No.192458

真・恋姫✝無双 悠久の追憶・第二二 話 ~~覚醒の声~~

jesさん

前回から一カ月以上も空いてしまい誠に申し訳ありません。汗

少し長めですがお付き合いください。

2010-12-29 11:28:16 投稿 / 全19ページ    総閲覧数:2786   閲覧ユーザー数:2342

第二十二話 ~~覚醒の声~~

 

 

――――――――――――――夜が明け、一刀たちを含めた連合軍は荒野を進んだ。

 

黄土色の荒野を行く大群の頭上には、昨日降った雨が嘘のような青い空と、眩しい程の太陽が輝いていた。

 

今から戦いが起ころうと言う日には、おおよそ似つかわしくないほどの良い陽気だ。

 

・・・・とはいえ、昨日の雨の影響が全くなかったのかといえば、決してそうではない。

 

まだ太陽に照らされて間もない土はぬかるみ、馬も人も足をとられる。

 

そのおかげで、予定よりもだいぶ進軍が遅れてしまった。

 

しかしそれでもなんとか半日と少しをかけ、ついに目的の場所が景色の遠くに現れて来た。

 

洛陽にたどり着くまでの第一の関門、汜水関だ。

 

 

 

 

 

 「では皆さん。 戦いの前に、再度作戦を確認しておきましょう。」

 

汜水関から少し離れた荒野の只中に陣を張り、劉備軍では朱里と雛里を中心として開戦前の最終的な軍議が開かれていた。

 

さすがに今までに無い規模の戦いなだけに、机を囲む将軍たちの表情も緊張している。

 

 「まず、もう一度配置を確認しておきましょう。」

 

卓上に広げられた地図の上に、朱里が筆でバツ印をつけていく。

 

まず汜水関に向かって先頭が一刀たち劉備軍。

そしてその後ろに曹操、次に孫策、公孫賛と続き、最後尾にいるのが袁紹の軍だ。

 

一刀たちの先陣はすでに決まっていたとして、他の軍の配置を決めたのは言うまでもなく袁紹だ。

 

『後ろからの奇襲に備えてですわ。』と自信満々に言って自ら後方に陣取った。

 

どう見ても自分たちが戦いたくないという意図がバレバレだが、そこに対して他の諸侯からはため息だけで特に反対の声は上がらなかった。

 

一刀としてもようやく苦労してこの状況まで持ちこめたのだ。

 

下手に袁紹の機嫌を損ねてせっかく増やした兵数をむざむざ減らしたくはなかった。

 

 

 「私たちの仕事は大きく分けて二つです。」

 

地図に書かれたバツ印を示しながら朱里が言う。

 

劉備軍を示すバツ印から、汜水関の位置へと指を滑らせながら、隊の動きを説明していく。

 

 「まず一つ。 正面から突撃してできるだけ派手に敵を挑発し、門の外へおびき出すこと。」

 

今度は指を汜水関の位置から、また再び元のバツ印へ。

 

 「二つ目。 敵が外へ出て来たところで即座に後退し、後方に控えている曹操さん、孫策さんの部隊と入れ替わって、敵を迎え撃ちます。」

 

簡単に言えば、以前公孫賛と共に黄巾党と戦った時と同じ作戦だ。

 

あの時は最終的に挟撃という形になったので厳密に言えば同じとは言えないが、相手をおびき出すという点が重要になってくるのは同様だ。

 

だが今回は、その時とは規模も敵の強さも訳が違う。

 

今度の相手は黄巾党のような平民崩れの烏合の衆ではなく、れっきとした正規の軍隊。

 

加えて相手が守っているのはこちらを阻むための大切な拠点となれば、そうやすやすと出てくるとは考えにくい。

 

 「フム。 策はだいたい分かったが、問題は敵がそう簡単に挑発に乗るかどうかだな。」

 

皆が同様に考えていたであろう懸念を口にしたのは星だった。

 

 「そのことなら、確証はありませんがなんとかなるかもしれません。」

 

 「? どういうことだ雛里。」

 

 「袁紹さんの軍からの情報によると、どうやら汜水関に潜んでいる敵部隊を率いているのは、華雄という将軍一人だそうです。」

 

 「華雄・・・・・聞いたことがあるな。」

 

 「はい。 腕が立ち、血気盛んと言われる董卓軍の猛将です。 その性格を利用すれば、こちらの挑発に乗せることも不可能ではないと思います。」

 

 「なるほど・・・・・この作戦にはうってつけの相手、という訳か。」

 

華雄の性格を利用すると言う点で言えば相手任せの作戦ではあるが、さっきまでの何も方法が無い状態よりは格段に成功の道筋は明るくなったと言える。

 

 「いいですか。 この作戦で重要なのは、いかに早く敵をおびき出し、その時期を見極めて迅速に撤退できるかということです。」

 

敵の挑発に時間をかけ過ぎればそれだけこちらの被害も大きくなり、撤退のタイミングをのがせば敵の追撃を受けることになる。

 

この二つの点をいかにうまくやれるかが、この作戦が成功するカギと言っていい。

 

 

 「そんな一分一秒を争う状況で、私たちが後方から戦況を見て合図を出していては間に合いません。 ですから前線に向かう皆さんの中で一人、私たちに代わって指揮をとってもらう方が必要になります。」

 

