No.190388

真・恋姫無双 魏F その2

truthさん

2話目、所謂導入部です。
長さの都合で前後編にしたので、今回は前半だけです。

2010-12-18 23:10:19 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3962   閲覧ユーザー数:3302

真・恋姫†無双 魏Future

 

 

 

§1/曹魏の娘(前編)

 

 

 乱世に終止符が打たれ、そして、天の御使いが消えてから、8年――

 

 世界は、時は、その歩みを止めることなく、未来へと向かって進んでいた。

 魏の都、許昌。

 

 その城下の街中に、まだ新しい白壁の建物があった。

 

 入り口である両開きの扉の上には木の看板がかかり、シンプルに2文字『学校』と書かれている。

 

 建物の中は座敷になっていて、板張りの床の上に長い机がいくつも並べられている。

 

 広さは一般的な学校の教室で言えば2つ分程度。収容できる人数はおよそ100人だ。

 

 さて、この『学校』だが、要するに国営の私塾である。

 

 その発案と命名が今は亡き天の御使いによるものだと言うことは、広く知られている。

 

 しかし、いきなり天の国と同じような義務教育体制をとるというのは当然無理な話で、今は決まった日に希望する生徒を集めて学問を教えると言う、講習会とでも言うべき形で行われている。

 

 この場合の生徒と言うのは子供だけではなく、大人も含まれ、字が読めなかったり計算のできなかったりする大人が子供に混ざって講義を受けているのも珍しい光景ではない。

 

 そして、今日はその講義が行われている日だった。

 

 この街の学校では、教鞭を執るのは主に魏の国の中枢にいる軍師たちであるが、まれに夏侯淵――秋蘭――が顔を出したりする。

 

 めったに無いことだが、曹操――華琳――が姿を見せることもあり、その厳しい指導から生徒たちに覇王先生と呼ばれていたりする。

 

 残念ながらと言うか、当然ながらと言うか、教師としては不人気である。

 

 では、逆に人気があるのはというと、昼寝先生こと程昱――風――や鼻血先生こと郭嘉――稟――だ。

 

 ただし、それは授業が中断されやすいと言うあまり褒められない理由からである。

 

 教師として優秀となると、今日講義を行っている人物――

 

 教室に集まったおよそ100人の老若男女の視線を浴びながら、一段高くなっている教壇に立つ彼女。

 

 同じ年頃の女性に比べるとやや小さな体。

 

 ただし、著しく成長した胸部は豊かに服を押し上げていて、体格が小さい分余計に目立った。

 

 緩いウェーブのかかった栗色の髪は腰に届くほどに長く伸ばされ、白いリボンが側頭部に飾られている。

 

 かつてのトレードマークだった猫耳頭巾はなくなって久しいが、そのリボンの形状が、結局似たような輪郭を作っていた。

 

 青緑色の瞳で生徒たちを見渡し、教科書など不要とばかりにそらで講義を行うこの女性こそ、魏の3軍師最後の1人、荀彧――桂花である。

 

「こんな風に、三国同盟が結ばれても、すぐにみんな仲良しとはいかなかったわ。

 けど、今はもうそんなことはないわ。三国は手を取り合い、1つの共通目標のために進んでいるの」

 

 今日の科目は、所謂社会科。歴史の分野である。

 

 歴史と言ってしまうにはごく最近の話をしているようだが、これが意外に重要だったりする。

 

 魏が勝利することで、大陸は三国が共存すると言う形に落ち着いたのだが、そのせいで蜀や呉は魏の属国と勘違いしている人がたまにいたりして、その辺り、正しい認識を持ってもらわないと困るのだ。

 

 また、最近では戦後生まれの子供も学校に来るような歳になりつつあり、そんな子供たちに、戦いを乗り越えて今の平和があると教えることもできる。

 

「その共通目標、わかる人はいる?」

 

 教室に問いかける桂花。

 

 発言するときは手を上げて、というルールがあるのだが、誰一人として手を上げようとはしない。

 

 ぐるりと見回す桂花と目が合った生徒は、上を向いたり下を向いたりして視線を外した。

 

