~『白虎』陣・豪臣の天幕~
「そうか。曹孟徳が向かって来ているんだな?」
「はい。あのチビは供に夏候惇と荀彧を連れています。あ、噛みましたね。チビではなく曹操でした」
豪臣の問いに、暗部班長の宵(よい)は答える。
「いや、今のは絶対に態とだし。しかも、自分も小さいだろ?」
「・・・・・・小さい言わないで下さい、天の変態様。あ、噛みました」
「・・・お前ね」
コンプレックスなのか、態と間違う宵に呆れた声を吐く豪臣。
豪臣の天幕には、『白虎』の将の面々が揃っており、宵の報告を聴いていた。
「さて、豪臣君。面会することは当然として、どうするのです?」
報告を聴き、豪臣に尋ねる鈴花。
これは、今後の豪臣たちの行動にも関わってくることなので、訊いておかなければならないことだ。
その言葉を聴いた豪臣は、ニヤ、と笑みを返した。
その笑みを見た朔夜と鈴花は溜息を吐き
「やっぱり馬鹿ですね」
(悪戯する気満々みたいですね)
「の、様ですね。豪臣君。くれぐれも今後に不利益にならない様にして下さいね」
(まぁ、最近今後のことでいろいろと忙しかったですし、鬱憤が溜まっているのでしょう)
と言うだけに止め、宵は、ククク、と声を漏らした。
そのほかの面々は、何のことか分からず首を傾げるのだった。
~『白虎』陣・謁見用天幕~
曹操が到着し、面会を希望されたため豪臣たちは最も大きな天幕にて待機していた。
もちろん、ここに鈴花は居ない。
「曹猛徳殿をお連れいたしました!」
豪臣は、兵の言葉を聴き入る様に返事を返す。
すると
「曹猛徳、入るわ」
という言葉と共に、金髪の小柄な少女が入って来た。
彼女に続き、大剣を腰に帯びた黒髪の女性と茶髪の少女が入って来る。
因みに、帯剣は豪臣が帝に謁見するわけでもなのだから、と許可している。
(これが、三国最強の魏の祖か・・・小さいなぁ)
曹操を見て内心で苦笑する豪臣は、史実での曹猛徳は、完璧な程に優れた才能を持っていたが、自身の低身長と不細工にコンプレックスを抱いていた、と書かれた本を読んだことを思い出していた。
(ま、身長は低いけど可愛いのは・・・例に漏れず、ってやつかな)
「これはこれは、曹猛徳殿。義勇軍如き我が軍へようこそいらっしゃいました。
まずは、こちらから名乗らせて頂きましょう」
豪臣は立ち上がり頭を下げ礼をする。
いくら民草より“天の御遣い”と讃えられようとも、所詮は無官の豪臣である。
官職に就いている曹操とは、地位に絶望的なまでの壁が存在する。
何気に豪気な青蓮や気の優しい月たちとは対応を変えるのは当然であるし、豪臣は、基本的には礼を知る人間だ。
「私は紫堂豪臣。この義勇軍の長を務めております。そして、こちらに控えれ居ますのが」
「朔夜です」
「趙子龍。以後、お見知りおきを」
「我は太史子義。弓部隊長を務めおります」
「・・・・・・徐晃」
4人も礼を欠かない程度に名乗る。
曹操は満足そうに微笑み
(深遠は居ないのね)
「そう。私は曹猛徳。“今は”陳留の領主をしているわ」
今は、という言葉を若干強調して名乗る。
その姿に、『白虎』の面々は
(さて、結構良い覇気を持っているけど・・・何と言うか・・・)
と豪臣。
(中々良い眼をしていますね。野心丸出しですけど)
と内心で苦笑する朔夜。
(これが曹猛徳・・・確かに、噂になるだけの才をお持ちのようだ。が、私には合いそうに無いですな)
と内心首を振る星。
(曹猛徳・・・一目で分かった。こやつは必ず雪蓮の壁となる者だ)
と背に汗を流す昴。
(・・・・・・)
と何も考えてない燈。
それぞれが、それぞれに評価をしていると、曹操は言葉を続ける。
「そして、後ろに控えているのが、夏侯元譲と荀文若よ」
その言葉に、豪臣と朔夜以外は、曹操の大剣と名高い夏侯惇を見る。
豪臣と朔夜は、鈴花の遠縁の叔母に当たる荀彧を見る。
夏侯惇は、見られていることに気付いた素振りは見せず、曹操を敬愛している様な目で見ている。
対する荀彧は、直ぐに豪臣の視線に気付き
「こっち見ないでよ変態!孕んだらどうしてくれるのよ!?」
と、仇でも見るように睨み付ける。
豪臣は、この場に相応しくないその態度に
(この娘、本当に鈴花の親戚か?いや、遠縁だからか?)
