No.190955

真恋姫無双 遙かなる幻想の先に 第四話 後編

larryさん

間が開きましたが、漸く六作目の投稿となりました。
楽しんでいただけたら幸いです。

2010-12-22 00:27:35 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1074   閲覧ユーザー数:974

                     注意

 

 

 

この作品は北郷 一刀が主人公ではなくまた登場する予定もありません。 オリキャラが主人公で、原作キャラが崩壊するかもしれません。 それを踏まえた上で楽しんでいただければと思います。

 

 

 

 

 

「遅かったな、葵」

 

「すいません。城壁に可愛い小鳥がいたものですからつい……」

 

「そうか、それで小鳥は元気になったか?」

 

 秋蘭様と軽口を交わしながら、報告にあった南西の村に馬を走らせる。

 さて、ここで疑問がひとつ。

 

「ええ、それはもう。それで秋蘭様?」

 

「なんだ?」

 

「どうして私は、馬に乗ってるんですか?」

 

 “一般兵”の私が。

 

「同じ質問を出立前に聞いたぞ。華琳様の命だと云ったはずだが?」

 

「……そうでしたね」

 

 聞き間違えかと思って時間を置いて聞いてみたのだけれど。

 どうやら、私の耳がおかしくなったのでは無いみたい。

 

 にしても、このままでは外から固められてホントに将になってしまう。

 うう、どうしよう……

 

「葵。お前は何故、そんなに一般兵にこだわるんだ?」

 

「えっ?」

 

「お前は一般兵で収まる器ではない。それは華琳様だけでなく、私や姉者……恐らく皆が感じている。なのに何故だ?」

 

「は、ははは……か、買い被りですよ」

 

 もしかしてもう手遅れ?

 と、とにかく話題を変えないと――

 

「夏候淵様、村が見えてきました!」

 

 どうにかして話の流れを変えようとしていた時に丁度良く兵の人がそう報告に来てくれた。

 

「そうか。直ぐに部隊を展開しろ!」

 

「はっ!」

 

 一瞬、どこか不服そうな顔をする秋蘭様。

 でも直ぐに公私を入れ替えて的確な指示をする。

 それに兵士たちは応えて、指示がとんでから少ししか経っていないのに瞬く間に陣形を整えていく。

 流石、良く調練が行き届いてるなぁ。

 

「さて、それじゃあ私も往ってきます」

 

 私も遅れを取らないように陣に加わらないと。

 

「ああ、気をつけて往ってこい。期待させて貰うぞ?」

 

「はぁ……頑張ります」

 

 私は秋蘭様の言葉にそう返して、歩き出した。

 

 

 

 

 

Interlude in

 

 村の暴徒の鎮圧戦が始まった。

 鍛えられた屈強な兵士たちはまるで津波のように黄色い布を身につけた暴徒たちを呑み込んでいく。

 

「これならば直ぐに終わりそうだな」

 

 秋蘭はその様子を見ながら安堵したように呟く。

 

「ん……? あれは――」

 

 そんな安心した気持ちで視線を巡らせれば、少し離れたところに一際目を引く銀色があった。

 

「コイツは上玉だな」

 

「売りに出しら高く売れそうだ」

 

 その銀を囲むのは十の醜い笑み。

 距離があったが、弓兵である秋蘭にはその表情が見て取れた。

 

「下衆が」

 

 秋蘭は弓を引き、狙いを定める。

 そして矢を放とうとしたが。

 

「そうですね。コレでいいでしょうか」

 

 銀――葵が何かを呟いて、外套の中から何かを出したのを見て、手を止めた。

 葵の手に握られていたのは長い棒だった。

 

「うむ……」

 

 秋蘭は弓を納めて、傍観する事を決めた。

 葵の力を知るための良い機会だと判断したからだった。

 

「嬢ちゃん、やる気かい?」

 

 葵が棒を取り出したのを見て、一人の男が剣を抜く。

 それに続いて残りの九人も抜刀し構えた。

 数の上で勝っているからなのか、下劣な笑みは未だ浮かんだまま。

 

「気安く話しかけないでくださいます? 気持ち悪い」

 

「なに?」

 

