No.188082

一刀の記憶喪失物語~袁家√PART21~

戯言使いさん

どもです。今回で21話になります。駄文に付き合ってくれて、ありがとうございます。

そして、これからもう少しですが、お付き合いくださいね。

2010-12-05 12:56:31 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:5643   閲覧ユーザー数:4604

 

 

 

 

「華陀さん!大変だ!隣街に五瑚の奴らが襲撃したってよ!」

 

 

いきなり宿に入り込んできた村人はそう叫んだ。

 

五瑚・・・・・かつて、最終決戦の時に卑怯にも横やりを入れ、折角の大陸平和のチャンスを邪魔した奴らだ。

 

 

「何!?くそっ!被害はどれぐらいなんだ!?」

 

 

華陀がすぐに立ち上がった。

 

しかし、村人は息を落ち着かせながら、言った。

 

 

「いや、相手の数も少なかったから、被害はあまりない」

 

 

「だが、ただの村人が戦っているのなら、やはり被害があるだろう?」

 

 

「いや、だってあの『敗兵村』だから」

 

 

「なんだ。そうなのか・・・・」

 

 

華陀は再び腰を下ろす。

 

 

「それでも、軽く怪我をした人もいるからよ、後で良いから来てくれよ」

 

 

「あぁ。分かった」

 

 

村人はそう言うと、宿から立ち去った。

 

斗詩たちは何が何だがか分からないような顔をして、華陀を見ている。華陀はその視線に気が付き、笑みを浮かべる。

 

 

「心配いらないぞ。しかし、五瑚の奴も運がないな。あの敗兵村に襲撃をするなんて」

 

 

「えっと・・・・その敗兵村って何ですか?」

 

 

「確かな、華・・・・・なんだっけ?とにかく、華なんとかという、名のある武将とその部下が戦に負け、敗走したんだ。その時に偶然見つけた破棄されていた砦を立て直し、自給自足の平和な街を作ったんだ。そして今では、その噂を聞きつけ、戦で負けた兵士や指揮官がその街に住み、その戦力は一国にも匹敵するほどまでになった」

 

 

「へぇ、凄いですね」

 

 

「あぁ、敗兵村は無駄な争いを好まない。自分たちを守るだけで、けして悪事は働かないし、何処かの国に加担して戦争をしたりもしない。完全なる平和主義者だ」

 

 

そう言うと、華陀は立ち上がる。

 

 

「取りあえず、三国に伝令を出しておくよ。いくら戦争前だと言っても、五瑚は共通の敵だし、前みたいに邪魔されても嫌だしな」

 

 

華陀はそう言うと、宿屋を出ていこうとする。

 

 

「待ってください」

 

 

しかし、それを呼びとめたのは七乃だった。

 

 

「伝令は少し待ってくれませんかー?」

 

 

「うん?どうしてだ?」

 

 

「折角、三国が一刀さんのお陰で平和に向かっているんですよー。それなのに、五瑚のことを教えたら、また戦争が長引いてしまうかもしれませんしー」

 

 

「確かにそうだが、しかしまた前みたいにならない為にも・・・・」

 

 

「大丈夫ですよー。私たちが居ますから」

 

 

そう言って、七乃は笑顔を浮かべて斗詩たちを見た。

 

 

「私たちが、五瑚を退治しますよー。ね?斗詩ちゃん、猪々子ちゃん。折角、一刀さんが頑張ってくれたんです。私たちも、大陸平和のために、頑張りませんか?」

 

 

それを聞いた時、斗詩と猪々子は同じことを考えた。

 

今までは一刀が自分たちを守ってくれていた。しかし、今回は私たちが一刀の助けになるかもしれない。ようやく、一刀の助けになれるのだ。

 

 

「よっしゃぁ!あたいはやるぜ!」

 

 

「もぅ、文ちゃんったら・・・・でも、どうやって?」

 

 

「まず、私たちは元武将ですから、戦の仕方を知っていましねー。あと必要なのは、兵士です。そして今聞いた『敗兵村』には、元兵士たちがいっぱいいるらしいですよー。その人たちを上手く誘導して、五瑚を退治したらいーんですよー。もし、兵数が足らなかったら、村から義勇兵を募って、戦えば、対等に渡り合えると思います」

 

 

「そっか・・・・・うん、それなら、私たちでも戦えるね」

 

 

自分たちは戦に負けた落ち武者だ。兵士も人望もない。だが、七乃の知略と一刀が居れば、どんな無理なことでもできそうな気がしてきた。それに何より、ようやく一刀の助けになるかもしれないことに、斗詩の心は決まっていた。

 

 

 

「はいー。だから華陀さんは伝令を出さなくていいですよー。私が出しておきますから。いつか」

 

 

 

 

こうして七乃の案、つまり斗詩たちが五瑚を退治することが決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

