注意
この作品は北郷 一刀が主人公ではなくまた登場する予定もありません。 オリキャラが主人公で、原作キャラが崩壊するかもしれません。 それを踏まえた上で楽しんでいただければと思います。
「嬢ちゃん、あん時は凄かったな。ほら、持ってきなっ」
「あ、あの……格好良かったです」
「あ、ありがとうございます」
盗賊騒動から数日――私は街でちょっと有名になっていた。
少し街を歩けば、声をかけられ。
最近は男の人の視線もあるけど、なにより女の子に黄色い視線で見られる事が多くなった。
いや、慕ってくれるのは嬉しいんだけど、ね……なんかこう複雑。
きっと騒ぎを収めたことで美化されているのだろうし。
“本当”の私じゃない。
まぁ、自分でしたことの結果なのだけれど。
憂鬱になりかけていた思考に、仕様のないことだと納得してゆっくり足を進める。
「さて、これからどうしたものかしら、ね」
ここ数日、この街に居てだいだい刺史の人となりは理解できた。
あくまで民の評判と、実際街に住んでみて感じたことからの推測でしか過ぎないけれど。
結果、あんまり向いてないかな、なんて思う。
武も智も長けて人心を掴むものも持っていて主として非の打ち所がないし。
自分の目的のためにどんな手段でも用いるなんて云うところはとても好ましいのだけれど。
賢すぎては、見破られる危険性があるし。
なによりここの刺史は女性と閨を共にすると聞いた。
うん、やっぱり合わない。
おそらく私の目的を達成できない。
「結構、ここ、気に入っていたのだけれど」
次はどこに行こうかな?
まだ行ってないのは建業、あと近頃よく耳にする平原かな。
あ、でも、もう路銀もそんなにないし。
う~ん……
「失礼ですが、貴女が先日街で起こった騒動を収めてくれた方でしょうか?」
そんなことを考えていると。
ふと、後ろから声をかけられて振り返る。
するとそこにはいかにもここの兵士だとでも云うような兜と鎧を纏って剣を腰につけた男性がいた。
――嫌な、予感がした。
「ええ、おそらくそうだと思うのだけれど。何かご用かしら?」
「我が君主、曹孟徳様が貴女にそのときのお礼がしたいと。ご同行をお願いしてもよろしいですか?」
嫌な予感とは良く当たるもの。
そんなことを誰か云っていたのを思い出す。
はぁ~、どうしよう……
胸の中で深いため息を吐く。
ここで無碍に断るのもあれだし、でもこのまま会えば見破られちゃうかもしれないし、それこそ斬首されるかも。
でもだからといってこの場を退くいい案があるわけでもないし。
「あの、どうかなさいましたか?」
「い、いいえ。突然のお誘いに少し驚いただけです」
まぁ、ここで考えあぐねていたって仕様がない。
「喜んで、行かせていただきます」
「……あっ、ご、ご案内いたします。こちらへ」
笑顔でそう答えると兵士の方は一瞬呆然としてから先導してくれた。
なにか変なことしたかしら?