 だがその表情も葵の一言で、豹変する。

 

「品のない気色悪い顔をこちらに向けないでください。寒気がしますから」

 

「お前、状況が分かってるのか? こっちは十人もいるんだぞ!?」

 

 醜さはそのままだが、その顔に宿るのは怒り。

 

「はぁ……言葉を交わすのも、もう疲れました」

 

 それでも葵は動じることなく。

 大きく、大きくため息を吐いて、葵は腰を落として棒を構える。

 

「面倒ですからまとめてかかってきなさい、下郎」

 

 

「決めた。お前は嬲ってから売り捌く」

 

 その言葉が決め手だった。

 男はそう呟いて、剣を強く握る。

 

「やっちまえ~!!」

 

 号令が掛かるのと同時。

 葵の前にいた五人の男が葵に襲いかかる。

 

「はぁ……力量の差も分からないのね」

 

 呆れたように葵は再度ため息を吐く。

 

「たぁ!!」

 

 それからの葵の動きは一瞬だった。

 まず真正面にいた男の胸を突いて沈め。

 そして斜め左右から迫る敵を、棒を横一線に振って吹き飛ばす。

 

「な、なんだ……この女」

 

 その動きを見て、残った男たちは後退りする。

 それも当然。

 数の半分をたった一瞬で片付けられたのだから。

 

「さぁ、次は誰かしら?」

 

「クッ……ひ、怯むな! かかれ!」

 

「クスッ」

 

 葵は微笑してから、駆けて次々と男たちを沈めていく。

 その様子はさながら、銀狼のようだった。

 

 

「やはり、お前は一般兵で収まる器ではないよ」

 

 そして日が暮れた頃。

 暴徒の制圧は無事に完了したのだった。

 

 

Interlude out

 

 

 

 月夜が夜空に輝く頃。

 普段であれば、暴徒討伐の報告は翌朝に回される時間帯だったのだけれど。

 今夜は主要な人物が集められて、直ぐに報告会が行われた。

 私が呼ばれたのは疑問だけど、口にしたところで仕様がないので黙っておこう。

 

「……間違いないのね」

 

「今日行った村にも、三人組の女の旅芸人が立ち寄っていたという情報がありました。恐らく季衣ちゃんが見た張角と同一人物だと思います」

 

「はい。ボクが見た旅芸人さんも、女の子三人組でした」

 

「季衣の報告を受けて、黄色い布を身につけた暴徒たちの蜂起があった陳留周辺のいくつかの村にも調査の兵を向かわせましたが……大半の村で同様の目撃例がありました」

 

 流石、桂花様。

 動きが速いなぁ。

 

「その旅芸人の張角という娘が、今回の騒ぎの首魁である張角ということで間違いはないようね」

 

 それにしてもまさか、首謀者の正体が旅芸人だなんて、ね。

 

「正体が分かっただけでも前進ではあるけれど……可能ならば、張角の目的が知りたいわね」

 

「案外目的なんてなくて、ただ本人は楽しく歌っているだけで、周りが勝手に暴走しているのではないでしょうか?」

 

 歌には魔性の魅力があるって云いますしね。

 

「何? それ」

 

「だとしたら余計に質が悪いわ。大陸制覇の野望でも持っていた方が遠慮無く叩き潰せるのだけれど」

 

 叩き潰す、ということは――

 

「やっと動いたのですね。朝廷が」

 

「ええ。夕方に都から軍令が届いたわ。早急に黃巾の賊徒を平定せよ、とね」

 

 もの凄く襲い対応だけれど、今の朝廷ではそれが限界か。

 

「これで漸く大手を振って大規模な戦力を動かせるわね」

 

 少し嬉しそうに華琳様は呟く。

 今まで朝廷に気を遣って、秋蘭様や季衣ちゃんに任せた中規模な部隊しかだせてなかったからかしら、ね。

 

「華琳様っ!」

 

 そんな時、春蘭様が慌てた様子で駆け込んできた。

 

「どうしたの、春蘭。兵の準備は終わった?」

 

「いえ、それが……また件の黃巾の連中が現れたと。それも、今までにない規模だそうです」

 

「そう。一歩遅かったということか」

 