そのことを一刀に伝えようと、四人は一刀が居る部屋へと向かった。

 

部屋の中では一刀がすやすやと眠っている。あまりにも気持ちよさそうに眠っているので、起こすことが躊躇われたが、今は一刻も争う事態。仕方がなく、一刀を起こすことにした。

 

 

一刀は何度か声をかけられると、眼を開き、大きな欠伸をもらした。

 

 

そして斗詩は先ほど話あったことを一刀に伝えた。もちろん、その前の話、つまり一刀が消えかかっていることや、一刀の正体などは伏せて、五瑚が攻めてきたので、それを自分たちが退治することだけを伝えた。

 

 

「へぇ・・・・七乃が考えたのか?」

 

 

「はいー。今まで一刀さんばかり、いい所を持って行かれたので、偶には武将である私たちに花を持たせて下さいよ―」

 

 

「ははっ・・・・そうだな。七乃、ありがとうな」

 

 

「ふーんだ。別に一刀さんの為ではありませんよーだ」

 

 

そう言って二人で笑う一刀と七乃は、前のようにぎくしゃくしたような関係はなく、いつも通りに戻ったように見えた。

 

その様子を見ていた斗詩と猪々子は安心してお互いに顔を見合わせた。

 

 

「んじゃ、さっそく行くか」

 

 

そう言って立ち上がった一刀。しかし、七乃は一刀の肩を倒して、もう一度ベットに押し戻す。

 

 

「駄目ですよー。今、その敗兵村は戦を終えたばかり、みんな疲れています。だから、少し時間を置いてから、交渉しに行きましょう」

 

 

「あぁん?だけどよ、今なら五瑚に対する怒りもあるから、逆にその熱が冷めないうちに交渉した方がいいんじゃねーか?」

 

 

「もぅ、戦の後に戦を強要するなんて、そんなことをしたら、信用をなくしちゃいます。人を扱うなら、私の方が一刀さんよりも上手いと思いますー」

 

 

「・・・・あぁ。確かにそうだな」

 

 

一刀は少しだけ不思議に思った。確かに、戦の後に戦をお願いするのは気が引けるが、しかしよく考えてみると、おかしい。なぜなら、別に今すぐ戦うわけではないのだ。とりあえず、仲間にしてから戦う戦わないなどを決めればいいだけであって、やはり仲間にするには今のタイミングが一番のように思った。

 

しかし、一刀は七乃を信頼していたし、それは斗詩たちも同じで、特に口を挟まなかった。

 

 

「五湖がまた責めてきたりしねーのか?」

 

 

「大丈夫ですよー。だって、ついさっき五瑚は負けて逃げたんですよ?だから、まだ時間はあります。それに、一刀さんだって、体調が変じゃないですかー。いいですか?折角の交渉の時に、眠っていたり、欠伸をしたら駄目です。だから、せめて今日ぐらいはキチンと休んでくださいよー」

 

 

にっこり、と笑う七乃に一刀は笑みを返した。それを聞いていた斗詩たちも笑顔を浮かべる。何だかんだ言いながらも、結局は一刀を気遣ってわざわざ予定を遅らせているのだ。七乃らしい、一刀への優しさだった。

 

 

それは一刀も気が付き、七乃に素直に感謝した。

 

 

「それじゃあ、今日は休んで、明日辺りにでも行くか」

 

 

「はいー。華陀さんもいいですか?」

 

 

「あぁ。怪我人が居るなら早く行きたいところだが、ここにも病人が居るからな。特に異論はないぞ」

 

 

「それなら、今日は宿でゆっくりして、明日は敗兵村に向かいましょう。なので、行く準備だけは今日中にしっかりとしてくださいねー」

 

 

「おぅ!」

 

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斗詩たちは七乃言葉に返事をすると、それぞれ自分の部屋へと戻って行った。

 

部屋の中には七乃と一刀の二人だけが残った。

 

 

 

 

「七乃。ありがとうな」

 

 

 

 

「いいえ。惚れた相手を気遣うのは当たり前ですよー」

 

 

「ったく・・・」

 

 

「一刀さん。一刀さんは、私が好きですか?」

 

 

「あぁ」

 

 

 

「傍に居て欲しいですか?」

 

 

 

「もちろんだ。何だよ、急に」

 

 

 

 

恥ずかしさに、少しだけ頬の赤い一刀と、それと同じぐらい赤い頬の七乃。七乃は一刀の答えを満足そうに頷き、そして扉へと手をかけた。

 

 

「ただ、それが聞きたかっただけですよー」

 

 

「そうかい。んじゃ、明日は頼むな」

 

 

 

 

一刀の言葉に、七乃は満面の笑みを浮かべ、そして返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ、今日も明日もこれからも、絶対に『一刀さんは』守りますよー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 


 
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