみろ!!我が愛は無敵だ!!」

 

激しく交錯する武器。裂帛の気合は双方劣らず、打ち鳴らす金属音がけたたましい。

 

 

 

「………私はどうすれば……」

戦う二人を呆然と見つめる夏侯惇。突然、蚊帳の外に放り出されたのだ。それに加勢しようにもなにか場違いな気がした。

 

 

 

 

 

 

黙っていても決着は関羽の勝ちだろう。なぜか確信できる。

そこで、どう立ち回るか考えようと辺りを見渡した。

 

泗水関前での奇襲を受け部隊の被害は少なくない。本陣も崖上からの奇襲で被害は甚大。掻き乱された戦場では兵士達の混乱は収まっていない上に隊列はバラバラ。

急ごしらえの部隊で連携がうまく取れないのが原因だ。最悪なのはいつの間にか現われた董卓軍に再び泗水関を占拠された事。これではイタズラに被害を出しただけになってしまう。

 

……完全に上を行かれた結果だ。忌まわしげに崖を見上げるとそこには白い羽織を纏った青年がいる。

やつが北郷だろうか。先程までは見えなかったがどうしたのだろうか。視線がこちらに向いている気がする。

 

疑問に思い、剣戟の音を聞きながら観察していると、

 

「っ!!なにぃぃぃ!?」

 

泗水関での突然の火責めに続いて、またも予想外な出来事が起こった。

青年は赤い馬に跨り、直下の崖を落ちてきたのだ。

 

「なにをバカな!死ぬ気か!?……いや、あれは!!」

 

よく見れば、途中に切り立った岩を足場に飛び移りながら下りてきている。常識では考えられない光景。

一歩間違えば即死にも拘らず戸惑う様子は無い。

 

「なんて度量だ。さすが華琳様が欲しがるだけある」

 

 

 

曹操からの密命。

それは泗水関にいるであろう北郷一刀という男の捕獲だった。

最初は意味が解らなかったが、これだけの才の数々を見せ付けられれば認めざるを得ない。

 

「こちらに来る理由は解からんが……まさに飛んで火にいるなんとやら。機が回ってきたな」

 

ここは関羽に任せ、自分は役目を果たそう。

 

「包囲兵を残し、部隊転進!あの男を捕縛する!」

 

号令を飛ばす。関羽は戦闘に熱中し、気が付く様子は無い。降りてくるであろう崖下を目指し部隊を進めていった。

 

 

 

 

 

 

「どわああああ!?」

 

死ぬ!死ぬ!!死ぬ!!!

有り得ない振動と揺れが間髪入れず襲ってくる。例えるならジェットコースターとフリーフォールを足して割らずに二乗した感じ。

落下速度が速すぎて胃が持ち上がりそうになる上、岩に飛び移る度に襲い掛かる衝撃がハンパ無い。

 

なぜ俺は、こんな直角に近い崖を駆け下りているのだろう?

予定を無視して撤退せず、孤立してしまった華雄を救出すると言い出した数分前。

副官に、

 

「見捨てられないさ。だってもう心も体も重ねた関係だからね(キリッ」

なんてカッコつける直前まで戻りたい気分。素直に砦まで戻れば良かったな……。

 

 

 

完全に元の木阿弥というかコレは無かった。

ほんとコレは無い。源義経が一ノ谷の戦いで見せた、崖(本当は山)を馬で駆け下りた「逆落とし」を実践できるかもと調子に乗ったせいだ。

(実際は『平家物語』が創作した虚構であるという説が有力)

 

セキトの持つ桁外れの身体能力でなんとか無事だが、正直死にかけています。

過度の緊張と恐怖で手綱を握る手がまったく動かない。それどころか体自体、硬直しっぱなしだ。

 

……あっ、なんか泡吹きそう!変な景色も見えるし。

色とりどりの花と真っ直ぐ伸びる大きな川が目の前に広がって……。

 

「――――ぐふっ」

 

一瞬の浮遊感の後、尻を直接蹴り上げられたような衝撃で、トリップしかけた脳が目覚めた。

気が付けば、いとしの地面、地表。ようやく下り終えたようだ。

 

「……大丈夫か、セキト?」

 

混濁する頭で問いかけるとぶるる、と元気に首をふるセキト。想像以上のスペックだな。

直下の崖降りで息が乱れた様子も無い。

 

「よし、早速だけど華雄のところまで―――」

 

この調子ならすぐに駆け抜けられるだろう。急いで回収しないと本当に撤退出来なくなる。

そう言いかけて異変に気が付く。戦場に来た以上敵との遭遇は避けられないのは承知しているけど、目の前のこれは……。

 

 

 

「……包囲されてるね。完全に」

 

見回せばぐるりと半円を描くような陣形。明らかに俺達だけを狙っている様子だ。

ああ、そうか。今の自分は将軍だったね。狙われるかもしれない事をすっかり忘れてたよ、hahaha!