 「それじゃあ、今回は朱里先生や雛里ちゃんの指示無しで戦わないといけないの?」

 

 「う~ん・・・・・・確かにこの戦いで二人の指揮が無いのは不安だけど、仕方ないか。 それで、その指揮は誰が取るんだ?」

 

残念そうに眉を下げる雪の横で、翠もらしくない難しい顔で腕を組みながら問いかけた。

 

 「この作戦の指揮を執るのは、力と統率力があり、混乱した戦場の中でも常に冷静な判断ができる方でなければなりません。」

 

そう言いながら、朱里は地図から顔を上げて、周りを囲む仲間たちを見まわす。

 

そして、一人の人物に目をとめた。

 

 「この役は、愛紗さんにお願いしたいと思います。」

 

 「! 私か?」

 

 「はい。 雛里ちゃんとも話し合った結果、やはり愛紗さんが適任だと思います。」

 

愛紗を見つめながら言う朱里の隣で、雛里も“コクリ”と頷く。

 

 「わかった。 他ならぬ二人がそう言ってくれるのであれば、全力でその役を務めよう。 それで、具体的にはどうすればいいのだ?」

 

 「愛紗さんには常に最前線で戦況を把握していただき、敵が挑発に乗ってきたと判断できた時を見計らって撤退の合図を出して下さい。 そのため、撤退時はしんがりを努めてもらわなけらばならないとても危険な役ですが、どうかお願いします。」

 

 「了解した。」

 

思いがけず回ってきた大役に愛紗は驚いていると言うよりも意気に感じているようで、その口元は少し笑っているように見えた。

 

しかし一刀にしてみれば、愛紗にそんな危険な役を任せるのはもちろん大きな不安がある。

 

 「なぁ愛紗。 くれぐれも無理はしないでくれよ?」

 

 「ええ。 分かっていますよ。」

 

一刀の言葉に愛紗は素直に頷いてくれたが、それで一刀の不安が消えることは無い。

 

しかしこれは朱里と雛里の考えですでに決まったこと。

 

ここでこれ以上何を言ったところでどうにもならないことは分かっているから、一刀はもう何も言わなかった。

 

 「フム。 そんな大役を愛紗に取られるのは少々面白くはないが、朱里と雛里が言うのであれば仕方がないな。 頼りにしているぞ、愛紗。」

 

 「朱里先生と雛里ちゃんの代わりなんだから、しっかりやってよね。」

 

「任せておけ。 たとえ撤退時に追撃を受けたとしても、華雄は私がこの手で討つ!」

 

仲間たちの激励に応え、愛紗は“グッ”と拳を握る。

 

これで、この大戦を前にしての主な作戦は決まった。

 

 

 「失礼します!」

 

そこへ、前日と同じように袁術軍の兵士が入ってきた。

 

 「間もなく汜水関への進撃を開始します。 各軍はそれぞれの配置へ準備せよとのことです。」

 

 「わかった。 すぐに準備するよ。」

 

一刀がそう答えると、袁術軍の兵士は『はっ。』と短く言って天幕を出て行った。

 

それを見送って、一刀はもう一度表情を引き締め仲間たちへと向き直る。

 

そして、もう何度も繰り返したはずの誓いを、もう一度心の中で唱える。

 

 

 

―――――――――――――絶対に、誰も失ったりしない・・・・・・

 

 

 

 「さぁ、いよいよだ。 行こう、皆!」―――――――――――――――――――

 

 

 

 

汜水関からおよそ一キロ。

 

連合軍は予定通りの陣形を組み、合図がでるのを今か今かと待ち望んでいた。

 

視線の先に堂々と立ちはだかる汜水関は、まるで連合軍の侵攻を阻む一つの要塞のように見える。

 

その外に敵の姿は見えないが、こちらの接近に敵が気づいていないはずはない。

 

恐らく敵も城の中で、こちらが攻め入る時を待っているのだろう。

 

そこに最初に攻め込むのは、愛紗が率いる部隊。

 

荒野に並んだ連合軍の先頭には、堂々と“劉”の旗が掲げられている。

 

そしてその最前線に立ち、愛紗も目の前の敵たちを見据えていた。

 

 

 「愛紗。」

 

 「! ご主人様・・・・・・」

 

突然後ろから聞こえたのは一刀の声。

 

愛紗が少し驚いたように振り返ったのは、一刀は予定なら桃香たちと一緒に後方の陣にいるはずだからだ。

 

 「どうしてこちらにいるのですか? もうすぐ合図がかかります。 早く後ろにお下がりください。」

 

 「ああ、分かってるよ。 ただ、どうしても言っておきたいことがあってさ。」

 

 「?」

 

 「さっきはちゃんと言えなかったけど・・・・・・どうか、無事に戻ってきてくれ。」

 

 「え・・・・・・」

 

 「この戦いがどれだけ大事なものなのかは分かってる。 愛紗がどんな覚悟でこの役を引き受けたのかも理解してるつもりだよ。 だけど・・・・それでもやっぱり、俺は愛紗や他の皆が傷つくのは嫌だ。」

 

 「ご主人様・・・・・・・」

 

 「だからもし危なくなったら、絶対に無理をしないでほしい。 これは命令じゃなくて、俺からのお願いだ。」

 

愛紗の目を真っ直ぐに見つめながら、力強く彼女の手をとる。

 