怒るよりも、呆れた表情になる。
曹操は、豪臣の顔を見て苦笑する。
「ごめんなさいね。この娘は、極度の男嫌いなのよ」
「お気になさらずに。して、如何様でこちらに?」
豪臣に促され、曹操は、ニヤ、と笑い
「あなた達『白虎』を取り込みに来たのよ」
はっきりとして声で告げる。
「私たちに、あなたの元に来いというお誘いで?」
豪臣は、分かりきっていたので直ぐにそう返す。
「そうよ。あなた達をこの目で見て確信したわ。あなた達は、この先必ず大きな戦力となると。そうでしょ春蘭?」
「は!男の方はともかく、そのほかの者たちはかなりの武を持っている様です」
ハキハキと答えに夏侯惇に満足そうに頷く曹操は続ける。
「私なら、あなた達を上手く使いこなせるわ。私の元に来なさい。紫堂はついでだけれど、これだけの人物を集めることが出来た男。手元に置く程度の価値はあるわ」
と、その言葉に、星と昴が
「残念ですが、お断りさせて頂く。貴殿の下に行く気は毛頭ございませんな」
「全くだな。我を仕えさせたければ、自身の眼を鍛えなおして来られよ」
即答する。
それに夏侯惇が怒鳴る。
「貴様ら!華琳様のお誘いを断るつもりか!?」
「いいわ春蘭「しかし!」下がりなさい!「は!」・・・すまなかったわね」
曹操は、怒る夏侯惇を下がらせてそう言う。
「で、太史子義、だったわね・・・眼を鍛えなおすとはどういう意味かしら?」
曹操は、覇気を込めて問う。
昴は、その尋常ではない覇気に後ずさりそうになる。
その様子を見た豪臣は内心でニヤつきながら、態と大きく溜息を吐く。
案の定曹操は豪臣を見る。
「その溜息は何かしら?もし侮辱したのなら・・・」
分かっているわよね?と残酷な笑みを浮かべる。
豪臣は、臆することなく
(予定通り)
と内心で笑いながら、曹操には蔑んだような目を向ける。
「なに、出来ないことを口にする小娘に呆れただけだ」
曹操から笑みが消え、目が細まる。
「死にたいのかしら?それに、さっきと態度が全く違うけれど?」
「礼を欠き、ただ上から仕えろなどと言う“阿呆な小娘”には、相応の態度だろ?」
「き、貴様ァア!」
沸点の低い夏侯惇は、敬愛する曹操が侮辱されたため、曹操が静止する暇も無く斬りかかる。
しかし
ガキィイン!
その剣は豪臣には届かず、
「そこまでにしておけ、夏侯元譲」
昴が烈虎(双鉄鞭)で受け止め、
「ですな。死に急ぐ必要は無い」
と夏侯惇の胸、心臓に龍牙(槍)を突きつける星。
「・・・旦那さんに、手、出すなら、殺りゅ」
壊大戦斧(大斧)を首筋に宛がう燈。
「き、貴様ら、邪魔をするな!」
刃を突きつけながらも怒鳴る夏侯惇。
そんな彼女を曹操が制す。
「下がりなさい春蘭!」
その表情には焦りが見られる。
その様な顔で止められた夏侯惇は
「くっ!」
殺気が治め下がるしかなかった。
元に位置に戻った夏侯惇。
曹操が謝罪するが、場に沈黙が流れる。
そこで、豪臣が口を開く。
「荀文若」
「何よ!私はあんたなんて無礼極まりない下男と話したくはないのよ!」
荀彧が拒否反応を示すが、気にせずに続ける。
「先程の曹猛徳の言は、礼を持って招き入れるのではなく、まるで降伏勧告のような言い方だったな?」
「何で、あんたみたいなのに礼を持たなくちゃいけないのよ!?身分も無いあんたなんかに!それに、降伏勧告でも関係ないでしょ!?」
「まぁ、確かに身分で言えばその通りだ。だけどな、礼を欠けば不快に思う奴も居る。で、降伏の件だが、降伏するには理由が要る。相手に好意好感を持っているか・・・もしくは?」
「・・・絶対的な優劣でしょ!」
イライラしながらも答える荀彧。
豪臣は満足そうに頷く。
「そうだ。だが、俺のトコと曹操軍にそれが無い」
「ハァ?何言ってんのよ!あんた達はたかが3千。こっちは3万を超える兵と優秀な将官が揃っているわ。比べるんじゃないわよ!」
眉間に皺を寄せ睨み付ける荀彧。
豪臣は再度溜息を吐き曹操に向き直る。
「で、お前も同じ意見か小娘?俺たちとお前たちでは戦力が違い過ぎると?」
「・・・そうね。十倍の兵力さは違い過ぎるとは言わないのかしら?」