「はぁ……」

 

 桂花は、生徒に聞こえない程度に小さくため息を吐き、1人の生徒に視線を送った。

 教室の真ん中辺りに座っている、まだ10歳にも届かないだろう幼い女の子だ。

 

 大きな碧玉の瞳。

 

 母よりは父に近いか、淡い茶髪は肩の辺りまで伸びていて、短めのツインテールを作っている。

 

 赤のギンガムチェックのパーカーに黒いフリルスカートという珍しい出で立ちは、天国指定店――天の国の物を再現した商品を扱う店。服飾や料理の専門店が多く、参入には厳しい審査がある――の物だろう。

 

 供給が少ないため、そこそこ高額である衣服を身に着けていることから、裕福な家の子供であることがわかる。

 

 この少女は、学校で習うようなことなら全て知っている。

 

 だからと言って彼女が全部答えてしまうと他の人の勉強にならないために、普段は答えないようにしているのだが、

 

 桂花の視線を受けた少女は、こくん、と頷いて右手を上げた。

 

「じゃあ、咲(しょう)」

 

「はいです」

 

 指名された少女――咲は、その場に立ち上がり、

 

「『誰もが幸せになりえる世界にすること』、です」

 

「正解。座っていいわよ」

 

 咲を座らせ、桂花は講義に戻る。

 

 この目標を最初に言い出したのは、蜀の王、劉備――桃香――だったか。

 

 戦後の諸々の混乱がひとまず落ち着くのには、年単位の時間がかかり、その後の会談でのことだった。

 

 曹魏の力によって理想を否定された桃香にも、色々と考えることはあったのだろう。

 

 理想と現実。その妥協点が、きっとその目標だった。

 

「みんなが幸せになれる世界。それが、今の私たちの目標よ。

 でも、勘違いするんじゃないわよ。

 待っていたら役人や王様が幸せにしてくれるんじゃなくて、幸せになるためには、幸せになる努力をしないといけないのよ。

 でも、やった努力が不条理によって無駄にされるとか、家柄やお金の事情でその努力ができないなんてことは、私たちが起こらないようにするわ」

 

「はいはーい。先生ー、それ、どういう意味?」

 

 子供の1人が手を上げながら質問する。

 

 問われた桂花は、「これだと難しいのね」と呟く。

 

 そして、思い切り噛み砕いた言葉で言い直した。

 

「えーと、つまり、どんな人でもいっぱい頑張ったら偉くなったりお金持ちになれたりするということよ。

 もっとも、そんな目標を掲げなくたって華琳さ……曹操様はそういう方だけど」

 

「ぇー、ほんとかよー。あの怒ってばっかりの人がぁ?」

 

 桂花が何気なく付け加えた一言に、さっきとは別の男の子が食いつく。

 

 その言い方からして、華琳の授業に当たって酷い目を見たのだろう。

 

 敬愛する華琳を疑う、認めないともとれる発言。

 

 昔の桂花ならここで怒り来るっていたかもしれないが、今の桂花はわずかに目を細めただけだった。

 

 仕方ないなぁ、と親が子を見守るような眼差し。

 

 桂花は――桂花に限らず、魏の重臣たちはみんなだが――実年齢よりかなり若く見えるが、実際親子ほどに歳が離れていることを考えると、それほど不自然ではない。

 

 華琳に対する忠誠に欠片の揺らぎも無いが、この子は知らないのだから仕方ないと、受け止められるだけの心の余裕を身につけていた。

 

「怒られたのなら、何か悪いことをしたんでしょ」

 

「う……」

 

 心当たりがあるのか、子供が小さくなる。

 

「曹操様は褒賞も罰も公平に判断される立派な方よ。

 私も、曹操様にお仕えするようになったときは、大変な無礼を働いたものだけど、その後の働きを認めて下さって、大変に可愛がっていただい――」

 

 と、そこまで話して、『可愛がられた』ことを思い出したのか、桂花の頬が赤みを帯びる。

 

