近くの村周辺に黄巾党が集まっているという情報を得た華琳は、迂回する形になるが放っておくわけにはいかず、
部隊をその村周辺へと進めた。
華琳が率いているのは約一万の軍。
その中で十人は楽に乗れる巨大な大型馬車の上に座る華琳は、ぼんやりとした瞳でただ前だけを見ている。
「華琳さまー。もうじき村周辺に到着すると思いますよー?」
側にいた風が華琳に声を掛けるが、返事が無い。
「・・・華琳さまー?」
「・・・・・・・・・」
「おぅおぅ。華琳さまよー。もうじき愛しい彼に会えるからってぼけーっとしてると危ないぜー」
「・・・・・・・・・」
宝譿の言葉にもピクリともしない華琳に風は静かに溜息をつく。
「お兄さんが自分の事を思い出すか心配なのはわかりますよー・・・」
風の言葉に華琳の肩が小さく震える。
「・・・・・・怖い・・・のでしょうね・・・」
ようやく出たその声は自嘲気味な声だった。
「風も怖いのですよー。お兄さんに直接会った流琉ちゃんの気持ちを想像するだけでも怖いですよ・・・」
そう言った風の表情は手に持ったアメによって見えない。
だが容易く想像できるだけに、華琳の心に重いものがのしかかる。
(覇王たる私が随分気弱ね・・・)
頭を振って雑念を払おうとするが、悪いイメージは中々拭うことが出来ない。
「曹操様、村近くに到着いたしました」
近くに居た兵の言葉にハッとする。
そうこうしている間に村の近くに到着したらしく、いつの間にか止まった事にすら気がつかない程悩んでいた事に
心の中で軽く舌打ちをするが、兵への指示は平静を装う。
「よし、周囲の探索と野営の準備。私は村の長に会いに行く」
「はっ!」
駆けて行く兵を見送りながら華琳は立ち上がり、風を軽く振り返る。
「秋蘭の様子はどう?」
「とりあえず落ち着いているのですよ」
秋蘭はやや後ろの馬車に寝かされた状態でこの一行に着いて来ていた。
洛陽の城には真桜と凪が、そして卑弥呼と華佗が残っている。
凪の生命力の低下は卑弥呼の術と華佗の針で何とか持ち直しているがいまだ予断を許さず、
今回の会議には連れ出せなかったのだ。
風の答えに小さく「そう・・・」とだけこぼして馬車を降りる。
本来なら凪と同じくあまり連れ出したくは無かったが、本人のたっての希望だった。
何しろ、未だ何とか歩ける程度にしか回復していない。
当初は華琳も反対したが、秋蘭の鬼気迫る様子に押し切られた形だ。
複雑な面持ちで秋蘭のいる馬車を一度見るが、すぐに気を取り直して風と親衛隊と共に村に入る。
この村に一刀達がいるとは知らず────
明命と斗詩は麗羽達三人の調査に向かった。
雪蓮は七乃となぎを囲んで何やら話し合っているのを横に、一刀は料理の仕度をしている。
この中では、まともに料理ができるのが一刀だけだったのだ。
「これはいいですねー。こんど美羽さまにも着せてみますかー」
「確かうさぎとかトラもあったわよ。今度見てみましょう」
「美羽さまにはタヌキとか似合いそうです~♪」
不穏な会話を聞き流し、火に鍋をかけながらもう一度雪蓮達をみればなぎが雪蓮に頬ずりされている所だった。
「ううう・・・」
と嫌がっているが、それがさらに雪蓮の母性本能をくすぐっている事に気がつかない。
その様子にフッと笑いながら薪をくべようとしたが、その薪が足りなくなっていた。
「ちょっと薪を取ってくるよ」
「はーい!いってらっしゃい、あ・な・た♪」
なぎを抱っこしたまま上機嫌で答える雪蓮に少し頭痛がしたが、構わず家を出る。
その際になぎが必死の目で助けを求めている気がしたが、敢えて気がつかない。
雪蓮の気をそらしていないと大変なことになると"勘"が告げていた。
一刀が家を出ると、何やら外が騒がしい様子に首を傾げる。
すっかり暗くなり、普通であれば皆家に戻っているような時間帯だ。
一瞬、『にゃあ黄巾党』の事が頭をよぎるが、歩いている人達にそういった様子は見られない。
「何かあったんですか?」
「ああ。今、村の外に魏の曹操様の軍勢がいらしているんだよ。何でも近くに黄巾党がいるらしく、
それを追い払うためにここに寄ったそうだよ」
「・・・魏の曹操・・・?」
何か荷物のようなものを抱えた男に聞いた一刀の顔色が変わる。
男はそのまま「これからちょっと商売をしてくるんだ」と言って笑顔で立ち去った。
荷物の中身は食料品。
一万の軍勢の腹を満たすには持ってきた糧食では足りない場合が多く、街や村に寄って食料品を買う事も多い。
何しろ売りに出せば即完売。
炊き出した先から飛ぶように売れるのだ。
こういった小さな村ではまさに棚から牡丹餅のような幸運だろう。
だが、今の一刀にしてみれば最悪な相手だ。