 「 クス。」

 

 「愛紗?」

 

だが愛紗から返ってきたのは返事ではなく、小さな笑い声だった。

 

 

 「全く、本当に変わったお方ですね。 君主が臣下に“お願い”だなんて。」

 

それは、今からまさに戦場に向かおうとしているとは思えない優しい微笑みだった。

 

それが心からの物なのか、不安げな表情を浮かべる一刀を気遣っての物なのかは分からないけれど。

 

その笑顔は僅かでも確実に、一刀の不安を軽くしてくれた。

 

 「大丈夫ですよ。 ご主人様が望んでくださる限り、私は必ずあなたのもとへ帰ってきますから。」

 

 「愛紗・・・・・・・」

 

一刀が握った手を握り返して、愛紗はもう一度笑う。

 

 「だから安心して、後ろから私たちの戦いを見ていてください。」

 

情けないと思った。

 

今から戦場に行こうとする彼女はこれほどまでに強いのに、それを見ていることしかできない自分のなんと弱いことか。

 

だからせめて、彼女が自分の事を気にせずに戦いにいけるように、一刀は今できる精一杯の笑顔で言った。

 

 「ああ・・・・待ってるよ。」

 

その決意を伝えるように、握っていた手を放す。

 

 「っ!? 愛紗・・・・・・?」

 

 「はい?」

 

 「・・・・・・・・いや、何でもない・・・・・・・」

 

 「?・・・・・そうですか。 では、間もなく戦いが始まります。 早く後ろへ。」

 

 「ああ。 それじゃあ、頑張って。」

 

 「はい。 行ってまいります。」

 

笑顔で言ってくれた愛紗に背を向けて、一刀は陣の後方へと下がって行った。

 

 

 

―――――――――――――――――なぜだろう・・・・・・・・・・

 

 

 

―――――――――――――――――手を離した瞬間、愛紗の姿が・・・・・・

 

 

 

―――――――――――――――――少しだけ、遠くに見えた――――――――――――

 

 

 

 

―――――――――― 一方、対する汜水関の内部でも、今から始まる激戦を前に緊張した雰囲気で満ちていた。

 

 「華雄将軍!」

 

一人の兵士が少し息を切らしながら、軍を率いる将、華雄のもとへと駆けて来た。

 

急いでいる様子でも、華雄の前に立っての礼は怠らない。

 

 「どうした?」

 

 「監視役の物より伝達です。 遠方に連合軍が陣形を構えたのを確認しました。」

 

 「そうか・・・・・」

 

敵が来ているのはずっと前から分かっていたことだ。

 

報告を聞いても、華雄の表情はほとんど変わらない。

 

 「弓兵は、既に城壁の上に待機しているな?」

 

 「はっ。 残りの兵も、すぐに動けるよう門の内側で待機しています。」

 

 「分かった。 私もすぐに行く。 皆には合図を待てと伝えろ。」

 

 「分かりました。 では!」

 

来た時と同じように礼をして、兵は来た方へと去って行った。

 

 「さて、それでは私も・・・・・・・・」

 

それを見送って、華雄も傍に置いてあった自分の戦斧を手に取る。

 

 「?」

 

すると、斧の柄に伸ばした手が、ほんの少しだけ震えていることに初めて気づいた。

 

 「フ・・・・・怯えているのか、私は。」

 

それはこの戦を任されてから、押し殺していたはずの感情。

 

今門の向こうにいるのは、自分たちをはるかに凌駕する戦力をもった大軍隊。

 

いくらなんでも、勝機など皆無に等しいことぐらい分かっていた。

 

しかし自分は武人、戦いの中に生きることこそが喜びであり、存在する意味なのだと言い聞かせていた。

 

今まで幾多もの戦場を潜り抜け、自分が信じるモノの為にその手を血に染めてきた。

 

たとえ相手が自分たちよりどんなに多くとも、どんなに強くとも、自分の力を信じ、そして貫いてきた。

 

気がつけば、周りからは“猛将にして良将”などと言われるようになっていた。

 

それらの行いは全て、自分が仕える主を守るため。

 

戦うことしか取り柄の無かった自分を、仲間と認めてくれた心優しい少女の為。

 

しかし彼女の為に続けて来た戦いも、これで最後になるかもしれないと心の中で覚悟していた。

 

 「所詮、私も人の子だったということか・・・・・・だが、今しばしその恐れは隠しておいてくれ、私の身体よ。」

 

震える右手を握りしめ、既に集まっている兵士たちのもとへと向かう。

 

 

―――――――――――恐らくこれが、私の最後の戦いになろう。

 

だが悔いは無い。

 

散るならば最後に、愚かにも私の主に剣を向ける者どもに一太刀を浴びせてくれる。

 

 

董卓様・・・・・・

 

もうあなたをお守りすることは叶わないかもしれませんが、どうかご無事で。

 

そしてどうかこの華雄に、力をお貸しください――――――――――――――――――

 

 

 

 「文醜さん。 各軍の配置の方はどうなっていますの?」

 

 「え? えっと・・・・斗詩、どんな感じ?」

 

 「劉備さんのところをはじめ、全ての軍は配置についたみたいです。」

 

 「結構。 それではいよいよですわね。 文醜さん、突撃の合図を。」

 

 「へ~い。 んじゃ、いっくぜ~!」

 

 

“ジャーーン!!!”

