注意
この作品は北郷 一刀が主人公ではなくまた登場する予定もありません。 オリキャラが主人公で、原作キャラが崩壊するかもしれません。 それを踏まえた上で楽しんでいただければと思います。
まだ早朝とも云える時間帯。
あてがって貰った部屋でいつもより丁寧に日課をして、立ち上がる。
一兵士が待遇される部屋としては少し豪華過ぎではないかしら?
そして、一晩過ごした部屋を見てそう思わずはいられない。
今まで寝泊まりしていた宿なんか比べものにならないくらい設備が整っていたのだから。
それはただの一般兵に支給される部屋ではないことは一目瞭然だった。
「期待されているってことなのかしら、ね」
さて――
「兵となったからには何かしないといけないのだろうけれど、何をしたものかしら……」
寝台に腰をかけて、考えるのはこれからの予定。
一兵士として雇っては貰ったけれど、武官としてなのか、それとも文官としてなのかはっきりさせなかったし、華琳様も何も云っていなかったから悩む。
下手な事をすれば華琳様に目をつけられてしまうし、余り目立つことはしたくない。
とはいえ、このまま何もしないというのも性に合わないし。
「まぁ、とりあえず城内を散策してみようかしら」
部屋に籠もっているよりはいい案が思いつくかもしれない。
そうと決まれば、即行動――の前に朝食を食べないとね。
する事が決まった私は外套を身に纏って、部屋の扉を開けたのだった。
朝食を摂って、あてもなく城内を歩く。
「はああああっ!」
「あら?」
すると聞こえてきたのは凄まじい気合い。
その声がする方――中庭に歩み寄ってみると、一心不乱に大剣を振るっている春蘭様がいた。
「せえええええいっ!」
「凄い」
結構離れたところから見ているのに、大気が震えるほどの掛け声とここまで剣を振るった時に生じる空を斬った音が聞こえてくる。
流石は、その武で勇名を馳せる夏候元譲。
名ばかりではないということかしら。
「でええええええいっ!」
声をかけようと少し近寄った時。
こちらに向かって春蘭様が剣を振り上げて迫ってくる。
「え……?」
そして次の瞬間にはそれは振り下ろされていた。
「えっと」
あ、あっぶない……
何とかそれを左足を引いて躱す。
その時、地面が凄い音を立てていたけれど、聞こえなかった事にしよう。
「どういうつもりなのでしょうか、春蘭様?」
内心もう叫びたいところだったのだけれど、それを抑えて冷静に春蘭様に問う。
すると、予想もしていなかった言葉が返ってきた。
「あ、葵!? く、くせ者ではなかったのか……」
「えっと」
本日、二度目の絶句。
つまり、鍛錬に没頭する余り、私だと気づかずにくせ者だと勘違いしたと。
「あまり驚かせないでください。寿命が縮むかと思いました」
「う、うむ、すまない」
「運良く躱せたから良かったものの、当たったら大惨事でしたよ?」
「運良く? それは違うだろ」
え……?
「今の身のこなし、お前。それなりの修練を積んでいるだろう。運ではあるまい」
「嗜む程度ですよ。盗賊を捕らえられる程度に、ね」
そうだ。
ここで会ったのも何かの縁だし、春蘭様に聞いてみよう。
「ええ。なにか仕事がないかと探していたのですけれど、何かありませんか?」
「う~ん……調練はもう足りているし。内政のことはよく分からんし」
その呟きを聞いて春蘭様、本当に将軍ですか? と心の中で思ったのは秘密だ。
「すまない。力になれそうにないな」
「そうですか。いえ、ありがとうございました。他を当たってみます。鍛錬、頑張ってくださいね?」
そう言い残して、私はその場を後にした。
「――――はっ!!? いやいや、私には華琳様が…………あーーもうっ、でえええええええい!!!!」
後ろから今までより一際大きい音が聞こえた気がした。
「なかなか見つからないモノなのですね」
結構探してみたのだけれど、本当になかなか見つからない。
いや、露骨に手が足りないところもあったのだけれど、きっと華琳様になにか考えがあるのだろうと思って手を出さなかったのも原因の一つなのだろうけれど。
そんなことを考えながら歩いていると……
「どうした? こんなところで何をしている」
「秋蘭様に桂花様。政務中、ですか?」
「ああ、姉者はよくこの系統の仕事をサボるものだから、書簡が溜まってしまってな」
「ホント、いい迷惑よ」
秋蘭様はため息をひとつ吐いて、両腕で抱えるまでに積まれている書簡を揺すってみせる。
桂花様に目をやると、やはりその手にも山のような書簡があって苦笑せずにはいられなかった。
「春蘭様でしたら中庭で鍛錬をしていらっしゃいましたけれど」
「……またか。ところ構わず剣を振るって何も壊してなければいいのだが」
「いいや、あの脳みそ筋肉女の事だから床の一つでも陥没させてるに違いないわ」
「あ、あはは」
その場にいた私としては本当のことを云えず、乾いた笑みを浮かべるしかない。
秋蘭様や桂花様には申し訳ないのだけれど。
「ところで、秋蘭様、桂花様。何か手伝えることはありませんか? 華琳様に仕えることになったのは喜ばしい事なのですが何をすればいいのか検討がつかなくて」
「ふむ……」
「なら、貴女。これを読んでどう思う?」
桂花様は抱えていた書簡の一番上を顎で指し示した。
それを手にとって、目を通す。
「警備の改善について、ですか」
「そうよ。読んでみて思うことがあったら、云ってちょうだい」
「そう、ですね」
あぁ、なんだか桂花様の視線はどこか刺々しい……
嫌われるようなことしたかしら?