にしても、これからどうなるものやら。
そんなこれから起こる事に一抹の不安を抱きながら。
ま、為るようにしか為らない、か……
私は兵士さんの後に続くのだった。
Interlude in
「失礼いたします。先日、騒動を収めてくださった御仁をお連れしました」
「入りなさい」
玉座にはすでに、華琳、桂花、春蘭、秋蘭、季衣--刺史を含めたこの街における主要な人物が集まっていた。
一人は噂の美女を一目見てみたいという思いから。
また二人は美女に我が主を盗られやしないかという危惧から。
あとの二人は、まぁ成り行きと自分の姉が悶えたり困惑したりする姿を見たいという妹心? からだ。
静かに、廊下から玉座へと繋がる大きな扉が開く。
そこから姿を現したのは。
まるで陽光が照らしたかのような煌びやかな腰まである銀の髪を持ち、端正で整った顔、上質な絹のように白い肌をしたまさしく、美女であった。
纏っている外套で体型は良く分からないが垣間見える首の細さからきっと綺麗な体躯をしているのだろうということは容易に想像がついた。
「綺麗……」
ふと季衣がそう呟く。
その場にいる誰もがその呟きに胸中で同意した。
美女がこちらにゆっくりと歩み寄る。
その姿は、優雅で気品を感じさせるものだった。
「お初にお目に掛かります。姓は璃、名は凰……字は弦樂と申します。以後お見知りおきを」
膝をつき、礼をする璃凰(りおう)。
そこで華琳は正気に戻った。
そして、璃凰が近くに寄って来た瞬間に微かに違和感を感じたのだ。
「話は聞いているわ。その節はお世話になったようね」
「いえ、差し出がましい事かと思ったのですが、見過ごせなかったものですから。こちらこそ失礼いたしました」
「謙遜する必要はないわ……結果的に私の大切な民を守ってくれたのだから。そうね、なにかお礼をしようかと思うのだけれど何が望みかしら?」
“信賞必罰”――それが華琳の信念でもある。
それに対して璃凰は、頭を下げたまま。
「恐れ入りながら、恩賞が欲しくてやったことではございません。ただ不愉快な思いをしたがためにその原因を排除しただけのこと。お気持ちだけで充分でございます」
断った。
「貴様、華琳様のお心を無碍にするつもりか!?」
「下がりなさい、春蘭……」
「ですがっ」
「春蘭」
春蘭は華琳に諫められて、渋々といった様子で下がる。
華琳は視線を璃凰に戻し、口を開いた。
「それではこちらの気が済まないわ。何かさせてくれはしないかしら?」
「いえ、ですが――」
璃凰は顔を上げて、華琳の瞳を見る。
僅かな間、交差する視線。
「分かりました。では、少しの間だけこの軍の一兵として雇ってはいただけませんか? 路銀が尽きてきてしまって」
観念したかのように、璃凰が折れた。
「あら、それなら銀を求めればいいのではなくて?」
「働かざる者食うべからずと云いますし、それに先ほど云いました通り、恩賞を求めていたわけではありませんから」
面白い女だと、華琳は思った。
そして、野放しにしておくには惜しい女だと。
だが、璃凰と言葉を交わしている内に先ほど感じた違和感が大きくなる。
その違和感がなんなのか、華琳には分からなかった。
「いいでしょう。なら貴女の命、少しばかり預からさせてもらうわ」
「御意。私の真名は葵(あおい)――これからは真名でお呼びください」
「知っているとは思うけれど我が名は曹孟徳。真名は華琳よ。貴女の活躍、期待してるわね、葵」
「はい、華琳様」
良い拾いモノをしたものだと、このとき華琳はそうとしか思っていなかった。
Interlude out
――月が闇夜を照らし始めた頃。
少し頭を整理したくて、城壁に赴いた。
「はぁ、為るように為るとは思っていたけれど」
まさか曹操――華琳様の軍に入ることになるとはね。
まぁ、自分でそう為るように仕向けたのだけど。
もっとこううまくできなかったのかな、と後悔する。
でも少しの間と期限もつけた訳だし、きっといろんな軍のことも知れるのだろうから悪いことばかりではないし。
そこそこ路銀が貯まったら、退散させてもらおうかしら。
ばれない内にね……
「これからは余計に気が抜けないわね」
誰でもなく自分自身に云った言葉は、夜風に吹かれて消えていった――
あとがき
少し時間は掛かりましたが漸く、三作目が完成いたしました。
こう、視点を変えるのは難しいなぁと痛感しています。
そしてついに主人公の名前が明らかになりました。
璃凰 弦樂(りおう げんらく)
真名は葵です。
まぁ、まだ謎の多い主人公ですので、そこも楽しんでいただければと思います。
なにか誤字や脱字、意見等があればコメントしていただければ助かります。
読んでくださってありがとうございました。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
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三作目の投稿となりました。
これで、見習い卒業となります。
楽しんでいただければ幸いです。