No.192867

真・剣帝夢想~魏の章~ 第8話

年末だというのに仕事三昧……。

今回はお仲間が増えます。

2010-12-31 14:41:29 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3069   閲覧ユーザー数:2810

獅子の紋章を掲げる一つの軍と一人の男は荒野を行軍している。

 

 

「……見えてきたな」

 

 

やっと目的地が見えてきた。朝からの行軍だったが疲れはない。それはレーヴェが単純に鍛えているせいもあるが……。

 

 

(村を荒らす盗賊、か)

 

 

そう、今回の仕事は村を荒らし回る賊の討伐。最近は減っていたのだが、また出たとの報告があった。その賊の討伐をレーヴェは真っ先に請け負った。その理由は自分でも自覚している。

 

 

「………っ」

 

 

自然と手綱を握る手に力が篭る。昔はこんなことなかったのだが華琳達と関わってから感情が表に出やすくなっている気がする。それが良い変化なのかはわからないが、あまり焦ってミスを犯するようなことはしたくないな、と思った。

 

 

そんなことを考えていると先ほど放った斥候が戻って来た。

 

 

「レオンハルト様! ご報告です!」

 

 

とりあえずそのことはひとまず置いておくことにした。

 

 

「……村の様子はどうだ」

 

「はっ!どうやら義勇兵の一団が賊と交戦を行っている模様です!」

 

「それで状況は?」

 

「はっ!義勇兵は約千!それに対し賊の数は三千!義勇兵は村を守り必死に防戦を続けていますが数に押し切られそうです!」

 

 

「……そうか」

 

 

(少しまずい状況だがなんとか間に合いそうだ)

 

 

「なら行軍速度を上げるぞ。目的地はもうすぐだ。お前も下がっていいぞ」

 

「はっ!」

 

 

(さて、急ぐとしよう)

 

 

全軍に速度をあげろとの指示を出し、レーヴェとその一軍は戦場へと向かった。

 

 

「はあああああああああああ!」

 

「うごぉっ!」

 

 

一人の少女が拳からなにやら気?のようなものを飛ばし、敵を吹き飛ばしていく。だがその少女の表情は険しかった。

 

 

「はぁ……はぁ……くそ!数が多すぎる!」

 

「死ねぇ!」

 

 

少女の後ろから賊の一人が襲い掛かる。

 

 

「っ!」

 

「ウチらの凪になにしよるねん!」

 

「うがぁっ!」

 

 

そう言って独特な喋り方の少女が機械仕掛けのような槍で賊を吹き飛ばした。

 

 

「はぁ……はぁ、大丈夫!凪ちゃん!」

 

 

もう一人眼鏡を掛けた少女は凪と呼ばれている少女に駆け寄った。

 

 

「沙和、真桜……大丈夫だ。少し油断した」

 

「無理もない……この数ともう半日も戦ってるんやから……どりゃ!」

 

 

真桜と呼ばれた少女はそう言いながらまた賊をひとりなぎ倒す。

 

 

「はぁ……はぁ……沙和もうへとへとなの~っ!」

 

 

沙和と呼ばれた少女も剣で賊を倒す。だが彼女達はもう肩で息をしている。

 

 

「っく!……でも!ここで退くわけには!」

 

「ああ。退くわけにはいかん!」

 

「村を守るためなの!」

 

 

そう言って三人は近くに固まったが、周り賊に囲まれている。

 

 

その時銅鑼の音が戦場に鳴り響いた。

 

 

「っ!銅鑼の音!」

 

「みたいやな!敵やないとええけど……」

 

「?……あの旗印は……」

 

 

三人、どころか戦場にいる者達がそこに掲げられていたのは……。

 

 

「獅子?」

 

 

沙和はその旗印を見てポカンとした表情を浮かべている。

 

 

「獅子の紋章って……アレやろ?最近噂の……」

 

 

真桜は二人に確認をとった。

 

 

「ああ。間違いない。あれは……」

 

 

その戦場にいる者がみな思ったであろう。まさかこんなとこに現れるとは、と。

 

 

「『剣帝』の、紋章……」

 

 

凪がそう言った時、一つの影が高く跳びあがり、凪達がいる戦場の真ん中に降り立った。

 

 

「……君達が義勇兵をまとめている者達か……よく、ここまで持ちこたえたな」

 

 

降り立った一人の青年は背中を向けたまま凪達にそう言って、黄金の剣を上に掲げた。

 