 

 

連合軍の一番後ろから放たれた戦いの開始を告げる銅鑼の音が、全軍に響き渡る。

 

そして少し遅れて、最前線の愛紗たちのもとへと届いた。

 

 「愛紗、合図だ!」

 

 「ああ、行くぞ皆の者!」

 

愛紗は手にした青龍刀を、高々と空に掲げる。

 

 「突撃ぃーーーーーーっ!!」

 

 「「「オォーーーーー!!!」」」

 

それとほぼ同時に、『劉』の旗を掲げた兵士達が愛紗に続いて荒野を駆ける。

 

その雄叫びは、彼らの目指す汜水関まで届いていた。

 

 

 

 

 「華雄将軍、連合軍がこちらに向かって突撃を開始しました!」

 

 「慌てるな! 弓兵、構えっ!」

 

華雄の号令に応えたのは、城壁の上に整列した弓兵たち。

 

それぞれが弓を上空へ構え、ゆっくりと弦を引く。

 

 「放てっ!」

 

華雄が叫んだ直後、城壁から無数の矢が発射された。

 

それらの矢は“ヒュンヒュン”と甲高い音を立て、突撃する劉備軍の頭上へと容赦なく降り注ぐ。

 

 「ぐぁっ!」

 

 「ぎゃぁっ!」

 

劉備軍から悲鳴が上がる。

 

突撃開始からわずか数分で、すでにいくつかの命が消えていく。

 

 

 「ひるむなっ! 城壁に近づけば弓の効果は半減する! そこまで突き進め!」

 

先頭を駆ける愛紗は、雨のように襲ってくる矢を次々と払い落し、ただ真っ直ぐに戦場を進む。

 

こんなところで立ち止まっている暇は無い。

 

時間をかければかけるほど、こちらの兵力と勝機は減っていくのだ。

 

しかし劉備軍が突撃を止めないのと同様に、董卓軍から放たれる矢が絶えることも無い。

 

止むことのない凶器の雨は、確実に兵の数を減らしていく。

 

だがそれでも、愛紗たちは少しずつ汜水関への距離を縮めていった。

 

 

 

 「敵軍が門に近づいてきました!」

 

 「分かっている! 歩兵隊は全員門に集結! 絶対に誰一人として中に入れるな!」

 

 

間もなくして、劉備軍は門を守る董卓軍と激突したが、その数は既に最初の約半分ほどにまで減っていた。

 

 「ここからが勝負だ! 一気に突き崩すぞ!」

 

先陣をきる愛紗は、激突と同時に既に数人の敵兵をなぎ倒していた。

 

続く兵たちも剣を振るい、あちこちから鉄のぶつかる音と悲鳴が上がり始める。

 

 「一点に固まるな! 敵を囲むように展開しろ!」

 

対する董卓軍も、華雄の号令で攻撃を巧みにかわし反撃してくる。

 

この時点では、劉備軍が劣勢と言わざるを得なかった。

 

もともと、突撃した兵の数は敵より少ない。

 

まして攻城戦ともなれば、数で劣る劉備軍が勝つのは不可能とさえ言える。

 

しかしそれは、この作戦を決めた時から分かっていたこと。

 

 「星、翠! それ以上出ては危険だ! 一度後退しろ!」

 

 「承知!」

 

 「わかった!」

 

 「雪、蒲公英は左翼に展開! 鈴々は私と共に正面を攻める!」

 

 「うん!」

 

 「りょーかい!」

 

 「分かったのだっ!」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 「戦況はどうなの? 桂花。」

 

 「認めたくはありませんが、さすが自ら名乗り出ただけの事はある・・・・といったところです。 諸葛亮と鳳統の指示無しで、上手く戦っています。」

 

 「そう・・・・・。 軍を率いているのは、確か関羽だったかしら?」

 

 「はい。 まぁ劉備軍の中でこの作戦をまとめられる将は、関羽ぐらいのものでしょう。」

 

 「フフ、さすがね。 一刀の将でなければ、私が欲しいところなのだけれど。」

 

 「しかし、戦況が苦しいことに変わりはありません。 このまま長引けば、劉備軍が崩れるのは時間の問題です。」

 

 「・・・・・・・そうね。」

 

先ほどまで笑っていた口元を結び、曹操は遠く前方の汜水関を見据える。

 

その表情は以前の黄巾党の時のように、いずれ敵となるものを見るような冷たいものではなく、前線で必死に戦う仲間を見守る様だった。

 

もちろん今でも、一刀たちがいずれは敵となる相手であることに変わりは無い。

 

それでも昨日、軍議の後に一刀に言った言葉を曹操は忘れていなかった。

 

『この戦いの間だけは、味方だ・・・』と、そう言ったのだから。

 

 「(見せてみなさい一刀。 あなたたちの力を・・・・・・・。)」

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 「・・・・・苦しいな。」

 

曹操軍の後ろに陣を構える孫策軍では、周瑜が戦場を見つめ眉をひそめていた。

 

その横では雪蓮も腕を組み、周瑜と同じ方向に目を向けている。

 

 「一刀たちの事?」

 

 「ああ。 この悪条件の中で良く戦ってはいるが、所詮は多勢に無勢。 加えて切り札である軍師二人が使えぬとなれば、この均衡もいずれ崩れる。」

 

