No.187819

【南の島の雪女】第2話 ハブのおまわりさん(完)

川木光孝さん

【前回までのあらすじ】
雪女である白雪は、故郷を脱走し、沖縄まで逃げてきた。
他の雪女たちは、脱走した白雪を許さず、
沖縄の妖怪たちに「白雪をつかまえろ」と要請する。

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2010-12-04 00:25:28 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:544   閲覧ユーザー数:534

【南国紳士 VS 先祖】

 

 

風乃は突然感じた違和感に戸惑っていた。

 

体が熱い。熱くてたまらない。

熱気を冷まそうと、公園の水のみ場まで、ふらふらと歩く。

 

しかしやがて熱気はおさまり、

自分の身体になじんでいった。

 

風乃の耳に、おじいちゃんの声が聞こえてくる。

 

「風乃や、これで先祖がお前に宿ったはずじゃ。

 安心して友達を救ってやるがよいぞ」

 

その友達は、アツい緑茶をぶちまけられ、気絶中である。

 

「わかったよ、おじいちゃん!

 ありがとう!」

 

風乃は、おじいちゃんに礼を言うと、そのまま走り去った。

 

「風乃や、今お前に降ろした先祖の正体を説明し…

 あれ、もういない。

 若いものはせっかちじゃのう。

 説明くらいきく余裕を持たんと」

 

おじいちゃんはため息をついた。

 

 

【南国紳士 VS 先祖2】

 

 

「白雪様! 大丈夫ですか!」

 

南国紳士は、緑茶をぶちまけられた白雪の身を案じ、

駆け寄る。

 

「白雪様…

 気を失っておられる」

 

白雪は地面に横たわったまま、ぴくりとも動かない。

 

「しまった、ハブまで気絶している!」

 

紳士は叫ぶ。

 

白雪を縛っていたハブ。

気絶し、地面に落ちている。

彼も、アツい緑茶の衝撃に耐えられなかったらしい。

 

白雪の体は、ハブの呪縛から解かれ、自由になっていた。

 

「くっ、早くヤケドの手当てをしないと」

 

紳士は、手当てをしようとし、

白雪の身体に触れる。

 

「紳士さん、白雪をどこに連れて行くの?」

 

「その声は…風乃様?」

 

紳士はうしろを振り向く。

そこには、風乃がいた。

 

「紳士さん、白雪を連れていかないで。

 もし、これ以上連れていこうとしたら、許さない」

 

「風乃様、私は白雪様を…」

 

「問答無用!」

 

風乃は紳士に飛びかかり、強烈な一撃をお見舞いした。

飛び膝蹴り。

 

「ぐはっ!?」

 

 

 

【南国紳士 VS 先祖3】

 

 

風乃の顔面飛び膝蹴りを、紳士はまともにくらう。

顔がぐしゃりとへこむ。

地面に倒れる紳士。

 

「今のわたしには、ご先祖様が宿っている。

 そう、拳法の達人のご先祖様がね!」

 

「な、なんですと…そんなまさか」

 

「紳士さん、痛いけど我慢してね。

 あとで病院行ってね」

 

ひるんだ紳士に、風乃は追い討ちをかける。

一撃、二撃と連続でお見舞いする。

紳士の身体はあっさりと沈んでいった。

 

「そんな…馬鹿…な…

 先祖の力を、人間が借りる…

 そんなことできるはずが…ぐふっ」

 

紳士は、風乃の攻撃にたまらず、気絶してしまった。

 

その瞬間、何匹かのハブが紳士のまわりに集まる。

ハブたちは紳士を囲む。

 

そしてハブたちは、紳士の身体を巻いて運び、

すごすごと退却していった。

 

「ふぅ…手ごわい相手だったわ。

 互角ってところね」

 

風乃は両手をぱんぱんと払う。

 

「風乃や…

 どう見ても一方的な勝負だったぞい」

 

風乃のうしろに、おじいちゃんがあらわれる。

 

 

 

【勝利のポーズ】

 

 

「おじいちゃん!

 わたし、勝ったよ!

 えいやーとう、って

 相手をぼっこぼこ。

 さすが、拳法の達人のご先祖様!

 すごい強いね!」

 

風乃は両手をグーにして、ボクシングのようなポーズをとり、

おじいちゃんに見せつける。

 

「風乃や、勘違いじゃ。

 今、宿っているご先祖様は、

 拳法の達人ではないぞ」

 

「はぁーい?」

 

風乃は、おじいちゃんの言っていることが理解できなかった。

 

 

 

 

【白雪、起き上がる】

 

「え? 拳法の達人さんじゃないの?

