やはり、前回のようにはいかなかった。
砦の向こうにご主人様がいる可能性がある以上、すぐにでも駆けつけたい一心であったが、我等は兵を率いる将。
敵に向かって伺いを立てる事など在ってはならない。逸る気持ちを無理やり引き締め、泗水関攻略の一手として、華雄への挑発を続けていたのだが……。
「全然出てこねぇな……怖気づいたとも思えないし、やっぱ、ご主人様が引きとめてんのかな?」
本陣天幕にて全員揃っての会議中、溜息とともにうなだれる翠。
翠の言う通り、二日に及ぶ挑発行為にも、扉を開く様子は無かった。まさか本人がいないのではと、問いかけてみたが、こちらの声に反応する声が聞き取れる。
本人がいるのは間違いは無いようだが……どうもおかしい。なんというか、こう、妙に色っぽい感じの声色ばかり返ってくるのだ。
……まさかな……。
浮かび上がる疑問にこめかみがピクリと動く、憤慨の気を泗水関に放っている間に、翠の疑問に朱里が答える。
「ご主人様の所在についてはなんとも……。あの衝立のせいで、砦内の様子が確認できないんです。かなり高く展開していて、旗ぐらいしか見えないんです」
「旗は見えても、将は見えず、か。その場合、陽動作戦には有効そうだが、わざわざこの状況で実行する意図が掴めんな。……ふむ、雛里殿、斥候からの報告はどうでしたかな?」
朱里と星の二人は、別の方法で砦攻略の策を練っていたが、どうも芳しくないようだ。
兵力の劣る我が軍に、正攻法の城攻めは不可能。誘き出しが失敗した場合に備えていくつか策は用意しておいたが、
ご主人様という要素が存在する以上、ただ砦攻めを実行するにはいかず、まずは情報収集となったのだが……。
「はい、斥候さん達の話では、目立った行動は起こしてないです。……ただやっぱり内部の状況は掴めないままです」
「……砦の中でなにが起こっているのかが気になるところだが……これ以上は待てんな。このまま陣を展開しているだけではいずれ、
袁招が痺れを切らし突撃命令を出してくるやもしれませぬ。……桃香様、砦攻めの許可を。ある程度兵の損失を覚悟してでも攻め入るべきです」
「……うーん、やっぱりそうするしかないよね。なにがあるか分かんないけど、このままじゃみんなのご飯無くなっちゃうし、まずは行動しないと!」
小規模の軍隊である我等にとって一番問題なのは兵糧だ。調達すべき農地が少なすぎる為、遠征の際、十分な蓄えを用意できなかった。
そうなった以上は短期決戦こそが活路。この戦いで勝利し勇名を馳せねば、国を広げ力を得る機会を失なってしまう。
「ならば桃香様、この関羽におまかせを」
青龍偃月刀を掲げ名乗り出る。
「おいおい、城攻めを進言したのは私だぞ?ここは私が出てしかるべきだろうて」
「にゃにゃ!鈴々が行くのだ!待機ばっかりでもう暇で暇でしょうがないのだ、もう我慢できないのだ!」
蛇矛を振り回しながら鈴々が地団駄を踏む。長い進軍とこの二日間で大分ストレスが溜まったようだ。
「それだったらあたしもこれ以上大人しくしてらんねえよ」
「駄目なのだ!鈴々!鈴々が行くのだ!もう決めたのだ!……ねえねえ桃香お姉ちゃん、いいでしょ?鈴々、ちゃんと結果を出すのだー」