 

「総員! 苦戦している同胞を助け、寄り集まった烏合の衆を叩き潰せ! 突撃せよ!」

 

 

その声と同時に獅子の紋章を掲げる一団は雄叫びを上げ賊に突撃した。

 

 

「あ、あなたは……?」

 

 

凪は目の前に降り立った青年に尋ねる。青年は剣を構え、凪達の方を振り向きながら答えた。

 

 

「『剣帝』レオンハルト。……よく頑張ったな。後始末は任せろ。」

 

 

レーヴェは少し微笑みながらそう言った後、剣を構え賊に向かっていった。

 

戦いはあっさりレーヴェの勝利に終わった。レーヴェとレーヴェが自ら訓練した兵士の前に盗賊達はまったく歯が立たなかった。

 

 

レーヴェは戦いが終わり、村に糧食の手配や村の修繕などの諸々の命令を兵士に出し終わり、村の一角で佇んでいた。

 

 

(帰ったら警邏のための兵の手配を華琳と相談して……)

 

 

「あ、あの!少し良いですか!?」

 

「?」

 

 

声を掛けられ振り返ると先ほどの少女達が並んでいた。

 

 

「あー!?やっぱりこの前会った兄さんや!」

 

「お前はこの前の……」

 

 

レーヴェは一人の少女を見て驚いた。先ほどは一瞬で気づかなかったが、見ればいつかのカゴの件の少女だった。

 

 

「え!?真桜ちゃん、この人とお知り合いなの!?」

 

「ま、真桜!?い、いつこのお方と知り合ったんだ!?」

 

 

二人の少女が真桜と呼ばれた少女に掴みかかった。

 

 

「ちょ、凪も沙和も落ち着きいな!い、今はそんな事より大事な事があるやろ!?」

 

 

真桜と呼ばれた少女の言葉に二人は動きを止めた。

 

 

「そ、そうだな……すまん」

 

「あ、あとで聞かせてね、真桜ちゃん!」

 

「……それで何か用があるのか」

 

 

レーヴェがそう言うと真ん中の凪と呼ばれていた少女が少し緊張しながら答えた。

 

 

「は、はい!お忙しいところをすみません!」

 

「……いや、今ちょうど一息ついたところだから大丈夫だ。……それと改めて名乗らせてもらおう。オレはレオンハルトだ。『剣帝』とも呼ばれている。君達のことはなんて呼べばいい?」

 

 

レーヴェが言うと三人は順番に答え始めた。

 

 

「は、はい! わ、私のことは凪と呼んでください!」

 

「初めまして……ではないけどウチのことは真桜、って呼んでええで」

 

「沙和は沙和っていうの!」

 

 

三人は答えたがレーヴェはその前に確認をとることにした。

 

 

「……その名は先ほどから三人で呼び合っているが、真名だろう?いきなりオレに預けていいのか?」

 

「は、はい!レオンハルト様に真名で呼んでもらえるなど、感謝こそすれ否定することなど……」

 

「凪!固い固い!そんな畏まらんでも……」

 

「い、いやだがしかし……」

 

「まあまあ、とりあえずウチらは感謝しとるんや」

 

「感謝?」

 

 

レーヴェは思わず口から疑問の声を上げた。レーヴェはむしろあんなに傷つくまで戦ってもらって申し訳ない気持ちだったのだが。

 

 

「そうなの!村を守ってくれてありがとうなの~!」

 

 

(……そういうことか)

 

 

レーヴェは先ほどの事を思い出し、感謝の言葉に答えた。

 

 

「……いや、たいしたことじゃない。……それに君達があそこまで耐えてくれなかったら手遅れだった。だからこちらからも礼を述べよう。……感謝する」

 

「い、いや私達に感謝なんて……そんな」

 

 

凪は少し困り顔で話し始めたが、それを見て話が進まないと思ったのか真桜が前に出た。

 

 

「まあ、そういうわけでこれが用件の一つや」

 

「ひとつ……ってことはまだあるのか?」

 

「もちろん!あと一つなの!」

 

 

沙和が元気いっぱいに人差し指を立て答える。

 

 

「それで最後の一つなんやけど……」

 

「……なんだ?」

 

 

見ると三人とも緊張した顔つきになった。先ほどの騒がしさとは大違いだ。三人は顔を見合わせ決心したようにうなづくと、同時にレーヴェに向かって頭を下げこう言った。

 

 

「「「私たちを部下にしてください!」」」

 