魏の曹操という事でものすごく見てみたいが、"勘"が近づくなと告げている。
(でも・・・見てみたいよなー・・・)
三国志の中でもトップクラスの英雄、魏の曹操。
それは"勘"を押さえてまでも見てみたくなる程、魅力だった。
一刀は今『南海覇王』を持っていない。
その為、それ程強く"勘"を感じる事が出来なかったのも原因の一つ。
そして一刀は未だ理解していない。
魏の人々にとって『天の御遣い』がどれほど大切だったのかを────
(ちょっとくらい見るだけならいいか)
そう思い、去っていった男の後を追うように村の中央に向けて歩いていると、人だかりが出来ていた。
篝火が焚かれ、赤々とした村の中央ではずらりと黒い兵達が並び、誰かが村の長である老人と話をしている。
一刀はそれを後ろからこっそりと眺めていたが、誰が曹操か分からない。
(武将は全員女の子になっているんだったよな・・・)
そう思い、見回してみるが見当たらない。
一刀は人だかりの中に入り、少し前を見る。
だが、見えない。
もうちょっと・・・と思い、もう少し前に出る。
その時、後ろからぐいっ!と手を引っ張られた。
「えっ!?」
そちらを見た一刀の目に映るのは、頭から外套を被る者の姿。
それは────
カラン ────
風の持っていたアメが落ちる音に華琳が風を見れば、風は呆然とした様子で立ち尽くしていた。
「──── 風・・・?」
訝しげに思った華琳が風の視線をたどって見るが、あるのは黒山の人だかりだけ。
「どうしたの?風?」
「おお。目を開けたまま寝てましたー」
もう一度問いかけた華琳の言葉にようやく風が反応する。
普段であれば何時も通りの光景。
しかし、わずかな違和感を感じた。
「ねぇ、ふ ────」
「曹操様!!」
さらに問いかけようとした華琳の声を血相を変えた一人の兵が遮る。
「どうした!?」
「はっ!、周囲の捜索に当たっていた者が近くで黄巾党と思われる一団と鉢合わせして、現在交戦中です!
人数はおよそ一千と思われます!!」
「よし、では第一から第三部隊まであわせて駆逐しなさい!」
「ははっ!」
華琳の指示でその場は騒然となるが、魏の兵達は速やかに行動に移す。
一千の敵に対して三千の熟練した魏の兵。
勝ちは揺るがないが、油断はできない。
「・・・風?」
もう一度風を見ようとした時、風が忽然と姿を消していた。
気にはなったが、風の気まぐれもあるのと黄巾党との戦いがあるのでとりあえずそちらを優先する華琳だった。
「もう、駄目じゃない。見つかれば危ないのよ」
「あ、ああ・・・悪い」
一刀は雪蓮に手を引かれ、引き摺られる様にして来た道を戻っていた。
雪蓮は頭からすっぽりと外套を羽織っている。
人だかりに紛れ、華琳を見ようとしていた一刀を隠したのは雪蓮。
中々戻ってこない一刀を、雪蓮の"勘"が危険だと判断したのだ。
戻る道筋の中、一刀は思い出す。
(金髪で水色の服を着ていた子と目があった気がしたけど・・・まずかったかな?・・・まぁ、一瞬だし、
暗かったから大丈夫だろう。)
そう思いながら引き摺られる一刀を、木の上から見ている小さな影がある。
それは宝譿 ────
その目がビコーン!と青く光った。
お送りしました第38話。
黒猫かわいいよ黒猫。
というわけでようやく5巻まで読みました。
後二冊!
むぅ・・・こうなるとアニメも見てみたいけれど、DVDになるまで見る手段がないド田舎です。
町内放送で熊が出たという放送があったんですが、それが300mしか離れていない場所だった
という程のド田舎です。高頻度で出現すればニュースにもならないんですねー。
そういえば電撃G's Festival! Vol.19を頼まれたので自費で買ってきました。
・・・。
何故家にある。
しかも二冊も。
私が買ってきたのも合わせて三冊か。
・・・。
というわけで一冊没収しました。
今私の机の上には黒猫が立っております。
かわいいよ黒猫。
それとこの黒猫、タイツの上に白パンツをはいてるように見えるけど、確かこれって
スカートについてるやつですよね?
スカートが回転しないようにパンツみたいになってるやつ。
こんなデザインのゴスロリ服どこかで見たような記憶があるんですが、どこでしたっけか?
思い出しそうで思い出せず、もやもやしております。
ではちょこっと予告。
ついに見つかった一刀。だがその時、黄巾党の本隊が現れて・・・。
「涙」
では、また。
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一刀達がいる村に到着した華琳と風は村長と話をする。
「魏の曹操」が来ていると聞いた一刀は好奇心に勝てず・・・。