駄々っ子のように桃香様の腰にしがみつき、上目遣いで懇願してくる。こういう子供っぽいところを直せと常日頃言っているのにこいつは……。
「おい鈴々、自分勝手に話を進めるな。この戦はとても重大な意味をもっているのだぞ、暇だからなどという理由で選んでくれとは何事だ」
ぶー、頬を膨らませて無言の抗議を表してくるが黙殺する。
「それになんだ?自らの武器を放り出す武人に、責任ある仕事ができると思っているのか?」
「にゃ?」
自分で気が付いていなかったのか、キョロキョロとあたりを見渡している。抱きつく際、無意識に蛇矛を投げ捨てていたようだ。入り口近くの地面に突き刺さっていた。
「そうだそうだ!自分の武器を大事にしない奴なんかに一番の手柄は譲れねえよな」
ニヤニヤと、鬼の首でも獲ったかのような上から目線で翠は腕を組む。
「だからといってお主に決定するわけではないぞ翠。手柄をたてる権利はここにいる全員にあるのだからな?」
諭すように翠に注意した後、朱里や雛里に顔を合わせ焚きつけるように言い放つ星。
「無論、二人ともな」
「はわわ……私は別に手柄なんて……」
「あう……私もいりません」
「ほう、なんと欲のない事だ。いやはや、どこの誰かのように我先にと主張するもの達とは大違いだな」
「……おい、一番初めに言い出したのは誰だと思っている」
進軍の提案をした本人がそれを言うな。
「ははっそうだったかな?失敬、失敬。だがここは是非とも私を選んでいただきたいものですな。……さすれば主の愛は一身にこの体に受けられるのだから……」
「!? ご主人様の愛だと?」
その一言に全員の目が変わる。目を白黒させる私。いまだ桃香様にぶら下がる鈴々も動きを止める。軍師二人は瞬きすらしていない。
翠にいたっては愛という単語に過剰反応したのか顔が真っ赤だ。それを満足げに見渡すと、星はさも当然のように告げる。
「考えてもみよ?もし本当に主がいるのなら、最初に顔を合わせるのは誰だ?群れ為す敵の中、颯爽と主を救い出してもみろ。
その雄姿を目の当たりにしてはいかに主とて、その者個人にときめいてしまうのではないか?」
「と……ときめき!」
「そして、いずれ大陸を平定した後、平和になった時代のなか、ふと思い出すのはやはり始めに会った人物では?天の言葉で言うのなら、“めもりある”な思い!」
「め、めもりある!」
「此度の戦は我等が女の戦いでもあるのだ!!」
「「「「おおおおぅ……!!」」」」
感心したように歓声を上げるみんな。満足そうに頷く星は、声を出さぬ私に気づいたのか首を向ける。
「どうした愛紗?お前が一番食いつきそうな話だったのだがな、なにか気に入らぬところがあったか?」
「……いや、なんでもない」
視線を逸らし、虚空を見つめる。星の言葉を聞いて少し気分が悪い。
ご主人様の取り合いなど前回では日常茶飯事。あっちへふらり、こっちにふらりとまるで雲のように掴み所が無く、みな苦労していたな……。
こんな風に盛り上がるのも一度や二度では無かった。……なのに。
……なぜ私の中にこんな心が浮き出す?
嫉妬などいう言葉で片付かないドス黒い感情。
なぜ、私は仲間に“憎悪”を感じているのだ?