「物足りない、気がしますね」
「えっ?」
「どういう意味だ?」
とりあえず、感じたことを口にしてみると秋蘭様が続きを促す。
「案そのものはこれでいいと思うんです。でも恐らくまだ良くできる気がするんです。まぁ、あくまで直感ですけれど」
「そう、ありがとう。もう少し見直してみるわ」
「お力になれず申し訳ありません」
「そんなことはない。ではな、葵」
「はい、失礼します」
はぁ、そろそろ何か見つかっていいと思うのだけれど。
結局、手当たり次第探したけれど、めぼしいものが無かった。
「あら? 季衣様」
城門付近を歩いていると季衣様の姿が目に入った。
「あ、姉ちゃん。って、ボクには様はいらないよ~」
「いや、そういう訳には……」
「いいのっ! じゃあ、えっとなんだっけ、ジョウカンメイレイだっけ? それっ!」
いやそれって職権乱用なんじゃ――
「む~」
「分かりました。では、季衣ちゃんと呼ばさせていただきますね?」
むくれて私を見つめてくる季衣様、いや季衣ちゃんに負けて私はそう云った。
「えへへ……あ、あと敬語もいらないからね」
「善処します。それで季衣ちゃんはここで何を?」
「これから、街に警邏に行くんだ」
「そうなの」
そういえば、さっき桂花様に見せて貰った書簡に人員不足って書いてあったような。
きっとそのために将も時折、駆り出されるときもあるのだろう。
「では、私もお供してもいいかしら?」
「えっ、姉ちゃんも?」
「ええ、丁度暇をしていたところなの。だから、ね?」
一瞬、季衣ちゃんはキョトンとした顔をしてかパッと花が咲いたような笑顔になった。
「うん、ボクも姉ちゃんとお話したいし!!」
「ふふっ。ありがとう」
ということで、私は季衣ちゃんと一緒に警備に赴いたのだった。
「にしても季衣ちゃんはよく食べるのね?」
「え、そんなことないよ。普通だよ」
今までずっっっっと食べ続けていたのに、普通ですか……
こんな小さな身体のどこに入っているのかしら?
「うん、そろそろ終わりでいいかな。帰ろう、姉ちゃん」
「そう、ですね。まぁ、だいたい見えてきましたし。良しとしますか」
「姉ちゃん?」
「いいえ、何でもありませんよ。帰りましょうか?」
「うん!!」
なんか。
今日一日振り返ってみると、なんだかんだ働いた気がする。
さて、帰ったらあともう一仕事……頑張りますかね。
翌日――
「ふぅ……」
城門から街を見下ろす。
やっぱりこの街はいいなぁ。
「何を、見ているのかしら? 葵」
「華琳様」
声を掛けられたので振り返ってみると、華琳様がいた。
「街を、見ていました」
「そう。警備の案、貴女が考えてくれたようね?」
「いいえ、私は桂花様の案に少し付け足しただけですよ」
「謙遜、ね。そんなところも素敵だけれど、もっと自分を評価してもいいと思うわよ」
「買いかぶり過ぎ、ですよ」
「あら、そうかしら?」
風が吹く。
それと共に私たちは薄く笑みを浮かべていた。
「どうやら私は本当に良い拾いモノをしたようね」
「あんまり持ち上げられても何も出ませんよ?」
「あら、残念」
「では、私はここで。失礼します」
華琳様の横を通り過ぎて城壁から降りる。
「えっ……!? 貴女――」
その時の華琳様の呟きは私には聞こえなかった。
あとがき
長々となりましたが、四作目完成です。
幕間のつもりで書いたのですが長くなってしまいました。
やっぱりこういうのは慣れ、なのでしょうか?
実際、そんなに話が盛り上がって無く淡々としているような気がしますが、必要な部分でしたので書かせていただきました。
もう少し、うまく書けるようになりたいものです。
次の話では戦争のシーンを書こうと思いますので、宜しくお願いいたします。
なにか誤字や脱字、意見等があればコメントしていただければ助かります。
読んでくださってありがとうございました。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
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四作目の投稿となります。
幕間のつもりで書かせていただきました。
楽しんでいただければ幸いです。