 わたしの身体に今宿っているご先祖様」

 

「それが実は違うのじゃ。

 よいか、風乃や。

 世の中に、『拳法の達人』みたいな

 都合のいい先祖は存在しないのじゃ」

 

「じゃあ、わたしに今宿っている先祖は何なの?」

 

「それはな…」

 

おじいちゃんが口を開いて説明を始めようとする。

 

「う…うーん、俺はいったい…」

 

倒れていた白雪が目覚め、上半身を起こしていた。

 

「白雪! 気がついたのね!」

 

風乃は、白雪に駆け寄る。

そして、白雪を思いっきり抱きしめる。

 

「ごめんね、白雪。

 わたし、緑茶をかけてヤケドさせてしまった」

 

「風乃…」

 

「ごめん、ごめんね。

 熱かったよね」

 

「熱かった。すごく熱かった。

 おい、風乃。

 俺の肌にヤケド跡が残ったら

 どう責任をとってくれるのだ」

 

「うう…ごめん。

 ぐすっ」

 

風乃は、涙を流し始めた。

 

「白雪さん。孫が迷惑をかけてすまんのう。

 だが、お前さんを連れていこうとする悪い奴を

 追い払ったのは、他ならぬ風乃じゃ。

 わしに免じて許してはくれぬか。お願いじゃ」

 

「そうかい、そうかい。

 まったく…」

 

白雪は少し笑みを浮かべて、風乃の泣き顔を見つめた。

 

「こら」

 

白雪は拳をにぎりしめてグーの形をつくる。

こつり、と風乃の額を小突いた。

 

「こうやって、俺の手が動くのも、

 ハブを解いたお前のおかげなんだろう?

 許すよ。ほら、泣くな」

 

「白雪ぃ~!!」

 

白雪に許された風乃は、

なでられた犬のように嬉しそうな顔をし、

再び白雪を抱きしめた。

 

「おいおい、そんなに抱きつくなよ…

 ちょっと苦しいぞ」

 

「……」

 

「風乃?

 おい、いつまで抱きしめているつもりだ。

 す、少し恥ずかしくなってきたのだが」

 

「ハァハァ…」

 

「ふ…ふうの?」

 

「ハァハァハァ…

 うふふふふふっ」

 

風乃の吐息がだんだんと荒くなり、頬が赤くなっている。

うっとりするような目つき。

いやらしい笑み。

それは、本来の風乃のものではなかった。

 

「白雪というのね。

 なんて素敵な殿方…。

 私ごのみだわ」

 

桃色を伴った声。風乃の声ではない。

 

「風乃!?

 おい、ちょっとお前おかしいぞ!

 なんか変なものでも食ったか!?」

 

「いい忘れておったわい。

 風乃に今宿っている先祖は、

 『ズリ』じゃ」

 

「ズリ?」

 

「ああ、お前さんは沖縄の人ではなかったのう。

 内地の言葉で言う『遊女』じゃ」

 

「はぁ!? 遊女!?

 あの遊郭とかにいるっていう…」

 

「そうじゃ」

 

「なぜそんな奴を宿らせた…あうあっ!?」

 

風乃は、白雪をさらに強くだきしめる。

 

「ほら、お前さんを捕まえていた奴は

 男の妖怪だったじゃろう?

 南国紳士とかいう奴じゃったか。

 あやつを、遊女の先祖で魅了して、

 油断したところをグサリ、じゃ」

 

「グサリって…おい」

 

「どうやら、遊女さんは、

 白雪さんの男意気に惚れたようじゃ。

 そいつ、抱きしめるとなかなか離れんぞい」

 

「さっさと遊女の先祖を、あの世に送り返せ!

 そうでないと…

 俺も風乃もいろいろと危ない!」

 

「そうじゃのう。

 えーっと先祖をあの世に送り返す方法は…

 うーん、思いだせんわい。

 ちょっと待っててくれんかのう、白雪さん。

 わし、先祖を送り返す方法を思い出してくる」

 

「は…早くっ! 早くせんか!

 こいつ力がけっこう強くて…離れない!」

 

「白雪、好き、だ~い好き!」

 

風乃は、白雪と頬をくっつける。

 

「は~な~れ~ろ~!