後悔先に立たず。いいトコ見せようとすると直ぐヘマがでるなぁ、なんて暢気に考えてしまった。

 

「貴様が、北郷か?」

 

「は?」

 

突然、正面から現れた一人の女性。

黒髪を後ろへ撫で付けただけの髪型に端麗な顔つき。強面だが美人さんだ。

背中に背負った大剣が無ければお茶の一つでもお誘いしたいものだが、そうはいかないよな。

 

「我が名は夏侯元譲。貴様は北郷で相違無いな?」

 

「あ、ああ、俺が北郷で間違いないと思うけど」

 

夏侯元譲だって?さっきまで華雄と戦ってたハズじゃ……。

 

「ならば良い。早速首輪につけ」

 

「……は?」

 

なんで首輪?

 

「いや、違ったな。それは華琳様への私の願望だった。大人しく縛につけ、北郷」

 

いきなりなにを言い出すんだこの人。どんな間違いだよ。縛→拘束→首輪→って頭でどんな変換が起こったらそうなるんだよ。しかも自分の願望って……。

いや、重要なのは、いきなり敵将を捕獲しようとする事だ。おかしくないか?

打ち倒そうってならもっと殺意がありそうなものだけど。よく見ると周りの兵達の中に投網みたいなもの持ってる人がいる。

初めから捕獲狙いって事?……まさかな、いくらなんでも考えすぎか。

 

「意味が良く分からないな。俺と戦いもせず降参しろって?

いや戦いたいわけじゃ無いけどさ。大人しく捕まる気は無いよ?華雄を回収する為に来たんだから」

 

馬上戦闘なんて出来はしないけど、こっちには天下の赤兎馬がいる。みすみす捕まるわけにはいかない。ここは突破すべしと体勢を整えていると、

 

「華雄なら関羽と戦っているぞ。余計なお世話といいたいところだが今回は助かった」

 

こちらの動きを察してか、セキトの進路上に移動してきた。

 

「元よりこの戦での狙いは貴様だ、北郷一刀。華琳様から賜った命令、実行させてもらう」

 

言うや否や背中の大剣を抜き放つ夏侯惇。

 

「俺の捕獲が目的?……まさか曹操は……」

 

少なからずの動揺。曹操は前回の記憶を持って……!?

 

―ブォンッ

 

「うわっ!」

 

考えようとした矢先、大剣の一撃が襲い掛かってきていた。セキトのおかげで間一髪被害は無かったが危なかった。

 

「いきなりなんだよ!?捕まえるんじゃなかったのか。ヘタしたら死んでたぞ!」

 

「ふむ、なぜか貴様を目の前にすると殺意が湧いてきてな。……まあいいか。五体満足とは言われなかったしな」

 

全然良くないよ!?

 

「抵抗するなら斬る。しなくとも若干斬る。絶対斬る」

 

御免被る!!

思考が危険すぎるよこの人!

周りの陣形は少しずつ狭まっているようだし、いつまでも華雄が持つ保障は無い。

 

「……腹を決めなきゃいけないか」

 

狙われる目的と相手が不穏だが、華雄救出のためにはしょうがない。

不安がるセキトから降り、刀を抜く。

 

「ほう、私と戦うつもりか?てっきり軍師かと思ったがなかなかどうして、さまになった構えではないか」

 

大剣を構えなおす夏侯惇は嬉しげだ。

いまだ気分は優れないけど目的の為ならやるしかない。

記憶は戻らないけど、恐らくはこの人とも縁があるはずだ。出来れば傷付けたくないけど手加減して勝てる相手じゃ無いだろう。

構えは正眼。この世界で初の実践が始まった―――。

 

 

 


 
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