はじめに
この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です。
原作重視、歴史改変反対な方
ご注意ください。
空高く登った月を覆っていた雲が通り過ぎ、顔を覗かせた月から白く淡い光が降り注ぐ
何と無しに見上げていた彼女はその様に目を細め舌打ちを鳴らした
先日まで降っていた雨が一転、今夜は満月の邪魔をしないようにと晴れていたのだが如何せんその光は明る過ぎる
(こんなにも…近かっただろうか?)
その光の源があまりにも大きく感じられ、物言わぬ静かな光が身に降り掛かることに一抹の不安が胸の内に過ぎるのは、こんな些細な事すらもがこれから彼女等が成す事の障害に思えてしまうからだろうか
烏巣奇襲
夜の闇に紛れてて袁紹軍が兵糧、烏巣へと火を放ち敵方の士気を落とす
それは同時に本陣奇襲から敵の目を晦まし、敵戦力の分散を目論む作戦だがそれにしても今夜の月は明る過ぎる
無意識のうちに木の幹に背を預け実を潜める自分の姿が可笑しくて凪はふふふと鼻を鳴らした
(何時に無く緊張しているのか…私らしくもない)
彼女のすぐ傍で片膝を着き息を潜めて指示を待つ部下達と視線が交差し己が身を正すように背筋を伸ばし浅く息を吐く
(しっかりしろ楽進…事を成す前から飲み込まれてどうする)
自分は将なのだ、部下は常に自分を見ているのだと言葉には出さずに自分自身に言い聞かせる
「楽進様、斥候が戻って参りました」
「此処へ」
「はっ」
立ち上がる兵と入れ替わるように斥候が彼女の前に片膝を着く
「報告します、烏巣の警備は数揃えど気は抜け、月見と酒を煽っておりました」
「…さすがは袁家だな」
斥候の報告に先ほどまでの自分の葛藤はなんだったのだろうかと肩を落とす凪
戦中だというのに暢気なものだ…、否、やはり袁家だ
此方の兵糧を連日抑えてきたことがかの陣に余裕を持たせているのだろうか
(まあ、そもそもに連中が普段からあの調子なのは今に始まったことではないか)
何より、その方が彼女等にとって都合が良いことは明白だ
連中の気が抜けている今ならば奇襲も容易い、夜にしては明るい現状も嘆く必要はないだろう
「全兵に伝達、これよりかの陣地に奇襲をかける。一気に蹂躙し、火矢を放つ…抜かるなよ」
「はっ」
音を立てずに支度を始める兵達の姿に独り頷き再び月を見上げる
(この状況が好転するとは…やはりこの戦の機は我らに在るか)
あとは
「何時までそうされているつもりですか霞様」
彼女の足元
両膝を抱えて木の枝で地面を弄繰り回している霞にいじけた子供をあやす様に語りかける
凪と共に烏巣の奇襲を命じられた彼女はこの場に到着してからというものずっと凪の足元で膝を抱えて唇を尖らせていた
「やってん…うちはこっちやのうて本陣組に入りたかったやもん」
顔も上げずグリグリと地面を掘り起こし鼻を啜る霞
彼女がこの作戦に参加したくなかったのは承知していたがこの様にいじけられては面倒だ、なにより隊の士気にも係る
「しょうがないでしょう?軍師殿が取決めになられたのですから」
桂花、風、稟の三軍師が発した多方面同時侵攻、輸送隊の囮に愛紗、袁家本陣の奇襲に秋蘭、季衣、沙和…そして此処烏巣の編成には凪と霞。残りの真桜は投石機隊を補佐する関係上、魏本陣にそれぞれ割り当てられた…のだが霞はそれが面白くないらしく作戦の全容を軍師達が説明する間も独り只管にぶうたれていた
「それに烏巣奇襲こそ本陣奇襲の要、華琳様もそう仰られていたでしょう」
「つまらん任務やんか…兵糧を攻めるやなんて」
勿論彼女も兵糧攻めが戦の常套手段でありそれが如何に重要かは理解している…が、彼女にとって戦は華なのだ。互いの武と武の優劣を競う中に醍醐味を見出す彼女にとっては今回与えられた任務はつまらないものに感じてしょうがない
「我らが如何に敵の目を引き付けるか…我らの役目は重大なこと、霞様も重々に承知でしょう?」
「…それがつまらんやんか、うちは強いのと戦いたいねん言うに」
既に拳が入るほどに掘った穴の奥をツンツンと突きながら尚もその腰を上げずにいた霞の姿に思わず溜息がついて出てくる
「烏巣を守るは袁家においても二枚看板と謳われる顔良、相手にとっては不足はないではありませんか」
「陣の奥で踏ん反り返ってるだけの引き籠りやん、うちの方が強いに決まっとるやんか…そんなんうち、おもろないねん」
凪の溜息に対抗するかのように更に深い溜息を吐く、その視線は相変わらず地面を向いたままだ
(全くこの方はああ言えばこう言う)
既に準備が整い指示を煽りに来た兵に向けひらひらと手を煽ぎ暫し待てと無言で命ずると視線を合わせようとしない霞と顔を合わせんと彼女の前にしゃがみ込みその顔を覗き込む
額に皺を寄せ頬をプクウと膨らませている霞を指で突きながら今度は多少怒気を込める
「…置いていきますよ」
彼女にしてみれば位も歳も上の霞にそこまで言うことはかなりの勇気を持っての言動だったのだが
当の霞はというとプイっと横を向き
「いい…うちは此処にいるもん」
直後魏の将軍の中でも冷静なはずの彼女が噴火する
「いい加減にしてください!ほら!!行きますよ!!!」
怒鳴りつけるや否や彼女の首根っこを掴み立ち上がらせんと引っ張る
「嫌やあああ!うちは行かんもおおおん!」
対する霞も一歩も動かんと木を抱きしめるように張り付く
「「~っ!!!」」
互いに歯を食いしばり方や地面を踏ん張り、方やギュウっと木に張り付き意地を張り合う
やがてミシミシと木の幹が悲鳴をあげ、まさに大木が倒れんとしたその時
パチ
パチパチ
奇妙な音が辺りに響き始め、何かを燻したような匂いが立ち込める
「何だ?」
「何や?」
二人が顔を見合わせ辺りを見渡せば、月の明かりが落ちてきたかのように明るい周囲と遅れて漂う白い煙
「陣地の目の前で何を騒いでいるのですか貴女達は」
声に二人が振り向けばそこには満面に笑みの顔良~斗詩
彼女はメラメラと燃える松明を片手に二人を見下ろすように立ちはだかっていた
無言で互いの顔を見つめる凪と霞
二人の周囲に立っていた兵達はそろって溜息を吐いた
その彼等を更に取り囲むように立ち並ぶ斗詩の部隊
ポキポキと指を鳴らし一様に笑みを浮かべ彼等に向け槍を構えている
「凪…伝令出せや、『烏巣奇襲成功…されど敵の罠やった』ってな」
「完璧言い訳ですよねそれ」
怒りのあまり全身の痙攣が止まらない凪であった
あとがき
ここまでお読みいただき有難う御座います
ねこじゃらしです
猪々子とは違い先手を取った斗詩さん
何つーか猪々子と比べると何故か出番が少ないんですよねえ
いや…出番忘れていたわけではないですが、まあここは花を持たせねばと
それでは次回の講釈で
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第57話です
キャラが多いというのも悩みもんですな
誰のこと書いたらいいか分からなくなります