 俺は女だぞ! ゆ・き・お・ん・な!」

 

「女だからいいのよ。

 私、白雪みたいな女の人、すごく好き。

 ね? いいでしょう。

 ほれたなら男も女も関係ないわよ」

 

風乃は、かぼそい指を、白雪の唇にそっと当てる。

 

「理解しかねる」

 

「理解より、愉快よ。快感よ。

 雪女さんと仲良くできるなんて、とても嬉しい。

 ほら、体を楽にして」

 

風乃の指は、白雪の脚をゆっくりとなぞる。

 

「おじいちゃん! 早く思い出せ!

 もうやばい! 限界だ!」

 

「うーん、どうじゃったかのう。

 もう少しで思い出せそうなんじゃが」

 

「さっさと思い出さんか! ボケじじい!

 ああ、もうどいつもこいつも~!」

 

南国紳士、戻ってきてくれ。

そして風乃を逮捕してくれ。

白雪は心の底からそう願うのだった。

願うのだった。

 

 

【南の島の雪女】第2話 ハブのおまわりさん 完

 

 

【第2話 あとがき】

 

 

最後まで読んでくださった方、途中まで読んでくださった方、

実は、あとがきから読み始めている方。

 

初めまして、作者です。

 

読んでくださった方、支援&コメントいただいた方、

まことにありがとうございます。

ありがとうございます。

 

書く原動力になり、励みになります。

 

感動で涙が出そうです。

作者は男の子なので、泣きません。

嘘です。

 

…こほん。

 

沖縄って妖怪が少ない印象です。

 

自然の少ない、都市部に住んでいたから

知る機会が少なかったかもしれないです。

 

私は、キジムナーぐらいしか知りませんでした。

 

調べてみると、それなりにいるみたいで、

乳の親や人魚あたりは良いネタになりそうです。

 

とは言え、大量のお話が書けるほどの数ではなさそうです。

 

そのため、勝手に考えた妖怪も多く出てきます。

南国紳士はその一例です。(元になった妖怪はいますが)

意外にも、ハブの妖怪って聞いたことないんですよね。

 

また、沖縄は、米軍基地があったり、

昔々、中国や東南アジアと貿易していたりと、

外国との関わりも多くあるので、

外国の妖怪なんかも出せたら面白いかもしれませんね。

 

では、次のページで、第二話は最後となります。

 

最後までどうぞ、お楽しみくださいませ。

 

 

 

【帰宅】

 

 

顔中キスマークだらけの白雪が帰宅したのは、

早朝4時だった。

 

「…こいつ、自分が何をしたのかわかったら

 発狂するだろうな。

 いや、違うな。

 もとから発狂しているか、こいつは」

 

白雪の背中には、風乃がおぶられている。

風乃はとても満足そうな顔で、すやすやと寝ていた。

 

「すやすや」

 

(さて、風乃の親にはなんと説明しようか…

 はぁ。気が重い。

 キスマークのついた女と朝帰りなんてしたら、

 大変な疑いを持たれるに違いない)

 

だが、帰らなければならない。

風乃は、高校に行かなければならないのだ。

行方をくらませ、ずる休みさせるわけにもいかない。

 

紳士と同じように、菓子折りをもって詫びを入れようか。

いや、詫びを入れる前に、蹴りを入れられるに違いない。

 

白雪は、鉄球をひきずるような重い足取りで、

風乃宅の玄関前にたどりつく。

 

ぴんぽーん、と玄関ベルを鳴らす。

白雪には、「ビンボォォォォン」という破壊音のように聞こえた。

白雪の人生の崩壊を意味する、破壊の音だ。

 

「はーい、どちら様ですかぁ?」

 

寝ぼけた様子の、風乃の母親が、寝巻き姿で玄関に現れる。

 

白雪は即座に土下座する。

 

「すまない。大切な娘さんを、大変な目に

 あわせてしまった。

 反省している。このとおり…」

 

ひたすら謝る白雪。

母親は、一言も発さない。

 

(ああ…怒りのあまり、言葉も出ないのだな)

 

白雪は、恐る恐る、母親の様子を確認する。

 

「すーすーぐぴー」

 

母親は、眠気に耐えられなかったのか、

立ったまま寝ていた。

 

「お義母様…

 そんなとこで寝てたら風邪をひきますよ」

 

白雪は、安堵と不安のため息をついた。

 

 

【南の島の雪女】第2話 ハブのおまわりさん ほんとの完

 

 

 


 
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