 後手に回らされたのが悔しいのだろう。

 華琳様は苛々した様子でそう吐き捨てて、その怒りをはき出すようにため息をひとつ。

 

「……ふぅ。春蘭、兵の準備は終わっているの?」

 

「申し訳ありません。最後の物質搬入が明日の払暁になるそうで……既に兵士に休息を取らせています」

 

「間が悪かったわね。恐らく連中はいくつかの暴徒が寄り集まっているのでしょう。今までのようにはいかないわよ」

 

 人が集まる。

 それには集まろう、集めようのどちらかの意志が働いている。

 今回のような件――集団同志が合流するなら、それだけその意志が強い。

 つまり。

 

「今までのようにはいきませんね。指揮官の能力にもよりますが集団、組織として機能するだけでこれまでとは雲泥の差がありますから」

 

「ふふ、そうね。葵の云う通り。万全の状態で当たりたくはあるけれど、時間もないわね。さて……」

 

「華琳様!」

 

 そんな中、手を上げたのは今まで黙っていた季衣ちゃんだった。

 華琳様は季衣ちゃんを無言で見つめる。

 

「華琳様! 僕が行きます!」

 

「季衣! お前はしばらく休んでおけと云っただろう!」

 

「だって! 華琳様、おっしゃいましたよね! 無理すべき時はボクに無理して貰うって! それに百の民も見捨てないって!」

 

 華琳様は季衣ちゃんの言葉を黙して聞く。

 

「華琳様っ!」

 

「そうね。その通りだわ」

 

 そして口から出てきたのは、季衣ちゃんの言への肯定だった。

 

「華琳様……」

 

「春蘭。直ぐに出せる部隊はある?」

 

「は。当直の隊と、最終確認させている部隊は残っていますが」

 

「季衣。それらを率いて、先発隊としてすぐに出発なさい」

 

「はいっ!」

 

 季衣ちゃんは華琳様の指示を受け、嬉しそうに返事をする。

 

「それから、補佐として秋蘭を付けるわ」

 

「え……? 秋蘭様、が……?」

 

 季衣ちゃんは驚いたような顔で秋蘭様を見る。

 

「秋蘭にはここ数日無理をさせているから、指揮官は任せたくないの。やれるわね、季衣?」

 

「あ、は、はい。秋蘭様、よろしくお願いします」

 

「うむ。よろしく頼むぞ、季衣」

 

「へへっ。なんか、くすぐったいです……」

 

 季衣ちゃんは恥ずかしそうに笑い、それをみんな微笑ましい表情で見つめていた。

 

「ただし撤退の判断は秋蘭に任せるから、季衣はそれには必ず従うように」

 

「御意」

 

「わかりました!」

 

 きっと、これが秋蘭様を補佐に付けた本当の理由なんだと感じた。

 季衣ちゃんの想いが強いだけに無茶をする可能性がある。

 だからこそいつでも冷静な判断が出来る秋蘭様が選ばれたのだろう。

 

「桂花は後発部隊の再編成を。明日の朝来るに待っていられないわ。春蘭は今すぐ取りに行って、払暁までには出立できるようになさい!」

 

「「御意!」」

 

「今回の本隊は私が率いることにします。以上、解散!」

 

 

 

 

 そして、その場に残ったのは私と華琳様だけに。

 えーっと……

 

「葵」

 

 突然名前を呼ばれて、驚きながらも視線を華琳様に移して。

 

「っ!!?」

 

 驚愕した。

 冷え切った鋭い眼光で私を射抜く華琳様に。

 そして刃のように鋭い言葉はさらに私を驚かせた。

 

「アナタは何者なの?」

 

 華琳様の言葉は二人しか居ない玉座に、響き渡っていた――

 

 

あとがき

 

戦闘を書くのは初めてだったのでとまどり、時間が掛かりましただ漸く完成です。

楽しみにしてくださっていた方、お待たせいたしまして申し訳ありません。

次回は主人公の謎について、そして三羽烏の登場です。

 

なにか誤字や脱字、意見等があればコメントしていただければ助かります。

読んでくださってありがとうございました。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

 

 

 

 

 


 
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