 「大丈夫よ。 一刀がやるって言ったんだから。」

 

 「お前のその自信はどこから来るのだ? 今は連合を組んでいるとはいえ、北郷一刀は敵だぞ?」

 

 「でも今は仲間じゃない。」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

何の不安も疑いも感じさせない雪蓮の笑顔をみて、周瑜は何も言えなくなってしまった。

 

昔から雪蓮は、何の根拠も確信も無くいつも大丈夫だと言ってこの笑顔を見せてくれた。

 

その度に周瑜は少し呆れたが、不思議と雪蓮の『大丈夫』は外れたことがない。

 

だから今回も、もしかしてと期待してしまう。

 

彼女のこのつかみどころのない不思議な魅力が、彼女が王でいられる理由なのではないかと周瑜は時々思うことがある。

 

 「見てることしかできない私たちが心配したって仕方ないじゃない。 そんな事より、私たちには私たちの仕事があるわ。」

 

笑顔を崩さないまま、雪蓮は前方から視線を外した。

 

 「蓮華、思春。」

 

 「はっ。」

 

 「はい、お姉さま。」

 

名を呼ばれ、後方に控えていた孫権と甘寧が雪蓮のもとへと駆け寄る。

 

 「一刀たちが敵をおびき出したら、そこからは私たちの仕事よ。 すぐに出撃できる準備をしておきなさい。」

 

 「はい。 ・・・・・しかしお姉さま。」

 

 「ん? なぁに?」

 

 「いえ、その・・・・・お姉さまは、どうしてあの北郷一刀という男の事をそんなに信じられるのですか?」

 

そう言う孫権の顔には、少しだけ苛立ちの色が浮かんでいた。

 

 「今だって、どう見ても苦戦しているではありませんか。 どんな男か知りませんが、どうせ口だけの無能に決まっています。」

 

 「ただの無能なら、私は自分の大切な兵隊を貸したりしないわ。 曹操もね。」

 

 「ですが、私にはどうしても・・・・・・」

 

 「覚えておきなさい蓮華。」

 

 「え?」

 

孫権の言葉を遮って、雪蓮は少し厳しい口調で言う。

 

 「たとえ敵である相手でも、たとえ疑いを向ける相手でも、一度手をとって戦うと言った戦友を信じられないものを王とは呼ばないわ。」

 

 「!・・・・・・・・・・・・・」

 

 「今すぐに理解しろなんて言わない。 だけどあなたには分かっていて欲しいの。 あなたはいずれ、私の後を継ぐのだからね。」

 

 「お姉さま・・・・・・・」

 

 「それにね蓮華。 私が一刀を信じてる理由は、それだけじゃないわよ。」

 

 「・・・・・・なら、なんですか?」

 

 「フフ。 それはね・・・・・・・」

 

今度は今までとは違い、無邪気な子供のような笑い。

 

 「一刀が良い男だからよ♪」

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

諸侯たちが思い思いに戦場を見つめている中、その視線の先で愛紗たちの激闘は続いていた。

 

 「出過ぎだ雪! 一度後退しろ!」

 

 「そんなこと言っても、囲まれてて動けないって!」

 

 「くっ・・・・・翠、後方に回って雪を援護しろ!」

 

 「あいよ!」

 

朱里と雛里の指揮が無いこの状況で、愛紗の指揮は実に的確だった。

 

自分たちの仕事は敵をおびき出すことであって、門を破ることではない。

 

無理に攻めることはせず、しかしこちらの作戦を的に気づかれないように、被害を最小限に抑え巧みに戦っている。

 

しかしどれだけ上手く立ち回っても、根本的な数の差はなかなか埋まる事は無い。

 

荀彧や周瑜が懸念していたように、時間が経つにつれ、少しずつ劉備軍は押され始めていた。

 

 「くそっ、このままでは・・・・・・・」

 

懸命に指示を出す愛紗の表情にも、焦りの色が浮かぶ。

 

敵がこちらの挑発に乗る前に自軍が崩れてしまっては、元も子もない。

 

作戦の失敗を告げるタイムリミットは、少しずつ近づいていた。

 

 

 

だがそんな劉備軍の様子を見て、ついに華雄が動いた。

 

 「敵は崩れ始めている! 今こそ好機だ! 一気に突き崩せ!」

 

 「「「オォーーーー!!!」」」

 

華雄の号令に応え、董卓軍は雄叫びを上げながら一気に押し寄せる。

 

ここで先遣隊である劉備軍を潰せば、後方に構える連合軍全体の士気を下げることができる。

 

それが華雄の狙いだった。

 

しかし華雄は知らない。

 

この董卓軍にとっての好機は同時に、劉備軍の好機でもある。

 

 

 「! (敵が勢い付いた・・・・・)」

 

いきなり勢いを増した敵の様子に、前線にいた愛紗の目が光る。

 

今まで敵の猛攻に耐え続け、ついに臨んだ瞬間がやってきたのだ。

 

 「敵が出て来た! 全軍後退だーーーっ!!!」

 

その号令を待ちわびたかのように、一斉に劉備軍は反転して今出せる最大の力で駆けていく。

 

星も翠も、鈴々も蒲公英も雪も、それぞれが率いる兵たちを連れて後退する。

 

そしてその最後尾を、殿である愛紗がついて行く。

 

 「逃がさんっ!」

 

 「っ!?」

 

“ギィィン!”