「こほん、目をかけていただいたわ。

 あなたも、次は褒められるくらいのつもりでしっかりしなさいよ」

 

「……はーい」

 

 大人しく返事をする少年。

 

 しかし、と桂花は思う。

 

 あの、才能の塊のような王様に褒められるのは並大抵ではないわね、と。

 

 もし、華琳に褒められるような子供がいるとすれば――

 

「?」

 

 桂花に目を向けられた咲が、首を傾げる。

 

 桂花はなんでもないと首を振って視線を切り、講義を再開した。

 太陽が西に傾き、そろそろ夕暮れの気配が近づいてきた頃。

 

 授業を終えた咲は、学校の前に立っていた。

 

 他の生徒たちは既に家路に着き、残っているのは咲だけだ。

 

 しばらく待っていると、学校の中から片づけを終えた桂花が出てくる。

 

 桂花は、待っていた咲を見つけると頭を下げる。

 

「申し訳ありません。お待たせしました、咲様」

 

 態度も違えば言葉遣いも違う。

 

 が、どちらかと言えば、こっちが本来の関係である。

 

 桂花は学校の扉に錠をかける。

 

「それでは、帰りましょうか」

 

「はいです」

 

 咲が頷き、2人は城へ向かって歩き始めた。

 

 歩幅の小さな咲に桂花が合わせ、商店が並び賑わう通りを歩いていく。

 

 ゆっくりと歩きながら、桂花の目は行き交う人並みの様子を観察していた。

 

「あ、荀彧様! 今日はうちの子がお世話になりまして――」

 

「あの子なら真面目に聞いてたわよ。ところで最近は――」

 

 たまに店主に声をかけられると、他愛ない世間話を交えながら彼らから街の様子を聞きもする。

 

 人の流れや雰囲気は地図や報告書ではわからない、とは彼女の主君の言だ。

 

 本来、学校に行く必要などない咲が学校に通わせているのも、その辺りの考え合ってのことだろう。

 

「でも、あいつのようにはいかないわね」

 

 話を切り上げ、歩き始めながら桂花は呟く。

 

 街を歩けば子供から老人にまで親しげに声をかけられていたあの男。

 

 あれはもう、人誑しという一種の才能だろう。

 

「荀彧様? どうかしたですか?」

 

 ふと、遠くに去った過去に思いを馳せていると、咲が不思議そうに見上げていた。

 

「いえ、何でもありません。

 それより咲様、今日の講義はいかがでしたか?

 もうご存知のことばかりで、退屈ではありませんでしたか?」

 

 桂花の問いに、咲は首を振る。

 

「いいえ。そんなことはなかったです。

 私、荀彧様のお話を聞くのは好きですよ。

 それに、父様の――」

 

「桂花様、咲様!」

 

 咲が途中まで言ったとき、2人の背後から声がかけられた。

 

 振り向けば、そこには特徴的な手甲をつけた1人の女性が立っている。

 

 すらりと伸びた手足に無数の傷跡を刻み、三つ編みにした長い灰色の髪と鋭い赤紫の瞳を持つ女性。

 

「楽進様!」

 

 と、咲が呼んだ通り、楽進――凪――である。

 

 現在は街の警備隊隊長代理。

 

 実質的に隊長の役職にあるが、文官としての才に恵まれないため、名誉隊長という何だかわけのわからない役に任じられた桂花の部下に当たる。

 

「今お帰りですか?」

 

「はい、そうです」

 

「凪は、見回りの途中?」

 

「はい。今夜は、」

 

 と、言いさして一度言葉を切る。

 

「いえ、とにかく、浮かれてはいられませんので。

 この街の平和を守ることは、自分の使命ですから」

 

 そう言って、ぎゅっと拳を握り締める凪。

 

 普段から職務に忠実で生真面目な性格だが、今日は一段と燃えているらしい。

 

「まぁ、張り切るのはいいけど、張り切りすぎて家や店を壊さないでよ」

 

「そ、そんな昔のようなことはしませんっ」

 

「どうだか。年に1度か2度は見るわよ、そういう報告書」

 

「うぅ、それはその、つい勢い余ってしまって……」

 