 

「…………」

 

 

レーヴェはいきなりのことで少し呆気にとられた。思えばこの世界に来てから驚かされることが多くなった気がする。まあ、それは置いておくことにした。

 

 

「……それは武官としてオレの指揮下に加えてほしい、ということか」

 

「は、はい!それで間違いありません!」

 

 

凪は頭を下げながら答えた。レーヴェとしてはそこまで畏まらなくてもいいのだが。

 

 

「……厳密に言えばオレではなく陳留の州牧の曹操の下に加わるということになるが」

 

「はい!一臂の力でありますが、我々の力をお加え下さい!」

 

「陳留の州牧さまの話はよう聞いとるし……そのお方の力になったら今よりは平和になるっちゅうことやろ?」

 

「そういうことだから、お願いなの!」

 

「…………」

 

 

レーヴェは頭を下げている三人を一瞥する。

 

 

(………先を越された、な)

 

 

「いいぞ」

 

 

「「「え?」」」

 

 

三人はレーヴェの言葉に顔を上げた。三人はそんなあっさり許可が出るとは思ってなかったらしい。

 

 

「あ、あの本当……ですか……?」

 

 

凪は恐る恐る確認をとる。

 

 

「まあ、華琳にも確認をとるが……オレが見込んだ者達を駄目とは言わないだろう。それに隊が少し大きくなって動きづらくてな。オレの方から頼んで下についてもらおうと思ってたところだ。これからよろしく頼む……凪、真桜、沙和」

 

 

三人はそれを聞いて顔を見合わせた後レーヴェに向かって言った。

 

 

「よろしくお願いします!隊長!」

 

「隊長。以後よろしゅうな」

 

「隊長よろしくおねがいしますなのー♪」

 

「……隊長、か。まだ決まったわけではないんだがな」

 

「絶対大丈夫なのー♪」

 

「それともご主人様、とかの方がよかったんか?隊長ってばやらしいなぁ」

 

 

そう言って真桜は右、沙和は左から抱きついてきた。

 

 

「……それは遠慮しておこう……。それでなんで抱きついてきてるんだ?」

 

「ええやん。減るもんやないし」

 

「そういうことなのー♪」

 

「お、お前達!た、隊長が困っているだろうが!」

 

 

凪は少し顔を赤くしながら抱きついてる二人に向かって注意をした。

 

 

「まあ、そんな固いこと言わんで凪も抱きつけばええやん」

 

「そうなのー♪今なら正面があいてるなのー」

 

「なっ!!」

 

 

二人の言葉に凪はレーヴェを見て顔を真っ赤にした。

 

 

「そ、そんなこと……///」

 

 

どうやら二人の言葉に先ほどまで注意してきた凪もその気になっているようだ。桂花や春蘭のように嫌われすぎるのも問題だが、ここまで好かれる方も問題だな、とレーヴェは思った。

 

 

「……オレの意思はどうなんだ?」

 

「隊長!私たちはいいのに凪ちゃんだけ差別なんてしたらダメなの!」

 

「そうやで、隊長!男なら全員平等に接するくらいの度量を見せなあかん!」

 

「………」

 

 

レーヴェには珍しく相手のペースに呑まれ目を閉じため息をだした。

 

 

(……そもそも誰にもそんな許可出してないんだが……)

 

 

さすがに抱きつかれて女を感じることはないが、兵士がいつ報告に来るかもわからないのであまり好ましい状況ではないなと、レーヴェが思い、注意しようとしたとき、後ろから温もりを感じた。

 

 

「ああ!惜しい!凪惜しいでぇ!」

 

「でも凪ちゃん的には一歩前進なのー!」

 

「い、今は話しかけるなっ!///」

 

「…………」

 

 

見ると後ろから凪も抱きついてきていた。それを見た二人がいろいろなことを言っている。騒がしい、がこうやって抱きつかれて温もりを感じたのも最後のあの時以来だなと、ふと思い出した。

 

 

(……まあ、後少しだけなら構わないだろう)

 

 

レーヴェはそう思い、新しく仲間になった三人のやり取りに耳を傾けていた。……その後すぐに兵士が報告に来て、レーヴェはかなり気まずい思いをすることになるのだが。

 

出し巻き卵です。

 

やっと年末ですね。

 

今年はいろいろあったなぁ……(萌将伝とか)

 

後少しで新しい年ですが来年もよろしくお願いします。

 

 


 
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