 

だが、汜水関から離れようとする愛紗の後ろから、鋭い一閃が降りかかった。

 

 「くっ・・・・・・・・貴様、華雄か。」

 

 「ほぅ・・・・・・私を知っているのか。 ならば貴様の名も聞いておこう。」

 

 「我が名は関雲長。 華雄、ここから先へは行かせんぞ!」

 

もう他の兵たちは汜水関から遠ざかり、手はず通り曹操、孫策軍と合流しようとしている。

 

ここまで来て、華雄を近寄らせる訳にはいかない。

 

 「なるほど、貴様があの武神・関雲長か。 面白い・・・・ならばその首、この華雄がもらいうける!」

 

 「悪いが、貴様ごときにこの首をくれてやるわけにはいかん。 私には、私の帰りを待っていると言ってくれた方がいるのでな。」

 

その言葉を区切りにするように、向かい合った二人は互いに武器を構える。

 

 「はぁーーーっ!!」

 

 「でやぁーーーっ!!」

 

 “ギィィン!!”――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

その頃、後退した愛紗以外の劉備軍は、当初作戦通りついに後方に控えていた曹操、孫策軍との合流を完了した。

 

 

 「華琳様、劉備軍の後退が完了しました。」

 

 「ええ。 春蘭、秋蘭。」

 

 「はっ。 出番だ、行くぞ姉者!」

 

 「おお! 夏候惇隊、出るぞっ!」

 

 「「「オォーーーーっ!!」」」

 

 「夏候淵隊も続けっ!」

 

 「「「オォーーーーっ!!」」」

 

夏候惇と夏候淵の号令により、曹操軍は一目散に進撃を開始する。

 

 

 

 「なんとか間に合ったようだな。」

 

 「ね? だから言ったでしょ♪」

 

曹操軍が駆けだしたのを後方で見ながら、雪蓮は嬉しそうに笑う。

 

 「喜んでいる場合ではないだろう。 これからはこちらの仕事だぞ?」

 

 「分かってるわよ♪ 蓮華。」

 

 「はい。」

 

 「他の皆は準備できてるわね?」

 

 「はい。 いつでも出られます。」

 

 「よし、それじゃあ行きましょう。」

 

口元の笑みを絶やさないまま、雪蓮は腰に下げた南海覇王を空に掲げ、大きく息を吸う。

 

そして目の前の敵を見つめるその目からはさっきまでの明るさは消え、完全に獲物を狩るものに変わった。

 

 「全軍、突撃ーーーーっ!!」

 

 「「「オォーーーーっ!!!」」」

 

先に出て行った曹操軍に続いて、雪蓮を先頭にして孫策軍も一気に駆けていく。

 

間違いなくこの戦いの間しか見ることのできない光景。

 

曹操軍と孫策軍が、目の前の同一の的に向かって突撃を開始した。

 

 

そして両軍と入れ替わりに、仕事を果たし後方へと下がった劉備軍の面々はやっと息を吐く。

 

 「はぁ~、なんとか間に合ったね。」

 

 「うん。 もうヘトヘト・・・・・・」

 

雪と蒲公英は溜まった疲労を吐き出すように大きく息を吐き、地面に座り込んだ。

 

先ほどの激戦をなんとか生き残った兵士たちも、それぞれ思い思いに休息の体勢をとる。

 

 「皆、良く頑張ってくれた。 作戦は無事成功だ。」

 

あとの戦いは、曹操と孫策に任せればいい。

 

普段は余裕の表情を崩さない星の顔にも、さすがに疲労の色が浮かんでいた。

 

 「星っ!」

 

 「? どうしたのだ翠。」

 

そこへ、翠が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

 「愛紗が・・・・愛紗が見当たらないんだ!」

 

 「何っ!?」

 

そう言われて星も辺りを見回すが、確かに集まった者たちの中に愛紗の姿は無い。

 

後退の時、愛紗は一番後ろを付いてきていたため、今までそのことに気付かなかった。

 

 「多分まだ戦ってるんだ。 あたしたちもすぐに・・・・・」

 

 「ダメだっ!」

 

 「っ!」

 

武器を片手に戦場に戻ろうと駆けだす翠の手を、星が掴んだ。

 

 「放せよ星っ! 早く愛紗を助けに行ってやらないと・・・・・」

 

 「今の我々が行っても、十分な戦力にはならん。」

 

 「! それは・・・・・」

 

先ほどの激戦で、兵は元居た三分の一程度に減っていた。

 

生き残った兵も負傷しているもの、そうでなくても重度の疲労を抱えているものばかりで、今すぐ戦場に戻れるような状態ではない。

 

それは、程度は違っても星や翠も例外ではなかった。

 

 「お主も相当疲れているはずだ。 今の我々では、戻っても犠牲を増やすだけだ。」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 

星の言うことは正しい。

 

だからこそ、翠はそれ以上何も言えなくなった。

 

 「今は愛紗を信じろ。 あやつがそう簡単にやられたりするものか。」

 

そう言う星の目はただ真っ直ぐに、本当に仲間を信頼している物だと、翠にも分かった。

 

 「ああ・・・・そうだな。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

そうしている間にも、愛紗と華雄の戦いはいまだに続いていた。

 

しかし、その内容は翠たちが抱いている不安を良い意味で裏切っていた。

 

 「はぁっ!」

 

“ギィィン!”