 情けない声で言う凪に、桂花はくすくすと笑う。

 

 本気で注意していたわけではなく、単なる軽口のようなものだったようだ。

 

 まぁ、そんなものでも真面目に受け取ってしまうのが、凪という人物なのだが。

 

「……からかわないで下さい、桂花様」

 

 凪が憮然とした表情で訴える。

 

「悪かったわね。でも、少しは力が抜けたでしょ。

 凪は優秀なんだから、そんなに肩肘張らずにやればいいのよ」

 

「あ……はい!」

 

 姿勢を正し、凪が応える。

 

「それでは、自分は警邏に戻ります」

 

「楽進様、頑張ってください」

 

「ありがとうございます、咲様。では、失礼します」

 

 そう言って、凪は、きびきびとした足取りで立ち去って行った。

 

「あの、荀彧様」

 

 足を城に向けて歩き始めながら、咲が言った。

 

「何ですか?」

 

「今夜、何かあるんですか?」

 

「あ、はい。その、ちょっとしたことが」

 

 歯切れ悪く答える桂花。

 

「私には教えてもらえないですか?」

 

「はい……すみません」

 

「そうですか……わかったです」

 

 口では聞き分けよく言っても、まだ子供。

 

 目に見えてしょんぼりしている。

 

 だからと言って、今夜行われることを話すこともできない桂花は、

 

「本当にすみません、後で、きちんとお話しますから」

 

 こんな風に言うのが精一杯だった。

 何となく気まずい思いをしながら、言葉少なに2人が城に辿り着く。

 

 城門を抜けると、そこには、珍しい人物の後姿があった。

 

「あ、張遼様ですよ?」

 

「へぇ、間に合ったのね」

 

 2人の声を聞きつけて、視線の先に立っていた女性が振り返る。

 

 身に着けているのは青っぽいパンツスーツ。

 

 ただし、丈は大胆に縮められていて、下乳からおへそまで丸見えである。

 

 その上から昔と同じように外套を羽織り、後頭部にまとめられた紫色の髪の上には小さな帽子が乗っていた。

 

 神速の2つ名を持つ武将、張遼――霞――である。

 

 彼女は今、三国が共同で運営する旅行会社(?)『そうだ羅馬に行こう』の魏国代表である。

 

 実際には羅馬まで行っているわけではなく、国をまたぐ人や物の輸送を主な活動にしている。

 

 平和になったと言っても、やはり盗賊やら異民族やらはいるわけで、長距離の移動は狙われやすい。

 

 そういう事態に備えて武官や兵が護衛につき、移動中の安全を確保する。

 

 ついでに、戦いが減ったことによる兵の失業対策としても役に立っていた。

 

「おー、咲ちゃんやないか」

 

 緑色の瞳を笑みに細めた霞は、咲の前まで走ってくると、その髪の毛をかき混ぜるようにして頭を撫でた。

 

「わ、髪の毛がぐちゃぐちゃになるです」

 

「おっと、せやな」

 

 霞は咲の頭を乱暴に撫でる手を止めて手を離す。

 

「それにしても久しぶりやなー。ちょっと見ん間にまたおっきくなったんやないか?」

 

「そんなに長い間は離れてないと思うですよ? でも、お久しぶりです。張遼様」

 

「咲ちゃんは相変わらず硬いなぁ。霞でええで?」

 

「……ごめんなさいです」

 

「んー、まだあかんのか」

 

「あのでも、別に、張遼様のことが嫌いとかじゃないですよ?」

 

「まぁ、それならええんやけどなぁ」

 

「残念だったわね、霞」

 

 と、桂花が口を挟む。

 

「ま、今は待ってなさいよ。私たちだって、まだ真名では呼んでもらえてないんだから。

 それより霞、どうだったのよ、今回の旅は。呉に行ってたんでしょう?」

 

「せやなぁ。特に変わったことはなかったで。行くときに1回だけ賊に襲われただけや。

 あれは異民族やなくて、単なる物盗りやったな」

 

「そう。何年経っても、その手の輩はいなくならないわね」

 

