ヴォーリアの核を破壊してすんでのところでアガルティアを救ったトウヤたち異世界人たちが元
の世界に還る日がやって来た。
「ホントに還っちゃうのね、トウヤ」
ユミールの義姉パルディアが玄関先で涙を拭った。
「ユミールと一緒になるものとばっかり思ってたのに・・・」
「パルディアさん」
顔を真っ赤にして照れるトウヤにフォルゼンが助け舟を出した。
「いけませんよ、パルディアさん。トウヤ君を困らせちゃ」
「え? ええ、そうよね。ゴメンナサイね、トウヤ」
「い、いえ」
トウヤを見送ってくれたのはフォルゼンとパルディアだけだった。ユミールは急な錬金学会の会
議とかで昨日から聖地に詰めていたし、メルヴィはなぜか姿を見せなかった。
「あの・・・メルヴィは?」
気になって尋ねたトウヤにパルディアが顔を曇らせる。
「トウヤを見送らないと、と何度か声をかけたんだけど部屋に閉じこもったままで・・・」
「そう・・・ですか」
トウヤは小さくため息をついた。ちょっぴり泣き虫でおしゃまなメルヴィの存在は、苛酷な戦い
の中にあって一服の清涼剤だった。まだほんの十二歳の女の子なのに、フォルスティンの操者とし
て戦闘に加わってくれたメルヴィ。寝起きの悪い自分を、毎朝根気良く起こしに来てくれたメルヴ
ィ。トウヤと目が合うとはにかむようにそっと目を逸らしていたメルヴィ。
「あの・・・パルディアさん」
「なぁに?」
「その・・・メルヴィと話して来ていいですか?」
「え? ええ、構わないけど・・・。ふて寝してるかもしれないわね」
トウヤは家の中にとって返すと、可愛らしいルームプレートの掛かったドアを遠慮がちにノック
した。
「メルヴィ?」
応答はなかった。
もう一度呼びかけてみる。
二度三度と声をかけてみたが、なんの反応もなかった。
「メルヴィ…いるんだろ? 入って・・・いいかな?」
やはり応答がないので、トウヤは入るぞと声をかけてノブを回した。
「 ! 」
中はもぬけの空だった。
(一体どこへ?)
急ぎ玄関へ出て二人にメルヴィがいない事を伝えると、
「まぁ! 一体どこに・・・」
「いつの間に! 素早いですねぇ、メルヴィさん」
パルディアとフォルゼンは顔を見合わせた。
「俺、ちょっとその辺捜して来ます」
「いや、もうあまり時間がないのですよ。召還にもあちらの世界とのシンクロ率など様々な要因が
ありましてね。まもなく一番いい "時の波動" のタイミングなんです。これを逃すとあとどれくら
い待つことになるか-------」
「んな事言っても・・・メルヴィが心配じゃねぇのかよ?」
「大丈夫。メルヴィさんは私たちの娘ですよ。心配はいりません」
(だから心配なんだって・・・・・・)
心の中でそうツッコミを入れるとパルディアに目をやった。
「この人の言うとおりですわ。トウヤは何も心配しないで」
「わかりました、行きます」
「来る時と違って今回は私のサポートは必要ないハズです。召還の間に私の補佐をしている者が詰
めていますから、彼の指示に従って下されば大丈夫です」
トウヤは頷くと、軽く一礼して駆け出した。元の、懐かしい日常に還るために。
召還の間に足を踏み入れたトウヤはなんだか随分と長い年月が経った気がした。
(気分は浦島太郎だな)
召還装置に向かうと、二十代半ばくらいの痩せた男がペコリと頭を下げた。
「カザミ=トウヤ様ですね。フォルゼン様より伺っております」
急ぐように促されてトウヤは召還装置の中央に立った。軽い起動音がして、召還の間がまばゆい
光に満たされてゆく。
(これでアガルティアともお別れか------)
感慨に浸っていたトウヤを男の叫びが現実に引き戻した。
「わっ!! コラ、君っ! 来るんじゃないっっ、うわわっ」
「な、なんだ?」
怪訝に思ってあふれる光の中目を凝らしたトウヤの眼前に、よく知った顔があった。
「メ・・・ルヴィ?」
そう言うなりトウヤは絶句した。
「ヘヘッ」
ともに光に包まれながらメルヴィはトウヤの腕に縋りついた。
「な、なんてことを・・・」
「ずるいよ、お兄ちゃん」
「え?」
「ひとりで還っちゃうなんて・・・。メルヴィを置いて還っちゃうなんて・・・」
大きな瞳から後から後から涙が零れては床に落ちる。
「バカッ! 自分が何をしてるのかわかってんのかっ? まだ間に合う! 早くここから出るんだ
っ!」
「いやーーーーーーーーッ!! メルヴィ、トウヤお兄ちゃんと一緒に行くっ!」
「フォルゼンやパルディアさんはどうするんだ!」
「大丈夫、手紙を置いて来たの。だから」
メルヴィはトウヤの腕を掴む手に力を込めた。
「メルヴィも連れて行って・・・」
今、突き放せば・・・・・・この手を放せば、まだ間に合うかもしれなかった。そうだ、今なら・・・
だが、トウヤはそうはしなかった。出来なかったのだ。
メルヴィをぐいっと抱き寄せると小さな額に自分の額をこつんとぶつけた。
「いいんだな?」
「うん」
涙でくしゃくしゃの顔に笑顔が戻る。
やがて来る時空を超える衝撃に備えるべく、トウヤはきつく守るようにメルヴィを抱きしめた。
光の洪水が消えて軽い衝撃の後、トウヤとメルヴィは抱き合ったままの姿で富士の樹海の中に立
っていた。
「還って・・・来たんだ」
「ここがお兄ちゃんの世界?」
「ああ。行こうか」
「うん」
トウヤはメルヴィの手を取ると、うっそりと暗い樹海の中を外の光へと向かって駆け出してゆく
のだった。
終わり
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聖霊機ライブレード同人誌vol.5より、トウヤ×メルヴィを書いてみましたvv