 

 「ぐぅ・・・・・・っ」

 

愛紗が振るった青龍刀を、華雄は後ろに下がりながらもなんとか受け止める。

 

その表情にはすでに余裕はどこにも無く、武器を持つ手も僅かに震えていた。

 

 「くっ・・・・まだまだぁっ!」

 

 “ビュン!”

 

それでも何とか足を踏み出し渾身の力で斧を振るう華雄だが、聞こえるのはその斧が空しく空を斬る音だけ。

 

対して華雄の攻撃を避ける愛紗の表情には、焦りの表情など一つも無い。

 

戦いが始まった当初こそ互角にみえた二人の戦いも、徐々にその実力に開きが見えて来た。

 

今では完全に愛紗が優勢と言える状況だった。

 

 「諦めろ華雄、貴様では私には勝てん。 それに、既に我々の援軍がこちらに攻めてきている。 どちらにしろ貴様らにもう勝機は無いぞ。」

 

そう言う愛紗の言葉通り、二人の周囲の戦場からは剣のぶつかる音と悲鳴が聞こえていた。

 

その悲鳴の大半は、曹操、孫策の軍にやられて散っていく董卓軍のものだ。

 

どう見ても董卓軍にとってもはや絶望的な状況。

 

しかしそんな中にあってなお、華雄の瞳はただ真っ直ぐに目の前に立つ愛紗を見つめていた。

 

 「諦めろ・・・・だと? フン、もとより私は我が主のためならここを死に場所にすると決めている。 だが、この身が朽ちる前に関羽、貴様だけは何としても私が討つ!」

 

 「なるほど。 その武人としての覚悟は立派だと言いたいが・・・・・あいにく、もとより死ぬつもりでいる者に負けるつもりはない!」

 

手にした青龍刀を構えなおし、華雄にその刃先を向ける。

 

そしてこれを最後の一撃にすると自分に言い聞かせ、愛紗は思いっきり踏み込んだ。

 

 「これで終わりだ! 華雄っ!」

 

だが・・・・・・

 

 “ズルッ!”

 

 「なっ!!?」

 

 

例えば、この世に勝利の女神などと言うものが本当に存在したとして、おそらく彼女はこの戦で愛紗の味方をしなかったのだろう。

 

それは“運が無かった”と言うだけでは、あまりにも足りない。

 

原因は、昨日降った雨。

 

それによってできた地面の僅かなぬかるみに、愛紗は足をとられたのだ。

 

もう少しで最後の一撃が華雄を捕えようとした瞬間、愛紗はバランスを崩した。

 

そしてその一瞬の隙を、華雄が見逃すはずもなかった。

 

 「もらったぁ!」

 

 「しまっ・・・・・・・」

 

 “ザシュッ!”

 

 「くぅ゛・・・・・・っ」 

 

ポタポタと、地面に赤いしずくがこぼれ落ちる。

 

華雄の一撃をなんとか身体をさばくことで致命傷は避けた愛紗だったが、その代償に右腕を斬りつけられた。

 

 「っ・・・・・・」

 

左手で右腕の傷を抑える愛紗は、激痛に顔をゆがめる。

 

その傷はかなり深いらしく、流れ出る血は止まる気配は無い。

 

 「形勢逆転とはこの事だな。 いくら関雲長と言えど、その腕ではまともに武器は扱えまい。」

 

今度は華雄が武器を構え、その刃先を愛紗へと向ける。

 

 「・・・・この程度の傷、どうということは無い。 片腕が使えなくなっただけで私に勝てると思うな・・・・・」

 

青龍刀を左腕に持ちかえ、もう一度構える。

 

だが、その声に先ほどまでの強さが無くなっているのは明らかだった。

 

 「フン、その強がりがどこまで本当か試してみるがいい!」

 

言うと同時に華雄は斧を振りかぶり、愛紗に襲いかかる。

 

 「くっ・・・・・・」

 

――――――――――――ご主人様――――――――――――――

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 「! 愛紗・・・・?」

 

 「? どうかしたのご主人様?」

 

不意の一刀の呟きに、隣で戦場を見守っていた桃香が首をかしげる。

 

 「え? ああ、ごめん。 何でもないよ・・・・・・」

 

 「そう? ならいいけど。 それより、作戦が成功して良かったね。」

 

 「ああ、そうだな・・・・・」

 

後方の陣からでも、劉備軍が無事後退に成功したのは確認した。

 

今はそれと入れ替わりに出撃した曹操軍と孫策軍が、順調に董卓軍を圧している。

 

このままいけば連合軍の勝利は確定的だった。

 

・・・・・・だというのに、一刀は何か嫌な胸騒ぎを感じていた。

 

 「(何でだろう・・・・・今、確かに愛紗の声が・・・・・・)」

 

 

 “ズキン!”

 

 「ぐっ・・・・!」

 

 「! ご主人様っ!?」

 

突然、一刀を強烈な頭痛が襲った。

 

あまりの激痛に頭を抱え、その場にしゃがみ込む一刀に、桃香が駆け寄る。

 

 「ご主人様、どうしたの!?」

 

 「くっ・・・・・頭が・・・・・・」

 

 “ズキン!”