「おらんなったらなったで、ウチらみたいな武官は詰まらんなるんやけどな」

 

「ふぅん。春蘭も似たようなことを言ってたけど……私には良くわからないわね」

 

 などと、2人が話しているそばで、咲は霞にかき乱された髪を撫で付けていた。

 

 しかし、妙な癖をつけられてしまったのか、中々直らない。

 

 ペタペタ。

 

「…………」

 

 ぴょこん。

 

「!」

 

 ぺたぺた。

 

 跳ねる髪と悪戦苦闘していると、

 

「まだ後ろが跳ねてますよー」

 

 そんな声と共に、シュッという音がして、霧状になった水が吹きかけられた。

 

 背後から伸びてきた手が、湿った髪を整えていく。

 

「はいー、これで直りました」

 

「あ、ありがとうです」

 

 言いつつ振り向くと、そこには何とも眠たそうな緑色の瞳とふわふわした長い髪が特徴の少女。

 

 いや、本来少女と言う歳でもないし、体つきもそこそこに成長しているのだが、身にまとう雰囲気が昔と変わらないために、ちっとも変わっていないような印象を受ける。

 

 魏の軍師の1人、程昱――風――だ。

 

 肩の上には芸術的な人形。

 

 明らかにオーバーテクノロジーを操る絡クリエイターである李典――真桜――による改造が施され、宝譿君と改名したとか。

 

 それに伴って、頭の上だった定位置は肩に変わったらしい。

 

「程昱様、さっきの水は、宝譿君ですか?」

 

「そうですねー。真改造された宝譿君は口から水を出せるようになったのですよ」

 

 まかいぞう。真桜による改造の意である。

 

「あと、唐辛子の粉なんかも吹きますねー」

 

「唐辛子……」

 

 さりげなく距離を取る咲。

 

 護身用だろうか。吹きかけられた方はたまったものではないだろう。

 

「大丈夫ですよー。咲様には使いませんから。

 そんなことしたら、風の首が飛んでしまいかねません」

 

「いくら華琳様でもそこまではしないわよ……」

 

 と、桂花。

 

「精々お仕置きくらいでしょ」

 

「お仕置きくらい、ですか。しかし、風は桂花ちゃんのようにお仕置きで悦ぶ族の人間ではないので、遠慮しておきたいですね」

 

「悦ぶ族かぁ。春蘭もきっとそうやろな」

 

「おぅ、姉ちゃん。わかってるねえ」

 

 宝譿君が口をパクパクと動かして合いの手を入れる。

 

「人を妙な種族に分類するんじゃないわよ!」

 

「ぐぅ……」

 

「寝るな!」

 

「おお! 桂花ちゃんが余りにも今更な反論をするので、思わず眠気が」

 

「風、あなたは大きな勘違いをしているわ。

 私は、お仕置きされて悦んでいるんじゃなくて、華琳様のされることだから悦んでいるのよ!」

 

「……どっちにしても、似たようなものじゃないですか。変態的な意味で」

 

「誰が変態よっ!」

 

「桂花ちゃん。変態変態と言うのは、咲様の教育上よろしくないと風は思うのですよ」

 

「誰が言わせたと思ってるのよ……」

 

 疲れた、と桂花。

 

 一度深呼吸して熱くなっていた頭を冷やす。

 

「むぅ、桂花ちゃんもすっかりからかいがいが無くなってしまいましたね」

 

「色々あったもの。いつまでも昔の私じゃないわよ。

 それで、風、何か用があるからここに来たんじゃないの?」

 

「おお、そうでした。桂花ちゃんを華琳様がお呼びですよ。

 城に帰ってきたら部屋に来て欲しいとのことです」

 

「ちょ、それを先に言いなさいよ!