表情に焦りの色は無い。自信があるという顔である。
「が、その兵団を動かすのは、所詮は秀でた数人の将官だろ?」
「・・・・・・暗殺でもするつもりかしら?」
豪臣は、公言はしない。ただ、唇の端が少しだけ釣り上がる。
それを見た曹操は
「フッ、殺れるものなら殺ってみなさい?暗殺者如きの刃が届く程、私の軍は甘くないわよ」
挑発的な笑みを浮かべて言う。
その言葉に、豪臣は
「ククク・・・ワハハ、ハッハッハッハッハッハ・・・!!」
顔を押さえて笑い出す。
『白虎』の面々は、豪臣が何をするつもりなのかが理解できたため、気の毒そうな同情の眼で曹操を見る。
朔夜など
(もう、完全に悪役気取りですね・・・まぁ、本人が気に入っているのなら良いんですけど)
と、呆れている程。
曹操たちはいきなり笑い始めた豪臣を訝しげに見詰める。
すると、急に笑いが止まり
「じゃあさ・・・」
豪臣が曹操を見る。
その獰猛な視線に、曹操たちに緊張が走る。
「遠慮無く・・・」
そして、右手を上げて
「殺らせてもらうぞ」
指パッチン(フィンガースナップ)をし、パチン、と鳴らす。
曹操、夏侯惇共に武器を構え、周囲を警戒するが何も起こらないし、豪臣たちも動かない。二人は、豪臣の表情を窺うも、ニヤついているだけで、特に変わった様子も無い。
荀彧は、何も起こらないことにただの脅しか、と内心安心した。
が、豪臣が曹操の後ろを指差し
「どこ見てんの?後ろだよ後ろ」
と言う。
曹操と夏侯惇は、気配も無い後ろを向いて、態々隙を作るつもりは無く豪臣たちの様子を窺う。
しかし、武を持たず、最初から隙だらけの荀彧は、気にせず振り向いた。
そして
「華琳様・・・後ろを・・・」
あまりの驚きに、単語でしか言葉が出ない。
曹操は、荀彧の声に不安を感じ、出来るだけ隙を見せない様に後ろを見るために首を捻る。
するとそこには
「「 ッ!! 」」
暗部団長の白(はく)と班長である朧(おぼろ)と宵が、それぞれの首筋に短刀を突きつけている状態で立っていた。
「つまり・・・」
豪臣のその言葉に、曹操は若干悔しそうな表情で豪臣の方へ視線を戻す。
(まさか最初から・・・)
対する豪臣は、悪戯が成功した子供の様に微笑みを浮かべ、右手の人差し指を左右に揺らしながら言う。
「お前は、最初から詰んでんだよ」
あとがき
どうも、虎子です。
如何にかこうにか、年内投稿出来ました。
何気に、初投稿から1年経ってるんですよね。最初に思い描いていたプランとは全く違う状態になってますけどwww
最初は50話くらいで終わるんだろうなぁ、と思ってましたが、このペースだと、3桁の大台に乗らないと終われない気が・・・orz
まぁ、こうして書いていけるのは、読者の皆様方のご支援ご鞭撻の御蔭であると思っています。
ありがとうございます。
でも、ありがたくない事がありました。12月10日に「死ねカス」ってメッセージ貰ったんですよ~orz
あれは、凹みました。
出来れば中傷的なのは勘弁して下さい。
勿論、批評は待ってます。
あ、それと、私事ですが再就職出来まして、もう働いてます。
これで、安心して年を越せますwww
では、作品の話です・・・
ちょいと遣り過ぎですかね?
豪臣のキャラがブレている様な気がしないでもない。
とりあえず、今回は華琳との邂逅編で、次回が鈴花と桂花の再会編です。
なんか、この状態で鈴花出てきたら、カオスになりかねないのでは?と思うのは私だけでしょうか?
次回投稿なのですが、未定です。ごめんなさい。
作品への要望・指摘・質問と共に、誤字脱字等ありましたら、どんどんコメント下さい。
最後に、ご支援、コメントを下さった皆様。お気に入りにご登録して下さった皆様。
本当にありがとうございました。
ではでは、今年一年お疲れさまでした。
そして、一年間ありがとうございました。
来年もまた、よろしくお願い致します。
それでは、良いお年を。
虎子でした。
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今年最後の投稿です。
今年一年ありがとうございました。