「愛紗ちゃん?」
理解できない心情に疑問を持つ。仲間に憎悪だと?自覚出来るほどの大きさの……。おかしい、この世界で記憶を取り戻してからどうにも感情の制御がうまく出来ない。
握り締めていた拳には血が滲んでいた。そうでもしないと正気を保てなくなりそうだ。
「愛紗ちゃんってば!」
「っ!?桃香様?」
「どうしたの怖い顔して、なんかいつもと違うよ。いきなり不真面目な話になっちゃったけどそんなに怒るような事だった?」
視線を戻すと桃香様をはじめ、全員が心配そうな様子で顔を向けていた。
いかんな、私ともあろう者が迷惑を掛けてしまうとは。不甲斐無い。
「……大丈夫です。ご主人様の素行を思い出していただけです。……気持ちは理解していただけると思いますが」
苦笑する面々。そこは否定できないようだ、これでなんとか納得してもらえたようだな。
……今は戦いに集中しなくては。湧き上がる黒い感情を胸にしまい込み、話の輪に加わる。誰が行くのかは別として、今の私の状況はただ不安を招くだけだからな……。
そう自分に言い聞かせるなか、星の疑惑の目線が晴れる事は無かった。
「ずいぶん苦労しているようね」
ようやく始まった劉備軍の行動を見つめる少女がいた。お世辞にも高いとはいえない身長だが、えもしれぬ覇気が感じられる。
無造作に流れるような金髪に手を通し梳いただけだが、それだけで一枚の画になりような魅力も秘めていた。
そんな彼女の脇に控える少女は明らかに侮蔑の視線を送っている。
「あの程度の砦ひとつ落とすのにどれだけ時間をかけているのかしら?無能が集まると邪魔にしかならないわ、そう思いますよね?私なら初日で落として差し上げたのに」
ころりと表情が変わり、猫撫で声で擦り寄ってくる。
金髪の少女は気にするのでもなく、あやす様に頬を撫でた。それだけで控えていた少女はトロンとした恍惚の表情に変わる。
「ふふ、期待しているわよ。くれぐれも私を失望させないでね」
「当然です。全て私におまかせください」
息巻く彼女を撫でる手は止めず、顔を上げる。先に見えるのは苦戦する劉備軍。どうやら単なる戦力差による劣勢ではない。細かくは視認できないが砦上部の柵が防矢の役目をしているようだ。
砦と柵の間から落石による攻撃も行っている。あの華雄の部隊とは思えないほどの計算された動きの数々、一進一退の攻防が続く中……。
「……それにしてもラチがあかないわね」
互いに損害は最低限といった様子で遅々として状況は変わっていかない。
ある程度消耗したところで漁夫の利を狙う算段だったが、これではいつになるか分かったものではない。
……本来なら焦る理由は無い。十分な食料、武器、兵力は揃っている。
だが、しばらく見つめていた少女はおもむろに言い放つ。
「誰か!夏侯惇、夏侯淵の両名をここに!」
「はっ!」
警備をしていた兵士が陣地を走っていく。
「?あの、どうされたのですか?」
突然の号令に驚く少女
「……」
答えず泗水関を眺めている主の瞳は、いままで一度も見た事の無いような瞳だ。
どんな感情がそこに隠されているのかはっきりと分からないが、胸中にイヤな気持ちがした。
――春蘭、秋蘭が到着次第、行動を起こすとしましょう。
桂花は確実に反対するでしょうけど、まあ、譲れないところではあるのよね。
……さて、どうなることかしら?
<つづく>
左慈
女
北郷一刀の存在に筆舌し難い負の感情を抱いている。
ただ殺すのではなく、絶望を味わってもらってから死なせるのが左慈の本望。
左慈がこの外史の世界に来るのに、あるものを失ってしまった。
それは、男としての自分だ!!!!!1
なんだってー!!!!!!!11
本来の左慈に申し訳程度のおっぱいがついていると思ってもらえば結構です。
于吉
女
北郷一刀を超絶憎む左慈に加担する。
正直左慈さえいればどうでもいいのだが、左慈の願いが北郷一刀を悲劇のヒロインに仕立て上げることなので協力している。
左慈が肉弾戦を得意とし、于吉は妖術を好んで使う。
于吉も例に漏れず女となってしまったがあまり気にしていない。
ゲイからレズに変わっただけである。
本来の于吉の髪を伸ばし、おっぱいをでかく想像していただければ結構です。
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第七話をお送りします。前回はアンケートにご協力頂きありがとうございました♪
妄想してみた・改を集中して書かせて頂きますd(^∀^)b
―関羽の胸に湧き起こる黒き感情は嫉妬。
膨大し続ける負の感情が今後、どのように影響してゆくか―
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