 華琳様を待たせてしまってるじゃない!」

 

 と、慌て始める桂花。

 

「もう、それじゃ、私は華琳様のところへ行くわ。

 霞、風、咲様のことを頼むわよ。

 では、咲様。失礼いたします」

 

「あ、はいです」

 

 咲がそう頷くか頷かないかの間に、駆け出した桂花の姿は城の中へと消えていった。

 

「頼まれても……ウチ、これから厩舎に行かなあかんのやけど」

 

「でしたら、咲様のことは風に任せてください。

 そもそも、桂花ちゃんは城まで帰ってきた後に何を頼むつもりだったんでしょうか?」

 

「そう言われると、そうやな……。ほんなら、後のことは頼むで。

 咲ちゃん、またなー」

 

 ひらひらと手を振って、霞が去って行く。

 

「さてー、良くわからないまま色々と頼まれてしまったようなので、取り合えずお部屋までお送りしましょうか」

 

 そう言うと、風は咲の手を取って歩き出そうとする。

 

「程昱様。私、1人でも帰れるですよ?」

 

「風だって、まさか咲様が迷子になるとは思ってないですけどねー。

 でも、頼まれちゃいましたから、途中で放り出すわけにもいかないのですよ。

 まぁ、風が桂花ちゃんに怒られないためだと思って付き合ってください」

 

「そうですか。わかったです」

 

「ではでは、出発しましょうか」

 

「はいですっ」

 

 2人は、仲良く手を繋いで、城内に向かって歩き始めた。

<あとがき>

 

 2話目をお届けします。

 

 私の想定していた長さより長くなってしまったので、とりあえず半分に。

 

 こんなに長くなるのはキャラをみんな出さないといけない今回だけだと思うので、一度に投稿する分量をそろえるための措置です。

 

 読み応えのある分量を書く人だ、と思わせておいて次回から減少だと申し訳ないので。

 

 

 

 一刀が消えてから8年ということで、魏のヒロインたちも見た目を変えてみたり、新しい役職に就けたりしました。

 

 特に描写してないキャラの服装については原作と同じということで。

 

 性格は基本的に変わっていないので、読む分にはそれほど違和感ないんじゃないかと思っています。

 

 唯一、桂花だけは妙に変わってしまいましたが。

 

 これには理由がありまして、実はこの話、作者が友人に賭けで負けて書かせられた短編を膨らませたものです。

 

 その短編の設定が、「華琳と桂花の関係逆転」と言うもので、

 

「うわーん、一刀がいなくなっちゃったよ~」

「大丈夫です華琳様。この桂花だけは、ずっと華琳様のお傍にいますから」

「ふぇーん、けいふぁ~」

 

 みたいな話を書きました。

 

 その名残で、桂花が包容力のある(?)感じになっております。

 

 コンセプトとしては、「一刀の代わりに、覇王華琳ではなく、女の子華琳を見せられる相手」です。

 

 ので、華琳が桂花に甘えたり我侭言ったりするかもしれません。

 

 まぁ、桂花は影の主人公的な存在なので、そこは受け入れていただければと思います。

 

 ちなみに、負けた回数が2回なので、もう一本書かせられ、そちらは「実は怖がりの雪蓮」でした。

 

 雪蓮の戦いが終わった後のアレ。

 

 母を戦いの中で喪った雪蓮は、実は戦うのが怖くて、誰かの温もりを求めているんだ、というお話。

 

「大丈夫だよ、雪蓮。もう怖くない(ぎゅ)」

「(きゅん)一刀……」

……

「めーりんめーりん! 一刀にぎゅってされたら胸がきゅんってなっちゃった!」

「雪蓮、まずは落ち着け」

 

 みたいな。

 

 恋姫の二次創作を書く人は沢山いるので、これくらいネタに走らないとネタ被りしそうなんですよねぇ。

 

 オリジナルキャラ、咲については後半で明らかになることが色々あるので、次のあとがきで触れようかと思います。

 

 

 では、次回、魏Future §1/曹魏の娘(後編)でお会いしましょう。

 

 

 

 補足。

 

 前回の正史と外史は相対的という話。

 

 あれは、原作ゲームは実際の三国志に対する外史だけど、二次創作に対しては正史という結論にもって行きたかったんですけど、書くのをすっかり忘れてました。

 忘れたままだと寂しいので、ここで言っておきます。


 
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