 

 「うぁ゛っ・・・・・・・・」

 

 「ご主人様っ!」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――頭の中で、誰かの声が聞こえる。

 

 

 

(―――――――――――なぁ、一刀・・・・・・)

 

 

 

―――――――――――――お前は・・・・・・・・・・・

 

 

 

 (――――――――――――お前、いつまでこんなところにいるつもりだ?)

 

 

 

――――――――――――――何だと・・・・・・・・?

 

 

 

 (―――――――――――――お前は・・・・・彼女を救うんだろう?)

 

 

 

――――――――――――――――彼女・・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (―――――――――――――お前は・・・・・・愛紗を救うんだろう?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――・・・・・・・・そうか、お前は・・・・・・・――――――――――――

 

―――――――――――――――――――――

 

―――――――――

 

 

 「ご主人様! ご主人様っ!!」

 

 「桃香・・・・・・」

 

一刀がようやく顔を上げると、自分を心配そうに見る桃香の顔があった。

 

 「ご主人様、大丈夫? 辛いなら少し休んだ方が・・・・・・」

 

 「いや、大丈夫だ。 心配かけてごめん」

 

桃香の言葉を手で遮って、一刀はゆっくりと立ち上がる。

 

 「桃香、悪いけどここは任せた。」

 

 「え?」

 

そう言いながら、一刀は近くにいた馬に乗りたずなを手に取った。

 

 「ちょっと待ってご主人様! どこに行くつもりなの?」

 

 「・・・・・俺が守らなきゃ。」

 

 「守る・・・・・?」

 

 「・・・・行ってくる。」

 

 「あ! ご主人様っ!」

 

桃香のが伸ばした手は届かず、一刀は混乱している戦場に向かって駆けて行ってしまった。

 

残された桃香は、何が起きているのか理解できずに自分に問いかける。

 

なぜ今、一刀をとめる事が出来なかったのか。

 

桃香の知っている一刀なら、戦場に言ったところでまともに戦えないであろうことは十分知っている。

 

しかし今の一刀は、何かがいつもと違うような気がした。

 

あれは間違いなくいつもの一刀だが、決定的に何かが違った。

 

なぜか今の一刀なら、大丈夫だと思ってしまった―――――――――――――――――――

 

 

 “ギィィンッ!”

 

 「くっ・・・・・・・」

 

 「どうした関羽! 先ほどまでの威勢はどこに行った!」

 

 “ガキン!”

 

 「っ・・・・・・!」

 

完全に形勢は逆転し、今は愛紗が防戦一方だった。

 

片腕では力が足りない。

 

速さが足りない。

 

数が足りない。

 

それでもここまで、愛紗は片腕でここまで華雄の攻撃を防いでいた。

 

しかし彼女にも、限界の時が近づいてきた。

 

 「はぁー、はぁー・・・・・・・」

 

 「どうやらそろそろ限界のようだな、関羽よ。」

 

 「・・・・バカを言うな。 私は、まだ戦える・・・・・」

 

肩で息をしながら、必死に言葉を絞り出す。

 

 「まだそんな口が聞けるのは立派だが、結果は変わらん。」

 

手にした斧を構えなおし、華雄は踏み込む体勢に入る。

 

 「これで終わりだ、関羽!」

 

斧を大きく振りかぶり、愛紗めがけて勢いよく駆けだす。

 

武器を構えた相手が自分に迫ってきていると言うのに、もう愛紗は動くことができなかった。

 

左手に持った青龍刀を振り上げる力さえ、もう残ってはいない。

 

 「(私も、ここまでか・・・・・・)」

 

心の中で覚悟を決め、最期を受け入れたように目を閉じた。

 

 

―――――――――――――申し訳ありません、ご主人様。

 

―――――――――――――私は、約束を守ることが・・・・・・・

 

 

 “ガキィィンッ!”

 

 「っ!」

 

 「!?」

 

 

例えば、この世に勝利の女神などと言うものが本当に存在したとして、彼女は随分と気まぐれだ。

 

華雄が振り下ろした斧は、愛紗に触れることなく止められた。

もちろん、愛紗にそんな力は残っていない。

 

 「どうして、あなたがここに・・・・・」

 

愛紗自身も、自分の見ている光景が現実だとは思えなかった。

 

目の前に立っている背中は、彼女が良く知っている、彼女が一番大好きな人の物だった。

 

緋色に光る刀を手にした彼の目は、ただ真っ直ぐに敵を見つめ、そして静かに燃えていた。

 

 

 

 「愛紗は・・・・・俺が守る!」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

~~一応あとがき~~

 

え~、前回からだいぶ間が空いてしまって申しわけありません 汗

 

「前回までどういう話だったっけ?」という方も多いと思います。

 

なんとかして一カ月以内にあげたいと思ってたんですが間に合わなかったですね。

 

それはさておき、二十二話目はいかがでしたでしょうか?

 

最後になんかヒーローっぽく登場した一刀ですが、華雄に勝てるのかな・・・・ていうのはまた次回。

 

それから、次回は一話目から登場していたあの”声”の正体も明らかになりますww

 

って言っても、カンの良い読者のかたならもう気づいてるかもしれませんね・・・・汗

 

では、また次回よろしくお願いしますノシ


 
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