【風乃起きる】
白雪と風乃の父親が話をしていると、
一人の少女が姿をあらわす。
「ふああ、おとうさん、おはよう」
風乃が目をこすりながら、よろよろと歩いていくる。
「ああ、おはよう」
「…」
白雪は、風乃の姿を見て、口を閉じ、黙った。
「誰この人!?
お父さんのお知り合い!?」
白雪の姿を見て、明るく騒ぎ出す風乃。
白雪を見たことがない、初めて会ったかのような接し方。
風乃にとって、前夜のことは、すべて夢か幻だったらしい。
「はじめまして…
とりあえず、お前、殴っていいか?」
白雪は苦笑し、両手をポキポキと鳴らした。
【思い出せ、風乃】
「ごめんごめん。
ジョークだよ、ジョーク」
風乃は、白雪のことを思い出したのか、しきりに謝っていた。
「ジョークだというのなら、俺の正体を答えてみろ」
「雪女」
「俺の職業と住所は?」
「住所不定無職」
「悔しいが正解だ…
では、俺はなぜ沖縄に来た?」
「雪女たちの追跡から逃れるため」
「完璧だな。
…で、名前は?」
「風乃」
「お前の名前は聞いてねぇ!」
白雪は、風乃の胸倉をつかんで、ぐらぐらと風乃を揺り動かす。
【にぎやかな朝】
「おはようございます、皆さん」
南国紳士がひょっこりと登場した。
「うわぁ!? なんでお前がここにいる!?」
突然の南国紳士の登場に驚き、とびのく白雪。
「ちょっと忘れ物をしまして…
忘れ物を取りにきただけです。
今は襲うつもりはありませんよ」
「ほっ…なんだ。
まったく、驚かせおって」
「紳士さん!
しょうこりもなく、また白雪をつかまえに来たんだね!
もう許さないよ。
先祖の霊の力で、ぎったぎたにしてあげる」
風乃が騒ぎ出す。
「風乃、人の話を聞け!
忘れ物をとりにきただけって
言っているだろうが!」
「風乃や、呼んだかいの」
いきなりあらわれる、風乃のおじいちゃん(故人)。
「おじいちゃん、また妖怪が白雪を狙ってる。
力を貸して」
「だから人の話を聞けっつの!!」
白雪は怒鳴りだすが、風乃はまったく聞いていない。
「今回の先祖も、遊女さんでいいかのう?」
「またかよ! やめろ!」
「強い先祖なら、なんでもいいよ、おじいちゃん!」
「なんでもいいわけないだろ!
遊女だぞ!
おい、紳士も早く弁解しろ!
このままだと風乃に襲われるぞ!
……。
あれ? 襲われるのは俺か?」
白雪に、昨晩の悪夢が再びよみがえる。
遊女の霊を降ろした風乃に、抱きつかれ、いろいろされた。
【にぎやかな朝2】
「風乃様に戦う気があるのでしたら、
私も応じましょう。
ここだとせまいので、庭に行きましょか」
「応じるなよ! いいから忘れ物を回収して
さっさと帰れ!
お義父さんも、風乃たちを止めてくれよ!」
白雪は、風乃の父親に協力を懇願する。
「おーい。紳士さんが来たぞ。
紳士さんの分も朝食を追加してくれー」
父親に、白雪の声は届かない。
ほのぼのとした調子で、妻に声をかけているだけ。
「はーい! 今作っているわよ」
いつの間にやら、母親は朝食の用意をしていた。
じゅうじゅうと焼ける料理のおいしそうな匂いが、
家の庭までただよってくる。
「おお、うまそうだな。
よし、風乃と紳士が戦っている間に
あいつらのぶんも全部食べてしまおうか」
白雪は、風乃と紳士を止めるのも忘れ、
目の前の朝食に見とれていた。
「いかん、だめだ!
食べ物に気をとられている場合ではない!
早く風乃と紳士を止め…」
白雪は、頭をブンブンふって、食欲を退散させようとした。
しかし頭をふっても、食欲は退散しなかった。
朝食のいい匂いが、白雪をつかんで放さない。
「食べたい、止めたい、食べたい、止めたい」
花占いのような独り言をつぶやきながら、
白雪は頭をかかえ、しゃがみこむ。
「どうしたんだ、白雪。
食べたい止めたいって。
ダイエット中かい?」
にこりと笑う父親。
空気の読めないおだやかさである。
【にぎやかな朝3】
白雪は、トーストをくわえながら、家の庭先へと急ぐ。
家の庭先には、風乃と南国紳士がいる。
朝食もとれて、風乃と紳士を止められる。
一石二鳥の作戦だ。
(まずい。早く止めないと…
今ごろ戦いになって…
ん? 戦い?
遊女 対 ハブ使い なんて、
どうやって戦うんだっけ)
白雪は、昨晩のおじいちゃんの言葉を思い出す。
「あやつ(南国紳士)を、遊女の先祖で魅了して、
油断したところをグサリ、じゃ」
(いろんな意味でまずいな! おい!)
風乃のどこに女の武器があるのかわからないが、
乗り移っているのは遊女。
男の一人や二人を落とすことなんて簡単だろう。
ピンク色の花が、庭で咲き誇っていないことを祈り、
白雪は庭先へと急ぐ。
「紳士が危ない!」
白雪は、今、自分が何を言ったのか理解できなかった。
次回に続く!
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【前回までのあらすじ】
雪女である白雪は、故郷を脱走し、沖縄まで逃げてきた。
他の雪女たちは、脱走した白雪を許さず、
沖縄の妖怪たちに「白雪をつかまえろ」と要請する。
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